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蛇女とラブソングを。  作者: あびす
後日譚
9/13

蛇女と二人旅を。 ~一日目前編

 二週間後の土曜日、辛木からき鉄道、辛木駅。

「んじゃな、着いたら電話しろよー」

「たっぷり楽しんできてねー♪」

 雷電の車に送られて、皐月と霞は―今は人間の姿に化けている―駅前に立っていた。霞はいつもの着物ではなく、この日のために買ったという洋服を着ていた。服選びは弥生がやったらしく、いつ蛇女の姿に戻ってもいいよう、スカート姿である。なお、今まで霞が外出する際は、弥生の服を着ていた。身長は二人とも160センチ前後と似通っているのだが、胸のサイズは霞のほうが大きいため、胸がきついと文句を言っていたりした。

 ともあれ、普段と違う霞の姿は新鮮だった。

 というか、凄く可愛い。家ではまじまじと見つめたうえに赤面してしまい、雷電と弥生からさんざんからかわれた。

「では、皐月、行こうか」

「うん。えっと……元山もとやま駅でJRに乗り換えて、来栖くるすでもう一回乗り換えかぁ」

 雷電に書いてもらった乗り換えメモに目を通し、忘れないように復唱する。霞が当てにならない以上、電車の中で寝過ごす訳にはいかない。

「ややこしいのぅ。頼りにしておるぞ、皐月」

「……うん。寝てたら起こしてよね」

「うむ。任せておけ」

 霞は胸を張り、皐月の手を取って駅舎に歩きだした。最初のうちは手をつなぐのも抵抗があったのだが、最近は少し恥ずかしいだけになってきた。とはいえ、やはり一緒に歩いてたりすると非常にドキドキするのだが。

