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最終ラウンド:結論~真に海を制する者~

(モニターに『FINAL ROUND』の文字が厳かに浮かび上がる。ラウンド3で暴かれたリーダーたちの孤独と、部下たちの想い。その余韻が、スタジオを深く、静かに満たしている。もはや、彼らの間に、当初のような刺々しい敵意はない。あるのは、互いの生き様への、理解と、畏敬にも似た念。司会者のあすかは、その中心に立ち、慈しむような眼差しで四人を見渡した)


あすか:「皆様、ありがとうございました。それぞれの『流儀』、それぞれの『戦果』、そして、それぞれの『艦隊』…。皆様の物語の輪郭が、今、私たちの目の前に、はっきりと形を結びました。私たちは、皆様が、何を信じ、何を背負い、そして、何に苦悩されたのかを、ほんの少しだけ、理解できたように思います」


(あすか、一歩前に進み出る。その声は、最後の問いを告げるにふさわしい、真摯な響きを帯びていた)


あすか:「さて、議論は尽きることがありません。ですが、この時空を超えた対話も、終わりの時が近づいています。最後のラウンドです。これまでの全ての議論を踏まえ、皆様に、改めて、そして最後に、お伺いします。現代、そして未来永劫にわたり…『海を制する』ために、最も重要なことは、ただ一つ、何だと結論しますか?」


(究極の問い。四人の英雄は、それぞれの思索の海に深く沈む。最初に、その沈黙を破ったのは、やはり、最も衝動に忠実な、あの男だった)


黒髭:(腕を組み、面倒くさそうに頭を掻きながら)「…ケッ。最後まで小難しいこと聞きやがる。俺ぁ、てめえらみてえに、国のことだの、未来のことだの、そんなデカいことは、さっぱり分からねえ。だがな、この数時間、てめえらの話を聞いてて、思ったよ」


(黒髭、他の三人を順に見渡す)


黒髭:「提督さんよ、あんたは『名誉』に縛られて死んだ。ドレークの旦那、あんたは『女王』と『金』に縛られてた。鄭成功の旦那にいたっちゃ、『大義』だか知らねえが、死んだ王朝にまで縛られてる。…みんな、揃いも揃って、とんだ不自由人ふじゆうにんじゃねえか」


ネルソン:「…何だと?」


黒髭:「だからよ、俺の結論は、最初から何一つ変わっちゃいねえ。海を制するために一番大事なモン、それは、何ものにも縛られねえ、『自由な魂』だ。腹が減ったら食う。眠くなったら寝る。欲しいモンがあったら奪う。気に食わねえ奴がいたら殴る。ガキみてえに、自分の欲望にまっすぐな奴が、結局、一番強いのさ。俺は、そうやって生きて、伝説になった。後悔なんざ、欠片もねえぜ」


(黒髭は言い切り、満足そうに酒瓶を呷る。彼の哲学は、最後まで揺るがなかった。それは、彼の生き様そのものだった)


あすか:「ありがとうございます、黒髭殿。あなたらしい、まっすぐな結論です。…では、ドレーク殿、あなたはいかがですかな?」


ドレーク:(黒髭にやれやれ、と微笑みかけながら)「彼の言う『自由な魂』、その魅力は、私も認めましょう。ですが、魂だけでは船は動かないし、腹も膨れない。魂を現実に根付かせる『知恵』がなければ、彼の言う自由は、ただの無謀な夢想で終わってしまいます」


(ドレーク、その瞳に、商人としての鋭い輝きを宿す)


ドレーク:「私の結論は、『柔軟な思考』です。海とは、常に変化する生き物。昨日までの常識が、今日には通用しなくなる。そんな世界を生き抜くために必要なのは、一つのやり方に固執しない、したたかさ。時には、女王に忠誠を誓う騎士ナイトとして。時には、富を求める商人として。時には、敵を欺く海賊パイレーツとして。そして時には、艦隊を率いる提督アドミラルとして。状況に応じて、いくつもの仮面を使い分け、常に、最も利益の上がる選択をし続ける力。ネルソン提督の言う『秩序』も、鄭成功殿の言う『大義』も、実に素晴らしい。ですが、それを成し遂げるためには、まず、生き残り、力をつけねばならない。そのための現実的なプロセスを構築する知恵こそが、海を、いや、世界を制するのだと、私は信じています」


(現実主義者ドレークらしい、極めてプラグマティックな結論。彼は、ネルソンと鄭成功に、敬意を込めた視線を送った)


