~3~
「るんるんっ」
「おやアンタの良い人が無事に帰ってきたせいか嬉しそうだね」
「そうなのフォルテ!ダグがね良かったんだ」
「そうだねぇ全くアイツは何をしていたんだか、もしかしたら女の所にでも・・」
ドサッ
買い物を済ませた兎族のラヴィと狐族のフォルテは協会に借りている部屋へと帰るところだったのだが紙袋をラヴィが落とすと青い顔をしている。
「冗談だよラヴィ、バカだねアイツが、そんなことするわけないだろ」
「でもっでもっ」
「はぁ・・・信じておやりよ」
「だけどだけど!!」
この二人をからかって遊ぶのがフォルテの楽しみで、いつも面白おかしくしているのだが、あまりにも青ざめた顔をするラヴィに飽きれてしまった。
フォルテは長身で艶やかな声をし女性としては魅力的で、いつも煙管をくわえては煙を出している魔導師なのだが、いつも冷めたような表情をしている。
「フォルテ!!ダグラスって、どんな女の子が好きなのかな?」
(ったくアンタのこと一番に思ってるって分からないのかね、この子は)
「そりゃ大人っぽい女が好きなんじゃないか?アタシみたいな」
ドサッ
再び紙袋が地面にと落ち青い顔をしているのを綺麗な顔を崩しながら笑うのを堪えている。
「やだ・・・やだ」
立ち止まって泣いている様子を黙って見守っているように見えるが内心は、とても楽しんでいる。
「おい、フォルテ」
「おや旦那、何処行ってたんだい?」
人間でありながらAランクの称号を持つスレイは肩に大きなハンマーを持ちながら立ち止まっているフォルテに声をかけるとラヴィを持ち上げる。
「あんまり、からかうなよ、こいつはこいつで真剣なんだから」
「おや、そんなの分かってるさ」
煙管を咥えながら煙を吐き出すと横を向いてしまう。
スレイは26歳で一番の年長者でもあり、この若さでAランクなのだから何故ダグラスが作ったパーティに居るのか不思議だが理由は彼は話すことはなかった。
「スレイの旦那、あのバカは、いつ顔を出すんだい?」
「さぁな、あいつはあいつで何かやってるんだろう」
「女遊びかね?」
ラヴィの顔から血の気が引いていくのを見ながらニヤニヤと顔を歪める。
「おい、ラヴィ・・・言わなくても分かってるだろうがダグのやつは、お前のことを一番に考えてるんだぞ信じてやれ」
「そうだよ」
「ニヤけながら言っても信用できないよ!フォルテ」
「あひゃひゃひゃ」
整った綺麗な人形のような顔からは想像もつかないような表情をしながら笑う。
「さて帰るぞ」
「あいよ旦那」
これが、このギルドの通常運転なのであった。
□ □ □
「よっスレイにフォルテ元気だったか?」
冒険者協会、彼ら『碧の旅人』パーティが借りる4人が借りる小さな部屋のドアが開けられた。
「バカが帰ってきたよ旦那」
「んで?何があったダグラス」
「んあーちょっとな」
「まぁ良いさ、それよりも大丈夫か?胸の痣は」
「あぁ、あの刻印か別に何にもなってないぞ今のところ」
ダグラスの心臓には黒い模様のような痣が幼いところからあった。
その刻印を最初は分からなかったが魔物を殺すたびに大きくなり一瞬だが痛むことがある。
彼が最初に育った村には古の魔女と呼ばれる300歳を越える魔導士が居たのだが彼女が言うには、これは死の刻印と呼ばれ生き物の生を奪うたびに俺は死に近づくらしい。
「俺には、こんな生き方しかないからな」
「死んだらダメだからね!」
「分かってるさラヴィ、でも大丈夫」
優しく彼女の柔らかな髪を撫でると嬉しそうに微笑んでいる。
コンコンッ
「あいよっ誰だい?」
彼らの集合するドアがノックされるとフォルテが返事するとドアノブを回して一人の白髪、白鬚の簡素だが質の良い鎧をつけた50代ほどの男が入ってくる。
「支部長さんかい珍しいね」
「あぁ、お前らにちょっと頼みたいことがあってな」
彼の名はロイ、このサンと呼ばれる街にある冒険者協会の支部長であり、自称:歴戦の勇士らしい。
この真実のほどではないが人間の身でBランクだったのだから、あながち嘘でもないんだろうと思うし今だに鍛えていることから察するに強いんだろうことが分かる。
彼が言うには街から、さほど離れていない場所にワイバーンが現れ、それを王国の依頼で捕獲しろと言うことらしい。
「このメンバーでワイバーンかい?支部長さん、あんたボケたのかい?」
「おいおい、フォルテ冗談だろボケるにゃ、ちいとばかし早えーだろ」
「それじゃ何だって言うんだい?」
「んーーーそれがだな」
何か言葉を含んだ様子で少しばかりの間が開いた後ロイは口を開き説明する。
