第3章 飛び越えて
連邦海軍 第2空母打撃群 巡洋艦戦隊より放たれた16発のツィルコン極超音速ミサイルは共和国を飛び越えた先
公国の重防空レーダーサイトを目指していた
高度86000ft 速度M8.0を維持し巡航中のツィルコンは一路自らの獲物へと向かっていた
公国の長距離レーダーサイトは防空軍のSEADにより破壊され、残るレーダーの外側を飛んでいた
弾着観測は強襲軍隷下の第41特殊任務旅団と第76機械化斥候旅団が行う
スクラムジェットの轟音が超高空に響き渡り、音を背に4機の槍が編隊を組んで目標を貫かんと飛び続ける
編隊長機が高度を下げると、それに続いて後ろの3機も降下する
速度はマッハ9をたたき出し、音を知らんと降下を行う
そして……
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「ZILCOM4-1、弾着観測並びに映像記録開始」
「弾着まで20…19…18…17…16」
「飛翔体マッハ9を維持、高度40000ftを突破」
「10…9…8…7…」
「高度20000ftを突破、終末修正完了」
「3…2…弾着、今!」
彗歴2037 7月18日 0158
その時、公国に配された全ての重防空レーダーサイトが間を置いて全滅した
僅か20分の間の出来事であった
重防空レーダーサイトは多重の防空縦深に守られていたが、その全ては遥か高空を行くツィルコンを捉えきれず、捉えたとしても迎撃範囲にはなかった
迎撃を開始できたのは弾着の僅か3秒前であった
「飛翔体弾着、弾着地点付近に地盤陥没あり。レーダーサイトの破壊に成功」
「追加攻撃の要無し、ZILCON4-1第2段階達成。以後の偵察活動に務める。」
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「飛翔体弾着。目標壊滅の模様、追加攻撃の要無し」
「ツィルコン実戦試験終了。総員火器納め。」
「火器納め、転舵面舵1-5-8、現海域を離脱の後補給に入る」
「転舵面舵1-5-8。」
艦内から非常灯が消え、同時に艦が左に傾く
輪形陣を取る艦隊が少しずつ南へと回頭する
艦隊が方位を変え、陸地に腹を向けたその時
「戦術長!対空レーダーに反応!敵対艦ミサイルと認む!」
「総員第1種戦闘配置!総員第1種戦闘配置!艦隊防空戦闘はじめ!レーダーは詳細知らせ!」
「対艦ミサイルまで距離420!方位0-2-3!数38!現在山と起伏を使って迎撃は困難!」
「ジャミング全開!艦隊防空並びに個艦防空戦闘よーいッ!」
「SAM!主砲撃ち方よろし!」
「ウルヴリヒト以下左舷艦艇が防空戦闘を開始!」
「右舷艦艇群は射線が通らず全力迎撃は不可!」
「目標陸地を抜けました!シースキミング20と高高度18に別れ!双方距離290!」
「右舷艦艇群に高高度を撃ち落とさせろ!空母は!」
「甲板VLSは先に帰還した航空機により使用不能!艦尾VLSにて艦隊並びに個艦防空に参加!」
「空母はジャミングと個艦防空を優先させろ!」
「3K96迎撃はじめ!目標低空の敵対艦ミサイル!艦首VLS12から18番解放!」
『てぇッ!』
キーロフ級の艦首VLS、元々はP-700が搭載されていた場所のVLSが解放され、9K36艦対空ミサイルが放たれる
艦隊から数十発の対空ミサイルが発射される
雲の向こうに尾を引いて消える槍に一縷の望みを託し、残された艦は短剣と鎧で身を固める
「対空ミサイル第1波弾着!シースキミング11!高高度16を撃墜!」
「高空の2発が急降下!シースキミングと合流の模様!」
ASMが低高度に集まった時、艦橋に一声が響く
「取り舵5°!機関原速!空母の盾となる!」
「取り舵5°ッ!機関原速ッ!我が艦を空母の盾にする!」
艦長は敵ASMの迎撃が失敗した時、空母に損害が出ることを恐れキーロフ級1隻を盾に空母を守ろうとしているのである
「キーロフ級チェルナグラードより入電ッ!」
「読み上げろ!」
『我、貴艦ノ盾ト成ル』
乗員が報告を読み上げる時には既にチェルナグラードは空母バクーの左舷400mに着いていた
もうもうと立ち込めるブースターの煙に包まれた艦隊は更にその濃さを増したが、低空を這うミサイルの迎撃には手を焼き、既に70kmを切っても5発しか落とす事が出来なかった
「敵ASM!迎撃不能距離まで65!」
「近接防空戦闘よーいッ!」
レーダーが1周する度に55…50…45…40と距離が詰まる
乱数回避に振り回され艦対空ミサイルは空を切る
しかし下手な鉄砲数打ちゃ当たる、1発に対し10発近いミサイルが飛来する
40kmで1発
28kmで1発
21kmで1発
各艦左舷のCIWSが火を吹き、13km地点で1発を撃墜
しかし
「対艦ミサイル2発!撃墜出来ません!」
「総員対ショック体制ッ!手空きで左舷のものは右舷にッ!衝撃にそなぇえいッ!」
「総員対ショックゥッ!」
CICの人間は目の前の機器に、通路の人間は右舷に走り手すりに身を寄せ、艦橋の人間は屈んで物にしがみつきそして……




