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リベルが倒れて数分後……部屋の扉を叩く音がした。
コン、コン、コン、3回の慎重かつ性急なノックのあと、部屋の前に立ってそれまでずっとなかの様子を伺っていた男がアリスに声をかけた。
「大丈夫かい、イヴ?……開けるよ?」
彼はアリスが許可するよりはやく部屋の扉を開けると、床に倒れたままのリベルとその体を支えながら瞳を涙でいっぱいにしているアリスを交互にみて、なんともいえない表情を浮かべた。
アリスは手の甲で涙を拭うと、コンラッドが後ろ手にドアに鍵をかけたのを確認して言った。
「……計画は順調に進んでるかしら?」
「ああ、今ごろ博士はイースト・エンド側のまわし者にとっ捕まってるだろうよ。やれやれ、それにしてもあいつらの手口には恐れ入るよ。……ああ、政府の奴等はまだ気づいてもいないね。だがそれも時間の問題だ」
彼女は彼に微笑んでみせた。
「じゃあ、急いで次に移らないと」
しかし彼女の瞳には不安の影があり、それをみてとった彼は頷きながらも、跪いてアリスの頬に手を添えた。
「でもその前に、きみのその今にも泣き崩れてしまいそうな表情をどうにかしないとね」
彼はそういって彼女の額に軽くキスをした。
「ほら、魔法をかけたからもう大丈夫。すべてうまくいくよ」
「ええ、冷凍手術に関してはね。でも、……」
アリスは紅茶に入れた睡眠薬で眠らされているリベルをみて、瞳を揺らした。彼女には迷いはなかった……しかし、これから起こることへの確信もない。
コンラッドはそのあいだも次の準備にとりかかった。事実、二人には時間がなかった。急がなければならない。
彼は部屋の奥の古びた本棚を壁側に45度スライドさせ、その床のタイルのひとつを外した。するとそこに、地下に続く階段が現れた。
彼はアリスに目配せした。彼女もそれに頷いた。
コンラッドはリベルの体を持ち上げ、キラノー博士の研究室につづく階段の下まで運ぶと、そこに用意されていたストレッチャーの上に彼を載せた。
コンラッドが戻ると、今度はアリスが階下へ行き、彼を見上げて悲しげな笑みで囁いた。
「……我ながらひどい騙し討ちね。ああ、未来でいったいなんて言い訳すればいい?」
「彼が目を覚ますまでに、考える時間はまだたっぷりあるさ。そうだろう?なんていったって、きみのおかげで第4次世界大戦の結果はもう出ているも同然なんだから。まだ始まってもいないのにさ」
彼は彼女ににやっと笑いかけた。しかし、彼女は深刻な表情のままだった。
「でも本当のところは、未来は誰にもわからない」
彼は彼女の頬を両手で包み込み、その瞳を覗き込んだ。
「イヴ、よく聞いて。今までさんざん話し合ってきたじゃないか。きみたちは命を狙われていて、僕らには今これしか方法がない」
彼の両手の上に手を置いて、額と額を重ね合わせながら、彼女は彼と目を合わせた。
「ねぇ、イヴじゃないわ……アリスよ、私のほんとうの名前は、アリス」
その言葉に、彼は瞳を輝かせた。
「ああ、そうか、最後にやっと教えてくれた!アリス……アリス!うん、とってもいい響きだね」
彼はたまらず彼女の唇をみつめたが、名残惜しくなるのがわかりきっていたので、「さあ、もういった、いった。イースト・エンドの間者には絶対、見つからないように!もちろん、科学者たちにもね」そう忠告しアリスの背中をぽんっと押した。
アリスはストレッチャーをおして走り出した。
タイルを閉める直前、彼は彼女に向かって叫んだ。
「アリス、きみを愛している!必ず迎えにいくから、待っていて」
その声に彼女は一瞬、振り返ったが、結局何も言わずに開きかけた口を閉じた。
その口元には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
とりあえずこれでプロローグ(過去編)は終わりです!
プロローグが長い…長かった…ここまでこんなクソ長いプロローグを読んでくださりありがとうございます。
次は本編でお会いしましょう!やっと主人公のご登場です。