「ほぅ、アタシ達はAランクの、みなさまの荷物もちってことかい?」
「あぁ・・・」
Aランクのパーティ2つが参加する今回の作戦、ワイバーンといえばAクラスの魔物だが手懐けることで乗ることが可能なのだった。
そして竜騎士と呼ばれる王国の精鋭部隊に配属させるのであり捕獲するには準備がかなり必要になるのは知られており食費もかさむのだが戦力としては相当なものでした。
「どうすんだい?リーダー」
「良いんじゃないか?」
「ったく、このリーダーはプライドなんてものはないのかね」
「気高き狐族のフォルテには悪いがプライドじゃ飯は食えないんでね」
ダグラスは彼女に笑いかけると仕方ないねと返事をする。
「で個人でAランクのスレイには悪いんだが・・・」
「別に構わないさ俺がAランクだろうとパーティなのだ」
「それでさ今回の依頼料だけど」
「それは奮発する他のパーティには断れてばかりだったからな上乗せ10%だ」
「よし!今夜は呑みに行くぞ!スレイ、フォルテ」
「「 良いねぇ 」」
二人は嬉しそうに返事をする酒は嗜好品の中では高級で毎日でも呑める酒はあるが正直言ってマズイのである。
「何で私の名前は入ってないの!!」
「何でって行くのが決まってるからだろ」
「じゃ出発は明日の午後から馬車は、こっちで手配しておくから準備しといてくれ」
そう言い残すとロイは外に出ていくのでした。
□ □ □
「イザベラ~こっちにエールもう一杯だよ」
「わかりましたフォルテさん」
酒場に4人で向かうと宴会が始まり周りには荒くれ者が多い冒険者達が騒いでいる。
「おうおう、ねーさん景気が良いねぇ」
「誰だい?」
「俺のことを知らないのかい?俺はランドルフ、ルーキーでBランクだから注目されてると思ったんだけどなっ」
フォルテの目の前にはダグラスとフォルテと同年代と見られる若い男が現れると彼女に声をかけてきたのである。
「はぁ、ナンパなら他でしなよオニーさん、お呼びじゃないんだよ」
あっさりとフォルテにあしらわれると周りから嘲笑が湧き上がるとランドルフと呼ばれる男は怒りを露わにしフォルテに食いかかる。
「このアマ、獣人のくせに、ちょっと良い女だからって」
「獣人のくせに?何だい?弱い男は、すぐ吠えるんだね」
ケラケラと笑うフォルテの様子に腰の物に手をかけ抜き去ろうとすると酒場の空気が湧き上がる。
「おー良いぞーやれやれー」
「フォルテちゃんになら俺もやられたいぜー」
「お前ら!店壊すんじゃねーぞ!!外でやれ外で」
これが荒くれ者流のやり方なのだが、この世界では力が全てでもある。
それでも争いごとをして負けた方は良いことなんてないことも知っているから、よほど喧嘩なんてふっかけるのは他のギルドとの力の分からない者か己の力量を過信している、この手の者ぐらいだろう。
酒場の者達はフォルテの実力は知っているし同じBランクに負けることなんて微塵も思ってないから若い男をからかっているだけなのだ。
「ほぅ、抜いたら命はないかもよボーヤ」
「上等じゃねぇか」
フォルテが葡萄酒のボトルを手に持つとフラフラとした足取りで外に出るとランドルフも勢いよく外に出る。
「ところで坊や、この街は初めてかい?」
「それがなんだってんだ」
「そうかい私のランクを知っているのかい?」
「ふんっせいぜい僕と同じでBランクだろう?俺は今まで人間だろうが獣人だろうが同じBランクに負けたことはない」
「ほぅ、それは楽しみだねぇ」
ケラケラと笑う女に、さらに激昂をした彼は剣を一閃、すれ違い様に放つと負けたことがないのも分かるような気がするが同じBランクだってギリギリの者も居る。
この男が戦ったのはギリギリBランク程度の者達だったのだろう。
今回は相手が悪い、実力的にはAランクに迫るほどのBランクのフォルテなのだから。
「ふんっ女を殺す趣味はないから峰内っ」
バリンッ
「なっ」
男の頭に鈍器のようなものが振り下ろされると液体が顔から地面へとしたたり落ちていく。
「そうかい、ありがとよボーヤ」
そして、その一撃を食らうと男は、そのまま気絶したのか地面に倒れこむと歓声が沸き起こると余興にも飽きたのか客は店に戻っていくと地面に落ちた葡萄酒を名残おしそうに見ながら彼女も店へと戻る。
「勿体なかったかねぇ」
フォルテはポツリと今の男のことなど、どうでも良いように呟いた。
「イザベラ!塩まいといてくれよ」
「はいフォルテさん」
イザベラは、この酒場に売られてきた女性でしたが本当の娘のように父親代わりの店主が育てた看板娘である。
