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 昼間はじっとりとした湿気と埃の匂いが漂うが、夜になるとそれが冷えて、肌に張り付くような薄寒さへと変わっていた。

 女性と子供は東側、男性は西側に分かれて横たわり、その中間で縣が交代の見張りをしている。

 焚き火の炎は時おり、小さくはぜ、光と影が地面に揺れていた。


 ラァラは赤子を抱きしめたまま、そっと立ち上がった。

 足音を殺し、西側へ向かおうとした瞬間――背中に刺すような視線が走る。


【櫻木縣】「……どこへ行く?」


 低く湿った声。

 闇の中、縣の瞳だけがわずかに光を反射していた。

 焚き火の明かりに照らされぬその顔は、形を掴みづらく不気味な静けさを湛えている。


【櫻木縣】「そっちは男性が寝る場所だ。自分の寝る場所に戻りなさい」


 ラァラは立ち止まり、ゆっくり振り返る。

 赤子の体温が腕に重く、胸の奥で鼓動が少し早くなる。


【ラァラ】「いいえ、ラァラは……おじいさんと一緒に寝ます」


 その瞬間、場の空気がわずかに張り詰めた。

 縣の眉間に険しい皺が深く刻まれ、焚き火の明滅がその影を濃くしていく。


【櫻木縣】「……だから、それは教育上あまり良くない」


 間を置いた答えは、柔らかく装っても鋼のような硬さを秘めている。


【ラァラ】「何故、いけませんか」


 問い返す声は静かだが、決して引かない強さを孕んでいた。


【櫻木縣】「何故と言っても……そういうものだからだよ」


 理屈を装う口調。

 しかしその端々に、こちらを値踏みするような間が混じる。


【ラァラ】「わかりません。何がいけないのかわからないので、ラァラはおじいさんのところで寝ます」


 再び押し返す言葉。縣の眉間の皺はさらに深まり、視線がほんの一瞬だけ泳ぐ。

 その瞬間、彼は短く鼻で息を吸い、呼吸を整えた。

 嘘を吐く時の、人間特有の仕草だった。


【櫻木縣】「わからなくてもいい。とにかく、あまり良いことでは無いんだ。戻りなさい」


 火の揺らぎが彼の頬の影を伸ばし、眼差しをさらに暗く見せる。

 ラァラは赤子を抱き直し、声を落として問う。


【ラァラ】「本当にそれだけですか?」


 短い沈黙。

 わずかに視線が揺れる。


【ラァラ】「あの魔王のアバターが襲ってきた時、おじいさんはラァラと赤ちゃんを庇おうとしていました。他に狙いやすい獲物がいるはずなのに、それでも狙いにくいラァラたちを優先して攻撃してきました。つまり、あの魔王のアバターの狙いは、最初からおじいさんです」


【櫻木縣】「それで?」


 短く返す声。

 その裏で、瞳の奥がわずかに細くなる。


【ラァラ】「ラァラの翠玉の勇者は他のアバターを寄せ付けません。赤ちゃんの黄金の勇者は他のアバターの攻撃を受け付けません。つまり、襲撃者にとって、ラァラがおじいさんと一緒にいることは都合が悪いのでしょう」


【櫻木縣】「なるほどな。……だから、なんだと言うんだ?」


 口元だけがかすかに動き、表情はほとんど変わらない。


【ラァラ】「襲えるチャンスは、みんなが休憩のために寝る時間。だから、ラァラはおじいさんと一緒に寝ることにしました。そうすれば、おじいさんを襲えるチャンスはありません」


【櫻木縣】「だったら、アバターにおじいさんに護衛させて、君はおじいさんと別々に寝ればいい。わざわざ、プレイヤー同士、仲良く一緒に添い寝する必要もあるまい?」


 縣はわざとらしく肩をすくめ、口角をわずかに動かす。

 焚き火の光がその仕草を切れ切れに照らす。


【ラァラ】「いいえ。その場合は、ラァラたちが無防備です。護衛のいないラァラと赤ちゃんが先に殺されるでしょう。そうすれば、おじいさんを護衛する勇者はいなくなります。確実におじいさんを殺せます」


【櫻木縣】「……何が言いたい?」


 低い声が夜気に混じり、焚き火の炎が一度だけ大きく揺れた。


【ラァラ】「櫻木縣のアバターはどうしましたか?」


【櫻木縣】「だから、説明しただろう。私のアバターは、私の命を守って機能停止したんだ」


 ラァラは首を横に振る。


【ラァラ】「櫻木縣のPDAの特殊効果は“アバターの襲撃を検知する”だと言いました。アバターの襲撃を検知できるのに、アバターに襲撃されたのですか?」


【櫻木縣】「別におかしくないだろう。災害の警報があったって、被災はする」


【ラァラ】「それだけではありません。アバターの襲撃とは、どうやって検知しますか」


【櫻木縣】「どうやってとは?」


【ラァラ】「まず、どうやってそれを櫻木縣に知らせますか」


【櫻木縣】「それは……PDAから通知音が」


【ラァラ】「その通知音は鳴りましたか?」


【櫻木縣】「……あの時は突然の襲撃で混乱していたからね。聞こえていないのも無理はない」


【ラァラ】「違います。その前です」


 ラァラの声は鋭さを帯び、焚き火の影が彼女の輪郭を際立たせる。


【ラァラ】「検知条件がアバターの接近だった場合、最初に出会ったラァラたちも通知されるはずです。櫻木縣は、その通知方法は通知音が鳴ると言いました。でも、櫻木縣のPDAからは何も通知されなかった」