 とりあえず元山駅までの切符を二枚買って、一枚を霞に渡す。

「……皐月、これはどうやって使うのじゃ?」

「あぁ、これはそこの改札口に入れるんだよ。こんなふうに」

 皐月は自動改札口に切符を差し込み、改札を抜ける。それを見た霞も、改札に切符をおっかなびっくり差し込んだ。

「ひゃっ!?」

 一瞬で改札の中に切符が飲み込まれたのを見て、霞は思わず声をあげる。突然の声に、周囲からの視線が集まっていた。予想通りの展開だ。

「あー、やっぱり……。霞、出てきた切符取って、こっちに来て」

 皐月の手招きで、霞はおずおずと改札を抜ける。小さな笑い声が聞こえてきて、なんだか恥ずかしい。

「ふー、びっくりしたぞ……。指が挟まるかと……」

「うん、それはわからなくもないけど……。レールバス来るのはこっちだから、ついてきてよ」

 駅のホームに向かう。第4土曜日の昼過ぎというせいか、ホームにいるのは制服姿の高校生が何人かだけ。おそらく部活帰りだろう。

「霞、荷物重くない?」

 二人分の着替えが入った鞄を持っているのは霞だ。こういう場では、男のほうが荷物を持つべきじゃないだろうか。

「ううん、大丈夫じゃ。着替えしか入っておらぬしな、あまり皐月に負荷をかけるのも悪かろう」

「別に、それぐらいどうってことないんだけど……」

 皐月がそこまで言いかけたところで、霞は皐月の言葉を止めた。

「わしも何か仕事をせねば、悪いからのう」

「そこまで言うんなら、別にいいけど……」

 女性に荷物を持たせるのは男としてどうか。皐月はそこが引っかかり、仏頂面になっていた。

 皐月の心境に気付いたのか、霞が皐月に耳打ちする。

「……ふふ。皐月のそういうところは、好きじゃぞ」

「っ!?」

 寝耳に水の言葉に驚く皐月。霞から好きと言われるのは悪い気分ではないが。

「……もう、人前でそんなこと言うなよな……」

 誰も気にしていないとはいえ、恥ずかしいことにかわりはない。霞から好きと言われること自体は嬉しいが、人前で好きと言われるのには抵抗があった。

「ふふ、すまぬすまぬ」

 霞は悪びれる様子もなく、悪戯っぽく笑う。どうすればいいかわからず、とりあえずレールバスの時間を気にする皐月だった。

「あ、キサ君じゃん」

 聞いたことのある声。振り返った先には、クラスメイトの深雪がいた。さっきの光景は見られてないだろうか。

「……あ、白雪さん」

「どうしたの? 用事でも?」

 深雪はとことこと歩み寄ってくると、首を傾げて問いかけてきた。この様子だと、先程の光景は見られていないようだ。ほっと一安心。

 転校してきたときに隣の席だった縁を含め、皐月と深雪は仲がいい。小学6年生といえば、同年代の女子と話すのは気恥ずかしい年頃である。しかし、深雪はほとんどの男子から女子扱いされていなかった。それはボーイッシュな外見のせいか、はたまた男子っぽい趣味―テレビゲームやカードゲーム―のせいか。皐月も例外ではない。どうしても深雪のことを異性として見ることができなかった。

「まぁ、そんなとこ。白雪さんも?」

「うん。大海城おおみじょうのお爺ちゃんとこに」

「そっか。オレはS県の親戚のとこまで」

 霞と温泉旅行だなんて、言えるはずがない。ちなみに、皐月と霞が付き合っていることを知っているのは弥生と雷電だけ。世間体としては、皐月の従姉妹という設定になっている。

「ところで、隣のお姉さんは?」

「皐月の従姉妹の、霞と申す」

 従姉妹と称するとき、霞の表情は少しだけ憮然としている。彼女としては、恋人同士ということを誇りたいのだろう。皐月はそう推測している。恋人同士ということを胸を張って言える日は来るのだろうか。

「……あぁ、どもども、従姉妹さんですね。ちとっちゃんから聞いてますー。あたしは白雪深雪って言いまーす。よろしくっ」

「うむ、こちらこそ」

 霞と深雪は互いにお辞儀を交わす。

「ちとっちゃんから聞いてたけど、確かにキレイな人だね。うらやましいぞ、このこの」

 深雪はからかうような表情を浮かべて、肘で小突いてきた。千歳と深雪はいつも一緒に遊んでいるが、いつの間に話したんだろうか。内容も少し気になる。

「何がうらやましいんだよ」

「またまたー。美人の親戚とか、みんなに自慢できるじゃない」

「……まぁ、確かに、霞はキレイ、だけど」

 なんだか言ってて恥ずかしくなってきた。レールバスの到着が気になるフリをしてそっぽを向く。

「何じゃ、照れておるのか?」

「……ホントだ、キサ君赤くなってるー♪」

 心底嬉しそうな霞と、なんだか楽しそうな深雪。

 皐月はふと、最近読んだ漫画にあった「四面楚歌」という言葉を思い出した。

 霞が喜んでくれているのは嬉しいが、深雪にネタを与えてしまったと思うと、なんだか憂鬱になった。

 そうこうしているうちに、レールバスが到着。辛木駅は始点であるため、中には誰も乗っていない。

 適当な二人掛けの椅子の窓側に座って、荷物を足下に置く。霞がその隣に座った。深雪は皐月達の後ろに座っている。

「……のう、先程のことは本当なのか?」

 霞が耳打ちしてきた。深雪に聞こえないよう、小声で。先程のこととは、霞が美人かどうかという話だろう。

「……うん。ウソついてどうするのさ」

 ちょっと恥ずかしいが、同じく小声で返事をする。すると、霞は満面の笑顔を浮かべて。

「……ふふ、ありがとうな」

 なんて呟いて、皐月の手を握るのだった。相変わらずの柔らかくてひんやりしている手。霞から触られるのは好きである。もっとも、冬場になっても同じ事を言えるかどうかはわからないが。

 ふと後ろに目をやってみれば、深雪は携帯ゲームに興じていた。カートリッジはよく見えないが、おそらくは最近流行っている育成型対戦ゲームだろう。皐月と弥生も持っていて、たまに姉弟で対戦するが、いつも弥生をボコボコにして終わる。弥生は本当にゲームが下手だ。そして皐月も接待プレイをしない。

