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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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女勇者のさらい方

作者: 雨傘 はる
掲載日:2026/07/06


歴史上、初めての女勇者。


そう聞くと、大陸中が沸き立ちそうだと思わないか。

平民の出身、騎士団の誰より華奢で美しい女性が、身の丈ほどもある勇者の剣を振るう。

まるで、童話で語られる戦女神だ。


────でも。俺が知る彼女は、ただひたすらに孤独だった。


神託により招集されたのは、平民の女の子。

騎士団長、大神官、魔法使いの俺をメンバーとして、復活した魔王の再封印のため旅立てと言う。


扱えてしまったのだ、彼女は。

勇者にしか手にできない宝剣を、軽々と片手で。


民は沸き立った。何なら、俺たちパーティーメンバーも沸いた。

だって、すごいだろう。華奢で平凡な女の子が、無表情でバタバタと大の男たちをなぎ倒していくんだ。

訓練なんかするより前から、彼女の強さは圧巻だった。


数千年ぶりの魔王復活のせいで大陸は翳り、国は荒れ、人が死に、村が消える。

そんな中、大歓声と共に俺たちは旅に出た。


最初の頃は、よかったんだ。魔物や魔族を倒し、人々を救うたびに、勇者とその一行は称えられた。

目に見えて国の空気が澄み、傷だらけの俺たちもまた心を奮い立たせ、ついに魔王を倒した。


封印じゃない。倒したのだ。これ以上の功績はない。

もちろん、最後の一手は勇者によるもので、彼女は身を投げ出してまでやり遂げた。


けれど。


勇者というのは、旅が終われば、夢物語の英雄でしかない。

大怪我を負った勇者が不在の夜会で、囁く声がする。


『勇者は魔王に腹を裂かれたらしい』


『子が孕めぬなら、王子の報奨にもなりはしない』


『男の中に女一人、いい思いをした報いだろう』


耳にした騎士団長は咆哮の勢いで怒鳴り、大神官は神の御前に駆け、俺は────彼女の隣に戻った。


誓って。俺たちは、女神ラルキスに誓って。真摯に神託を遂行した。

疚しいことなど何もない。そんな暇が、そんな余裕がどこにあるというのか。


魔物だらけの道のりで、魔族の不意打ちを警戒して、夥しい数の罠をくぐり抜けて。

何度死にかけたか、何度仲間を失いかけたか、想像すらしないのか。


憤りよりも、なんというか、虚脱感が苛んだ。


────なあ。勇者。もういいんじゃないか。


俺は、俺たちは、きみの名前すら知らない。年齢もわからない。

ただきみはリーダーとしてそこにあり、確かに俺たちを導く立派な勇者だった。


きみを尊敬する。

きみは、もう解放されるべきだ。







わたしは子を成せぬからな。


そう、彼女は嘲笑う。諦めたように、でも強い生命力を宿した瞳で。

旅が始まった頃は、もっとあどけない喋り方をしていた少女は、勇者という立場を求められ続け、長い年月をかけて甘さを削ぎ落としていた。


魔王にトドメを刺すため、彼女は己の身を囮にした。

その命と引き換えるつもりだったのは明白だった。


騎士団長の適切な応急処置と、大神官による上級治癒魔法と、俺の継ぎ接ぎの魔力譲渡。

意識のないまま王都に戻った彼女は、丸ふた月眠ったままだった。神官総出の治療が施されてようやく、目を覚ましたのだ。


「だから何だと言うんだ。王子との結婚が報奨などと、ふざけたことを」


吐き捨てた騎士団長は、すでにその立場を辞して、ただのルスターだった。


「あなたは素晴らしい。生きていてくれてよかった」


大神官アドニスは、涙を堪えられないようだった。


俺は────


「…………」


何が、言えるというんだろう。

