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1-1 嵐の夜に、動き出す、未来

 ドアの真上に掛けられた時計は、ちょうど夜中の12時をまわったところだった。


 静まり返った部屋のなか、オルゴールの音とともにからくりが動きだし、文字盤の上の小さな扉が開いて機械仕掛けの小人たちが行ったり来たり、音楽に合わせてくるくる回っている。


 シェイラ・キラノーはひとり、部屋の奥に鎮座する長テーブルの中央につっぷして眠り込んでいた。

 そのテーブルは、数十年前までは晩餐会のたびに活躍していたらしいが、今ではすっかり用なしで、このがらくた置き場に追いやられていたのだ。


 本来は図書室だった(、とシェイラの祖母が言っていた)忘れさられていたこの部屋は、キラノー家の本邸のうらに位置する離れでもひときわさびれた場所、つまり最上階である二階のいちばん奥にあり、今では本来の役割としてよりも、廃棄に困ったがらくたの処分場として活躍していた。


 部屋はかなり広く、上からみると整った台形のかたちをしている。しかしより特徴的なのは、出窓とドアをのぞく壁すべてが本棚になっていることだろう。

 その周りをつたうように、階段と梯子がかけられている。さらに、天井につきそうなほど背の高い本棚が部屋中に陳列され、あいだには小花柄のソファや螺旋階段型の箪笥、ガラス扉のキャビネット、ティーセットやカトラリーといったコレクションでいっぱいの棚など、数えきれないほどたくさんの古い家具が押しこまれている。

 そしてその隙間には、本棚に収まりきらなかった本が所狭しと並び、そのうえ、床の上にも塔のように見上げるほど高く積まれており、まさに本の要塞といった風景である。


 電子書籍が主流の現代において、一般家庭でこの規模の数の紙の本を見ることは、この部屋以外にはまずないだろう。


 実際、この「がらくた置き場」を訪れるまで、シェイラは紙の本を見たことがなかった。そもそも本物の紙にすら触れたことがなかったのだ。

 

 今では家族のなかでも彼女と祖母以外、まず来る人のいないこの離れの屋敷に、シェイラは頻繁に訪れていた。

 それも、ほとんど住んでいると言っていいほどである。


 彼女が離れに居つくようになったのは、両親の影響が大きかったかもしれない。

 政府職員の父と著名な議員の秘書である母は年中忙しく、シェイラと兄のオーリンの双子の兄妹はいつもほったらかしだった。


 そんな二人の世話はもっぱら祖父母と執事のジーヴス(彼は総白髪に片眼鏡が特徴の見た目は初老、頭脳は超高性能なヒューマノイドロボットである。ところがどっこい、彼はちょっと信じられないほどおっちょこちょいで、しかも忘れっぽいときているので、いくら彼が執事であってもロボットだと見抜ける人間はそうそういないにちがいない)の役目だった。


 そして、当時まだ生きていた祖父に連れられ離れを探検したその日から、そこは兄妹にとって格別の遊び場となった。


 それから数年後、二人が学校に入り友達と外で遊び始める年頃になると、元来活発で周囲が放っておかない人気者である兄のオーリンは、自然と離れに寄りつかなくなった。


 しかし妹のシェイラは違った。まるで魔法にかけられたように、いつまでも紙の本に夢中だった。

 というのも、シェイラには残念ながら放課後や休日にお洒落して街に出掛けて行くような友達もいなければ、もちろん恋人など夢のまた夢

 ……確かに彼女の容姿は美しいとは言えないもので、実のところ毛量が多過ぎてひとつに縛るしかないという事情の黒髪に、冴えない榛色の瞳を持つ、古臭い針金のような蔓の眼鏡がトレードマークの、無口で陰気な少女――というのが、実際にはほとんど口を聞いたこともない彼女のクラスメイトらの総評だった。


 むろん学生生活はそんな状況なので全く充実しているとは言い難く、学校から帰るとすぐに離れに入り浸る娘のために、七年前の九歳の誕生日、両親はついにシャワーと大きな浴室まで完備された第二の寝室と離れ専用のお手伝いロボット・ソフィーを彼女にプレゼントしたのだった。

本編始まりました!これから随時登場人物紹介をするつもりです。


主人公 シェイラ・キラノー

 実のところ毛量が多過ぎてひとつに縛るしかないという事情の黒髪に、冴えない榛色の瞳を持つ、古臭い針金のような蔓の眼鏡がトレードマークの、無口で陰気な少女。皮肉屋。

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