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蛇女とラブソングを。  作者: あびす
後日譚
8/13

蛇女と二人旅を。 ~出発前

まさかの後日譚です。

 第二土曜日のお昼前。近所の商店街にあるゲーム屋で、皐月は中古のゲームソフトを選んでいた。現在持っているゲーム機の新作情報を聞かなくなって久しい。次世代機との世代交代は完全に終わっているようだ。このままでは話題についていけなくなる。そろそろ買ってもらってもいい頃だ。

 ……とはいっても、そんな機会はクリスマスまでなさそうだが。

 結局、以前に友人から借りて少しだけやっていたアクションゲームを買うことにした。箱なし、説明書はコピーという悪条件だが、皐月はプレイさえできえばそれでいいという性格なので、別に気にしなかった。

「えっと、1200円ね」

「はいはい」

 財布から1500円を出して、300円のお釣り。浪費癖はないし、買っている雑誌も月に一冊だけなので、月1000円の小遣いながら懐にはそこそこ余裕がある。先日祖父から小遣いをもらったから、余計にだ。

「あ、今は福引きキャンペーンやってるんで。500円で福引き券1枚なんで、2枚ね」

「あ、どうも」

「そこの会議所でやってるから、よかったらやっていきなよ」

「はーい」

 せっかくだからやってみよう。ゲーム屋を出て、商店街の中央にある会議所に向かう。そこはだだっ広い空間で、祭りなんかの時にしか使われていないような感じがした。今は折り畳みの机の上に福引き器が二つ置かれている。その場に5人ほど人が居るが、ほとんどが関係者のようだ。

 景品を見てみると、一等は隣のS県にある文雄ふみお温泉の一泊二日ペア宿泊券。二等は商店街の商品券2万円分、三等は同じく5000円分。あとはティッシュ、文具、たわしなどといったお約束の景品が並んでいる。

 温泉はどうでもいいが、商品券は欲しい。2万円もあれば、次世代機が買える。ハードさえ買ってしまえば、ソフトも一緒に買ってくれるだろう。2回だけしか引けないが、はりきってやってみよう。

「あの、コレ」

「はいはい、2回ね。どうぞ、引いてみて」

 受付のおばさんに福引き券を渡し、少々緊張しながら福引き器を回す。出てきたのは白い玉。

「あー、残念賞。ティッシュ一箱だよ」

 こんなことだろうとは思っていたが、出鼻をくじかれた気分だ。これだと次のも当てにできまい。半ば諦めの心境でもう一回福引き器を回す。出てきたのは―。

「……大当たりぃ~!! 一等賞だよ!」

「えぇぇぇ!?」

 金色の玉だった。

 温泉のペア宿泊券。一番使い道に困るものが当たってしまった。

 困惑する皐月をよそに、当たったときにおばさんが鳴らした鈴の音と大声で、周囲に野次馬が集まりつつあり、皐月は途方に暮れるのだった。




「ただいま……」

 家に着いたときには、すっかりくたびれてしまっていた。おめでとうコールに記念撮影、使い道まで聞かれて、返答に窮してしまった。できれば霞と二人で行ってみたいが、それが許されるかどうか。

「あー、ちょっとかすみん、体力満タンなのに肉取らないでよっ」

「……あ! すまぬ、うっかりしておった」

 弥生と霞は皐月の苦労を知るわけもなく、二人でゲームに興じていた。霞は家事を手伝っており―洗濯機の使い方を覚えたそうだ―、弥生はだいぶ楽になったようだ。そういういきさつがあってかどうかは知らないが、二人は仲が良い。

「あーもう、死んじゃったじゃない」

「……すまぬ」

 弥生の操作キャラがやられて、残機がなくなって、ゲームオーバー。弥生達がやっていたゲームは、2Pならいくらやられてもいいが、1Pがやられるとミス扱いになる。霞が回復アイテムを間違えて取ってしまったのが今回のミスの要因であるため、霞は責任を感じてか、しょんぼりしていた。

 ゲームに一区切りついたからか、二人とも皐月が帰ってきたことに気付いた。

「あ、さっちゃんお帰り」

「お目当てのものは見つかったか?」

「うん。……あと、福引きが当たった」

「福引き?」

「うん。商店街でやってたんだけど……」

 皐月は鞄の中から、紅白の水引がついた祝儀袋を取り出した。

「どれどれ……」

 弥生が祝儀袋を受け取り、表の字を見る。

「……一等賞!?」

「おおお、凄いではないか!」

 あからさまに驚く弥生と、皐月に拍手を送る霞。霞から拍手されるのは悪い気分じゃない。

「それで、何をもらったのじゃ?」

「……温泉のペアチケット」

「温泉のペアチケット!?」

 祝儀袋を読んでいた弥生の実況と、皐月の解説は同じタイミングだった。ペアチケット、という響きが気になるのか、霞は首を傾げている。

「……てれびでもよく聞くのじゃが、ぺあちけっと、とは何なのじゃ?」

「ペアってのは二人って意味。で、チケットは券のこと。これは二人で温泉に泊まれるよ、って券だよ」

 皐月と弥生が学校に行っている間、霞はずっとテレビを見ているようだ。わからない単語が出てきたら、二人が帰ってきてすぐに聞いている。ちょっとした教師の気分だ。

「ホントは商品券が欲しかったんだけど……」

「ペア券ねぇ……」

 如月家は現在4人家族である。父の雷電、姉の弥生、弟の皐月、それに居候の霞だ。ペア券だと使い道に困る。

「日頃働いている雷電殿と弥生が行けばいいのではないか?」

「うん、オレもそう思ってた」

「うーん、お父さんと二人で旅行ってのはなんかねぇ。それよりも、さっちゃんが当てたんだから、さっちゃんとかすみんが行けばいいんじゃない?」

「わ、わしらがか?」

「だって二人は恋人同士じゃない。思う存分二人でイチャついてきなさいよ」

 なんて言う弥生の顔は楽しそうだった。

 確かに霞と二人きりになる機会はあまりないし、あったとしてもいつ誰か帰ってくるか気を使う。

 二人きりになったところで、元々ベタベタしていなかったような――いや、何度か巻き付かれたか。霞に巻き付かれるのは案外気持ちいい。霞の体はひんやりしていて、それでいて柔らかい。それに、普通に抱きつかれるよりも霞を近くに感じられるため、皐月は巻き付かれるのが好きだった。

 思い出してたらドキドキしてきた。二人に気付かれないよう、こっそりと深呼吸。

「オレは行ってもいいけど……霞は?」

 霞が如月家に住みだしてから、皐月は霞をさん付けで呼ばなくなった。なんだか他人行儀だし、もうお互いを知らない仲ではないのだ。

「わ、わしも皐月と旅行はしてみたいが……」

「じゃあ決定! みやげ話をたっっっぷり聞かせてくれれば、あたしは満足だから!!」

 弥生は必要以上にウキウキしている。嬉しい反面、面倒なことになった。弥生の姿を見た皐月は、ため息をこっそり漏らすのだった。


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