第2章 10話 集中砲火
「ドミトリー!ブリュート!1時の方向に敵トラックとハンヴィーだ!殺れ!集中砲火を食らわせろ!」
「あいよ!」「わかった!」
戦闘開始から2時間、敵の攻勢は続いていた
こちらは既に第2防衛戦撤退間際までになっている
「トラックの影に敵一個分隊程度!ヴィクトル!サーモバリック弾頭で吹きとばせ!」
AKを下げRPGをこちらに手繰り寄せる
「エカテリーナ!弾頭を!」
「今手が離せません!敵がッ!」
そう言い切る前に制圧射撃により遮られる
「ヴィクトル!この細長いやつか?!」
「そうだナンツ!そいつを寄越せ!」
ナンツがAGSの射撃を止めRPGの弾頭を掴み、こちらへと走ってくる
「ありがとう!このまま射撃の援護も頼めるか?!」
「いいとも!」
サーモバリック弾頭を装填し射撃の準備を整える
「ブリュート!目標は!」
「あそこだ!あそこの燃えてるハンヴィーの横!距離130m!」
彼が指さす先には確かに敵がトラックの影から応戦しているのが見えた
RPGの照準器にトラックを収める
「射撃体勢よし!バックチェック!スリーファイア!」
「後方よし!撃て!撃て!撃て!」
発射されたサーモバリック弾頭は敵トラックの車体下を潜り抜け向こう側の地面に着弾、敵一個分隊を丸ごとミディアムレアの肉塊へと変えた
しかしそれと同時に別方向から制圧射撃が地面を抉りながらこちらへ飛んでくる
慌てて地面を蹴り後方へ体を下げるが間に合わず胸から肩にかけて2~3発被弾する
「ぐぁッ!ああぁ!被弾した!クソ!」
「班長被弾!メディック!メディック!」
胸に鈍痛が、肩には鋭痛が走る
左手で傷口に手を当てる、生暖かい液体が手に付着するのがわかる
「大丈夫です!人間こんな怪我じゃ死にゃしません!」
「わかってる、エカテリーナ。ありがとうな」
「負傷兵は!どこだ!」
「こっちだ!胸と右肩を撃たれた!」
ナンツがメディックを連れてこっちに走ってきた
「よし!見せてみろ……よし、肩の弾は貫通してる。胸は防弾板で防げたな」
メディックは応急処置として止血帯を巻き鎮痛剤を処方して次の所へ走っていってしまった
「あぁ……クソ。すまんエカテリーナ、変わってくれ」
「了解です……その調子だと……AKは撃てますか?」
「支えは出来ないが一応撃てはする……が、戦闘効率は大分落ちる」
AKを左手に構え直す……が、狙いが定まらない。酷く狙いがブレる。AKを後ろに回しホルスターからMP443を引き抜き左手だけでコッキングを行う。
《中隊司令部より全隊へ、左翼が敵の猛攻を受けつつあり、左翼の援護をしつつ最終防衛ラインへ後退せよ》
「……聞いたな?後退する。先頭は俺、殿はブリュート、頼むぞ」
「了解した」
「よし、総員持てるだけの弾薬と重火器を持って後退するぞ」
「AGSはどうします?弾薬は尽きかけです。」
「放棄しろ、最終防衛ラインで新品が使えるはずだ」
「了解」
「よし行くぞ。」
垂れた右手を邪魔に思いながら塹壕を後退していく。
右に曲がり、そして左に曲がる、また右に曲がり、とそれを繰り返して後退を続ける
「後方に敵!早く!」
RPKの射撃音を尻目に足を早める
「ブリュート!早く来い!下がれ!」
塹壕の曲がり角に対してMP443を放ち後退を援護する
「ツーダウン!下がるぞ!」
今度はブリュートが先頭になり、俺とエカテリーナが殿を務める
中腰になり塹壕の曲がり角へと照準をつける
右の視界からエカテリーナが消え、足音が後ろへ遠ざかる。そして左肩を叩かれると同時に後方へ下がる
また塹壕の角を曲がる時、たった今曲がった塹壕の壁に弾けるような音ともに銃弾がめり込んだ
「後方!敵だ!応戦する!」
しかしMP443を3発撃ち込んだところでスライドストップが掛かってしまった。
敵の足音がゾロゾロと聞こえる中に片腕でリロードする暇はないと直感的に判断する。
そしてそれを投げ捨て左胸から1本のナイフを取り出し、逆手に取り直す。
折り曲がり続ける塹壕の壁にへばりつき、一瞬の合間に呼吸を整え……
「はぁぁぁぁッ!」
飛び出してきた敵の喉元にそれを突き立て、激痛に支配される右手でそれを助ける
「ぐあぁッ!クソッタレめがぁッ!」
そのままソイツの肩を掴み後ろへと自らの体を投げる
後ろにいたエカテリーナとナンツがこちらへと駆け寄り下敷きの俺を引きずり出した。
「グレネードを!ぶち込んでやれ!」
殺したソイツからライフルを右手で構えた
増した痛みに耐えきれずグリップごとトリガーを握ってしまう
無作為な弾丸が塹壕の内壁を食い破る
その後ろでナンツが安全ピンを抜きその奥へと投げ入れる
そして……




