~5~
パチッパチッ
周りは深い闇に包まれると俺とスレイは炎を囲みながら夕食を作る。
「まだ、あちらさんも起きてるし良いだろスレイ」
「あぁ、一応パーティランクとしては向こうの方が上だからな」
パーティのランクがAと言うことは俺らが守らなくても、どんなことがあっても乗り越えれるという証明みたいなものであった。
「ワイバーンを捕獲したことだって1度や2度ではないだろうしな」
「そうだねスレイ」
夜中は俺とスレイが交代で見張るつもりだが明日から本番であるワイバーン捕獲のための準備に余念がないのは、さすがAランクと言ったところだろうか。
「あのさスレイ」
「なんだ?」
「もし俺が死んだらラヴィを頼む」
「お前が死ぬときは俺が死ぬときでもあるだろう?」
「そうなんだけどさ」
ダグラスが1人で死ぬような依頼を受けることが無いのはパーティのメンバーも知っている。
もしパーティメンバーが死ぬようなことがあればパーティの全滅ぐらいしかない。
「お前が、ちゃんと守れよ」
「残念ながら今は守られる立場だけどな」
空を見上げて星を見ながら、そう答えると違いないというスレイの言葉が返ってきた。
「この辺りは魔物が多いんだよな?それにしちゃ静かすぎる気がするんだが」
「良いじゃないかダグ、俺らの仕事が減れば俺らも楽になるさ」
「ちょっと待てスレイ・・・何か聴こえないか?」
夜も更けてくると月の明かりに草原は照らされ薄暗いながら十分な明かりを取ることが出来る。
バサッ・・・バサッ
何かが羽ばたくような音が聴こえてくると十分に警戒しながら空中に目を凝らす。
バサッ・・バサッ・・・
遠くから音が聴こえてくると段々とこちらに近づいてくるように音が大きくなってくる。
「みんなを起こすぞダグ」
「あぁ、やばいな近づいてくる」
テントから他のパーティを起こすと厳戒態勢の中、威嚇をしながら、それは現れた。
ピギャァァアアア
叫び声は大地の植物を激しく揺らしてダグラス達の耳をつんざく声が森中に広がっていくと森に生きる小さき動物や鳥が騒がしく動き飛び出し逃げていく。
「ツインヘッドだ!!各員戦闘準備」
いつもは軽い口調のナンパ男である『暁の塔』のリーダーである男が叫ぶと荷物を取り出し忙しなく動き回る。
深紅の鎧を身に着けた『深紅の象徴』のメンバー達も対竜兵器を持ち出すと準備を始める。
「圧巻だねぇ」
フォルテは深紅の鎧をつけた彼らを見ながら恍惚した表情を浮かべている。
ドラゴンバスターと呼ばれる武器の数々は、そこまで簡単に手に入れることが出来ない武器であり材料は竜から得られた武具であった。
例えば地竜の砂袋は頑丈で柔らかく最上級品の鎧のつなぎ目に使われ叩くと、その部分だけが斬撃などを防ぎ、火竜の鱗は高熱から身を護る膜を形成する。
そんなものは、ほとんど伝説級の武器や防具だが、どこからか手に入れる者達が居て彼らも、その一部である武具を手に入れているのだった。
「砲弾込めぇぇぇ!てぇぇぇぇえええっ!!」
準備していた移動式の砲から爆発による火が飛び出し砲弾は二つの首を持つドラゴンへと向かって飛んで行く。
「ちぃぃぃっ!次弾、急げっ」
次の弾を込めさせるのを許すこともなく双頭竜が飛び込んでくるが全長20mほどの巨体が迫ってくるのにも動じることがないように見える。
「間に合わせろ!!」
「ふんっ悔しいが火力では、そちらが上のようだ守りは任せてもらおう」
「4人詠唱行くぞ」
『深紅の象徴』のメンバーが4人一斉に祝詞を唱えだす。
「ファイアフォール!!」
突如、地面から火が立ち昇り、それに驚いたのか突如方向を変えたのだが衝撃派が起こると土煙が巻き起こった。
