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大江戸転生物語  作者: 右尾ミロ
第一章:天使の産まれた家
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第陸話:天使の周りの女たち 御女中編 その一 

この小説は、作者が知った江戸時代の知識を自分なりに表現しているだけですので、劇的な展開もなければ、完璧な幕切れもありません。

我こそは侍の生まれ変わり!ってくらい江戸文化が好きな人がいたとしても、

そういった方のご期待に応える作品にはきっとなりません。


 武家屋敷で日が暮れるまで宴会を開いているのはさすがに外聞をはばかることであるし、旗本・御家人の監察を任とする『目付(めつけ)』にでも知られると何かと面倒である。

 そのため七つ下がり(午後四時)の前に、美酒に酔い赤ら顔になった男客や土産として持たされたビつケットを大事に(たずさ)えた武家や町家の女客が駕籠(かご)に乗り帰路へついた。



 宴会が荒れるということはなかったが人数が人数である、大広間では十人の女中がテキパキとした所作で立ち働いていた。

 神代家の女中を束ねるのは、老用人の里田庄三郎の双子の娘『加代(かよ)紗代(さよ)』の二人である。

 通常の場合、知行が三千石を超える大身の旗本家では『御局(おつぼね)御中臈(ちゅうろう)御次(おつぎ)』などと呼ばれる腰元がいるものなのだが、万事がのんびりしていて日頃の仕事も楽なものが多い神代家の屋敷では、(みな)を女中として奉公させることになっていた。


「姉上、本日は(にぎにぎ)々しくも華やかな宴席でございましたね」


「ほんに、一昨年の忠頼(ただより)様の元服の折よりもお客様が楽しそうにしてらしたわね」


 大広間の片付けを監督しながら話をしているのは、神代家の女中頭を務めるしっかり者の姉加代とおしゃべりな妹紗代の双子の姉妹である。

 享保五年で数え年で三十路を迎えた双子は、雁金額(かりがねひたい)の柳眉、涼し気な目元で近所では有名な美人姉妹だ。

 (よわい)十五の頃に女中頭を務めていた母を亡くし、それからは先達の女中にきびしくも暖かい薫陶を受けて、十年程前からは女中頭として奉公をしている。

 普段は双子のどちらかが表と奥とに分かれて、表の掃除を行う女中の差配や勝手方の取り締まり、奥では数年前に忠時(ただとき)の後添えとして嫁いできた伊代の身の回りの世話などを行っている。


「それにしてもビつケットが皆さまのお口にあったようで紗代は安堵いたしました」


「わたしもどうなるかと案じていたのだけれど、お土産をお渡しした時の皆さまのお顔を見て満足してくださっているがわかりましたよ」


「当然ですよ!だってあんなに美味しい菓子ですからね~、どなたがお食べになっても気に入ること間違いなしです!

 勝手方の者に命じて、また作っていただかなければなりませんね……」


「あら、私が気付いていないと思っているの?」


「え!?」


「着物の(たもと)に一枚、懐紙(かいし)に包まれたビつケットがあるのでしょ?」


 心当たりがあるのか紗代は左の袂を抑えた。


「これは、その……」


「双子に隠し事は通用しませんからね」


「うう~」


 加代は妹がもじもじしているのを横目で見ながら、広間で最後に残されたお膳を女中が運んでいくのを確認した。


「うふふ、いいのよ。紗代は小さい頃から菓子が好きでしたからね、それは一人でお食べなさいな」


「あう、じゃあ半分にして二人でいただきましょうよ」


「わたしはいらないわ」


「え~、姉上だってあんなに美味しいっておっしゃっていたじゃない」


「大丈夫、私達は双子なのよ……そっくりな美人姉妹のね」


 加代はそう言って右の袂を優しく抑え、柔和な笑顔をのこして大広間から出て行き『奥』にいるであろう伊代のもとへ向かった。


「……ああっ!姉上も袂にビつケットを入れているのね!

 全くもう、なにが美人姉妹よ!」


 (たの)しげに憤慨した紗代は仕舞い忘れた食器などが無いかを確認し、足取り軽く姉の後を追った。



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