第1章:創造の記憶
↓こちらの完全な続編となります。読まなくてもおそらく内容は通じると思いますが、念のため。
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世界が惑星3Dプリンターによって創造されたという衝撃的な事実が公にされてから、すでに五年が経過していた。
だが、その余波は、今なお世界中に広がり続けていた。
科学者たちは、新たな宇宙論を構築しようと奔走し、宗教家たちは神の定義を再解釈しようと議論を重ね、一般市民は日々の生活の中でその真実と向き合う術を模索していた。
一介の研究員であった私は、『創造廟』探査の実務担当者としてネットで名前が知られるうちに、世界科学評議会の議員として推薦されて、その任務を全うするようになっていた。
かつて発見された創造の痕跡――地層の下の人工的な構造、分子レベルで設計された生命の痕跡は、我々の住む惑星が自然に形成されたものではなく、高度な技術によって『印刷』されたものであることを示していた。
***
評議会の会議室は、いつも緊張感に包まれていた。
世界各国から集まった科学者、技術者、哲学者、そして宗教指導者逹が一堂に会し、創造の証拠とその意味について議論を交わすのだ。
私は、惑星創造の技術的側面を担当するチームのリーダーとして、毎回の会議で最新の解析結果を報告していた。
「我が惑星の地殻に見られる岩盤の分子配列は、自然界では決して起こり得ない構造です。これは、明らかに何者か――仮に『創造者』と呼びます――に設計されたものです」
私の報告に、会場は静まり返った。誰もが、その言葉の重みを理解していた。惑星が創造されたという事実は、単なる科学的発見ではない。それは、人類の存在意義そのものを揺るがす問いを突きつけるものだった。
「では、その『創造者』は誰なのか? ――先史文明が称えていた『神』は、一体、何者なんだね?」
会議の終盤、哲学者の一人が静かに問いかけた。
その問いは、私たち全員が心の奥で抱えていた疑問だった。創造の技術が存在するならば、それを操る存在――『神』がいるはずだ。
「あー、これまで議論しましたように、何かがいたのを、先史文明の人たちは、知っていたっすね。そうです、先史文明では、その存在が疑問視されたことはなかったのだろうと思います、ハイ」
先史文明の翻訳分野の権威となったサトゥ教授が、会議場で応えた。
ちなみに、私の友人のユカーワも、この会議に参加している。
「ふむ。しかし、徹底的な焚書で、データ毎、その存在が全て現代人から消された今となっては、その『神』が何者であるかは、まったく分からない、ということだな」
「そうですね。でも、『惑星3Dプリンター』を持っているくらいですから、我々よりも超絶的に進んだ文明の異星人であるとは思いますね。これまでの宇宙観測で、それが確認されたことはないですが」
「宇宙探査の担当ですが、現在まで、軌道VLBIでも、恒星ニュートンリング望遠鏡でも、いわゆるダイソン球と呼ばれるようなものが観測されたことはなかったです、はい」
そう、我々は、身近にいたはずの『神』自体のことを、現代では、まったく知らなくなっていた……。
その夜、私は星空を見上げながら考えていた。
もし我々が創造された存在であるならば、我々の生きる意味とは何なのか。自由意志は存在するのか。進化とは、創造者の意図なのか、それとも偶然なのか。
答えはまだ見つかっていない。だが、私は信じている。真実を知ることこそが、人類の進化の第一歩なのだと。
***
観測機器が異常を検出したのは、巨大ガス惑星ジュピタリスの近傍に設置された重力波干渉計だった。
通常、恒星系内の重力波は、恒星の活動や惑星の運動によって生じる微細な変動に過ぎない。しかし、その日、観測機器はかつてない規模の重力波を捉えた。
各国の宇宙監視機関が連携し、ジュピタリス周辺の空間を高精度で観測し始めた。
数時間後、可視光、赤外線、電磁波の全てのスペクトルにおいて、巨大な構造体が検出された。
すぐに、評議会に緊急連絡が入った。
「これは……恒星系外からの侵入者か?」
評議会で、プロジェクターに映された物体を見つめながら、思わず声を漏らした。
「直径、およそ千二百キロメートル。形状は不定。自己重力による安定構造を持ち、内部にエネルギー源を複数搭載していると推定されます」
それは、船だった。だが、我々の知るいかなる宇宙船とも異なっていた。
まだ粗い画像だったが、構造は有機的で、まるで生物のように脈動していた。外殻は、金属とも有機物ともつかない物質で覆われ、表面には幾何学的な模様が浮かび上がっているように見えた。
「しかし、これは……人工物だ。このように、望遠鏡でみた背後に見える星の光が歪んで見えている。空間自体を制御して推進しているらしい」
担当者が、評議会の緊急会議でそう断言した。
「……我々を遥かに超えた技術を持っていることは、間違いないですな」
「そうです。いきなり出現したことをみても、何かしらの空間跳躍技術を持っていると推定されます。まったく未知の技術です」
「ジュピタリスからどこに向かっているのかね?」
「99.8%以上の確率で、我々の星に向かって進行しています。速度は、亜光速。到達まであと七十二時間です」
会場は、騒然となった。異星文明の存在は、長年議論されてきたが、これほど明確な証拠が現れたのは初めてだった。
すぐ、その事実は公表され、世界中が緊張した。
軍事機関は警戒態勢を敷き、宗教団体は神の再臨と騒ぎ立て、市民は不安と期待の入り混じった空気の中で日常を送ることとなった。
***
研究所で、所長となったユカーワと一緒に善後策を協議していると、重力波の観測をしているグループの研究員が至急報告したいと、会議室に入ってきた。
だぼだぼのTシャツを着たメガネの研究員が、ノートパソコンを開いた。
「観測データを解析する中で、ある事実に気づいたんです。宇宙船が発する重力波には、周期的な変調が含まれていて――まるでメッセージのようだと思ったんです。スペクトルをみてください」
「ふむ。これは……通信だ。重力波を使った通信ではないかね?」
「そうです。AI解析システムにかけたら、変調パターンを言語として解釈し始めたんです。慌てて、サトゥさんの研究室に解析を頼んだんです……」
そこで、ノートパソコンの画面に、サトゥ教授の顔が写った。
「大変だよ、神さんは、先史文明の時代の言葉を話していたんだよ。我々の存在を認識していて、接触の意志があることをずっと放送している」
私は、頷いた。
「そう、彼らは、我々を見ているんだな。観察している。そして、対話を望んでいる、ということか」
ユカーワもサトゥも、大きく頷いた。
直後、私達は、評議会にその結果を報告した。
すぐにオンラインで会議が招集された。しかし、出席した全員から、あまり活発な発言はでなかった。誰もが、その意味を理解していたのだ。これは、単なる異星人との遭遇ではない。『創造者』――『神』との邂逅なのだと。
結局、あまり効果的な議論はできないうちに、宇宙船は接近してきた。
はっきり観測できるようになったその姿は、まるで神殿のようであり、同時に巨大な生命体のようでもあった。
人類は、創造者との邂逅を目前にして、息を呑んでその瞬間を待っていた。
短編の続編です。長くなったので、連載という形にしたいと思います。一応、全部、AIで結末まで書き出してはいるんですが、直しに時間がかかっているので、不定期予定です。よろしくです。




