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シェイラは他にすることもないという理由以上に、この離れと図書室をいたく気に入っていた。
まるでこここそがまさに自分だけの居場所のように感じていた。
堆く積み上げられた古臭い不用品は彼女にはアンティークの宝物の山だったし、何より紙とインクの錆びついた書物の匂い、実物としての本そのものも大好きだった。
建築は部屋の中から何度見上げても素晴らしい出来で、大きな天窓を通して木々の隙間から入ってくる木漏れ日はゆらゆらと忙しなく揺れて、まるで輝く波の中に漂っているような心地がするのだった。
あいにくこの日の天気は滅多にない嵐のような大雨で、いつものように本の城壁に囲まれたシェイラは、激しい雨音に何か魔法のような不思議な予感を覚えながら、そのままうとうとと夢の世界に入っていった。
その腕の先には、広げたままの紙のように薄いディスプレイが、暗い部屋のなかで唯一白く光っていた。
”ペーパー”と呼ばれるその超薄型液晶画面には記事の大見出しが踊っている。
天才少女 無事蘇生なるか?
人類初の人体冷凍保存技術により、今日までおよそ150年間冷凍保存されているイブ・キラノーさん(保存当時19歳)がついに蘇生されることが関係者により明らかにされた。世界中にその名が広く知られるこの少女は、第四次世界大戦においてその類稀なる頭脳を駆使し世界国家樹立に貢献。持病の先天性心疾患の悪化により20歳まで生きられないと言われていたが、父であり科学者のケント・キラノー氏らが冷凍保存手術を実施、見事成功した。また、このキラノー式技術は世界で初めて人工的な心肺停止状態での冷凍を実現している。彼女はその技術の唯一の被験者で、実弟の子孫でありまた学者一族として繁栄したキラノー家の地下冷蔵室に今も眠っているという。解凍手術は来月30日に行われる予定だ。なお彼女の手術が成功してから一年後に、心肺停止の有無に関係なく人体の冷凍保存を禁止する法が制定された。
オルゴールの音がやんだ数分後、廊下に忙しない靴音が響いた。
靴音は部屋の前で止まり、今度はその男ーー大柄で背が高く、体つきも筋肉質で短髪、髪と目の色はシェイラそっくりーーが扉をこぶしで勢いよく叩いた。
3度目の雑なノックのあと、オーリンの大声が屋敷じゅうに響き渡った。
「おい、開けろって!」
次回から主人公視点に切り替わります。わかりにくかったらごめんなさい。




