第五話 ついに、ギルドへ
「すっごくいい人たちだったね」
「うん、転生して早々に暖かみを感じたよ。 心配だったけどこんな世界ならやってけるかも」
宵と夕は別れ際にもらったパンを食べ歩きなかまら地域の暖かさを噛み締める。
「二人とも逸れないでくださいね」
「大丈夫、もうそんな歳じゃないから」
振り返って呼びかける忠弥は地図と街の景色を交互に確認しながら二人を先導する。
ナーブ家を後にし、活気あふれる大通りを歩く三人は貰った地図に書いてある施設へ向かっていた。その道中、街の中心である屋敷前の広場で芸を披露している大道芸人を見かける。そこには五、六人程度が踊れるぐらいのスペースがあるステージがあった。
「プロデューサー、あれって……」
「なかなか立派なステージですね」
「それならさ、ひょっとして私たちのライブもあそこで出来たりしないかな?」
「恐らく、どこかで申請したらやらせて貰えるかもしれませんね。 それも今から行く場所で聞いてみましょうか」
そういいながらそのステージを右に曲がって三人は進む。すると、周りに比べて明らかに大きな建物が見える。
「お、見つけました。 あそこが目的地ですよ」
「ギルドでしょ? ギルドでしょ? いやぁ、ついに異世界転生始まったって感じ」
「もう、そんなはしゃがないの」
「なんかお母さんっぽい、それに夕ちゃんも内心楽しみにしてるくせに」
目の前に着くと外観はレンガ造りの立派な建物で看板が扉の上に取り付けられているのがわかる。看板には『ウルエント・ギルド』と書かれているのが読み取れる。
「街の名前もありますし、ここで合ってますね。 それじゃあ、入りましょうか」
忠弥はナーブ夫婦に聞いた街の名前などのメモと照らし合わせて確認をする。
中に入ると受付をしてくれるであろう窓口と奥には幾つかのテーブルなどの備品があり料理も提供されている様子が見られる。
「どうやら複合型の施設らしいですね、こんな光景写真や絵以外で初めて見ましたよ」
「うおおお! これがギルドかぁ〜!」
「今、私、転生した感を凄い味わってる」
三人が大きな声で興奮する様子を見せると、中に居た何人かが驚いて注目を集める。それに気づいた忠弥は二人を落ち着かせる。
「宵さん、夕さん、結構見られてますよ……」
それを聞いた二人は少し頬を赤くする。夕は恥ずかしさから顔を覆って隠している。少し経つと目線も外れ、またギルド内の喧騒に溶け込んでいく。
「ところでさ、ギルドカードってのを発行してもらうんでしょ?」
「そうですよ、ご夫婦から活動するならギルドで申請が必要だと教えてもらいました」
三人は赤と白のベストを着用した受付嬢の所へ行き、質問を投げかける。
「すみません、ギルドカードの作成をお願いしたいのですがここでまちがいないでしょうか?」
「はい、こちらで承っております!」
元気の良い返事が返り、後ろの二人にも気づき笑顔を返す。
「まず、皆様はウルエント定住者ですか? それとも非定住者ですか?」
「非定住者の旅人です。」
「でしたらこちらのトラベラーギルドカードになります」
そういって見せられたカードはもう一つの恐らく定住者用カードと違い、受付嬢がつけているブローチのマークが入っていないものだった。
「この二つはどのように違うのですか?」
「説明いたしますね、トラベラーは国内限定かつこの街に特化したウルエントと違い、ギルド協定を結んでいる全ての国での身分証兼労働許可証となります。 また、税が月収ではなく一回ごとの活動にかかり、税率が高めといったところが主な違いとなります」
冊子のようなものを見せられて大まかな説明をされる。冊子にはさらに細かい違いも表記されているが読む気にはなれないだろう。
「それでは、こちらの紙に記入をお願いします」
そう言って渡された紙には名前や年齢の他、自身の職業などを記入する欄があった。
「これって名前はどうしたらいいんだろうね?」
「カタカナがやっぱり良いんじゃない?」
「ですね、漢字は恐らく伝わりませんし」
「職業はアイドルでいいかな」
「でしたら私はプロデューサーで」
そうして三人は自身の情報の記入を終える。
「はい、たしかに受けとりました。 発行が出来ましたらお呼びするのでしばらくお待ちください」
三人はテーブルへ移動し、座って話をする。
「ステータスとかなんか才能とかそういうのじゃなかったね」
「まあ、普通はそうでしょ」
「冊子を読んでみましたが、どうやら発行時に本人と紐づけるために採血をすこしするらしいですね」
「えっ、ひょっとして注射器でって事ですか?」
いつになく慌てる様子で夕が反応を示す。
「そうだと思うが」
「あちゃー、夕ちゃん注射とかてんでダメだもんね」
「ああ、でもやらなきゃ貰えないんだろうし……」
夕は頭を抱える。そうこうしているうちに発行されたので三人は呼ばれる。
「発行が完了しましたのでご確認ください。 また、本人と紐づけるため血液を頂きますね」
「どうぞ」
そういって忠弥は腕をまくる。が困惑した様子で受付嬢は見つめる。
「あの…… 吸血魔法なので手のひらで大丈夫ですよ」
そう言うと受付嬢は指先を手のひらに触れさせる。すると赤い液体が一滴程度指先で浮き出す。
「えっ、魔法」
思わず、忠弥は声を上げる。おかしな目で見られるが驚く表情を見せるのは二人も同じだった。特に夕は注射器ではないことに喜びを露わにしていた。二人も同じようにして登録を終える。
「これで登録は終了です。 何かご質問等はありますか?」
「でしたら、広場のステージを使用するにはどうしたら良いでしょうか?」
「あ、あそこは自由会場なので予約が入っている時以外は自由に使用できます」
「その予約というのは出来ますか?」
「はい、可能です。 目的と日時を教えて頂いてもよろしいですか?」
「目的はライブで、日時は……」
忠弥は二人に聞くように目を合わせる。
「なるべく早かったらいいな、明日でも私は良いよ」
「私も、元々は今日?昨日?の予定だったんだし」
「それでは明日の午後14時に予約をお願いします」
「承りました」
そうして三人は自身のカードを手に入れ、ライブ開催日も決定した。その成果をもとに士気は上がり、良い気分の元、ギルドを出て次の目的地へと向かった。
「ついにライブが出来るんだね」
「あっちでは出来ずにこっちに来ちゃったからその分も頑張らないと」
三人は次なる目的地に向かいながら、明日のライブに胸を膨らませる。
「二人とも期待していますよ。 ところで踊りや歌は大丈夫ですか?」
「問題ないよ、こっちに来てからそんなに経ってないし全然覚えてる」
「私もー」
「それじゃあ安心です」
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