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04


 暗黒龍がまたひとつ、ヨーゼフの『観測者』を砕き、黒炎をまとった影の牙で霧散させた瞬間だった。

 その咆哮が地を震わせる中、別の振動が足元を伝い、権蔵の耳朶を打つ。

 それは龍が踏み鳴らす地鳴りとは違う。より荒々しく、意志を持った接近の気配だった。


 砂粒が跳ね、空気がわずかに焦げた匂いを帯びる。

 権蔵はPDAをひらき、無駄のない指の動きで短く打ち込む。


『敵襲だ。一旦、中止』


 送信を押すと同時、地面が爆ぜた。

 砂煙が盛り上がるように膨れ、その中から影が飛び出す。重低音の咆哮とともに、巨体が姿を現した。


【パブロ】「おおっとォ! やってんじゃねぇか!」


 声は熱を帯びた鋼のようで、笑みの奥に獣じみた殺意が潜む。

 現れたのは「戦車」パブロ・アベラルド。

 その背後には、重厚な鉄塊のようなアバター『巨神兵』がぴたりと控えていた。


【パブロ】「ん? 妙だな、プレイヤーは1人かよ」


 砂煙を抜ける視線がぶつかる。

 権蔵は眉一つ動かさず、低く応える。


【蠚破甦権蔵】「邪魔をするな。俺は今、共闘してレベル上げ中なんだよ。

 貴様のクリア条件は何だ? 条件次第では仲間に入れてやろうか?」


 その声音は冷ややかだが、底には力試しを求める闘志が沈んでいる。

 パブロは肩をすくめ、唇の端を歪めた。


【パブロ】「クリア条件? ああ、俺は簡単だ。殺るだけだ。3人、この手でな!」


 言葉と同時に、巨神兵が拳を振りかぶる。

 その一撃は空気を裂き、大気を押し潰すかのような重さで暗黒龍に叩きつけられた。


 衝撃が地面を波打たせる――しかし、龍は倒れなかった。

 漆黒の鱗が僅かに火花を散らしただけで、巨躯は揺るぎもしない。


【蠚破甦権蔵】「……ほう」


 短い感嘆と共に、目の奥が細く光る。

 その視線の冷たさに、パブロが眉をひそめる。


【パブロ】「なんだこの龍……!? 硬すぎだろ……!」


 権蔵は肩をゆっくりと回し、低く告げる。


【蠚破甦権蔵】「試すか? 俺のアバターは倒した敵のステータスを吸収する。

 かれこれ小一時間レベル上げをしたんで……だいぶ強いぞ?」


 その言葉は挑発にも似て、暗黒龍が応じるように尾を振り上げた。

 重い一撃が巨神兵を打つ――だが、その鋼鉄の巨体はびくともしない。


【蠚破甦権蔵】「む、硬いな」


【パブロ】「そりゃあ、俺のアバターは“一度受けた攻撃には耐性がつく”からな!

