第1章 第3話 転機Ⅱ
連邦暦6月12日
グラーク隊の2人、ミハイル・クズネツォフ(グーズ)とアレクセイ・アスカロフ(アスカ)は新型機受領の為1200km後方のランドバルデン戦略空軍基地に移送されるため、輸送機を待っていた。
「んー何人かいるけど、みんなうちらみたいに新型機貰いに行くのかな?」
そうアスカが言うので数えてみると自分達合わせて8人のパイロットが待機しているのが確認できた
「んま、だろうな」
「ってことは全員ライバルか!面白くなってきたね!」
ったくこいつはと思いながら軽くあしらっていると、どこからかローター音が聞こえてきた
「輸送機ってヘリかい…戦略輸送機なら2時間位で着くのになー」
「わざわざ数人運ぶのにでかい戦略輸送機を使うのはコスパが良くないし、そもそも今防空軍にある輸送機はほとんど地上軍さんにピストン輸送で物資をお届けしてる」
なぜ防空軍の戦略輸送機まで使っているのかは知らないが、ないものは無いので諦めよう
そう考えつつアスカと雑談していると、ローター音の主が姿を表した
「……えぇ…まさかこいつで輸送されるの…?」
そういう彼女の……いや俺達の前には黒く塗装された3機のMi-24V ハインドが俺達に横を見せながら接地していた
すると内1機の兵員輸送室のドアが開き中から何やら偉そうな女の人とその護衛が降りてきた
具体的には黒いロングコートに身を包み黒い軍帽を深く被り、腰のホルスターには「上級将校」のみがもてる白い拳銃が見える
「アスカあいつはもしかして…」
「分かってるよ…多分親衛空軍の上級将校様だ…」
その将校が足を止めると同時にそいつに対し全員が敬礼を行った
「君達が新型機のデータ収集を行う、防空軍のエースだね?まぁ詳しい話はランドバルデンに着いてからだ、長旅になるから、そう気を張らなくて大丈夫、休んでいいよ」
そう言いながらその将校は顔を上げた
「初めまして、私は第14親衛防空軍所属のアリストス・バルツァフ空軍上級大将だ」
空軍上級大将……防空軍のトップから2番目、連邦防空軍には20人しかいない、そして親衛防空軍となれば5人……
「では、左のヘリにはブルックリン隊の3人、右のヘリにはヘレナ隊の3人が」
呼ばれた6人は大きく返事をし、バルツァフ上級大将は小さく「元気だねぇ」つぶやく
言われた通り3人ずつ別々のハインドに乗っていく
なんとなく、次言われることがわかったような気がした
「それじゃグラーク隊の2人は僕と一緒のヘリに乗ろうか」
「「はい!ご同席失礼します!」」
よりにもよって親衛防空軍上級大将との相乗りだ
ハインドにのると護衛と思しき兵士に挟まれる様にバルツァフ上級大将は座り、その向かい側に俺達は座った
本来ハインドの席は背中合わせになるようになっているはずなんだが……恐らくこの人が整備兵に言ってこうさせたんだろう
そう考えていると突然
「がぁーまた6時間かけて基地に戻るのかよー!」と軍帽を取り「ぐわぁー」と座ったまま背伸びをしている
そして2人とも(え……ほんとにこの人親衛防空軍上級大将?)と思っていた
「ふぅ…いやぁすまんね、なんせ硬い椅子に6時間以上座っていたんで……さっき話してた時も本当はまず伸びたかったんだよ」
「それは……お疲れ様でした」
「んーほんとに、あと敬語はいいよ、お堅いのは苦手なんだ」
「えっでも仮にも防空軍の上級大将閣下ですし…」
正直混乱している
まさかエリート中のエリートたる親衛防空軍の上級大将がここまで砕けた人だとは……
「いいよいいよ、階級なんか実戦じゃほとんど役に立たないしねぇ」
「では……と言っても話す事なんか…」
そんなものは無い、なんせ同じパイロットならば何機墜とした、こんな機動で振り切っただのと話せるが相手は上級大将、そんな話ができるとも思えない
「だねぇ…おっ見てよあれ、窓の外!」
そう言われ後ろの窓から外を見てみると
「おぉ……!」
恐らく別の基地からきたであろうKa-52が3機、この機体を先頭にダイヤモンド隊形を組んでいたのだ
「こっちもアリガートルがダイヤモンドで飛んでるよ。こんな間近でアリガートルの編隊を見れるなんて!」
「ん?上級大将閣下はここまで護衛無しで来られたのですか?」
片手で数えられるしかいない親衛防空軍上級大将を護衛なしで飛ばすとは考えられないが……
「ここに来るまではMi-28NM8機が護衛に着いててねぇ…ハヴォックはランドバルデンにいっぱいいてそんなに珍しくないんだよ」
「じゃあそのハヴォックは?」
「さぁ?僕があの基地に着いてパイロットに差し入れでも買いに行こうかと思ってたらすぐに飛んでっちゃってさ」
「なるほど…たしか第8親衛戦車軍の独立戦車隊が敵の戦車隊に守備されている陣地に攻撃を仕掛けると聞いたんで、それですかね?」
ふむ…ではこのアリガートルは
「なるほどね…あ、この子達はランドバルデンからの補給だった奴を護衛にさせてもらったんだ、代わりにあのハヴォックを補給とした配備することで許してもらったよ」
許してもらったと言っているが前線基地司令はほとんどが士官学校を卒業した少尉か高くても大尉だ、親衛軍の上級大将に逆らえるはずがない