 車掌のアナウンスの後、レールバスは発車した。霞の様子を窺ってみると、なんだかそわそわしている。ひょっとして―。

「……霞、窓側、替わろっか?」

「よいのか!?」

 やっぱり。

 窓からの景色といっても、広がるのはなんてことのない、ただの田園風景である。黄金色の稲穂が広がっている光景は壮観と言えないことはないが。

 だが、霞にとっては新鮮な体験なのだろう。自分も初めて電車やバスに乗ったときは景色を見たがったものだ。

「じゃ、替わるよ。あんまりはしゃがないでね」

「いやいや、すまぬな」

 元山駅までは20分ほどだ。嬉しそうにしている霞と席を替わり、通路側に座る。

 途中で停まる駅はどれも無人駅。乗り降りする人もまばらで、レールバスは淡々と走っていく。

「白雪さん、何やってるの?」

 暇なので、背もたれ越しに深雪に話しかけてみる。深雪はゲームを止めて、顔を上げた。

「ん? ブリードヒーローブリヒー。やっとレベル60まで上がったよ」

「60!? 早っ! オレはまだ50いってないよ」

 予想通りだった。

 ブリードヒーロー。巨大ヒーロー、戦隊ヒーロー、変身ヒーローといった個性的なヒーローから一人を選び、育てていくゲームである。携帯機の利点を活かした対人戦が最大の魅力であり、戦略性の高い戦闘は高い評価を得ている。

