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- 第1区画 ケテル -


 最終区画──ここが、最果て。

 この“ゲーム”に名を与えた誰かが、終点と定めた場所。


 ……けれど。


 その扉は、意外なほど、あっけなく開いた。

 力任せに押す必要もなく、誰かの許しを得る必要もなかった。


 すう、と――。


 風もないのに、風に押されたかのように、白い扉は音もなくひらいた。


 その瞬間、背後にあったはずの世界のざわめきが、すべて遠くへ退いていく。

 耳に残ったのは、自分の鼓動と、赤ん坊の小さな寝息だけ。


 ケテルの内部は、それまでのどこよりも、静かで、美しかった。

 あまりにも……“終わり”らしくない。


 天井はなく、代わりに夜空の星のような光がいくつも浮かび、

 ゆらゆらと漂っては、近づき、また遠ざかっていく。


 それは星ではなかった。

 ランプでもなかった。


 ──魂のように思えた。


 淡い輝きが頬をかすめるたび、温度のないはずの光が、不思議と胸の奥を温めた。


【ラエル】「……君のクリア条件、“ゲーム終了時に、クリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満”だよね?」


 不意に、隣のラエルが口を開く。


【ラァラ】「……そうです」


 赤ん坊を抱き直し、小さく、しかしはっきりと答える。


【ラエル】「君は、自分の状況を理解している?」


【ラァラ】「自分の……状況?」


【ラエル】「言い換えるなら、今、このゲームがどうなってるかだ」


 ラァラは短く考える。


【ラァラ】「……今、残ってるのは、『運命の輪』、『世界』、『愚者』、それと『死神』……」


【ラエル】「そうなるね。それで?」


 問い詰めるような調子ではない。ただ、確認しているだけの声。

 しかし、次の一言は、刃のように鋭かった。


【ラァラ】「それでとはなんですか?」


【ラエル】「それなら、君は、誰かを殺さないと、クリアできない」


 ラァラは一度、口を閉ざす。

 でも、その答えは、もうとっくに決まっていた。

 ──赤ちゃんを拾った、その瞬間から。


【ラァラ】「……これは、そういう“状況の選択”です」


【ラエル】「……その赤ちゃんを殺そうとか、考えない訳?」


【ラァラ】「考えたことはありません」


 その声音には迷いがなかった。

 ラァラは、赤ん坊の顔を覗き込みながら続ける。


【ラァラ】「この子を殺して、生き残るくらいなら……ラァラが、死ぬべきです」


 ラエルはわずかに目を細めた。

 その奥に浮かんでいるのは、怒りでも、哀れみでもない。


 ──寂しさに似た、名のない感情。


【ラエル】「君って、ほんと不器用だね」


 ラエルの声は淡々としていた。


【ラエル】「もっと簡単に考えればいいんだ。『愚者』はプレイヤーにカウントされない。

 今、カウントされるのは『運命の輪』『世界』『死神』の3人。君の条件は、そこを2人に減らすこと」


 しかし、その言葉は数字や条件の羅列でありながら、ラァラには冷たい刃物のように突き刺さった。

 頭の中で、わずかな選択肢が音を立てて削られていく。

 胸の奥に、重い鉛の塊が沈み込む感覚――それは、答えを先延ばしにする余地を一切与えてくれなかった。


【ラエル】「君のアバターでは『死神』は倒せない。なら、残るのは……『世界』を殺せばいい」


 その一言が放たれた瞬間、足元の空気がひやりと冷たくなった気がした。

 赤ん坊を抱く腕に、無意識のうちに力がこもる。

 耳鳴りの向こうで、淡く揺らぐ魂の光が遠ざかった。


 ラァラは、しかし小さく首を振った。


【ラァラ】「でも、その赤ちゃんは……ゲーム開始から、ずっと一緒でした。ラァラは、この子を生かすために、ここまで来たんです」


 赤ん坊の額にそっと頬を寄せる。

 淡く甘い匂いと、かすかな体温が、胸の奥まで染み渡った。


【ラァラ】「この子を拾ったときから、ラァラの命は、この子のためにある。だから、最後まで……そばにいる」


 ラエルはしばし沈黙し、やがて低く息を吐く。


【ラエル】「君は『死神』が勝ってもいいの?」


【ラァラ】「それはあり得ません。『死神』は勝てません」


【ラエル】「え?」


【ラァラ】「このまま、ラァラが赤ちゃんを守り続ければ、『死神』はプレイヤー全員を殺しきれません。クリア条件が満たせずにゲームが終了したら首輪が爆破して負けます。ラァラの判定がどのタイミングなのかわかりませんが。もし、ラァラもクリア条件が満たせないのだとしても、それでいいのです」


