第1章 第24話 幸運を
出撃準備のサイレンに、せめて最後に別れの言葉を言おうとした俺は彼女に
「時間なんだろう?ほら、早く行くんだ」
と言われ急いで準備に向かう
飛行服を来てヘルメットを被る
異常が無いことをチェックしたら来た道を急いで引き返す
10数分の準備の間に機体には新しく納入された試験装備である多目的兵装収納庫が4つ取り付けられていた
数日前飛行試験として何度か使ったので既に使い勝手はわかっている
1つの収納庫にAAMが4~8本、誘導爆弾を4発または2本のKh-25か1本のKh-29を収納し運用することができる
この収納庫は外部に装備された兵装によるステルス性能の低下を防ぎ、さらに搭載数を増加することができる
今回は主翼の最翼端にIR妨害ポッドとジャミングポッドを1基ずつ、それ以外にR-73を2本、R-27ET/ERを2本づつ計4本
エアインテーク下部に2つ、両主翼の1番内側のパイロンにも2つコンテナを吊るしており、中には合わせて8本のR-27ET/ERと4発の500kg誘導爆弾と2発のkh-25を収納している
ここには4機、同じ装備をしたSu-35と、今まで通りの汎用装備のSu-35が4機出撃準備を完了し、待機していた
俺も自分の機体に乗り最終調整を行う
「全機出撃準備は完了したか?」
「もうとっくに出来てますよ」
「燃料弾薬共にバッチリです何時でも行けますよ!」
全機に確認を取ると直後、管制塔から誘導が入ってきた
《ランドバルデン管制よりグラーク隊へ、グラーク隊A小隊はRW012から、B小隊はRW017から1500にそれぞれ離陸しろ タキシング開始》
「グラーク隊ウィルコ、タキシングを開始する」
それと同時にでかい得物を抱えた機体が動き出す
「グラーク1-1よりグラーク隊全機へ、最終調整だ。分かるだろうが戦線では地上軍からのレーザー照射による精密誘導攻撃を行う。誘導爆弾のレーザー周波数を地上軍の物に合わせておけ。」
「了解、周波数を地上軍の物に合わせておきます」
俺がタキシングを終え、離陸の準備を終えて待機していると滑走路と待機用誘導路間の草地にジーナ少佐が立ち、こちらをじっと見つめていた
(あぁ、別れの言葉を言っていなかったな)
そう思い立ち、俺はコクピットを開く
ジェットエンジンの騒音が耳に入る
「え?ちょっとグーズ?何してんの?」
「なに、大丈夫だ」
そうして俺はキャノピーの縁を掴み、少し変な体勢で立ち上がる
その体勢のまま彼女に大きく手を振る
「少佐ッー!おーい!」
「ちょっと?!ほんとにあんたッ!馬鹿じゃないの?!」
さすがに怒られそうだが別に構わん
俺がそうして手を振っていると彼女も気付き、少し呆れた顔をしながらも大きく手を振り返してくる。
《ランドバルデン管制よりグラーク隊へ、出撃時刻まで60秒。全機心の準備はいいな?あとグラークリーダー、グズネツォフ、覚悟しておけよ》
あっという間に出撃がギリギリになってしまった
これ以上は不味いだろうと思いコクピットに再び腰を下ろす
座席のベルトを締め直し計器を一通りチェックしキャノピーを下ろす
《出撃まで10秒》
頭上に広がる、どこまでもどこまでも蒼いあの空に飛べばもう彼女に会うことはないだろう
《出撃時刻だ、グラーク隊出撃せよ!全機出撃!》
また彼女に目を向ける。見納めだ
彼女もそう思ったのか、じっとこちらを見ている
脇を締め、手を開いて指先をこめかみに当てる。空海軍式の敬礼だ
彼女は対照的に脇を開いて、しかし手を開き、同じくこめかみに指先を当てる
それを目に焼き付けた俺はスロットルを押し込む、ブレーキが解除され機体が沈み込む、しかしそれも一瞬、3トンに迫る巨体が一気に加速する
操縦桿を引き、500km/hを超えた蒼空の覇者は地を離れた
向かうは前線、血肉の荒野、ヴァルハラへの受付会場だ