「ちょっとちょっと旦那、一度やりあったんだろ?あんなに強いのかい?」
「いやフォルテ、俺が一度会ったのは、もっと小さいやつだ、あれは多分、成体だ」
「ちょっとまってくださいよ逃げた方が良いんじゃ」
狐族のフォルテは、その脅威にすくみながらも自らの杖を持つと詠唱を始めると地面に青く光る魔法陣が現れる。
「あたしの魔法じゃ大したダメージは与えられないからね補助魔法行くよっ」
「霧の幻影!!」
すると辺りに霧が発生すると周り一帯に自分達と同じ姿が現れると、そのドラゴンは夜目が効くと言っても、いきなり現れた幻影に戸惑って空中で静止すると翼を羽ばたかせる。
「暁の、おにーさん達、撃ったら居場所がバレちまいますからね一発でお願いしますよ」
すると移動式の砲から放たれた弾は弧を描くこともなく直線的にツインヘッドの胸元に当たり大爆発が起こる。
「やったか」
彼らは、ようやく強敵に勝てたと安堵し疲れていたのか腰を地面へと落としてしまう。
大爆発の後、敵は地面へと煙を上げながら墜落していくと動かなかった敵の翼がピクリと動くと地面すれすれで動きを取り戻し再び上空へと飛びながら喉元が赤く光っていく。
「高温のブレスが来るぞぉぉぉ」
「みんな衝撃に備えろ砲は捨てて散開しろ!!」
右往左往するハンター達をよそにドラゴンは二頭の口から人の体の数十倍ほどの火の弾を造り出すと地面めがけて撃ちだしたのである。
火が森を焼き屈強なハンター達も炎の衝撃で吹き飛ばされると、それはダグラスも同じで急いで地面に開いていた穴の中へと飛び込み水の結界をフォルテが張るのだった。
「フォルテ頼んだぞ」
「そんなこと言ってもねダグ、あたしの結界ぐらいで、どうにかなるもんじゃありませんよ」
「任せろ」
スレイが地面に手を当て地面が盛り上がっていく。
「精霊よ我が願いを聞き届けよ『土壁』」
手を地につけると土の壁が地面から飛び出すと炎と爆発から守られる。
「次は俺の番だな」
微弱な電気を体に通しながらピクンピクンとダグラスの体を痙攣させていく。
「疾風雷電」
これがダグラスの奥の手であり電気を体に流すことで自分が思うよりも速く筋肉を動かすことが可能だが人間の限界を越えた動きをするために、その反動は大きい。
スッ
バリッ
空気がピリピリとした何かが広がったと思った瞬間にダグラスは一瞬で敵であるドラゴンとの間合いをつめると手に持つ剣を突き出すと甲高い音と共に剣が折れてしまう。
(まいったな・・・・師匠にもらった剣持ってくればよかったな)
ドラゴンの強靭な皮膚を貫くことなく突き立てられた剣は衝撃で真っ二つに割れてしまい空高く舞い上がって行くと鉄をも切り裂くと言われる爪がダグラスへと迫ってくる。
(ごめんなラヴィ、俺が守ってやるって決めたのに)
「「「ダグッ!?」」」
仲間達の方を振り返ると笑うと彼らの心配そうな顔が見えた。
□ □ □
「ほら、出来たわよ!ばろん」
<あぁ・・・・こんなはずでは>
ナターシャの属性は未だ出て来てはないが魔法という概念は早くも、その小さな少女の中に出来上がっていくと何かが沸々と湧き出していくのをバロンは感じている。
それでも小さな器にしては流れる魔力の大きさに驚いているのは確かなのだが。
「それにしても、お兄ちゃん元気かな」
窓から見える雪の壁を見ながら広がる青空を少女は見上げる。
<ふむ>
「ばろんが連れてってくれるなら安全だよね」
それは、その通りだが、ここまでの速度で上達するとは思いがけぬことだった。
再び魔力を体内に流していきながら再び手へと流すと疲れたのか目を閉じてコテンと敷いた柔らかない絨毯の上に横になってスヤスヤと寝息を立てるとバロンは風邪をひかぬよう布をかぶせた。