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09

- 第6区画 ティファレト -


 合流を果たした一行は、進行方向を西へと定めた。

 廃墟と化した街並みは、ゆっくりと夜の帳に沈みつつある。

 遠くのビル群は赤黒く輪郭を浮かべ、地平線の向こうで沈みかけた陽が、最後の抵抗のように朱の光を放っていた。

 その光は崩れた建物の影を引き延ばし、まるで進路を塞ぐ闇の槍のように道を覆っている。


 足元には、ひび割れたアスファルトと、ところどころにできた小さな窪み。

 雨水を溜めたその水面は、踏みしめられるたびにわずかな波紋を広げ、濁った空を揺らめかせた。

 そこに映るのは、乱れた雲の群れと、街を覆う灰色の吐息。


 高架をくぐるたび、頭上の鉄骨が風を受けて軋む。

 時折、遠くで瓦礫が崩れる乾いた音が響き、それがどこからなのか判別できない不気味さが、沈黙の列にさらなる重みを加えていた。


 櫻木有栖は列の最後尾を歩き、振り返ることなく後方の気配を探っていた。

 足音、呼吸、衣擦れ――そのすべてを数えるように耳で拾い、脳裏の地図に書き加えていく。

 櫻木縣は前方を睨み、わずかに肩を揺らしながら周囲の廃ビルの窓や影を警戒する。

 その眼差しは、そこに潜む見えない殺意を探り当てようとする狩人のものだった。

 櫻木縣の背後には蠚破甦 誠が歩みを合わせ、青年らしい落ち着きをまといつつも、沈黙の奥で何かを絶え間なく計算しているような気配を漂わせていた。

 彼の視線は足元ではなく、遠く西の空の一点に釘付けになっている。


 ラァラは赤子を抱き直し、胸の奥で脈打つ不安を押し殺しながら呼吸を整える。

 そのすぐ隣には遥香がいて、無言のまま足音を合わせていた。

 彼はときおり周囲を軽く一瞥し、何か異変があればすぐ反応できる位置取りを保っている。


 鬼瓦剛は二人を庇うように一歩外側に位置し、時折、縣の背中越しに前方を確認する。

 ラエルは列の中央にあって、PDAを握る手を決して離さず、足音を殺して耳を澄ませていた。風が運ぶ微かな音――それが敵のものか、ただの風の戯れか、聞き分けようとしている。


 互いにまだ全幅の信頼を置いているわけではない。

 しかし、この先に待つ進入禁止エリアと、それを越えるために必要な戦力を考えれば、今は肩を並べて進むほかになかった。


 沈黙が長く続く。その沈黙は、互いの存在を測り合うための時間でもあった。

 そして――彼らの足は止まらない。

 やがて、次の区画の境界が見えてくる。廃高速道路のゲートが、闇の中にぼんやりと浮かび上がり、その下に、夜の匂いを含んだ風が流れ込んでいた。



 ◆・◆・◆



 瓦礫と雑草に覆われた旧市街の広場。

 崩れかけた噴水の縁には、雨水のたまりが淡く光り、湿った苔がじっとりと張り付いていた。

 足を踏み入れた瞬間、ラァラは空気の重さを感じる。胸の奥で、冷たいものが音もなく沈んでいった。


 その中央に、ひとりの青年が立っていた。

 緑のジャケットに身を包み、まっすぐにこちらを見据える眼差し。風が彼の髪を揺らすたび、落ち着き払った視線だけが揺れずに残った。

 その姿を目にして、遥香がわずかに目を見開く。


【遥香】「……あんた、八神恭介……のアバター、だよね。前の集まりで見た」


 青年は小さく頷いた。


【八神恭介】「そうだ。『殉教者』のアバターだった」


 短く息を吐き、そのまま淡々と続ける。


【遥香】「え? アバターが……しゃべった。アバターってしゃべんないはずじゃ……」


【八神恭介】「持ち主はもう死んだ。だから今は、俺がプレイヤーになっている。プレイヤー化したアバターは会話機能を持ってるよ。AIだけどね」


 その声音には、感情の揺れがほとんどない。まるで事務的な報告のような乾いた響きだった。

 ――感情を捨てたわけじゃない。

 ただ、それを見せた瞬間に揺らぐのは、自分ではなく他人の命だ。

 もう、そんな失敗は繰り返さない。

 彼の沈黙の奥に、その固い決意だけが沈殿していた。


 鬼瓦剛が一歩、前へ出る。足元で小石が軽く転がる音が響く。


【鬼瓦剛】「……何があったんじゃ?」


 青年は一瞬だけ視線を落とし、記憶を慎重に掘り起こすように言葉を探した。


【八神恭介】「前にいた集まりは、襲撃されて、壊滅した。……あれは、明確な殺意を持った連中だった」


 ラァラは息を呑む。

 心臓がひとつ脈打つたび、耳の奥でその音が膨らみ、知らぬはずの光景が脳裏で音もなく崩れ落ちていく。


「見たのは?」と遥香が問う。


【八神恭介】「『戦車』。それから『力』……そして、『死神』だ」


 その場にいた全員の表情が、一瞬だけ硬直する。


 櫻木有栖が「節制」のPDAを操作しながら、慎重に口を開いた。


【櫻木有栖】「ねえ、恭介くん。前にいた集まり、全部で誰がいたか教えてもらっていい?」


【八神恭介】「ナンバー順に、『魔術師』『女教皇』『女帝』『皇帝』『恋人』『殉教者』『月』『太陽』『審判』だ。……『月』と『太陽』、それから『正義』と『悪魔』だけ途中で別行動になって抜けた。その後、残ったプレイヤーは全員、殺された」


