01
- 第10区画 マルクト -
ラァラは、ひとりだった。
いつからここにいたのかも、何をしていたのかも、ラァラには思い出せなかった。
目を覚ましたときには、もうこの静けさの中にいて、誰の声も聞こえなかった。
頬を撫でる空気は、冷たいとも温かいとも言い切れなくて。
耳に届くのは、ラァラの足音と鼓動の音だけ。
地面には、崩れかけた瓦礫がところどころに転がっていて、天井には――星のような光が、ちらちらと瞬いていたのです。
それが夜空なのか、偽物の空なのかさえ、ラァラにはわからなかったけれど。
ここがどこなのか。
どうしてラァラは、ここに来たのか。
誰も教えてくれないのに、誰かに呼ばれているような気がした。
そう、あのとき――ラァラのPDAが、静かに光ったから。
ラァラが握りしめたPDAの画面には、こんな文字が浮かんでいた。
《 おめでとうございます。あなたはセフィロトに選ばれたアルカナです 》
【アルカナ:10 運命の輪】
【クリア条件】ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満
【アバターの能力】翠玉の勇者:このアバターの半径5m以内に他のアバターは近寄れない
【PDAの特殊効果】このプレイヤーは進入禁止エリアを無視できる
PDAの文字が意味していることを、ラァラは正確には理解できなかった.
"プレイヤー"という言葉は、まるで誰かと争うことを前提にしているようで――胸が、ひゅっと音を立てるように震えました。
"運命の輪"という名前は、なぜだか、とても特別な響きがしました。
ラァラは、運命の輪。
それが、与えられた名前。
誰が名付けたのかもわからないのに、ラァラはそれを、受け入れるしかなかった。
【ラァラ】「ラァラは……運命を繋げる輪。輪っかとは、人と人を繋げる愛情です」
そして、PDAが再び、光を放ちました。
淡い緑の光が、まるで春の風のようにラァラの手から抜けて、空間をなぞっていった。
そこに、いた。
翡翠色にきらめく鎧をまとった、どこか物語の中から出てきたような――ひとりの勇者。
【ラァラ】「……あなたが、ラァラのアバター……?」
小さく、声に出してみました。
でも、その存在は、何も答えません。
ただ、ラァラのそばに立っていてくれた。
まるで、風のように。
まるで、影のように。
でも、確かにそこにいて、ラァラを守る意志だけは、はっきりと伝わってきた。
PDAには「このアバターの半径5メートル以内には、他のアバターは近寄れない」と書かれていた。
"他のアバター"という表現が意味するものは、きっと、ラァラだけじゃない"プレイヤー"たちが存在しているということなのでしょう。
けれど、それがどういう意味なのか、ラァラにはまだわからない。
けれど……わからなくても、確かにここにいることだけは、否定できなかったのです。
だけど。
安寧というのは、ただ静けさの中にあればいいというものでは、ないのだと思うのです。
だってラァラは、この場所で、ずっと――寂しかったのですから。
だから、その声が聞こえたとき――。
扉の向こうから聞こえてきた、微かな泣き声。
それが赤ちゃんのものだと、ラァラはすぐに気づきました。
思考よりも早く、足が動いていました。
迷いなんて、あるわけがなかった。
だって、ようやく――誰かの気配がしたのですから。
「ここにいるよ」という声を。
◆・◆・◆
金属の扉を開けると、そこには小さな保育ポッドのような機械がありました。
その中で、ひとり、赤ちゃんが泣いていました。
ラァラと目が合ったその瞬間。
小さな手が、ラァラに向かって伸ばされた。
ラァラは、何のためらいもなく、その子を抱き上げました。
【ラァラ】「……大丈夫。もう、ひとりじゃありません」
掠れた自分の声に、ラァラは少しだけ驚きました。
赤ちゃんのぬくもりが、冷え切った胸の奥を、じんわりと溶かしていった。
そのとき、ラァラの背後には、もうひとつの気配が立っていた。
黄金の鎧を纏い、静かに立つ騎士の姿。
まるで英雄譚の中から現れたような、長身の人影。
でも、何も言いませんでした。
その目に宿っていたのは、優しさでも敵意でもなく、ただ揺るがない"意志"だけ。
ラァラは、赤ちゃんを抱いたまま、その存在の視線を正面から受け止めました。
【ラァラ】「……あなたも、仲間……なのですか?」
沈黙だけが返ってきました。
けれど、不思議と、怖くはなかった。
そしてその瞬間、ラァラのPDAが、再び震えました。
【アルカナ:21 世界】
【クリア条件】ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存
【アバターの能力】黄金の騎士:このアバターは他のアバターのあらゆる干渉を受けない
【PDAの特殊効果】このプレイヤーはPDAを持たず、同行者のPDAと共有する
PDAの画面に、新しい情報が表示されていた。
まるで何かが"更新された"みたいに。
そう、この赤ちゃんこそが「世界」だった。
ラァラのPDAは、この赤ちゃんと"共有"された。
「世界」のクリア条件は――
"もっとも長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存すること"。
この赤ちゃんが生き残るためには、ラァラが共にいて、守らなければならない。
そう思った瞬間、ラァラの中に、ひとつの決意が芽生えたのです。
ラァラは、この子のお母さんになるのだと。
こうして、四つの影が並びました。
ラァラ。赤ちゃん。翠玉の勇者。そして黄金の騎士。
まだ明かりの届かないこの通路を、静かに歩きはじめた。
光もなく、音もなく――
ただ、ラァラたちの足音だけが、この世界に響いていました。
でも、それでよかった。
ひとりじゃないというだけで、世界は、ほんの少しだけ優しくなれるものなのだから。
No.00【愚者】??????
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.01【魔術師】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.02【女教皇】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.03【女帝】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.04【皇帝】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.05【法王】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.06【恋人】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.07【戦車】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.08【力】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.09【隠者】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.10【運命の輪】ラァラ / 生存中
【クリア条件】ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満
【アバターの能力】翠玉の勇者 : このアバターの半径5m以内に他のアバターは近寄れない
【PDAの特殊効果】このプレイヤーは進入禁止エリアを無視できる
No.11【正義】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.12【殉教者】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.13【死神】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.14【節制】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.15【塔】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.16【悪魔】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.17【星】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.18【月】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.19【太陽】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.20【審判】
【クリア条件】??????
【アバターの能力】??????
【PDAの特殊効果】??????
No.21【世界】赤ん坊 / 生存中
【クリア条件】ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存
【アバターの能力】黄金の勇者 : このアバターはあらゆる他のアバターの干渉を受けない
【PDAの特殊効果】あなたはPDAがありません。ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとPDAを共有します
◆現在地:第10区画 マルクト (ゲーム開始準備時間中)