「あ~やんなっちゃうね変なのが増える季節なのかい?」
「んー?どうだろう、とりあえず、おかえり」
「勿体なかったねぇ、あの葡萄酒」
葡萄酒と言えば1本が銀貨10枚ほどする高級品である。
中身が残っていたことも知っていたが酔っぱらった勢いで叩き壊してしまったのだ。
しかもガラスの瓶は、とても高価で高級品であったので安い素焼きの瓶に入っているので、とても硬いのでした。
「まぁ、今回の依頼料は奮発してくれるって言ってただろ?」
「荷物持つだけで金貨3枚は保証されるってんだから気前が良いさね国の依頼ってのは」
銀貨100枚で金貨1枚、1人が生活するのに金貨1枚あれば、あまり不自由することなく1月ほどは生活出来る。
「荷物は俺とダグが持つから、お前らは念のために装備を点検しておけよ」
「わかってるよ旦那」
そう言うとスレイの首にまとわりつくようにフォルテは細く白い長い手をかけながら近づくと彼は、それを払いのけて自分のジョッキに手をかける。
「相変わらず旦那はかたいねぇ」
「お前が、からかっているのを楽しんでるのは知ってるからね」
「違いないねぇヒッヒッヒ」
顔に似合わない表情でフォルテは卑しそうに笑う。
戦うときも、そうなのであるが戦闘時は笑いだすと本当に手がつけられないほどの力を出す。
「さほど離れてないとは言っていたが行くのに1週間ぐらいはかかるところだからなぁ」
「あそこはツインヘッドの縄張りだからねぇ運悪く出くわさなければ良いですけどね」
スレイは一度、それとやり合って運良く生き残れたという話を以前、聞いたことがある。
彼ほどの戦士でも倒すことは出来なかったことを考えるとワイバーンとは比べようがないほどの強さなのだろうとダグラスは感じている。
「大丈夫、ダグは私が守るから」
酔って鼻息を荒くしながらラヴィはダグラスに頭を預ける。
「ひゃっひゃっひゃラヴィは男前だねぇ」
「全くだよ女の子に守ってやるとか言われるなんて」
そのままスースーと静かな寝息を立てながら寝てしまうとダグは背中に背負って帰ることを告げる。
「じゃあ先に帰るよ」
「おう」
「はいよ」
残った二人は気が済むまで呑むだろうと家にたどり着くと彼女の部屋のベッドに寝かせると自分の部屋へと帰り眠りにつく。
ガタガタ
音がするとベッドに枕を抱いたままラヴィはダグラスのベッドに潜り込んできて再び寝息をたてはじめる。
ラヴィと出会ったのは俺が15歳のとき協会からの依頼で薬草を取りに行ったときに煙が見え火の手が上がっていた。
危険なことは承知の上だったがダグラスは森の中へと進むと1つの小さな集落があり破壊され燃え上がっていたのだった。
その元凶はキマイラと呼ばれる魔物の混合獣で魔女の成れの果てが作った失敗作だったが、その凶暴さと強さは相当なものであったらしく何人ものハンター達が犠牲になったと後に聞いたのでした。
「誰か!誰か生き残ってる者はいないか!!」
ダグラスは火の手の中、大声を出しながら街を走り回った。
運が悪ければ自分も火に巻き込まれる可能性もあったのにも関わらず。
わんわんと泣く声が聞こえ、すぐに向かうと1人の女の子と思われる姿があり暗い井戸の中で1人泣いていたのだ。
「大丈夫か」
「誰?」
「今、助けるから待ってろ」
自分が装備していた荒縄を井戸に投げ入れると自ら井戸へと飛び込んで行きラヴィを背負い井戸を登り切ったのだった。
体中傷だらけにしながら、ずっと泣き止まない彼女をあやすように連れて帰り着ていたローブの上から撫でてやると少し泣きやんだようだった。
「名前は?」
「ラヴィ」
「そうか僕はダグラスって言うんだ、よろしく」
「お母さんがお父さんが村の、みんなが」
「うん、誰かにやられたみたいだね・・・」
そのまま2人は黙り込むとラヴィは再びシクシクと泣き出す。
それから彼女の身の振り方が決まるまでダグラスは彼女を泊めたのだったのだが自分よりも4つも年が上なことに驚いたものだった。
長い茶色の柔らかそうな髪に柔らかそうな肌、多分ダグラスの目が間違ってなければ美少女と呼べるほどの女の子が、まさか自分よりも年上だったとか。
それからも俺の後ろをついてくるようになり彼女は肉体的には強かったが父や母を失ったショックから未だに立ち直ってないし側に居てやりたいと思っている。
「ん・・・母さん父さん」
ラヴィは寝言を言いながら涙を垂らすと、それを指でぬぐうと抱き寄せる。
「温かい・・」
「あぁ、そうだな」
夜は更けて空には星が広がるのを見ながらダグラスは眠りに落ちた。