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蛇女とラブソングを。  作者: あびす
後日譚
11/13

蛇女と二人旅を。 ~二日目


 翌朝。

 霞が目を開けると、時刻は6時だった。隣では皐月が気持ちよさそうに眠っている。二度寝しようと思ったが、皐月の寝顔を見ていると、その気持ちは消えていった。自然と微笑みが浮かぶ。もう少し眺めていよう。

 本当に可愛い寝顔だと思う。自分のような蛇女にはもったいないと何度も思うが、それを口にすると皐月は嫌な顔をする。

 霞が蛇女とか、関係ない。オレは霞が好きなだけだから。

 皐月の家に住み始めてから、その言葉を何度か聞いた。こんな男に見初められて、自分はつくづく幸せ者だ。

「う……ん……」

 視線を感じたのかどうかはわからないが、皐月が寝返りをうった。寝顔観察はここまでにしよう。目が冴えたからテレビを点けようかと思ったが、テレビの音で皐月を起こすのも悪い。

 そうだ、朝風呂にでも入ってこよう。

 霞はタオルを持つと、人間の姿になり、音を立てないように大浴場に向かった。

 大浴場には誰もいなかった。昨日は寝る前に一度入ったが、そのときは他人がいたので人間の姿で入った。

 しかし、今は誰もいない。大浴場は広く、蛇の体を伸ばしても十分足りる。

 霞は人の気配がないことを確認すると、蛇女の姿に戻り、湯につかる。

「……ん~~~っ!」

 風呂で体を伸ばす。それはとても気持ちよく、思わず声が漏れた。

 これで皐月が側にいたら申し分なしなのだが、それだと昨日のような密着は期待できまい。彼の性格からして、わざわざ広い浴槽で近付いてくるとは思えなかった。

 まぁ、そういう恥ずかしがりなところも可愛いのだが。

 そんなことを考えていると、体がだいぶ温まってきた。ちょっと体を冷ますべく、浴槽から出る。

 そのときだった。

「ふぁ~……」

 浴場の扉が開き、若い女性があくびをしながら入ってきた。

 そして、蛇女の姿の霞と目が合う。

「……はうあ!」

 女性は叫び声をあげると、浴場から飛び出した。

 まずい、見られたかも。霞は人間の姿に化けると、浴槽に戻る。

 しばらくして、先程の女性が戻ってきた。

「……あれ、さっき蛇を見かけた気がするんだけど……」

「蛇?」

 平静を装いつつ首を傾げる霞を後目に、女性が浴槽に入ってきた。入るときに霞の下半身をちらりと見て、ため息をつく。

「まだお酒残ってるのかなぁ……。昨日飲み過ぎたし……」

 どうやらうまくごまかせたらしい。霞もため息を漏らす。こちらは安堵のため息だが。

 ぼろが出る前に引き上げよう。霞は女性に会釈して、浴槽から出た。


 部屋に戻ってみれば、皐月はまだ眠っている。霞はくすりと笑ってから蛇女の姿に戻り、窓際の椅子に腰掛けた。窓からは朝の温泉街が見える。昨日は賑やかだったのに、今は誰もいない。ちょっとした非日常だ。

「うーん……」

 少しして、皐月の声がした。布団を眺めてみると、皐月が起きていた。

「皐月、おはよう」

「……うん、おはよう」

 皐月は眠たそうに目をこすりながら、霞の向かいにある椅子に座る。寝起きだからか、皐月の声には元気がない。

「眠そうじゃの。朝風呂でも入ってくるか?」

「……うん、そーする。霞はもう入ったの?」

「つい先程に入ってきたぞ。気持ちよかった」

「そっか。じゃ、行ってくるね」

 朝風呂のことはまた後で話そう。

 霞は皐月が風呂に向かうのを見送ると、時間潰しにテレビを点けるのだった。


 朝風呂の後、朝食―バイキングだった―を済ませると、待っているのは帰り支度。

 昨日の楽しさを思い出すと、帰るのは名残惜しい。

 そして、名残惜しいのは宿ではなく、二人きりの時間。

 皐月は思わずため息を漏らした。

「うん? どうしたのじゃ?」

「いや、帰るのがもったいないな、って」

 時間が許すのなら、ずっと二人きりでいたい。そう思う皐月だった。

「確かにな。こうして二人でいられる時間が終わるのは、なんだか名残惜しいぞ」

 とはいえ、帰らなければならないことに変わりはない。連泊など、資金も時間も許してくれない。

「よし、荷造り終わり。霞、忘れ物ない?」

「大丈夫じゃ。全部鞄に入れたぞ」

「そっか。じゃ、帰ろ」

 皐月は部屋の中を見渡すと、テレビを切って、外に出た。霞が鞄を持ってついてくる。

 明日からまた学校。非日常はこれで終わり。

 なんだか憂鬱な気分になるが、日常あっての非日常。慣れないことが起こるからこそ、楽しいのかもしれない。毎日が好物なら飽きてしまう。それと同じなのだろう。

 次に非日常が起こることを期待しながら、皐月はフロントに向かうのだった。




 自宅に帰ってきて、土産の菓子を雷電に渡す。霞は弥生と話し込んでいた。旅行の報告だろうが、きっと恥ずかしい話ばかりしているに違いない。またしても弥生にエサを与えてしまった。

 土産はあと二つ。友達と食べるための菓子と、千歳宛ての菓子。彼女には何度か宿題を見せてもらっているので、世話になっている。霞も皐月と千歳が幼馴染なのは知っており、購入を勧めてきた。

 買ったからには渡さないと。千歳宅のチャイムを鳴らす。

「はーい」

 出てきたのは千歳だった。いいタイミングである。

「あ、さっちゃん。どうしたの?」

「……えっと、温泉、行ってて。それで、これ。お土産」

 菓子を千歳に渡す。彼女はそれを受け取ると、しばらくぼーっとした表情を浮かべていた。

「……あ、好みじゃなかった?」

「ううんっ! ありがと、大事にするね!!」

 千歳は嬉しそうなのか、悲しそうなのか、よくわからない表情になって、頭を下げた。

「いや、早めに食べてね」

 ボケなのか素なのかよくわからない。とりあえず目的は果たしたので、自宅に戻ることにした。

「じゃ、また明日ね」

「うん、また明日。本当にありがと!!」

 声の調子からすると、喜んでくれたようだ。一安心して、自宅に戻る。

 戻ってみれば、居間で雷電が土産の菓子を食べていた。よくある饅頭で、千歳に買ったものと同じだ。

「お、皐月よ。これイマイチだな」

「え」

 試しに一つ食べてみると、雷電の言うようにイマイチの味だった。美味いとは決して言えないが、滅茶苦茶不味いという訳でもない、ネタにならない味である。

 最後の最後でやっちゃった。皐月は土産選びを後悔しながら、仕方なしに饅頭をもう一つ口に運ぶのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

うん、いちゃラブが書きたかっただけなんだ。ロールミーが書きたかっただけなんだ。


旅館の描写は記憶が頼りなので危ういです。一人旅だとビジネスホテルしか泊まらないから……。


後日譚はもう一つ考えていますので、また気長にお付き合いください。

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