「キサ君もやってるんだ。何使ってる?」

「ジャスティスマン。白雪さんは?」

「ジャスティスレディだよ。素早さ高いから使いやすいんだ」

 しばらくゲームの話に花を咲かせる二人だったが、元山駅に着いたことで会話は終わった。元山駅は終点であり、全員が降りている。

「あ。霞、着いたよ」

「うむ。知らぬ町を眺めるのは面白いのう」

「へぇ?」

「知らぬ町にも、人は住んでおるのじゃな。当然の事じゃが」

 霞の感想はわかるようなわからないような。

 ともあれ、荷物を取ってバスから出た。JRは同じ構内の別ホームであるため、辛木鉄道の改札を抜けてから陸橋を渡る。

「じゃ、キサ君、ここでお別れだね。また今度、対戦しようよ」

「うん、またね。じゃ、月曜に学校で」

「ではな、深雪。気を付けるんじゃぞ」

 大海城方面行きの電車はもうすぐ到着する。深雪は小さくお辞儀をすると、慌てて切符を買って、改札に駆け込んだ。

「深雪、間に合うのかのう」

「どうだろ。結構足速いからね、白雪さん」

「……それにしても、深雪とは仲がいいんじゃの」

「はい? まぁ、そうだけど」

 霞の口調は不機嫌そのものだった。思い当たる節は、やはり深雪しかない。

 先程、深雪とばかり話していたのがいけないのだろうか。

「……あの、さっき、白雪さんとばっか話してたの、怒ってる?」

「……」

 霞は無言でそっぽを向いた。

「……ごめん」

 怒ってる。皐月は素直に頭を下げた。

 すると、頭を軽く叩かれた感覚があった。ちょっとだけ頭を上げると、そこには笑顔の霞がいた。

「ふふ、別に怒っておる訳ではないぞ。まぁ、羨ましくなかったと言えば、嘘になるがの」

「うー……」

 なんだか気まずい。ちょっと目を伏せて、切符を買いに行く。

「何じゃ、可愛い表情をするんじゃの」

 いきなりの一言に、皐月は思わず100円玉を落とす。霞がそれを拾い、皐月に渡した。

「ふふ、皐月のそんな表情を見れただけで満足じゃ。怒ったフリをしておったのじゃが、まんまと引っかかってくれたのぅ」

 先程の不機嫌な姿は、どうやら演技だったようだ。ほっとすると同時に、なんだか複雑な心境になる。

「……もう、演技なら演技って言ってよ。本気で焦ったじゃんか……」

 ため息をつきつつ、切符を買って、霞に渡す。

「あんまりそんなことしてると、もう案内しないからね?」

「む、むう、それは困るぞ……」

「演技でも、霞を怒らせるのは嫌だからさ」

 本心を述べたが、霞の反応を見るのが恥ずかしいからそっぽを向く。

 特急の切符を買って、改札をくぐる。霞の様子を窺ってみると、おっかなびっくり改札に切符を差し込んでいた。無事に通れたようで、にんまりとしている。

「霞、急ご。もうすぐ電車来るから」

「うむ、こっちでいいのか?」

「うん、いいみたい」

 ホームに移動して、到着した電車に乗る。来栖駅までは一駅しかないので、座るのもなんだと思い、立っていることにした。

「皐月、座らぬのか?」

「うん。すぐ着くからね」

 霞はベンチシートに座っている。荷物を隣に置いていたので、網棚に移した。

「む? 荷物はそこに置くのか?」

「うん。隣に座る人の邪魔になっちゃうでしょ?」

「……なるほど。確かにそうしたほうがいいのう」

 少しして、電車は動き始めた。霞は再び窓の外に目をやる。その様子はなんだか可愛くて、思わず笑顔で見つめる皐月だった。

 来栖駅までは10分もかからなかった。来栖駅はこの地方の交通の中心地であり、ホームの数は多い。

「霞、ついたよ。次の電車まで時間ないから、急ごう」

「……広いのう。どこに行けばいいのやら……」

 霞はホームできょろきょろしている。土曜日の駅とあって、人の数は多い。万が一ここで霞とはぐれてしまったら、大変なことになってしまう。二人がはぐれないためには――。

「霞、はぐれないでよ」

 霞の手を取って、特急車両のホームを目指して階段を降りる。

「う、うむっ」

 霞は戸惑いながらも着いてきているようだ。雷電からもらったメモを頼りに、ホームに向かう。

『まもなく、3番乗り場に、特急が到着します』

「わわ、電車来ちゃうよ! 急がないと!」

 慌てて階段を上ると、ちょうど特急車両が到着した頃だった。皐月は安堵のため息を漏らす。

「……ふう、間に合ったね」

「じゃな。……ふふ、頼りになったぞ、皐月」

 霞は皐月と繋いでいる手を見て、満足そうに笑うとともに皐月の頭を撫でる。

「もう、人前で撫でないでよ……」

 流石に人前で頭を撫でられるのは恥ずかしい。撫でられること自体は嫌いじゃないが、こういう場だと話は別だ。

 ともあれ、電車が来たので、自由席の車両を探して、中に入る。荷物は二人掛けの席の足下に置き、霞が窓側、皐月が通路側だ。

「ふう、あとは乗り換えなしだから、これで落ち着いたね」

「うむ。世話をかけたな、皐月」

「ううん、別にいいよ。オレがしっかりしなきゃね」

「……そうじゃ」

 霞はそこまで口にして、皐月の耳元に顔を近付ける。

「わ!? ちょ、近いよ!! 何なの、急に!?」

「さっきは初めて皐月から手を繋いでくれたの。嬉しかったぞ」

 なんて、すごく嬉しそうに囁きかけてきた。

 言われてみれば確かにそうだ。手を繋ぐときは、今までいつも霞からだった。自分からというのはやはり気恥ずかしく、気がついたら霞が手をつないでくる、といった形になっていた。