 最初の一発で仕留められなきゃ、無敵だぜ!」


 互いの特性が明かされ、空気がさらに張り詰める。

 権蔵はわずかに笑い、首を横に振った。


【蠚破甦権蔵】「ならもう、俺には倒せんな。もっと強化してから倒すとしよう」


【パブロ】「させるかよ!」


 両者が同時に動き、衝撃が交錯する。

 巨神兵の拳と暗黒龍の爪がぶつかり合い、火花と風圧が周囲を薙ぎ払った。

 力と力が幾度も衝突し、しかし決定的な一撃は生まれない。


 やがて、パブロが一歩引き、拳を降ろす。


【パブロ】「ちっ……やってらんねぇな。あんたの龍、今じゃもう“ラスボス”じゃねぇか」


【蠚破甦権蔵】「だったら殺れよ」


 挑むような声が、砂塵にこもる。

 パブロは短く笑い、頭を振った。


【パブロ】「……こんなの倒すのに何発いると思ってんだ? 無理だ。時間がもったいねぇ。

 ……直接あんたを殺した方が、早えよ!」


 言うなり、彼は自身で刃を抜き、権蔵へ踏み込む。

 鋭い突きが迫るが――次の瞬間、金属音とともにナイフは宙を舞い、パブロの体が壁へ叩きつけられた。


【蠚破甦権蔵】「残念だが、俺はシステマもクラヴマガもやっていてな。

 凶器を持つ相手の対処も慣れている。殺す必要はないが……殺されるというなら応じても構わん」


 その言葉に、パブロは荒い息をつきながらも笑みを浮かべる。


【パブロ】「なんなんだ一体……やめだ、やめ!」


【蠚破甦権蔵】「降参か?」


【パブロ】「違ぇよ。“選択”だ」


 砂塵の中、二人の視線が絡み合う。

 パブロの目には、計算と獰猛さが同居していた。


【パブロ】「俺の条件は3人殺すこと。1人に時間浪費して返り討ちじゃ、話にならねぇ。

 ……組もうぜ。お前となら、他の奴ら、まとめて潰せる」


【蠚破甦権蔵】「……俺を殺せば条件の1/3は満たせるんだぞ?」


【パブロ】「違ぇよ。お前となら、他の3人を“効率よく”殺せる。そっちのが合理的だ」


 短い沈黙。風が二人の間を抜ける。


【蠚破甦権蔵】「まあ、俺がアバターを機能停止させまくった後の方が、貴様は他のプレイヤーを殺しやすくもなるか」


【パブロ】「だろ?」


【蠚破甦権蔵】「それで、俺のメリットは?」


【パブロ】「アバター戦も2体がかりの方が潰しやすいだろ?」


 権蔵は静かに頷き、口元にわずかな笑みを刻んだ。


【蠚破甦権蔵】「……悪くない。共闘だ」


 そのやり取りを、森の奥からひとりが眺めていた。

 50メートルの距離を隔て、ヨーゼフは草をかき分け、小さくため息を漏らす。


【ヨーゼフ】「……二匹の獣が、うまく噛み合いました。さて、次は誰を“ぶつける”か……」


 視線の先――遠く丘を進む緑の外套の一団、その中央にラァラの姿があった。



 ◆・◆・◆



 湿った風が、夏の名残を帯びた匂いと共に頬を撫でていく。

 草むらの向こう、ゆらめく陽炎の彼方に、次のゲートの影がかすかに浮かんでいた。

 地平線に沈みかけた光がその輪郭を淡く縁取り、遠いのに妙に手が届きそうな錯覚を誘う。


 ラァラは足元の地図に視線を落とし、進行方向を確かめる。

 指先が羊皮紙のような電子地図の表面をなぞり、その軌跡が彼女の迷いのなさを物語っていた。

 そして、振り返って仲間たちに声をかける。


【ラァラ】「第9区画も結構歩きました……ここを越えれば、次の第8区画のはずです」


 彼女の声は疲れを隠して穏やかだが、その靴底は確かに擦り減り始めている。

 ラエルは前方を見据えながら、何でもない調子で答えた。


【ラエル】「そうだね、もうすぐだよ。進入禁止エリアの拡張は8時間だけど、ただ直進するだけなら移動に4時間もかからないからね」


 何気ない説明に、ラァラは小さく首を傾げる。

 この男の口調には、ただの推測以上の確信が混じっていた。


【ラァラ】「ラエルは何故そんな事がわかりますか」


 問いかける声には、わずかな探りがあった。

 ラエルは肩越しに笑みを浮かべ、あっさりと答える。


【ラエル】「前のゲームではそうだったから」


 その言葉に、ラァラの眉がわずかに寄る。

 彼女の知る限り、このゲームの参加者は初参加がほとんどのはずだ。


【ラァラ】「ラエルはこのゲーム、今回が初めてではないのですか?」


 足取りを緩めず、ラエルは短く頷く。


【ラエル】「一度やってるから。でも、まあ、今回のゲームはこの第9区画で戦闘も発生しなかったし、平和なゲームなんじゃない」


 その軽口は、真実を覆い隠す煙のようにも聞こえた。

 ラァラは一瞬、何かを尋ねかけて――だが口を閉ざし、別の質問を投げる。


【ラァラ】「前のゲームは酷かったのですか?」


 ラエルは視線を遠くにやり、少しだけ間を置いて答えた。


【ラエル】「んー、まあ。前のゲームは、第9区画でほとんど終わっちゃったし。最短なんじゃないかな。今回のゲームはゆっくりやりたいものだね」


 その声は冗談めいているが、瞳の奥に過ぎ去った惨劇の影が走った気がした。

 ラァラは深く追及せず、ただ小さく呟く。


【ラァラ】「そうですか」


 乾いた地面を踏みしめるたび、遠方で小鳥が驚き羽ばたく。

 風に混じって、どこかで金属のきしむ音がかすかに届いた。

 それは風の悪戯か、それとも――彼らを見据える何者かの気配か。


 立ち止まる暇はない。

 ラァラたちは互いに視線を交わし、足を速めた。

 足音が草を揺らし、息が少しずつ熱を帯びていく。


 やがて、薄暗い境界門の向こうから、冷たい機械音が響き渡った。


『――第9区画 イェソドの進入禁止まで残り30分』


 胸の奥で、微かな鼓動が速まる。

 それは恐怖ではなく、確実に次の局面が迫っているという予感だった。


No.00【愚者】??????

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.01【魔術師】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.02【女教皇】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.03【女帝】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.04【皇帝】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.05【法王】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.06【恋人】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.07【戦車】パブロ・アベラルド / 生存中

【クリア条件】3人以上のプレイヤーを直接殺害(プレイヤー自身で殺害しなければ無効)

【アバターの能力】このアバターは一度受けた攻撃に耐性を得る

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは他のプレイヤーの追跡系効果を無効にする


No.08【力】蠚破甦 権蔵 / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時までに全てのアバターが機能停止

【アバターの能力】このアバターが機能停止したアバターのステータスを吸収する

【PDAの特殊効果】??????


No.09【隠者】ヨーゼフ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時まで誰とも遭遇しない

【アバターの能力】このアバターは機能停止されるたび、プレイヤーの元へ再召喚される

【PDAの特殊効果】指定したPDAにメールを送信し、返信相手のクリア条件・アバター能力・特殊効果をすべて閲覧できる


No.10【運命の輪】ラァラ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満

【アバターの能力】翠玉の勇者 : このアバターの半径5m以内に他のアバターは近寄れない

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは進入禁止エリアを無視できる


No.11【正義】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.12【殉教者】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.13【死神】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.14【節制】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.15【塔】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.16【悪魔】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.17【星】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.18【月】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.19【太陽】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.20【審判】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.21【世界】赤ん坊 / 生存中

【クリア条件】ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存

【アバターの能力】黄金の勇者 : このアバターはあらゆる他のアバターの干渉を受けない

【PDAの特殊効果】あなたはPDAがありません。ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとPDAを共有します



No.?【????】ラエル  / 生存中

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????



◆現在地:第9区画 イェソド

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