表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

エンディング

(最終ラウンドが終わり、スタジオには、これまでの激しい議論が嘘のような、穏やかで澄み切った静寂が満ちている。四人の王たちは、それぞれの結論を語り終え、今はただ、互いの存在を確かめ合うかのように、静かに円卓に座している。司会者のあすかは、その光景を目に焼き付けるように、ゆっくりと、そして、万感の想いを込めて語り始めた)


あすか:「…ありがとうございました。皆様の魂の叫び、確かに、この胸に届きました。当初は決して交わることのなかった皆様の航路が、この時空の円卓で、確かに交差し、そして、互いの海図に、新たな航跡を刻みつけたように思います」


(あすか、優しい眼差しで四人を見渡す)


あすか:「『流儀』を語り、己の正義をぶつけ合った最初の夜。それぞれの『戦果』を誇り、その光と影に触れた、二度目の夜。そして、『艦隊』を率いたリーダーとしての孤独と、部下たちの想いに心を揺さぶられた、三度目の夜。…この対話は、皆様にとって、どのような航海となりましたでしょうか。最後に、一言ずつ、お聞かせいただきたく思います。この時空を超えた対話から、何か、ご自身の物語に、持ち帰るものはありましたか?」


あすか:「…では、黒髭殿。あなたから、お願いできますか?」


黒髭:(腕を組み、ふてくされたような顔で、しかし、その目には、来た時とは違う、微かな光が宿っている)「…ケッ。正直、最初は退屈で、さっさと抜け出してラム酒でも呷ってやろうかと思ってたぜ。小難しい話ばっかりしやがってな。だが…」


(黒髭、チラリと鄭成功の方を見る)


黒髭:「…まあ、悪くはなかった。特に、鄭成功の旦那の話は、デカすぎて、訳が分からなすぎて、逆に、ちったあ面白かった。国だの民だの、俺にゃ一生縁のねえ話だが、そんなもんを背負って戦うって生き方も、あるんだな、とよ。…ま、俺はごめんだがな!やっぱ、自由が一番だ!」


(黒髭は、そう言って、ニカッと笑った。彼なりの、最大限の賛辞だった)


あすか:「ありがとうございます。そのお言葉、きっと届いていることでしょう。…では、ドレーク殿」


ドレーク:(いつもの優雅な笑みを浮かべて)「ええ、実に有意義な『商談』でした。私はこれまで、己の才覚と、女王陛下のご威光こそが、富を生み出す源泉だと信じて疑いませんでした。ですが、皆様のお話…特に、ネルソン提督の語る『秩序』の価値、そして、鄭成功殿が実践された『大義』という名の、壮大なるビジネスモデルには、正直、目から鱗が落ちる思いでした」


(ドレーク、自らの手を見つめる)


ドレーク:「富とは、ただ奪い、蓄えるだけではない。秩序の中で育て、大義をもって投資することで、初めて、何倍にもなって返ってくる。…ふむ、次の航海では、もう少し大きな世界地図が描けそうです。素晴らしいヒントを、ありがとうございました、皆様」


(ドレークは、商談を成功させた経営者のように、満足げに頷いた)


あすか:「こちらこそ、ありがとうございます。…では、ネルソン提督。あなたにとって、この対話は、どのようなものでしたか?」


ネルソン:(静かに立ち上がり、これまで見せなかったほど、穏やかな表情をしていた)「…正直に、申し上げよう。当初、私は、この場にいることに、憤りさえ感じていた。誇り高き英国海軍の提督が、なぜ、海賊や、素性の知れぬ東洋の王と、席を共にせねばならんのだ、と。私の正義こそが、唯一絶対のものだと信じていた」


(ネルソン、円卓の仲間たちを、一人一人、ゆっくりと見渡す)


ネルソン:「だが、違った。貴殿らとの対話を通じて、私は、己の正義だけが、唯一のものではないと知った。ドレーク殿、あなたの現実を見据える力は、理想だけでは国を守れぬことを教えてくれた。黒髭殿、あなたの奔放な生き様は、秩序に縛られるだけが人生ではないと、私に突きつけた。そして…」


(ネルソン、鄭成功に向き直り、軍人として、最上級の敬意を込めて、わずかに頭を下げる)


ネルソン:「鄭成功殿。貴殿の背負うものの重さは、私の覚悟など、まだ青いとさえ思わせた。貴殿の民の『声』を聞いた時、私は、トラファルガーで私の死を『寂しい』と言ってくれた、我が部下たちの顔を思い出していたのだ。…この対話で、彼らの本当の想いを聞けたこと、それだけでも、私がここに来た価値は、あった。心から、礼を言う」