 やってみれば案外できたものだ。まぁ、無意識だったから、次も同じようにできるとは思えないが。

「ふふ、今度からは皐月から手をつないでもらおうかの」

「……多分無理だと思う……」

「どうしてじゃ? さっきはできたではないか」

 意地悪そうに微笑む霞だった。きっと答えはわかってるだろう。

「さっきのは無意識だったから……」

「無意識につないでくれたのなら、つなぎたいと思っておるのじゃろう?」

「うー……」

 霞は本当に楽しそうだった。このままだとずっと言われそうだ。いつものようにそっぽを向く。

「すまぬすまぬ。そう怒らんでくれ」

「別に、怒ってはないけどさ……」

 反応に困るだけだ。

 そんなこんなで、列車が発進した。車掌に切符を見せ、文雄温泉までの2時間弱、ようやくのんびりできる時間となった。思わずあくびが出る。

「もう乗り換えはないんじゃの?」

「そうだね。あと2時間ぐらいは何もしなくていいよ」

「じゃあ、皐月にはゆっくりしてもらわねばな。眠そうにしておるし」

「……うん、ちょっと眠い、かな」

 自分一人ならなんてことはないが、霞の心配をしながらである。正直、結構疲れていた。

「じゃあ、寝ておるといいぞ。わしは起きておるから」

「いいの?」

「うむ。皐月といるだけで、わしは楽しい。それに、皐月の寝顔も見れるからのぅ」

 なんだかとっても恥ずかしい。寝顔は馴れ初めの頃から見られているが―正確に言えば失神していたのだが―、問題なのは最初の一言。皐月も霞と一緒にいるだけでなんだか楽しい気分になれるが、こう面と向かって言われると、非常に恥ずかしい。

「か、霞こそ、ずっと人間の姿じゃん。疲れないの?」

「最近はこの姿になることも増えたからのぅ。だいぶ慣れたぞ」

 慣れの問題なのだろうか。ともあれ、霞がそう言っているのなら、遠慮なく――。

「……じゃあ、ちょっと寝るね」

「うむ。おやすみ」

 目を瞑ると、ほどなく睡魔が襲ってきた。



『ひっこしても、ずっと、ずっと、すきだから!』



「んぁ……」

 目を開けると、自分は霞の肩にもたれかかっていて、霞は窓の外を眺めていた。

 昔の夢を見ていた。

 千歳が引っ越したとき。それは小学2年生の頃だったが、印象的だったのか、鮮明に覚えている。

 あれはどうなんだろう。初恋になるんだろうか。

 千歳の気持ちは今も同じなのだろうか。そんなことはないと思うが、もしそうなら悪い気がする。

 今の自分には霞という恋人がいるのだから。

 考えているとなんだか恥ずかしくなってきた。皐月は上体を起こす。

「……うん? 何じゃ、起きたのか」

「うん。……どれぐらい寝てた?」

「一時間ちょっとじゃな。まだまだかかるようじゃぞ」

 乗り過ごしてはいないらしい。ほっと一安心。

「もう少し寝るか?」

「ううん、いいよ。目、冴えちゃったし」

 少し寝たせいか、ずいぶんとすっきりした。もう眠気はない。

 それに、また寝ると、さっきの夢を思い出しそうだから。

 それからというもの、たまに景色を話題にしつつ、時間は過ぎていった。何かしてないと暇でしょうがない。本の一冊でも持ってくればよかったかも。

「皐月、暇そうじゃの」

「まぁね」

 何かしないことには時間は潰れない。ふと、指だけでできる簡単な遊びを思い出した。

「霞、『コレ』する?」

 皐月が両手の人差し指を立てる。その仕草で、霞は首を傾げた。

「コレ?」

「うん。相手の数字を増やしてくんだけど」

 皐月はそう言って、右手の人差し指で左手の人差し指を叩いた。左手は人差し指と中指が立ち、ピースサインになる。

「こうやって『1』で『1』を叩くと、叩かれたほうは『2』になって」

 今度は左手で右手を叩く。右手は中指と薬指が立ち、3本の指が立っている。

「『2』で『1』を叩くと、『1』は『3』になる。こんな感じで相手の数字を増やしていって、『6』以上になったらその手は使えなくなる。で、両手とも使えなくなったほうが負け」

「ふーむ。なんとなくはわかった」

「やってみたほうが早いよ。とりあえずやってみる?」

「そうじゃな」


「……で、今のはオレの勝ち」

「ふむふむ」

「あと、『3と3』を『4と2』みたいに、両手の数字を振り分けることもできるんだけど、それやると相手の番になっちゃうから」

「ふむふむ。なかなか奥が深いのぅ。もう一度頼む」

「りょーかい」


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