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「あーもう!わかったってば。それで?なんであんたがそんなこと知ってるのよ。手術は無事終わったの?」
「……てかお前、いつから寝てたんだよ?本当に信じらんないぜ。手術自体はとっくに終わってるさ、三時間くらい前に。母さんに聞かなかったのか?」
オーリンは得意満面といった表情で、私の質問にそう答えた。
私はその内容にびっくりして目と口を丸くさせ、つい興奮気味に椅子から立ち上がった。
「うそ!それ本当?うまくいったの?」
立ち上がった拍子にテーブルから本が落ちた。
3冊ぐらい、音を立てて。
オーリンはそれをさっと空中で器用に掴んでから得意げに言った。
「ああ、たぶんな。無事なら彼女はもうすぐ蘇るはずさ。さっきマックが盗聴に成功したんだ。やっとだぜ、まる一日かかった。だがタイミング的には最高ってわけだ」
得意気にそう言うオーリンに、シェイラは今度は本気でひっくり返りそうになった。
……なんですって?盗聴?マック?こいつ馬鹿なの??
「はぁ?…なんですって?盗聴?ウソでしょ、あんた何考えてんのよ?しかも、マックってあのユエン・マッキントッシュのこと?……なんで彼が家にいるわけ?」
オーリンはいたって冷静にこういってのけた。興奮した馬を落ち着かせるみたいに。
「どう、どう、落ち着けって。とりあえずお前も来い。世紀の瞬間を見逃すわけにいかないだろ?それにユエンが首を長くしてお前を待ってるんだからさ。あいつ、協力してくれたらお前とデートさせてやるって言ったら一発だったぜ。リーグワンの一等席にも靡かなかったやつがさ」
……はあ、ほんとにコイツは、、
そう、たまにオーリンはとんでもないことをやらかす。
例えば、全世界が注目してる自分家のトップ・シークレットを盗聴してやろうとか。
あとオーリンはひとつとんでもないことを勘違いしてる。
シェイラにはすぐにユエン・マッキントッシュの顔が思い浮かんだ。
あのいつも1人ぼっちで辛気臭い顔の、何かとシェイラに絡んでくる、気の弱い少年だ。
その彼が、シェイラとデートだって?
……そんなわけあるか!ユエンまでなにやってんのよっ!
まあこの際それはさて置き、ユエンが陰で「マック」というあだ名で呼ばれていることをシェイラも知らないわけではない。
実際、彼はこの現代において古めかしいコンピュータ兼機械類オタクとして学校中に知られる変人だ。
そんな彼をこっそり手引きして盗聴させている?
「はあ?勝手になんてことやってんのよ!」
「おいシェイラ、一回だけだぜ?それになにも付き合えって言ってるわけじゃない。あいつもそれで納得してるし、頼むよ」
「そこじゃないわよ!ばかじゃないの!」
シェイラは悪びれた様子もないこの狂った兄についに頭を抱えて怒鳴った。
「あんた、あんたって……なに考えてんの⁈正気なの?こんなのがばれたら……」
最悪な想像をして頭のてっぺんから真っ青になりはじめた私をおいて、オーリンはこともなげに、
「絶対、ばれねーよ。母さんも父さんも地下にいるし、ジーヴスはマスコミ連中の世話で手一杯だからな」
ダメだ、ジーヴスなんて当てにならない。
彼は総白髪に片眼鏡が特徴の見た目は初老、頭脳は超高性能な(はずの)ヒューマノイドロボットの執事なんだけど、これがなんととんでもなくおっちょこちょいでしかも忘れっぽいときている。
私は一目散に扉に向かった。オーリンが私の手首を掴んで引き留めた。
「おい、どこ行くんだよ?まさかこれからベッドで本格的に寝ようってわけじゃないよな?」
私はそれを鼻で笑って、彼の手を乱暴に振り解いた。
「当たり前じゃない。あんたたちの現場を押さえてやるのよ。いい?そろそろその薄っぺらい口を閉じないとどうなるかわかってるわよね、オーリン・キラノー?」
私が凄んでみせると、あいつは間抜けみたいに「どうなるんだ?」って聞きやがった。
どうなるかですって?
「あんたが夢のなかにいる間に瞬間接着剤でくっつけてやるのよ!」
「おいおい、シェリーちゃん、それはないぜ。あのときは大変だったんだからな」
私は奴を睨んだ。
「二度と朝っぱらから病院送りにされたくなければ、黙ってなさい、このクズ野郎!」
そう捨て台詞を吐いてシェイラは部屋から出て行こうとした。
だがそれは扉の前に立ってつい先ほどから二人の様子を伺っていた人物
ーーそれも、この場に世界で一番いてほしくないと普通の感性なら思うであろう人物(もっともそれは本人も認めるにちがいない)によって阻まれたのだった。
ユエン・マッキントッシュ 陰のあだ名はマック(本人も知っている)。いつも1人ぼっちで辛気臭い顔の、何かとシェイラに絡んでくる、気の弱い少年。凄腕のコンピュータ兼機械類オタク。オーリンのとんでもない思いつきに駆り出された。オーリンは彼がシェイラに気があると思っているが……?