【櫻木縣】「それは君たちには悪意がなかったから……」


【ラァラ】「悪意で判断とはどういうことですか。PDAはプレイヤーの心を読みますか?」


【櫻木縣】「……私が作ったシステムじゃない。そこまでの詳しい仕組みは知らない。だったら、ほら、攻撃をしてくる動作で判断されるんじゃないのか?」


【ラァラ】「では、試してみましょう」


 翠玉の勇者が足元で、わずかに構えを取る。

 黄金の勇者も冷たい光を宿した瞳で縣を見据える。


【櫻木縣】「悪い冗談だ……」


【ラァラ】「冗談ではないです。八神恭介は言っていました。この中に1人だけクリア条件で嘘をついているプレイヤーがいます。わざわざ嘘をつくということは、それなりにプレイヤーに危害を加える必要のあるプレイヤーで、魔王のアバターの不自然な動きからも、その対象はおじいさんです。嘘つきはクリア条件におじいさんの死を要求されているはずです」


【櫻木縣】「待て……だったら殺すとでもいうのか?」


【ラァラ】「はい。平和を乱す裏切りものがいるのなら、ラァラが手を汚しても構いません。ラァラのクリア条件は“ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満”です。元々、2人だけしか生き残れません。ラァラと赤ちゃんは……最初からみんなの敵です」


 黄金の勇者が縣へ剣を振り下ろす。寸前で止められた刃先が、かすかに空気を震わせた。


【櫻木縣】「な、何をするんだ……!」


 縣の額から細い血の筋がゆっくりと滴る。


【ラァラ】「何故、通知音が鳴らないのでしょうか? 悪意を持って、攻撃動作をして、櫻木縣を傷つけました……でも、その通知音は鳴りません。……櫻木縣の言っていた事は嘘でした」


 沈黙が落ちる。夜気が冷え込み、焚き火のはぜる音が耳に鋭く届く。

 翠玉の勇者の構えが地面に重く響き、黄金の勇者の瞳には淡く蒼白い光が宿っていた。


 縣は笑わない。

 ただ、視線だけでラァラを押し返す。

 ラァラは一歩、彼の間合いに踏み込んだ。


【ラァラ】「櫻木縣の本当のクリア条件は何ですか? ……次は、止めません」


 短い間。そして――彼の唇がゆっくりと吊り上がった。

 冷たい、笑みとも歪みともつかない形で。


【櫻木縣】「……本当に邪魔だな」


No.00【愚者】ラエル  / 生存中

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.01【魔術師】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.02【女教皇】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】聖母:クリア条件、アバターの能力、PDAの特殊効果の一覧を閲覧可能

【PDAの特殊効果】??????


No.03【女帝】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.04【皇帝】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.05【法王】鬼瓦 剛 / 生存中

【クリア条件】全てのエリア区画に侵入する

【アバターの能力】白銀の勇者:このアバターは侵入禁止エリアの数が増えるほど強化される(所有権失効中)

【PDAの特殊効果】全体マップを閲覧可能


No.06【恋人】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.07【戦車】パブロ・アベラルド / 生存中

【クリア条件】3人以上のプレイヤーを直接殺害(プレイヤー自身で殺害しなければ無効)

【アバターの能力】このアバターは一度受けた攻撃に耐性を得る

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは他のプレイヤーの追跡系効果を無効にする


No.08【力】蠚破甦 権蔵 / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時までに全てのアバターが機能停止

【アバターの能力】このアバターが機能停止したアバターのステータスを吸収する

【PDAの特殊効果】??????


No.09【隠者】ヨーゼフ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時まで誰とも遭遇しない

【アバターの能力】このアバターは機能停止されるたび、プレイヤーの元へ再召喚される

【PDAの特殊効果】指定したPDAにメールを送信し、返信相手のクリア条件・アバター能力・特殊効果をすべて閲覧できる


No.10【運命の輪】ラァラ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満

【アバターの能力】翠玉の勇者 : このアバターの半径5m以内に他のアバターは近寄れない

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは進入禁止エリアを無視できる


No.11【正義】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.12【殉教者】八神 恭介 / 死亡 ※クリア条件達成済み

【クリア条件】ゲーム終了時までにプレイヤーが死亡する

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.13【死神】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.14【節制】櫻木 有栖 / 生存中

【クリア条件】自分を含まない生存者と死亡者の人数を等しくする

【アバターの能力】救済者:自分のアバターを犠牲にして機能停止した他のアバターを蘇生する

【PDAの特殊効果】死亡したプレイヤーの一覧を閲覧可能


No.15【塔】櫻木 縣 / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時まで生存する(虚偽)

【アバターの能力】擁護者:プレイヤーの死を一度だけ肩代わりする(虚偽)

【PDAの特殊効果】アバターの襲撃を検知する(虚偽)


No.16【悪魔】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.17【星】蠚破甦 誠 / 生存中

【クリア条件】生存しているプレイヤー全員と遭遇

【アバターの能力】邂逅の勇者:最後に遭遇したアバターをコピーする

【PDAの特殊効果】他のプレイヤーの現在地を追跡可能


No.18【月】江瑠戸 遥香 / 生存中

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.19【太陽】麻衣、莉杏

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.20【審判】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】聖母:クリア条件、アバターの能力、PDAの特殊効果の一覧を閲覧可能

【PDAの特殊効果】??????


No.21【世界】赤ん坊 / 生存中

【クリア条件】ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存

【アバターの能力】黄金の勇者 : このアバターはあらゆる他のアバターの干渉を受けない

【PDAの特殊効果】あなたはPDAがありません。ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとPDAを共有します



◆現在地:第6区画 ティファレト

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