 液晶画面に死亡者一覧が浮かび、その証言が即座に裏付けられる。


【櫻木有栖】「間違いない。そのアルカナは全員、死亡になってる」


【八神恭介】「そうだ。殺したのは……『戦車』『力』『死神』」


 節制は眉間に皺を寄せ、小さく呟いた。


【櫻木有栖】「襲撃で全滅したのなら、ここにいる人たちと照らし合わせたら、全部のアルカナが揃うわ。ラエルくんのアルカナ、わかるかもしれない」


 そして、さらに声を落とす。


【櫻木有栖】「となると……消去法で残るアルカナは、『戦車』『力』『死神』『隠者』『愚者』……」


 青年は静かに首を横に振った。


【八神恭介】「別行動になった『正義』と『悪魔』は違う。俺たちを壊滅させた『戦車』『力』『死神』の顔は見ている。ラエルは違う。それに『隠者』は、他のプレイヤーと接触した時点で失格になる条件を持っている。こんなに群れて行動している時点で、違う」


 ラァラの胸の奥が、かすかに痛む。

 彼の目の奥にある孤独を、感じ取ってしまった気がした。

 それは失ったものを数え尽くした者だけが持つ、底の見えない色だった。


 短い沈黙が落ちる。

 ラァラが口を開きかけた瞬間、節制が代わるように言葉を紡ぐ。


【櫻木有栖】「……つまり、ラエルのアルカナは――『愚者』、ということになるわね」


【八神恭介】「それしか考えにくいだろうな」


 それ以上、彼は何も語らなかった。

 ただ、その瞳の奥で、何かを測るように全員を順に見回していた。


No.00【愚者】ラエル  / 生存中

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.01【魔術師】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.02【女教皇】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.03【女帝】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.04【皇帝】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.05【法王】鬼瓦 剛 / 生存中

【クリア条件】全てのエリア区画に侵入する

【アバターの能力】白銀の勇者:このアバターは侵入禁止エリアの数が増えるほど強化される(所有権失効中)

【PDAの特殊効果】全体マップを閲覧可能


No.06【恋人】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.07【戦車】パブロ・アベラルド / 生存中

【クリア条件】3人以上のプレイヤーを直接殺害(プレイヤー自身で殺害しなければ無効)

【アバターの能力】このアバターは一度受けた攻撃に耐性を得る

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは他のプレイヤーの追跡系効果を無効にする


No.08【力】蠚破甦 権蔵 / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時までに全てのアバターが機能停止

【アバターの能力】このアバターが機能停止したアバターのステータスを吸収する

【PDAの特殊効果】??????


No.09【隠者】ヨーゼフ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時まで誰とも遭遇しない

【アバターの能力】このアバターは機能停止されるたび、プレイヤーの元へ再召喚される

【PDAの特殊効果】指定したPDAにメールを送信し、返信相手のクリア条件・アバター能力・特殊効果をすべて閲覧できる


No.10【運命の輪】ラァラ / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満

【アバターの能力】翠玉の勇者 : このアバターの半径5m以内に他のアバターは近寄れない

【PDAの特殊効果】このプレイヤーは進入禁止エリアを無視できる


No.11【正義】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.12【殉教者】八神 恭介 / 死亡 ※クリア条件達成済み

【クリア条件】ゲーム終了時までにプレイヤーが死亡する

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.13【死神】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.14【節制】櫻木 有栖 / 生存中

【クリア条件】自分を含まない生存者と死亡者の人数を等しくする

【アバターの能力】救済者:自分のアバターを犠牲にして機能停止した他のアバターを蘇生する

【PDAの特殊効果】死亡したプレイヤーの一覧を閲覧可能


No.15【塔】櫻木 縣 / 生存中

【クリア条件】ゲーム終了時まで生存する

【アバターの能力】擁護者:プレイヤーの死を一度だけ肩代わりする

【PDAの特殊効果】アバターの襲撃を検知する


No.16【悪魔】

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.17【星】蠚破甦 誠 / 生存中

【クリア条件】生存しているプレイヤー全員と遭遇

【アバターの能力】邂逅の勇者:最後に遭遇したアバターをコピーする

【PDAの特殊効果】他のプレイヤーの現在地を追跡可能


No.18【月】江瑠戸 遥香 / 生存中

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.19【太陽】麻衣、莉杏

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.20【審判】 / 死亡

【クリア条件】??????

【アバターの能力】??????

【PDAの特殊効果】??????


No.21【世界】赤ん坊 / 生存中

【クリア条件】ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとゲーム終了時まで生存

【アバターの能力】黄金の勇者 : このアバターはあらゆる他のアバターの干渉を受けない

【PDAの特殊効果】あなたはPDAがありません。ゲームの開始から最も長く行動を共にしたプレイヤーとPDAを共有します



◆現在地:第6区画 ティファレト

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