 ラァラはまっすぐとラエルを見つめ、ほほ笑んだ。


【ラァラ】「それとも、ラエルがここで、ラァラと赤ちゃんを殺して。また、前のゲームのように『死神』と一緒に勝ちたいですか? ラァラはそれでも構いません」


【ラエル】「……」


【ラァラ】「でも、『死神』と一緒に勝っても、『世界』と一緒に勝っても同じだと言いうなら。ラァラはたぶん、もう駄目ですが。赤ちゃんの事を、お願いしてもいいですか?」


【ラエル】「……俺……そういうの無理だから。それは自分でやりなよ」


【ラァラ】「それは……」


【ラエル】「……俺が行ってくる」


【ラァラ】「え……?」


【ラエル】「君はそこで、最後まで赤ちゃんを守ってな」


【ラァラ】「でも……『死神』はとても強いです……」


 ラエルは、ふっと肩越しに笑った。


【ラエル】「大丈夫でしょ? だって……俺、最強だから」


 その背中は、もう二度と振り返らなかった。



 ◆・◆・◆



 ラァラは抱いたままの赤ちゃんを見下ろす。

 小さな寝顔が、漂う光の中で穏やかに眠っている。


 ふと、『殉教者』から託されたPDAを思い出す。


 “このゲームの全ての仕様が閲覧可能”――


 ラァラは、その最後の時を、それを読みながら過ごした。


『惑星間移民選抜プログラム『セフィロト』とは』────


『本プログラムは22惑星の代表がアバターというソリットビジョンを駆使して協力あるいは妨害を仕合いながら』────


『惑星移民に相応しい文化的、人格的な特性も判定しながら、極限状況化における対処能力を』────


『尚、本プログラムにはスコアという制度が別途設けられており、これは条件が不利な状況に置かれたプレイヤーが不利な状況を覆す度に加算されていく。最終的にクリア条件を満たしたプレイヤーに与えられる勝利報酬はこのスコアに応じて増減する』――



 ◆・◆・◆



 やがて、空間がわずかに揺らぎ、耳の奥で電子音が鳴った。

 花びらがひらりと落ちるような、優しい音。



    ──ゲームが終了しました──


【No.10 運命の輪】はクリア条件を満たしました。

【No.12 殉教者】はクリア条件を満たしました。

【No.21 世界】はクリア条件を満たしました。




 世界に選ばれたのは、ラァラと赤ちゃん。

 『殉教者』は死をもってクリア条件を達成している。


 ──だが、ラエルの名前は、どこにもなかった。


【ラァラ】「『愚者』は、クリア条件がない……」


 呟きは、自分に言い聞かせるようでもあり、祈りのようでもあった。


 ラァラは赤ちゃんを抱きしめたまま、目を閉じる。


【ラァラ】「……おはようございました。もう、大丈夫です。怖い夢は……それで終わりました」


 目を開けると、空は朝焼けのように淡く白く染まり、光がケテルを満たしていた。


 翠玉の勇者と黄金の騎士は静かに佇んでいる。

 だが、ラエルはもう、いない。


 彼は最後まで“愚者”だった。


 名も、誇りも、記録にも残さず、ただ消えた。


 そのことが、どうしようもなく悲しかった。


【ラァラ】「……ありがとうございました」


 小さく頭を下げたそのとき、漂う光がひとつ、またひとつ、溶けるように消えていく。


 ――世界は、終わりではなく、静かに続いていく。


 それだけを胸に、ラァラはゆっくりと寝転び、赤ちゃんの夢の続きを、そっと見守った。


No.00【愚者】ラエル  / 不明

【クリア条件】クリア条件が存在しない。プレイヤーの数のカウントに含まれない。

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】他のアバターに攻撃されない?


No.01【魔術師】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.02【女教皇】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】聖母:クリア条件、アバターの能力、PDAの特殊効果の一覧を閲覧可能

【PDAの特殊効果】??????