(ネルソンは、そう言うと、晴れやかな顔で着席した。英雄は、自らの物語の、新たなページを見つけたのだ)


あすか:「…提督。そのお言葉、何よりです。…では、最後に、鄭成功殿。この航海の終わり、あなたは何を想われますか?」


鄭成功:(玉座に座る王のように、泰然自若として、しかし、その声には、温かな響きがあった)「…私は、常に、孤独であった。大義という道は、誰かと分かち合えるものではない。だが、この場に来て、思いがけず、時代の異なる『隣人』に出会うことができた。それぞれの海で、それぞれの孤独を抱えながら、必死に帆を張り続けた者たちに。…実に、興味深い時間であった」


(鄭成功、ネルソンに向かって、静かに頷き返す)


鄭成功:「そして、我が民の声、そして、ネルソン提督の部下の声…。それらは、王として、リーダーとして、我々が決して忘れてはならぬ、最も尊く、そして、最も重い響きであった。民のささやかな幸福を願う心と、我らが背負う大義。その矛盾の狭間で、我々は、道を見失ってはならぬのだと、改めて、胸に刻んだ。この『声』を胸に、私は、これからも、我が航海を続けよう。たとえ、その先に、さらなる孤独が待っていたとしてもな」


(鄭成功の言葉が、全ての議論を、そして、全ての英雄たちの魂を、優しく包み込んだ。それは、この夜の、完璧な終着点だった)


あすか:(目に、光るものを浮かべながらも、凛として立ち上がる)「皆様、本当に、本当に、ありがとうございました。皆様の物語は、これからも、時を超えて、多くの人々の心を照らし、語り継がれていくことでしょう」


(あすか、スタジオの奥にあるスターゲートに視線を送る。ゲートは、彼らが来た時と同じように、静かに光の渦を巻き始めていた)


あすか:「さあ、お時間です。それぞれの海へ、それぞれの物語へ、お戻りください。あなたの帰りを待つ者がいます。あなたが、これから成し遂げるべき物語が、待っています」


(あすかの言葉を受け、最初に立ち上がったのは、鄭成功だった。彼は、王の威厳を保ったまま、他の三人に静かに一礼し、スターゲートへと歩みを進める。光の中に消える直前、彼は、振り返り、満足げに、かすかに微笑んだように見えた)


(次に、ネルソンが立ち上がる。彼は、ドレークに敬意のこもった会釈をし、黒髭を、もはや侮蔑ではなく、何かを理解したかのような目で見つめた後、胸を張り、誇り高い足取りでゲートへと向かった)


(続いて、ドレークが席を立つ。彼は、あすかに向かって、芝居がかった、しかし心からの紳士の礼をすると、軽やかに言った)


ドレーク:「では、あすか殿。そして、好敵手の皆様。また、どこかの航海で、お会いしよう」


(彼は、そう言って悪戯っぽくウィンクすると、軽やかな足取りで光の中へと消えていった)


(最後に残ったのは、黒髭だった。彼は、残っていた酒をぐいっと飲み干すと、空になった瓶をテーブルに置き、豪快に笑った)


黒髭:「じゃあな、嬢ちゃん!それから、てめえら!退屈しねえ、最高の夜だったぜ!あばよ!」


(黒髭は、そう叫ぶと、手を振りながら、嵐のようにスターゲートへと駆け込み、光の中に消えていった)


(英雄たちが去り、スタジオには、再び、深い静寂が戻ってきた。あすかは、誰もいなくなった円卓を、愛おしそうに見つめている)


あすか:(やがて、カメラに向き直り、視聴者に、優しく語りかける)「英雄たちの声は、消え去ったわけではありません。彼らの言葉、その生き様、その航跡は、今、あなたの心という、無限の海図に、確かに刻まれました。その羅針盤が、次にどこを指し示すのか…。それは、あなた自身の、新しい物語の始まりです」


(あすか、その目に、未来への希望の光を宿して)


あすか:「さて、次の『歴史バトルロワイヤル』では、どんな物語の声が、聞こえてくるのでしょうか。また、お会いする日まで…どうぞ、よき航海を」


(あすかは、深く、そして、世界で最も優雅な一礼をする。それに合わせるように、スタジオの照明がゆっくりと落ちていき、最後に、彼女の優しい微笑みだけが、暗闇の中に、一瞬、灯って、消えた)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