あすか:「ありがとうございます。では、ネルソン提督。あなたは、いかが結論されますか?」


ネルソン:(静かに立ち上がり、ラウンド3での動揺を乗り越え、再び、提督としての威厳を取り戻していた。だが、その表情には、以前にはなかった、深い思慮の色が浮かんでいた)「…私も、当初の考えと、結論そのものは変わらん。海を制するために最も重要なのは、揺るぎない『秩序への意志』だ。無法な力が支配する混沌の海では、民は怯え、文化は廃れ、国家は滅びる。人々が安心して海に船を浮かべ、交易を行い、暮らしていくためには、その海を守る、絶対的な法と力、すなわち『秩序』が不可欠だ」


(ネルソン、一度言葉を切り、ドレークと黒髭を見る)


ネルソン:「だが…この対話を通じて、考えさせられた。ドレーク、貴様の言うように、その秩序を築くためには、富という現実的な力も必要だろう。そして…」


(ネルソン、今度は鄭成功に、真っ直ぐな視線を向ける)


ネルソン:「…鄭成功殿。貴殿の民の声を聞き、そして、我が部下の声を聞いて、思ったのだ。その『秩序』とは、誰か一人の英雄や、その部下たちの、自己犠牲の上に成り立つものであっては、ならんのかもしれん、と。名誉ある死は、軍人としての本懐だ。その考えに、今も揺らぎはない。だが、その死を、残された者たちが『寂しい』と想うのであれば…。真の秩序とは、勝利の喜びを、生きて分かち合える世界の中にこそ、あるべきなのかもしれないな…。私の結論は、変わらず『秩序』だ。だが、その目指すべき場所は、少しだけ、変わったのかもしれん」


(ネルソンは、そう言って、静かに着席した。英雄の人間的な成長が、そこにはあった)


あすか:「…提督。素晴らしいお言葉、ありがとうございます。…では、最後に、鄭成功殿。全ての議論のトリを務めていただきます。あなたの、最終的な結論をお聞かせください」


(鄭成功、ゆっくりと立ち上がる。彼の存在そのものが、結論であるかのような、圧倒的な静寂がスタジオを支配する)


鄭成功:「自由な魂、柔軟な思考、秩序への意志…。いずれも、海を制するためには欠かせぬ要素であろう。黒髭殿の自由がなければ、新たな航路は生まれぬ。ドレーク殿の知恵がなければ、富は生まれぬ。そして、ネルソン提督の秩序がなければ、平和は生まれぬ。…だが、それらは全て、問いの半分に過ぎぬ」


(鄭成功、その視線は、もはや円卓の誰をも見ていない。遥か、時空の彼方を見つめている)


鄭成功:「私の結論は、やはり、『未来を見据える大義』だ。なぜなら、自由も、富も、秩序も、『誰のために』『何のために』という問いがなければ、それはただの自己満足か、あるいは、暴力的な支配に堕ちるからだ。その問いに、道を示すものこそが、『大義』なのだ」


(鄭成功、静かに、しかし、力強く続ける)


鄭成功:「我が民は、言った。『ただ、平穏に暮らしたかった』と。その声は、王として、私の胸をえぐる。民のささやかな幸福と、私が背負った国家再興という大義。それは、決して相容れぬ、矛盾したものであったやもしれぬ。だが、私は、こう信じている。真のリーダーとは、その矛盾から目を背ける者ではない。その矛盾と、民の痛みを、その一身に引き受けながら、それでもなお、未来の世代のために、より良き世界を指し示し続ける者だ、と」


(鄭成功、円卓の四人、そして、カメラの向こうの視聴者に語りかける)


鄭成功:「海を制するとは、船や領土を支配することではない。それは、時の流れという、最も広大な海を、渡りきることだ。己の生きた時代の、その先の未来に、何を残せるのか。どんな物語の種を蒔けるのか。その、未来への意志こそが、真に、海を、そして、人の歴史を、制するのだ」


(鄭成功が語り終えると、スタジオは、厳かで、神聖でさえある感動に包まれた。四人の王たちの旅は、今、終わったのだ)


あすか:(目に涙を浮かべながらも、凛とした声で)「自由な魂。柔軟な思考。秩序への意志。そして、未来への大義…。皆様、ありがとうございました。海を制する者の姿は、決して、一つではありませんでした。ですが、皆様の物語、その航跡は、これから未来という海に漕ぎ出す、私たちにとって、何よりも明るく、そして、頼もしい、道標となることでしょう」


(あすかが深く、深く一礼すると、モニターの『FINAL ROUND』の文字は、静かに消えていった。対談は、終わったのだ)

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