第3章 決死と必死
「グッ!アァッ!」
爆音と閃光が感覚を支配し、揺れる船に体幹を乱される、が
それでは艦長、ましてや船乗りとしての考えは乱れなかった
「各所被害状況しらせぇいッ!ダメコン班いそげ!右舷注排水装置作動させろ!」
「左舷後方並びに艦首VLS付近に被弾!VLSは緊急注水により誘爆は避けられました!」
「左舷に火災!また左舷注排水装置故障とのこと!」
「火災を食い止めろ!隔壁閉鎖!スラヴァ級にダメコン支援を要請!」
「先の衝撃でFCSがダウン!またレーダー関係が破壊されたと!」
「復旧は!どのくらいかかる!」
「長くて2時間とのこと!」
「クソッ!」
艦長の中には怒りと安堵の感情が渦巻いていた
国から新鋭艦を託されたと言うのに、その力を出し切れず中破させてしまった、しかし空母に被弾することなく、その多大な戦力と脅威を維持できたのだ。
中破と言っても航行はできるが高速は出せない、そう考えた時、彼の中にとてつもない見落としが出てきた
「原子炉!原子炉はどうなった!」
彼が冷や汗をかき、怒鳴るように艦橋乗員に尋ねる
ハッとした他の者がすぐさま事態を告げ機関室へと走らせる
2分もせずに報告が上がってきた
「幸い原子炉に異常はないとの事!爆風破片共に第2装甲板で受け止めたと!」
その言葉に胸を撫で下ろし、ほっと息を着く
原子炉に異常があれば最悪、炉心融解を引き起こし、せっかく守った空母どころか艦隊とこの周辺海域丸ごと数千年は誰も寄り付かない禁忌の海域になるからであった
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対艦ミサイル2発の被弾、それを受けてもなお原型を保ち浮かんでいるのは、帝国時代に威信をかけて作られた超弩級戦艦の流れを汲んでいるからに違いない
彼らの決死の行動により、連邦第2空母打撃群の要は今も洋上に浮かんでいる
被弾から2時間過ぎ、改キーロフ級 チェルナグラードはスラヴァⅡ級スターリンと近海に展開していた第44対潜小艦隊のウダロイⅢ級アファナーシエヴィチに護衛、曳航されていた。
行先はこの船の生まれ故郷、フリストフォロヴィチ海軍造船所だ
長さ500m、幅55m、深さ26mの乾ドックを4つ保有するこの一大造船所で、チェルナグラードの修復をするために
「修理におおよそ半年……ASM食らって中破してんです、そのまま原子炉とその他諸々引っこ抜かれて標的艦送りにされてもおかしくなかったですね」
「全くだ、造船所のヤツらにゃ頭が上がらんな。」
「にしても酷い有様でしたね……被弾したとっから10mくらい、装甲板がひしゃげてましたね」
「喫水線下に当たらんで良かったな。竜骨ごと叩き折られるところだった」
チェルナグラードは原子炉の異常に気を使い、補助機関を使い自力で14ktの速力を出せるが、注排水装置の修理とFCSを修理してる真っ只中に3つある機関の内2つがぶっ壊れた
被弾の衝撃もあるが整備班の連中が
「どうせ原子炉使わず航行なんかねぇだろ!がはは!」とか言って整備を怠っていたのもある
もちろん艦長に殴られた
日をまたいで、さらに太陽が艦首の方向、水平線の下に沈む時間に、チェルナグラードはドックへの入渠を完了した
修理に必要に期間はおおよそ5ヶ月と20日
と、思ったていたのに、国防省の連中がいきなり
「えっ巡洋艦が中破入渠した?あっなら新しいレーダーとかソナーとか、あと武装も1部変えよう。あと叙勲式も行おうか。艦長も昇格させよう。今度の環太平洋合同演習にも出てもらうか」
とかのたまってきて最終的に9ヶ月まで伸ばしやがった
もちろん艦長は殴ろうとしたが副長に止められた
そうこうしてる内に終戦。
しかしチェルナグラードの戦歴はここで終わりでは無い。
波を、海を、そして数々の苦難を超える事になるとここに書き、海軍の戦いを閉じる事とする




