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08


 瓦礫の隙間から吹き込む風が、乾いた砂埃を小さく舞い上げた。

 夕方の光は斜めから差し込み、崩れた建物の影を長く引き伸ばしている。

 その中を進む一団は、まるで沈黙を守ることが互いを守る術であるかのように、一定の距離を保って歩いていた。


【櫻木有栖】「随分と大所帯ね」


 その声は、明るく響かせようとしても、ほんの僅かに警戒の色を帯びていた。

 彼女の瞳は人影を一人一人確かめるように動き、その背後に潜む意図を探っている。


【蠚破甦誠】「でも、子供ばかりみたいだよ」


 口元に笑みを浮かべながらも、その視線は素早く周囲を巡り、油断はしていない。

 瓦礫の奥から何かが飛び出す可能性を、身体が覚えているかのようだ。


【櫻木縣】「油断はするな。所持しているアバターとPDAによっては子供だとしても脅威になる」


 短く言い切るその声音は、乾いた風と同じく冷たく、経験から来る確信が滲んでいた。


【遥香】「そんな警戒すんなよ。見た通り非力な子供と、非戦闘型のお助けサポートアバターだけの集団だ」


 軽い調子の言葉が廃街に響くが、それも完全な無防備ではない。

 遥香の手はいつでも腰のPDAに触れられる位置にあり、油断を装いながらも視界の隅では全員を監視していた。


【櫻木縣】「なるほど。そのご老人に護衛して貰ってここまで来たのか」


【遥香】「あー、逆、逆。じいさんはアバター行方不明中。ただの地図役のガイドだよ。で。俺もお子様連中も非戦闘型のサポートタイプ。まあ、そこの最年少の赤ちゃんと幼女は、……たぶん強いよ」


 冗談のように笑ってみせるが、目だけは冗談を言っていなかった。彼が「強い」と評した二人の傍らには、守るために生まれたような穏やかな空気が漂っていた。


【ラァラ】「それは買い被り過ぎです。ラァラと赤ちゃんのアバターは誰かを傷つける事には向いていません。ただ、……誰かを守る事にかけては、たぶん最強です」


【遥香】「結局、最強じゃねえか」


 遥香は笑った。

 静かに、しかし自負を込めたその声は、砂塵の中でも真っすぐ届く。

 縣は短くうなずき、その情報を頭の奥に刻み込む。


【櫻木縣】「非殺傷型完全防衛タイプか……」


【櫻木有栖】「ねえ、情報交換しましょう。私は櫻木有栖。【アルカナ】は『節制』。【クリア条件】は自分を含まない生存者と死亡者の人数を等しくする。【PDAの特殊効果】は死亡したプレイヤーの一覧を閲覧可能、よ」


 彼女の声は柔らかいが、その奥には計算高さも覗く。

 場を和ませつつ、必要な情報を自然に引き出そうとするような話し方だった。


【櫻木縣】「有栖。情報を与え過ぎだ」


 短い制止は、かすかに苛立ちを含んでいた。


【櫻木有栖】「いいじゃない。私のクリア条件もある程度の死者の数が要求されているけれど、私は誰も殺す気はないもの。きっとこの子たちも同じよ。だって、そんなに強くて好戦的なら、わざわざ誰かとつるまないでしょう?」


 言葉は柔らかいが、その推論には確信があった。

 蠚破甦誠も、なるほどと頷く。


【蠚破甦誠】「それもそうですね」


 空気が少しだけ緩み、しかし緩み切らぬまま、ラァラの問いが続いた——


【ラァラ】「櫻木有栖たちのアバターはいないのですか?」


 問いかけは柔らかく、しかし観察する眼差しは決して油断していない。

 ラァラは相手の返答の間に、風の流れや足音まで耳で拾っていた。


【櫻木有栖】「私のアバターはね、救済者。自分のアバターを犠牲にして機能停止した他のアバターを蘇生するの。だから、今は必要ないかな。本当は縣さんのアバターを蘇生したいのだけど……」


 言葉の最後は、どこか惜しむような吐息に溶けて消えた。


【櫻木縣】「余計な事を言うな、有栖」


 冷たい視線が一瞬、有栖の横顔を射抜く。

 それは拒絶の意志であると同時に、彼女への心配も隠していた。


【ラァラ】「櫻木縣のアバターは、機能停止されたのですか?」


【櫻木縣】「あ、ああ。私の【アバターの能力】は擁護者、プレイヤーの死を一度だけ肩代わりする。【PDAの特殊効果】はアバターの襲撃を検知する、……なんだが、見たことのない敵に突然襲われて、アバターの能力で一命は取り留めたところに、二人と合流した」


 その声の奥に、戦闘の光景がまだ焼き付いている気配があった。

 血の匂いと鉄の味を思い出すように、縣は短く口を閉ざす。


【櫻木縣】「私のアバターはもう機能停止していて存在しないよ」


【櫻木有栖】「だから、私のアバターで縣さんのアバターを蘇生してあげようとしたんだけど……」


【櫻木縣】「私のアバターは私しか守れない。戦闘能力も皆無だ。蘇生するだけ無駄だろう。貴重な蘇生能力を使うに値しない」


 淡々と告げるその口調は、自分自身を軽く扱うようでもあり、同時に仲間の資源を守ろうとする冷静な判断でもあった。


【ラァラ】「アバターの能力とPDAの効果は、プレイヤーのクリア条件を助けるものが多いようです。すると、櫻木縣のクリア条件も、生存に関係するものですか?」


【櫻木縣】「勘が鋭いね。そうだよ、私の【クリア条件】は、ゲーム終了時まで生存する、だよ」


 短い肯定の裏に、幾つもの計算が潜んでいる。


【蠚破甦誠】「僕の【クリア条件】は、生存しているプレイヤー全員と遭遇です。【PDAの特殊効果】は、他のプレイヤーの現在地を追跡可能。たしかに。プレイヤーのクリア条件を助けるもの、という傾向は合ってそうですね」