彼女が誰より勇敢なことなど、とうの昔に知っている。素晴らしい人であることも。


ひたむきで、まっすぐで、少し不器用な。


「……あんたは、ただの女の子だよ」


初めて会った時から。今もずっと。

こちらを見る翡翠の瞳に、困惑が揺れている。

見失ってはいけないだろう。きみは。


「変わらず、ただ一人の女の子だ」


静かな嗚咽が、胸に鋭く刺さった。







何が言えるだろうか。


あの日から、俺はずっと考え続けている。

つまり、俺は彼女に伝えたいことがあって。

戦いが終わったら、魔王を倒して無事に帰ったら、必ず言おうと思っていたことが、あって。


だけども。

今、傷ついた身体でさらに傷を受ける彼女に、言える言葉はあまりに少なくて。


褒賞として抱えきれないほど莫大な資産を得た俺は、それでも、彼女にあげられるものがないと、途方に暮れている。

野花や小鳥を愛でる彼女に、高価な物を差し出すほど、愚かではないつもりだ。


だから。


傷がそれなりに癒えて、絶対安静が解除された日。

目いっぱいの勇気を──それはもう、魔王と対峙するよりも大きな勇気を──振り絞って。


俺は、彼女に手を差し出した。

キョトリと目を瞬かせる彼女に、頑張れ俺、と震える膝を叱咤する。


「花のアーチがあるよ」


あ。間違えた。いやいや、勢いは大事だ、このままいくぞ。


「赤い屋根の、小さめの平屋。庭にちっちゃい池と、白石の歩道と、緑の垣根」


驚きに見張る彼女の翡翠の瞳が綺麗で、そうだよ、と頷く。

いつだったか、束の間の休息の時間に話したよね。

戦いが終わったら、平和になったら、どんな暮らしをしたい?


「お隣さんは、徒歩三十分。でも、俺の転移魔法でどこでも行ける。……そんで、入り口は、花のアーチ」


可愛らしい夢だなと、ほっこり笑いあった日は遠い。

だけど、ちゃんと覚えている。きみとのことなら、何だって。


「一緒に帰ろ。俺、きみが大好きなんだ」


いつから、なんて知らない。きっかけもわからない。

ただ、もうずうっと。ずーっと前から、俺は彼女のことばかり追いかけてきた。


「ただの女の子のきみと、俺。案外いいと思わない?」


国は、勇者一行が今後も政治的に大きな役割を担うことを期待してる。

でもさ。もう、充分やったと思うんだよ。もう、いいだろう。



「きみを攫ってもいい?」



息を潜める元騎士団長と大神官は、目を閉じて聞かない振りをしている。いい奴らだ。


頼むよ。頷いてほしい。そんで、この手を取ってよ。

生涯、勇者の宝剣を身に秘めるきみを、俺は俺にできる精一杯で守るから。


ほっそりとした小さな手が、震えながらそっと触れる。

ドキンッと大きく胸が跳ねた。



「…………さらわれたい」



よっしゃ。思わずぎゅっと強く握りしめた手は、まだ震えていて。冷たくて。

大丈夫、大丈夫。元々平民の俺たちだ。あたため方くらい知っている。


逃げたいと言ってくれたことに安堵して、俺はそのまま、転移魔法を発動させた。


早く。早く、俺たちの家へ帰ろう。

それで、ずっと言いたかったことを。


『改めまして、俺はイグル。きみの名前は?』










お粗末様でございましたm(*_ _)m

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― 新着の感想 ―
(;◇;) お二人さん、お幸せに!! 勇者ちゃんは諦めてるけど、女神様から結婚祝いという名のサプライズ祝福で数年後……騎士さんと神官さんがコッソリ会いに行ったら、パパになったイグルにビックリするはず!…
ずっと役名で呼びあってたのかな皆さん…ストイック…。 転移魔法あるの無敵やな。強い…
お偉い方々にとっては所詮平民。 下手に人気が出過ぎたら何をされるかわからない。 だからきっと大英断! お幸せに!
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