2.
アンパルスとメロリーヌは共にジャムピエール城に戻った。アンパルスは失踪したローレパンネルの姿を見たことを報告する。アンパルスの話に、次男のショクパンヌ、三男のカレリアス、そして一家と統率する父、ジェイムスは驚きを隠せずにいた。
「何?ローレパンネルは生きておっただと?」
「間違いありません。ただ…」
「ただ?どうかしたのか?」
「ローレパンネルは、バイキナル家の後継者と名乗っていたのです」
「な、何だと!?なぜあんな奴の手に渡ってたんだ?あの野郎、娘に手を出しおって、許さん!」
「父上、落ち着いてください!」
ジェイムスは激怒し、一旦は席を立ち上がったが、周囲に抑えられた。
「城の警備がしっかりしておれば、あんなことにはならなかったのだ…」
ジェイムスは今から十三年前のことを思い返した。ジャムピエール家はバイキナル家と決闘の後、あくどいバイキナル家を追い返したとして、名実共に有名な貴族としての地位を確立していた。私生活では男児三人のところに長女のローレパンネルが産まれ、二年後には次女で末っ子のメロリーヌが誕生し、公私ともに恵まれた環境となった。
満月が顔を出す夜のこと。ジェイムスは、産まれたばかりのメロリーヌを抱きかかえた妻とベランダで過ごしていた。
『子供たち、やっと眠ってくれたわ』
『男らはまだまだやんちゃだからなぁ。お前も大変だろう』
『その分、ローレパンネルやメロリーヌに救われてるわよ』
『ハハハ、そうなるか』
ジェイムスは、城主として公務に追われる日々を過ごしているが、毎日必ず二人だけの時間を作っていた。この時はまるで新婚のような気分に浸れるのである。しかし、この時ばかりは注意力が散漫になっていた。
『じゃあ、そろそろ寝ましょうか』
『そうだな。今日は朝から会議で疲れたし、明日も朝から会議だから疲れるんだよ』
二人は寝室に向かった。この時、日課にしている子供たちの寝顔を見ることを忘れてしまった。これが悲劇の始まりだった……。
翌朝、日の出と共に城内に門番の大声が響いた。ジェイムスは眠い目をこすりながら体を起こした。
『殿、大変でございます。大変でございますぅ!』
『どうした。何があったのだ?』
二人の門番はひれ伏してジェイムスに告げた。
『申し訳ございませぬ。何者かが、入り口の門を突破して侵入したようでございます!』
『な、何だと?なぜそれをすぐに言わぬのだ!』
『それが、気が付いたら眠らされていたのであります』
『眠らされた?どういうことだ。しっかり睡眠は取ったんじゃなかったのか?』
門番は互いの顔を見合わせてから話し始めた。
『それが、背後から何者かに口を塞がれたところは覚えているのですが、交代の門番に起こされるまで何も覚えていないのです』
『私も、突然のことなので分からなかったのです。恐らく、睡眠薬を吸わされたのかも知れません』
『ええい。侵入者が今もいないか、城内をくまなく探し回すのだ!』
ジェイムスは城内に異常がないか見回るよう指示を出した。
『よし、わしは子供らは大丈夫か見てくるよ』
ジェイムスは寝室を出ようとした。するとそこに、幼いアンパルスが急いでジェイムスのところへ駆け込んだのである。
『父上、母上、大変でございます!』
『おお、アンパルスよ。そんなに慌ててどうした?』
『ローレパンネルの姿がどこにもありません!』
『何?ローレパンネルがいないだと?どこへ消えたんだ?』
ジェイムスは急いで子供の部屋を見に行った。そこにはショクパンヌとカレリアスの姿はあるが、ローレパンネルの姿はなかった。
『お前たち、ローレパンネルと一緒ではなかったのか?』
『はい、寝る前まで隣にいたのは覚えています』
『決闘ごっこやってたけど、あいつが先に寝ちまったんだよな』
この日は部下を交えて一斉にローレパンネルの捜索に当たった。この時、ローレパンネルは二歳であり、そう遠くには行っていないと思われた。城内の隅から隅まで、隠れていそうなところを必死になって探したが、城内にローレパンネルの姿は無かった。
『あなた、どうしましょう』
『これだけ探して見つからなかったんだ。ローレパンネルは誘拐された可能性が高い。よし、捜索範囲を広めよう』
ローレパンネルが誘拐されたことは領地で暮らす住民たちに伝えられ、目撃者を探した。一家と部下も直接聞き込みを行うなどして、ローレパンネルを誘拐した者を探し出そうとしたが、有力な情報は得られなかった。
結局、ローレパンネルを見つけ出すことはできぬまま、十三年の月日が流れた。その間に、ジェイムスの妻はローレパンネルとの再会を果たすことなく、この世を去った。
『あいつが生きて大きくなったら、きっとわしらを探しに来るだろう…』
ジャムピエール一家は、ローレパンネルが大きくなって自分から現れてくれることを期待した。それがまさか、敵対する勢力で育てられていたことを知って愕然とした。
「お姉ちゃんが悪者だなんて、絶対そんなの許せない!」
「おいメロリーヌ、落ち着けってんだよ。お前がここで暴れても仕方ないだろ」
「嫌だ!私、お姉ちゃんを引き戻してくる!」
「こら、待ちなさい!メロリーヌ」
メロリーヌはカレリアスとショクパンヌの静止を振り払い、外に出た。
「参ったなぁ。僕が探します!」
アンパルスはメロリーヌの後を追うことにした。しかし、メロリーヌの愛馬が速く、途中で見失ってしまったのである。




