第2章:スパゲッティーの『神』?
我々の惑星の軌道に宇宙船が到達した瞬間、空間に異変が生じた。
大気が微かに震え、空の色が一時的に変化した。
昼と夜の境界が曖昧になり、時間の流れが緩やかに歪んだように感じられた。人々は空を見上げ、何かが始まろうとしていることを直感した。
そして、ついに『神』が姿を現した。
宇宙船が、まるでパズルのように解けていき、軌道上で形を変えたのだ――姿を現したのは、空中に浮かぶ奇妙な存在だった。黄色く細長いストリング状の物体が、こんがらがったように絡まり合い、ゆらゆらと漂っていた。
まるで、空飛ぶ麺類――スパゲッティーの塊のような姿だと思った。
私は、評議会で、その映像を見ながら呟いた。
「……宇宙船と思われていたのは、『神』そのものだったのか? これは……生命体なのか?」
「うむ。無秩序に見えるが、どことなく幾何学的な秩序が潜んでいるような気がする。解析にかけてくれ!」
ユカーワの指示で、早速、AI解析システムが謎の物体をスキャンし、構造解析を試みた。
「結果でました! この存在は、四次元時空における投影です! 実体は、五次元以上の高次元に存在していると推定されます」
「つまり、我々が目にしている姿は、『神』の本来の形ではない、ということか? 高次元生命体が、我々の空間に『影』として現れているに過ぎない、と?」
……私は、かつて読んだ数学の本を思いだしていた。四次元立方体――テッセラクトを三次元投影しても、我々には歪んだ立体としてしか認識できない。
「まさか……普通の宇宙人だと思っていたんだが。『神』は、存在自体が、この宇宙の生命と違う、というのか?」
「そうだな、『神』が高次元からきた存在としたら、その姿もまた、我々の理解を超えた存在なのだ」
ユカーワも、戸惑ったように言った。
***
『神』は、言葉を発することなく、重力波による通信を始めた。
その波形は、我々の通信体系とは異なっていたが、そのプロトコルは、先のブロードキャストの解析で分かっていた。AIは、その通信波形を解析し、古代語に翻訳した。
さらに現代語に翻訳されたその言葉が、評議会のスピーカーから流された。
「我々は、君たちの創造者である。君たちの世界は、我々の技術によって形成された。恐れることはない。対話を望む」
評議会に伝えられた瞬間、会場は静まり返った。誰もが、『神』との対話が始まったことを理解していた。
『神』のスパゲッティー状の物体は、軌道とは関係なく、惑星の上を、ゆっくりと周回していた。その動きは、まるで我々を観察しているかのようだった。時折、ストリング状の構造が変化し、幾何学的な模様を描いた。それは、彼らの思考の表現なのかもしれない、と思った。
「えー、対話したく存じます。どのような目的で、いらっしゃったので?」
私の言葉が古代語に翻訳され、電波にて送信された。流石に、重力波で応答する技術がなかったので、とりあえずは、指向性の高い衛星通信用の電波で、送信されたのだ。
正直、返信があるかどうか微妙だと思っていたが――実際に何の反応もなかった。
私は、研究室のモニターに映し出された重力波の波形を眺めた。こちらから、何も連絡できないというのは、歯がゆいものだと思った。
***
そして、『神』が姿を現してから三日目、再び異変が生じた。
『神』の姿が、次第に変化を始めたのだ。ストリングがほどけ、空間に幾何学的な構造が広がっていく。
それは、まるで宇宙空間そのものが再構成されているように、私には思えた。
「次元の重なりが、解けているのか?」
「うむ。『神』は、空間をいとも簡単に操っている。物理法則を再定義する必用がありそうだ」
ユカーワが呟くのと同時に、『神』のスパゲッティー状の物体から何十万kmか離れた先に、突如として巨大な構造体が出現した。
「望遠鏡、回します」
まるで、折り畳まれた何かが、空間そのものからにじみ出て構築されたように見えた。当然、我々の技術では到底不可能な規模とスピードだ。
私は、評議会の観測室でその現象を見ながら息を呑んだ。
「なんでしょう――この空間の歪みは、ワームホールとは違うようです」
評議員の一人が、観測結果を見て報告した。
「どうも……明らかに、質量保存法則を破っています。初めて実在が確認されたホワイトホール? ……何もない空間から、物質が湧き出ているように見えます」
……そう、構造体の中心には、巨大な球体が浮かんでいた。その表面は滑らかで、時折、幾何学的な模様が浮かび上がった。
「異次元から、物質を転送しているのでしょうか?」
「これが――『神』の惑星3Dプリンターかもしれないな……」
私は、呟いた。
構造体の中にできつつあるものは、惑星だった。
『神』が、異次元空間から新たな惑星を創造していたのだ。
「e=mc^2の法則に従えば、無から物質を作り出すには莫大なエネルギーが必要です。これだけの物質を作り出すなんて……」
この現象を観察していた評議員が絶句していた。
ユカーワに、他の評議員が話しかけた。
「彼らは、情報エネルギーから、物質を直接、形作っているとしか考えられません!」
彼の報告に、評議会のメンバーは驚愕した。
情報エネルギー――それは、近年、究極理論の完成とともに定式化された、物質の構造や性質を記述する情報そのものが持つエネルギーだ。
「えーと、純粋な情報エネルギーは、ブラックホールの事象の地平面にしか蓄積し得ないと言われていまして……あくまで、理論上のものに過ぎなかったんです。でも、どうも、『神』は、現実の技術として扱っている、としか思えません」
「うむ。『神』は、真空自体を情報エネルギーに再構成し、そのまま物質に変換しているのかもしれないな――そうだとすると、質量保存法則には反せず、単に、宇宙がちょっと縮んでいるだけだろう」
「なんと……」
見る間に、構造体の球体が濃くなってゆく。
体感的に、わずか数十分で、新たな青い惑星が、我々の惑星の軌道のすぐ外側に配置され、その直後、構造体は、真空に溶けるように消滅した。
私は、驚愕と畏怖の中でその光景を見つめていた。
「質量は、我々の惑星の0.8倍、重力は0.95Gです。軌道は、我々の住む惑星と同じですが、ゆっくりラグランジュ点に向かっていて、安定しそうです。スペクトルをみると、大気組成は、酸素と窒素を中心に構成されているようです」
まるで、我々と同じ生命を維持できる第二の惑星を創りだしたように思えた。
私は、その新たな惑星の横に移動した、スパゲッティー状の『神』の姿を見つめながら、呆けていた。
「なぜ、『神』は、このようなことをしたのだろう? 自分が『神』だと証明するためなのか? そんなことは、あのスパゲッティーを見れば分かるんだが……」
その答えは、『神』自身の通信によって、すぐ明かされた。
「これは、標準化された創造プロセスを見せたものだ。君たちも、我々の創造物である」
なかなかAIの出力を直すのが難儀ですね……色々矛盾したりしている箇所をまとめているので、週イチくらいでボチボチやります。ほんとは、ギャグのつもりだったんですが……なんかハード風味になっていますが、究極理論のとか単なる空想(妄想)ですのであしからず。




