第1章 第12話 決戦
少し時は遡りグラーク隊に襲われる直前のハリアーⅡ攻撃隊……
「リピター隊長……自分達は帰還できるんでしょうか」
「やっぱり不安か?」
少し明るい声で答えてくれる
「はい……いくら生還率63%と言えど、2度目を飛べる機体はほぼいないと……」
生還率、これはパイロットが無事に帰ってきたという意味では無い
どんな状態であれ「機体」が帰還したと言うことを示している
事実、5回以上連続で飛んでいる機体は僅か34%
10回に至っては3%だ
「大丈夫だ、俺がちゃんと基地に帰してやる」
「頼もしいです……ところであの……隊長は以前何に搭乗していたんですか?飛行中隊の隊長クラスなら相当な経験があるのでは?」
「あぁ……前はファントムに乗ってたんだがな……Su-35の編隊に襲われて……何とか逃げ延びたんだよ。」
「本当ですか?!フランカーに襲われて無事に逃げ切れるって!」
「いや…無事って訳でもない、後席のRIOがな……機関砲弾の直撃を食らってな……」
しばし沈黙が空間を支配する
「あの……すみませんでした、無神経にそんな事を聞いてしまって……」
「なに、過ぎたことだからな、構わ……」
俺が周囲警戒の為にぐるりと回そうとした視界がちょうど真上に差し掛かったところ、何か上空の雲の中にキラリと光る物が見えた気がした
「どうしました?あの、基地に帰ったら謝罪もこめて……」
僚機がそう言おうとした時……
「隊長!後方!いや上空からミサ……」
爆発音が聞こえる
「ブルー1-2!大丈夫か!」
「ブルー1-1よりレッド1-1へ!ブルー1-2は撃墜……」
「ブルー1-1!クソッ全機ブレイク!上空からの奇襲……」
そう言おうとした途端、俺の五感は爆音とともに消え失せた
「グラーク1-2 一機撃墜!やった!」
「こっちも!グラーク1-4 一機撃墜!」
「グラーク1-5 こっちも1機落としたぞ」
編隊の6機が反転降下して直ぐに3機の撃墜報告が上がってきた
「よくやった、グラーク1-1 追撃を加える」
そう言いながら機体を180°ロールさせ降下する
機関砲のトリガーに指をかけつつ敵機をレーダーでロックすると機関砲の予測弾道線が現れる
そして1機のハリアー2を火だるまにした後に別のハリアー2を捉える
「少しおちょくってみよう」
そう言いながら回線をオープンに変更する
『よう、公国のパイロット!気分はどうだ?』
すると相手も回線をオープンにしたのか
『クソッタレ!落とすなら早くやれ!このデカブツ野郎が!』
と罵声混じりに返答してくる
「ちょっと隊長?そんなことして大丈夫なんですか?」
「まぁ大丈夫じゃない?なんせエースだからね」
「はぁ……」
部下がこんな悠長に話せてるってことはこのケツを追いかけてるやつ以外落としたんだろうな
『お仲間はみんな落とされたみたいだなぁ?どうする、諦めて脱出するか?』
『馬鹿野郎が!俺は諦めねぇぞ!』
『威勢だけはいいなルーキー、残念だが貴様は逃げきれんぞ、諦めて難民として家族と逃げるべきだったな』
俺がそう煽ると
『なにをっ!目にもに見せてやるぞ!このデカブツが!』
そう言うと恐らく推力偏向ノズルを使ったのか一気に機首をあげ俗に「プガチョフ・コブラ」と言われるような機動をしてこちらのケツにつこうとしていた
が、そもそもそんな機動を取れるように設計されていないハリアーの翼は容易くへし折れ、そのまま真っ逆さま地面へ墜落して行った
『な……なんで…こんなはずじゃなかった…のに…』
『残念だルーキー、こんな死に方とはな……』
『クソッタレ……クソッタレ……クソッタ……』
高度800m、イジェクトしても減速しきれずに酷いことになっていだろう……
『グラーク1-1よりDC57へ、全敵攻撃機を撃墜した』
『DC57了解 こちらでも全反応の消失を確認したぞ、感謝する』
そして敵機を全て撃墜し高度を取り直しつつあるところに司令部から通信が入ってきた
《司令部より戦線に展開している全ユニットへ、「番犬は退いた」繰り返す!「番犬は退いた」!速やかにラインAからDまで後退せよ!》
「全機聞いたな!高度8500まで編隊を組み直しつつ上昇!ラインAからDまで後退する!」
番犬は退いた、これは地獄の業火作戦開始の合図であり、全友軍を絶対安全圏まで後退させる合図である




