4.
それから数時間が経過しローレパンネルは城に戻ってきた。
「おっ、戻ってきたぞ…」
しかし、そこにアンパルスの姿はどこにもない。
「どうした、ローレパンネル。冴えない顔して。アンパルスを倒すのではなかったのか?」
ローレパンネルはハフヒーホを睨みつけて、こう言い放った。
「私を…騙したのか」
「な、何を言う。お前はバイキナル家の次期後継者として産まれたのだぞ!騙すことなどなかろう」
「私は、ジャムピエール側の人間ではないのか。そもそも、父上と顔が似ているところがないから、おかしいと思っていたのだ」
「ぐっ…確かに、お前は、ジャムピエール家に産まれたのだ」
ハフヒーホは、全てを話すことに決めた。
「お前を誘拐したのには理由がある。わしには唯一の子息がおった。当然、後継者の候補となっておったのだが、生まれつき病弱で後継者には向いておらんかった。妻にも逃げられて、このままだと没落するのは時間の問題。手下も手放さなければならん。それを避けるにも、どうしても後継者候補を仕立てなければならなかった。そこに、ジャムピエールに子が産まれたとの知らせが舞い込んだのだ。ジャムピエールには既にお前含めて四人も子がおった。そこでわしの悪知恵が働いたのだ。ジャムピエールに産まれた子を奪い取って、わしの後継者として育てようと企んだ。ところがだ!」
ハフヒーホは手に力を入れ、話し続けた。
「手下共は何を間違えたか、連れて来たのは二歳だったお前だ。わしが連れて来させたかったのは産まれたばかりの子供、そう、わしが男と勘違いしておったお前の妹、メロリーヌだ」
「な、何だと?」
ローレパンネルは、ハフヒーホが自分ではなく妹のメロリーヌを狙っていたことに愕然とした。
「ふざけやがって。何て卑劣なことを…」
ハフヒーホはローレパンネルに詫びることはしなかった。
「だが、良く考えてみろ。ジャムピエールは一度もお前を探そうとはしなかったじゃないか。そう、あいつらはお前を見捨て、妹のメロリーヌを溺愛したのだ。憎いとは思わぬか?ならば、わしには感謝すべきではないのかね?おわっ!」
ローレパンネルはバイキナルに向け鞭を振った。
「なぜ私を連れて来たことを正当化しようとしているのだ。ふざけやがって…。お前は最低な野郎だ!」
「馬鹿者!」
「はうっ!」
ハフヒーホはローレパンネルの頬を平手打ちした。
「お前をここまで育てたのはわしらだ。恩を仇で返すつもりなのか。お前はわしの言う事だけを聞けば良い!ジャムピエール一族を滅亡に追い込む。それだけ考えるのだ」
ジャムピエール一族の滅亡は、妹のメロリーヌも含まれている。それを考えると、ローレパンネルは頑なに拒んだ。
「そんなこと…私にはできない!」
「待て!ローレパンネル。わしの言うことが聞けぬのか?」
ローレパンネルは自分の部屋に駆け込んだ。
「私は…何者なんだ」
その頃、メロリーヌはローレパンネルを探しに領地を見回っていた。当然、見つかるはずもなく、大声で叫んだ。
「ローレパンネルお姉ちゃぁん!」
その声は周囲に響きながら消えていった。しかし…。
「んっ?」
同じ頃、ローレパンネルは部屋から外を眺めていた。
「メロリーヌ…どこにいるんだ?」
ローレパンネルには、メロリーヌが自分を呼ぶ声が聞こえてきたように思えた。当然、そこにメロリーヌの姿はない。
「疲れてるのかもしれん……」
ローレパンネルはそのままベッドで横になった。
翌朝、太陽の光が窓から差し込み、ローレパンネルは目覚めた。ちょうど同じタイミングで、ハフヒーホは部屋に入って来た。
「よく眠れたか?ローレパンネルよ」
ローレパンネルはハフヒーホから視線を逸らした。
「くっ!」
「運命を受け入れよ。どうあがいても、お前はジャムピエール家に戻ることなどできぬ。このまま、バイキナル家の人間として戦うのだ」
ローレパンネルは、顔を一切向けることはなく、外を見続けた。
「わしに逆らうとはいい度胸しておるな。なら、親子の縁を切ってもいいんだぞ」
「構わぬ。そもそも私とお前は親子ではなかろう」
「ほぉ、せっかくいい話があるとでも言うのに…」
「何だと?」
ハフヒーホは、ローレパンネルに近付いて、耳元でこう話した。
「アンパルスが、お前との決闘を願い出たぞ。街中で出会えば、いつでも相手になってやるってなぁ」
「アンパルス……」
ローレパンネルは表情を変えた。小さい頃から受けてきた刷り込みにより、アンパルスの名前を聞くと、興奮するようになっていた。
「そうだ。アンパルスはお前の敵だ。倒せ!ジャムピエール一家を崩壊に追い込むのだ!」
「アンパルス…私の敵……倒す!」
ローレパンネルは愛馬に跨り、城を出た。
ハフヒーホはその様子を見届けると、不気味な笑みを浮かべた。
「フンッ!長いこと洗脳させてきただけあって、疑うことなくすぐに反応したわい。あいつはただ、アンパルスを倒すことだけ考えていれば良いのだ。息の根を止めるまで、ここには戻って来るなよ」
同じ頃、前日はローレパンネルを見付けられず、落ち込んだメロリーヌは、ジャムピエール城の部屋で大人しくしていた。
「ローレパンネルお姉ちゃん……」
自分に姉がいたことは、父のジェイムスや兄のアンパルスたちから聞いていた。母の顔を知らず、父や男兄弟に囲まれて育ったメロリーヌにとって、姉のローレパンネルは憧れの存在であり、会ってみたいと思っていた。しかし、敵対関係にある貴族に誘拐されて育ったと分かり、複雑な心境にあった。
「お姉ちゃん…何で……」
その時、誰かがドアをノックした。
「メロリーヌ様。入りますね」
「バタローネさん…」
ジェイムスの母が亡くなった後、ジャムピエール一家の世話係として城に来たバタローネは、メロリーヌにとって母のような存在であり、良き話し相手である。
「ご気分はいかがですか?」
「うん…」
メロリーヌは浮かない顔をした。
「まだ、お姉様のことが気になるのですね?」
「お姉ちゃんが生きてるってことが分かったんだもん。会って話がしてみたいよ」
「お会いしたいお気持ちは、私も十分分かります。ですが、今お会いするのは大変危険すぎます。ここは大人しくしているべきです」
メロリーヌは突然立ち上がって、バタローネに体を向けた。
「そんなの絶対嫌!やっと、やっと見つけたお姉ちゃんなのに会っちゃだめなの?引き戻しちゃだめなの?」
「今のお姉様は、かつて、領地を分捕ろうと決闘を起こした、敵対勢力の人間として生きておられるのです。会えたとしても、メロリーヌ様が生きて帰れる保障はどこにもありません。それでも、お行きになるのですか?」
「お姉ちゃんが悪者の仲間だなんて絶対許せない!私、絶対にお姉ちゃんを改心させて引き戻す!」
メロリーヌはドアの方向へ走り出そうとした。
「おやめなさい!ここには二度と戻れなくなるかもしれませんよ!」
「あんたに何が分かるのよ!どいてよ!」
「キャァッ!」
メロリーヌはバタローネの体を押し退け、外に出て愛馬に跨り、外に出た。その途中にアンパルスがいることも気付かなかった。
「あ、メロリーヌ。どこへ行くんだ?」
メロリーヌは、その声に耳を貸さなかった。