【ラァラ】「【アバターの能力】は何ですか?」


【蠚破甦誠】「僕の【アバターの能力】は『最後に遭遇したアバターをコピーする』だから、クリア条件を助けるもの、というよりクリア条件に関係するもの、かもしれないね」


【ラァラ】「誰の能力をコピーしましたか?」


【蠚破甦誠】「子供って随分質問攻めするね。まあ、今どの能力をコピーしているかまではナイショだよ。それを明かしちゃったら対策されちゃうからね。こちらの三人の中で、戦えるアバターは僕だけだ。僕が倒されたら、僕たちは壊滅しちゃうから」


 冗談めかして言いながらも、誠の声にはかすかな緊張がにじんでいた。


【ラァラ】「たしかにそうです」


【蠚破甦誠】「そちらも、戦えるのはラァラちゃんだけだって話だよね。今後は君もあまり情報を与えない方がいいよ。君が倒されたら、君たちも壊滅しかねないでしょ?」


【ラァラ】「わかりました。気を付けます」


【ラエル】「大丈夫だよ。その為に俺がいる」


 静かに差し込まれた声は、廃街の空気をわずかに和らげる。


【蠚破甦誠】「ああ、そうか。本当の切り札は、君ってことか」


 ラエルが赤子を抱くラァラに視線を向け、それから有栖へと目を移す。瞳の奥には、警戒と好奇の両方が揺れていた。


【ラエル】「……で、そっちはこの後、どう動くつもり?」


 有栖は即答せず、数秒の間を置いてわずかに目を細める。その一瞬の沈黙が、周囲の空気を濃くした。


【櫻木有栖】「この先は進入禁止エリアが増える。安全を取るなら迂回、急ぐなら強行突破」


 縣がその言葉を引き継ぐように、短く告げる。


【櫻木縣】「俺たちは突破を選ぶ。だが――仲間が多い方が確実だ」


 その瞬間、互いの間にかすかな計算が走る。剛は顎をさすり、ラエルは一瞬だけ赤子に視線を落とした。そして、短く息を吐く。


【ラエル】「……同意します。共闘しよう」


 有栖が小さく頷き、縣も表情を変えずに了承を示す。こうして二つの隊列は一つとなり、夕闇迫る廃街を、再び歩み始めた。


No.00【愚者】??????

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.01【魔術師】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.02【女教皇】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.03【女帝】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.04【皇帝】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.05【法王】鬼瓦 剛 / 生存中

【クリア条件】全てのエリア区画に侵入する

【アバターの能力】白銀の勇者:このアバターは侵入禁止エリアの数が増えるほど強化される(所有権失効中)

【PDAの特殊効果】全体マップを閲覧可能


No.06【恋人】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.07【戦車】パブロ・アベラルド / 生存中

【クリア条件】3人以上のプレイヤーを直接殺害(プレイヤー自身で殺害しなければ無効)

【アバターの能力】このアバターは一度受けた攻撃に耐性を得る

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは他のプレイヤーの追跡系効果を無効にする


No.08【力】蠚破甦 権蔵 / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時までに全てのアバターが機能停止

【アバターの能力】このアバターが機能停止したアバターのステータスを吸収する

【PDAの特殊効果】??????


No.09【隠者】ヨーゼフ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時まで誰とも遭遇しない

【アバターの能力】このアバターは機能停止されるたび、プレイヤーの元へ再召喚される

【PDAの特殊効果】指定したPDAにメールを送信し、返信相手のクリア条件・アバター能力・特殊効果をすべて閲覧できる


No.10【運命の輪】ラァラ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満

【アバターの能力】翠玉の勇者 : このアバターの半径5m以内に他のアバターは近寄れない

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは進入禁止エリアを無視できる


No.11【正義】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.12【殉教者】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.13【死神】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.14【節制】櫻木 有栖 / 生存中

【クリア条件】自分を含まない生存者と死亡者の人数を等しくする

【アバターの能力】救済者:自分のアバターを犠牲にして機能停止した他のアバターを蘇生する

【PDAの特殊効果】死亡したプレイヤーの一覧を閲覧可能


No.15【塔】櫻木 縣 / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時まで生存する

【アバターの能力】擁護者:プレイヤーの死を一度だけ肩代わりする

【PDAの特殊効果】アバターの襲撃を検知する


No.16【悪魔】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.17【星】蠚破甦 誠 / 生存中

【クリア条件】生存しているプレイヤー全員と遭遇

【アバターの能力】邂逅の勇者:最後に遭遇したアバターをコピーする

【PDAの特殊効果】他のプレイヤーの現在地を追跡可能


No.18【月】江瑠戸 遥香 / 生存中

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.19【太陽】麻衣、莉杏

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.20【審判】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.21【世界】赤ん坊 / 生存中

【クリア条件】ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存

【アバターの能力】黄金の勇者 : このアバターはあらゆる他のアバターの干渉を受けない

【PDAの特殊効果】あなたはPDAがありません。ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとPDAを共有します



No.?【????】ラエル  / 生存中

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????



◆現在地:第7区画 ネツァク

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