No.03【女帝】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.04【皇帝】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.05【法王】鬼瓦 剛 / 死亡

【クリア条件】全てのエリア区画に侵入する

【アバターの能力】白銀の勇者:このアバターは侵入禁止エリアの数が増えるほど強化される(所有権失効中)

【PDAの特殊効果】全体マップを閲覧可能


No.06【恋人】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.07【戦車】パブロ・アベラルド / 死亡

【クリア条件】3人以上のプレイヤーを直接殺害(プレイヤー自身で殺害しなければ無効)

【アバターの能力】このアバターは一度受けた攻撃に耐性を得る

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは他のプレイヤーの追跡系効果を無効にする


No.08【力】蠚破甦 権蔵 / 死亡

【クリア条件】ゲーム終了時までに全てのアバターが機能停止

【アバターの能力】このアバターが機能停止したアバターのステータスを吸収する

【PDAの特殊効果】??????


No.09【隠者】ヨーゼフ / 死亡

【クリア条件】ゲーム終了時まで誰とも遭遇しない

【アバターの能力】このアバターは機能停止されるたび、プレイヤーの元へ再召喚される

【PDAの特殊効果】指定したPDAにメールを送信し、返信相手のクリア条件・アバター能力・特殊効果をすべて閲覧できる


No.10【運命の輪】ラァラ / 生存中 ※クリア条件達成済み

【クリア条件】ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満

【アバターの能力】翠玉の勇者 : このアバターの半径5m以内に他のアバターは近寄れない

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは進入禁止エリアを無視できる


No.11【正義】ラナカシム / 死亡

【クリア条件】3人以上のプレイヤーを殺害したプレイヤーの殺害

【アバターの能力】異端尋問官:??????

【PDAの特殊効果】プレイヤーを殺害したプレイヤーの現在地を追跡可能


No.12【殉教者】八神 恭介 / 死亡 ※クリア条件達成済み

【クリア条件】ゲーム終了時までにプレイヤーが死亡する

【アバターの能力】このアバターを機能停止したプレイヤーの首輪を爆破する

【PDAの特殊効果】このゲームの全ての仕様が閲覧可能


No.13【死神】執行者 / 死亡

【クリア条件】自分以外の全てのプレイヤーの死亡

【アバターの能力】所有権を持たないアバターの所有権を奪う

【PDAの特殊効果】このプレイヤーが所有権を持つアバターは機能停止しない

【追加アバター所有権】巨神兵、暗黒龍、観測者、紅蓮の勇者、蒼穹の勇者、白銀の勇者、漆黒の勇者、邂逅の勇者、魔王


No.14【節制】櫻木 有栖 / 死亡

【クリア条件】自分を含まない生存者と死亡者の人数を等しくする

【アバターの能力】救済者:自分のアバターを犠牲にして機能停止した他のアバターを蘇生する

【PDAの特殊効果】死亡したプレイヤーの一覧を閲覧可能


No.15【塔】櫻木 縣 / 死亡

【クリア条件】「仇敵」に選ばれたプレイヤーがゲーム終了時までに死亡

【アバターの能力】魔王:このアバターは「仇敵」のアバターを洗脳し、所有権を奪う事ができる

【PDAの特殊効果】「仇敵」のプレイヤーとアバターの現在地を追跡可能


No.16【悪魔】リベリオ / 死亡 ※クリア条件の達成は無効

【クリア条件】3人以上のクリア条件を達成したプレイヤーの死亡

【アバターの能力】このアバターは姿を消せる

【PDAの特殊効果】指定した進入禁止エリアを爆破する


No.17【星】蠚破甦 誠 / 死亡

【クリア条件】生存しているプレイヤー全員と遭遇

【アバターの能力】邂逅の勇者:最後に遭遇したアバターをコピーする

【PDAの特殊効果】他のプレイヤーの現在地を追跡可能


No.18【月】江瑠戸 遥香 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】指定したプレイヤーのクリア条件を逆位置にする

【PDAの特殊効果】??????


No.19【太陽】麻衣、莉杏 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.20【審判】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】聖母:クリア条件、アバターの能力、PDAの特殊効果の一覧を閲覧可能

【PDAの特殊効果】??????


No.21【世界】赤ん坊 / 生存中 ※クリア条件達成済み

【クリア条件】ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存

【アバターの能力】黄金の勇者 : このアバターはあらゆる他のアバターの干渉を受けない

【PDAの特殊効果】あなたはPDAがありません。ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとPDAを共有します



◆現在地:第1区画 ケテル

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