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意味の意味

作者: 林泰寧

 単語というものは、感動詞等を除きその大半が固有の意味を有している。その含まれる意味こそが単語の命であり、また存在理由でもあるのだ。

 例えば「おにぎりを食べる」という文があり、これを単語に分けると「おにぎり/を/食べる」となる。この内「おにぎり」は名詞、「を」は助詞、「食べる」は動詞であり、文中で特に重要な役割を担うのは名詞の「おにぎり」と動詞の「食べる」である。

 例えば助詞を欠くと「おにぎり□食べる」となる。しかし日常会話に於いては「おにぎり食べる」といったように助詞は頻繁に省略され、文脈により文意が通る。だが名詞を欠けば「□□□□を食べる」となり、食べるものに対し無数の候補が生じてしまう。また動詞を欠けば「おにぎりを□□□」となり、名詞のために候補は絞られるものの「食べる」「作る」「贈る」──と、依然として数は多い。

 では、単語を同じ意味のものに置き換えてみよう。名詞「おにぎり」と同じ意味を持つ語は「おむすび」「握飯(にぎりめし)」「結飯(むすびめし)」等々数多(あまた)あり、動詞「食べる」と同じ意味の語は「食う」「食らう」「食す」等々こちらも数多ある。そしてこれらは同じ意味であるので、「おむすびを食す」「握飯を食う」「結飯を食らう」はいずれも印象こそ変わるが意味は元の文と同じである。つまり単語の意味が全て保存されていれば、その文の伝えんと欲する所も自ずと保存されるのだ。


 単語の意味を保存して文意も保存できるのなら、単語を同義語ではなく「単語の意味」そのものに置き換えてみるのはどうか。例えばおにぎりについて維基百科(とあるじてん)には「ご飯を三角形などに加圧成型した食べ物」とあり、食べるという行為については維基辞典(とあるじしよ)に「何かを、口から噛んで飲み込む」とある。これらを踏まえ先の文章を再構築すると「ご飯を三角形などに加圧成型した食べ物を、口から噛んで飲み込む」となる。少々冗長ではあるが、「おにぎりを食べる」という意味には変わりない。

 是に於いて「ご飯を三角形などに加圧成型した食べ物」のように単語の意味を表す文章すら謂うなれば単語の塊であって、先の操作のように意味を展開することで文章を再構築することが可能である。従って、以下にその操作の継続過程並びに結果を示したい。

 尚お意味の文章は全てウィクショナリーに基づくものとし、また文脈に合わせ適宜変形する。


 一、おにぎりを食べる。

 二、「ご飯を三角形などに加圧成型した食べ物」を「口から噛んで飲み込む」。

 三、「米飯」を「同一直線上にない三つの点とその各二つの点をそれぞれ両端とする三つの線分からなる形」などに「圧力を加え」「一定の形付け」をした「噛んで食べる物」を「人間など動植物が飲食物を摂取するための、穴状に顔に開いた器官」から「歯で切ったり、砕いたり」して「嚥下する」。

 四、「米の飯」を「二つ以上の形状、性質等が同じである」「無限に真っ直ぐ伸びた線」の上にない「個数が三個である」「小さな印」とその「多くのものの一つ一つ」の「個数が二個である」「小さな印」を「ひとつひとつ」「向かい合う二つの端」とする「個数が二である」「直線の、ある二つの点で限られた部分」からなる「物質が空間に存在することによって、あるいは光や色彩が平面にあることで生じる、視角ないし触覚によって認知されるもの」などに「単位面積あたりに掛かる力」を「更に他のもの足して増やし」「ひとつに決まっており、変わることのない」「纏まった形のある物を作」った「歯で切ったり、砕いたり」して「口から噛んで飲み込む」「姿、形のあるまとまり」を「立って歩き、言葉や火や道具を使う事などによって、万物の霊長とされるところのヒト」など「動物と植物」が「食べ物と飲み物」を「中に取り入れる」ための、「欠けたり抜けたりしているものや所」の「ありさま」に「頭の前面の目、鼻、口、眉のあるところ」に「閉ざされている状況において、閉ざしているものと異なるものによる空間がつくりだされた」「生物のうち、動物や植物などの多細胞生物の体を構成する単位で、形態的に周囲と区別され、それ全体としてひとまとまりの機能を担うもののこと」から「動物の口腔内にある咀嚼するための硬い器官」で「二つ以上に分け」たり、「固まっている物に強い力を加えて細かくし」たりして「物をぐっと飲み込む」。


 たった四回の操作しか行っていないにも関わらず、結果は元の文の何倍も長くなってしまった。この文では、最初「おにぎり」と呼ばれていた食品は「米の飯を二つ以上の形状、性質等が同じである無限に真っ直ぐ伸びた線の……形のあるまとまり」であるとされ、「食べる」という行為は「立って歩き、言葉や火や道具を使う事などによって、万物の霊長とされるところのヒトなど動物と植物が……物をぐっと飲み込む」ことであるとされる。仮に世界一詳細であると謳った百科事典が存在しても、ここまでの冗長な説明は書かれるだろうか。

 蓋し単語の起源とは、長い説明の簡潔化である。漢語などはその代表であり、例えば「自然」「学習」「破壊」等の言葉を書き下せば「自ずから然り」「学びて習ふ」「破り壊す」と、漢字一つ一つが意味を持っているとわかる。さらにこれらを口語文に直せば「自ずとそうである」「学んで復習する」「破って壊す」となるが、流石にここまで噛み砕いて言うと冗長に思われるのは自明であろう。

 結論として、今日(こんにち)までの言葉を作り上げた古人たちの努力を敬い尊ぶべきである。

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