第4章 第7話 バルツァフの日常 終
バルツァフとの外出を終えた不知笑は体調を崩し、一夜を超えても尚体調は安定しなかった
「A型インフルエンザですね。元の免疫が弱い様で、容態自体は今日中に安定すると思います。治るまでは1週間ちょっとと言ったところでしょう」
「わかった、私の所から療養休暇を出そう。にしてもインフルエンザか、無理が祟ったかな」
「連日徹夜同然の労働環境ですからね、処方箋出しておきます」
「いつもありがとう、迷惑かけるね」
「いえ、除隊してから行くあても無かった私を閣下が拾ってくれたのです。感謝すべきは私の方かと」
「退役軍人の社会復帰支援は社会福祉省とウチの家系としての方針さ、私に感謝されてもだ」
「ご謙遜なされなくても......ん、もうこんな時間ですな」
掛時計に目を向けると19時56分
せっかくの飯も冷めてしまっただろうか
不知笑と一緒に食べたかったがしばらくできそうにもない
......なんとももどかしい、僅かな寂しさが心を蝕んでいた
「なら私はこれで失礼しよう、今日はどうもありがとう」
「彼女の回復を祈って、今日を締めることとしましょう」
おやすみ、と言い残して医務室を出る
休みはもう終わってしまう、思えば短い休みだった
楽しかったからだと思う、やはり気に入った人間との一日は余りに短く、濃いものだ
ガチャ、と音を立てて扉が閉まる
「......ふぅ、さてさて秘書官代理は誰にしようかな」
「なんだ、彼じ........」
「ぶぇ゛っ?!!」
びっくりした
いや気抜いた瞬間意識外から話し掛けられたらびっくりするが、それにしてもびっくりしすぎた
心臓バックバクしてる
「すまんアリィ、まさかそこまで驚くとは....」
「爺さん、なんでここに?!」
「いや、ちょっと来るの遅いから飯の時間ズラしたんだけどな?それでも来ないからそこら辺にいたカウシェコフに聞いたら医務室に居るって言ってたから」
「あぁ....悪いね爺さん、不知笑がぶっ倒れてさ、A型インフルらしい」
「本当か。後でホットミルクとリンゴでも持ってってやれ」
「そのつもり、とりあえずご飯食べよ」
「そうだな、まだ暖かいはずだ」
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ダイニングに付くと見計らったようなタイミングで食事が置かれ、出来たてのような雰囲気を醸し出していた
懐かしさを五感で感じながら椅子に座り、爺さんや他の従者が座るのを待つ
うちの家系は主人の食事には何人かの従者が付き共に食事を始める伝統があり、それを受け継いでいる
全員が席に着く
приятного аппетитаと爺さんが声をかけ、皆が食器に手を付けて食事を始めた
うん、やはり懐かしい味だ
身体と心に染みる、深い味がする
「やっぱ美味いね、爺さんの飯は」
「アリィ、そう言ってくれると嬉しいぞ」
「ココ最近は栄養バランス全振りの薄味なご飯で、週末のカツだけが生きがいだった」
「将校用の食事はなかったのか?」
「それはその日のうちに一番戦果をあげたやつ5人が食えるシステムにした、前線で命掛けて戦った報酬がチンケな給料と味の薄い飯じゃ士気が下がるのさ」
「アリィ、お前は基地司令より前線指揮官の方が向いてるかもしれんな」
「昔とは変わられましたね、アリストス様」
「なんだカウス、まるで昔の僕が周りの見えない人間だったみたいじゃないか」
「まったく、知らんぷりの腕は変わりませんね。それでは政治闘争に勝てませんよ」
「構わないさ、んな事がしたくて軍に入ったわけじゃないからね」
「.....本当に、変わられましたね」
懐かしい顔ぶれと共にした食事はあっという間に終わってしまった
いつかに見た顔ぶれとも話したが皆元気な様子で何よりだっ小中時代に僕を支えてくれたナタリアやサフチェスキーは退職してしまっていたが、またいつかの休みにでも訪れよう
風呂を済ませ、自分の部屋に戻ると机の上に何か、丁寧に包装された小包が置いてあった
包装を解いて中を見ると、それは目を見張る物だった
「連邦戦功英雄章……?!この刻印は先の戦争のもの…….」
勲章に気を取られて気付かなかったが、一通の手紙も同封されていた
封を切り文を見てみると、端的にこう書かれていた
『いつかまた、共に戦いましょう 連邦防空軍少佐 ミハイル・マルシャルヴィッチ・グズネツォフ』
こうして、アリィの日常は終わりを告げる
しかしそれは、新た日常の始まりであった




