第四話 パン屋のナーブ家
ギギッと軋む音を鳴らす扉を通り、三人は家の中に案内される。中にはパンがいくつも並んでいる。
「パン屋さんだったんですね」
「そうだとも、とりあえずこの階段を上がってくれ」
店員が売るために入るであろうスペースには工房と階段がある。先導され、階段を上がると机と椅子などがあるリビングであろう部屋へ出る。
「おじゃましまーす」
「おじゃまします」
「お忙しい中、お邪魔します」
いつもの癖で三人は靴を脱ごうとするが、ここが日本とは違い、おそらく西洋に近い文化である事を思い出し姿勢を戻す。
「おーい、買ってきたぞ。 お客さんも来てる」
おじさんがリビングの扉の向こうへ声をかける。
「はいよ、今行きますよ」
ガチャリと扉が開き、中から奥さんらしき人が出てくる。服装は緑色のワンピースを着ている。
「どうも、お邪魔させてもらっています」
三人は頭を少し下げる。
「よく来たねえ、ささ、三人とも座って座って」
三人は気づいたらおじさんが並べていた椅子に座るよう言われ、夫婦二人の椅子と机を挟んで座る。
「うちはパン屋だからこれしか出せないけどどうぞ」
そう言われ、机には丸いパンがカゴに入れられて出てくる。
「わ! 美味しそう! ありがとうございます!」
「ありがとうございます。 頂きます」
宵と夕は手を合わせてパンを食べ始める。
「そんな美味しそうに食べてくれると嬉しいねぇ」
「ありがとうございます、とても美味しそうなパンですね。 是非食べさせてもらいますが、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」
「構わねぇよ、でも先にこっちから一つだけ質問いいか」
「はい、何でしょう」
「名前を聞いてねぇと思って、なんて呼べばいいのか分からんから教えてくれよ」
プロデューサーはハッとした顔でポケットから名刺を取り出してさしだす。
「お家に招待してくださっているのに失礼いたしました。 申し訳ないです。 私は覇島忠弥と申します」
忠弥が名刺を渡すと驚いたした様子で名刺を夫婦で眺める。
「あの、何かありましたか?」
忠弥は日本での習慣からとっさに名刺を出したが、こちらの世界では何か機嫌を損ねるような行動をしてしまったのかと心配そうになる。
「あったも何も、凄い印刷技術だ。 ここまで綺麗に文字が出ているのなんか見たねぇ」
「ほんとそうよね、字が違うのは国が違うからでしょうけど紙も触ったことのないような感触だもの」
「チューヤさんあんたの国は凄いんだな」
技術力にとても感心した様子で二人は名刺を眺める。
「ところで嬢ちゃんたちはなんて言うんだ」
「私は16歳の桜乃宵です! それでこっちが――」
「同じく16歳の七星夕です」
「へぇ、ヨイちゃんにユウちゃんか、ほんと美人さんだねぇ」
おじさんは二人に顔を見ようと顔を近づける。
「もう、おじさんの顔をよってかせないの。 ごめんなさいね、こんな感じで」
おじさんは自重しろと頭をペシりと叩かれる。
「ところで、お二人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「おお、すまねえ。 名乗らせたのに名乗らねえのは失礼だよな、俺はアンブス・ナーブっていうんだ。 気軽にアンブスとでも呼んでくれ。 仕事は見ての通りパン屋だが、仕入れとかの方担当だな」
「私は妻のリッシュルといいます。 私がパンを焼いたりしているね」
一通り自己紹介が終わったところで忠弥は本題に移ろうと夫婦に質問をする。
「大変失礼なことを聞きますが、なぜその場で出会った私たちを家に招待してくださったのですか?」
「ああ、この街をあんま知らないのか。 この街はいろいろな地域の境目にあるから旅人がよくやってくるんだよ。 旅人が来るおかげでこの街は潤うから、昔からこの街の人は旅人を歓迎してるんだよ」
「そうだったんですね、だとしたらこの街に来られたのは運が良かったです」
「そういや、何の目的でこの街に来たんだ?」
「私たちはその、アイドルという歌って踊る職業でしてそれを広めるために来たって訳で――」
一瞬、どういう事かアンブスは考える様子を見せたが納得し答えを出す。
「旅芸人とか踊り子みたいなもんか」
「あー、そうですそうですそのような感じです」
「いいじゃない、二人とも可愛い子たちで」
そうして五人は少しの間、パンを囲んで談笑を楽しんだり質問に答えてもらったが、開店の時刻も迫り、リッシュルが下の工房に降りたので三人は帰ろうとする。
三人は夫婦に深々と頭を下げてお礼を言い、出ようとすると引き止められ、街にある施設を書いた地図を渡してもらう。
そうして、三人はナーブ家を後にした。
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