第3章:泡の創造
新たな惑星は、安定した軌道を静かに周回していた。
評議員逹は、惑星の構造解析を進めながら、『神』の意図を探っていた。
出現した惑星の海に藍藻が急激に繁殖しているのが分かった。まだわずかだが、酸素の量が増えてきていた。地表にも、すでに微生物の活動らしきものが確認されていた。
一見すると、進化の初期段階にあるようにみえる。
「……『神』は、生命の進化を再現しようとしているのだろうか?」
――この事実は、我々の存在意義に新たな問いを投げかけた。
もし我々が、『神』の技術によって創造された存在であり、今また新たな生命が創造されているとすれば、我々は何のために存在しているのか……。
「ちょっと、あそこまで行って、サンプルを採取したいですね。我々の惑星に存在するDNAと同じなのか、まったく別の遺伝物質、コドンをもつのか、セントラル・ドグマに支配された生命なのか」
評議員逹の間で戸惑いが広がるなか、『神』は、重力波通信を通じて、再びメッセージを送ってきた。
「創造は終わりではない。それは始まりである。新たな惑星は、君たちの鏡であり、未来である」
その意味を吟味しようと、また評議員逹の間で、喧々諤々の議論が始まった。
『神』が創造した新たな惑星が軌道に安定してから数日後、空間に再び異変が生じた。
今度は、空間そのものが微かに震え、星々の光がわずかに歪んで見えた。観測機器は、時間の流れ自体の微細な変動を検出していた。
「これは……時空の構造が揺らいでいる?」
私は、研究室のモニターを見つめながら呟いた。『神』の存在がこの宇宙に与える影響は、我々の理解を超えていた。物理法則が、彼らの意志によって再定義されているかのようだった。
その夜、『神』は再び重力波通信を通じてメッセージを送ってきた。
「この宇宙は、情報エネルギーによって構成された泡である。君たちの空間は、ブラックホールの内部に存在している」
この言葉は、我々の宇宙観を根底から覆すものだった。宇宙が、ブラックホールの内部にあるという仮説は、かつて一部の理論物理学者によって提唱されていたが、『神』の言葉によってそれが現実であることが示されたのだ。
「泡は、情報の圧縮によって形成される。だが、情報は永遠ではない。圧縮された情報の構造体の崩壊が始まれば、空間そのものが消滅する」
その言葉を告げられた評議会の会場は静まり返り、誰もがその意味に戸惑った。
「残された時間は、せいぜい2~3億年だ。それは、恒星が安定して、君たちの惑星が多様な生命を維持できる期間と一致している」
……我々の宇宙は、永遠ではない。情報エネルギーの喪失によって、空間が失われる運命にあるのだ。
『神』の言葉は、冷静でありながら、どこか哀しみを帯びていた。
「『大破裂』か……予想はされていたが、理論上は、もっと先かと思われていたのだが……」
ユカーワが、頭を抱えて、唸った。
「残された時間は、せいぜい2~3億年だ。それは、君たちの惑星が生命を宿す期間と一致している」
『神』の言葉は、冷静でありながら、どこか哀しみを帯びていた。
そのとき、会議場に、一人の技術員が駆け足で入ってきた。
彼は、マイクを私に渡して、荒い息を吐いた。
「……電波がダメだったので、系外探査計画『ノア・エクスプレス』用のレーザー推進システムを調整しました。『神』に指向させて、直接、レーザーを変調して、音声出力できます」
「よし」
渡されたマイクを私は握りしめた。私は、『神』の通信に対して問いを投げかけた。
「あーあー、なぜ、この宇宙は有限なのか? なぜ、終わりがあるのか?」
私の言葉は、古代語に翻訳されてレーザーにて『神』に送信された。
わずかなタイムラグの後、今度は、変化があった。スパゲッティーが、ぐにゃりと歪んだのだ。
『神』は、しばらく沈黙した後、こう答えた。
「ようやく、問いかけに答えたくれたか。創造には意図がある。無限は混沌を生む。有限は秩序を保つ。我々は、君たちが進化するための環境として、この宇宙を設計した」
「な、なんと……宇宙も……フェッセンデンか……」
ユカーワが絶句した。
『神』は、さらに語った。
「知的生命の進化は、我々の存在の意味を拡張する。君たちが進化することで、我々もまた進化する」
「それは、どういう意味ですか?」
「君たちが進化し、情報を蓄積し、次元を超える存在となることで、この泡は新たな宇宙へと変容する可能性がある。それが、我々の望みである」
私は、なんと応えたらいいか戸惑った。
彼らは、我々に終焉を告げるために来たのではなく、むしろ、その終焉に備えるための知識と技術を授けるために現れたのだ、と思った。
現代風なE.ハミルトン的展開だと、書いていて気づきまして。。




