第二話 死、それから 【改訂版】
(7/1追記:3話以降の書き方の方が見やすそうなので編集しました)
銀世界以上に明るく白く、ぽつんと木製の円卓と四つの椅子だけがある無機質な空間にポツリと三人の人影が現れる。
「っえ! 何……? ここ?」
車内で寝ていたはずの夕は異様なあたりの光景に驚きを隠せない様子で声を上げる。
「なんで? 私たちは車で移動してたはずじゃ……」
遅れて反応した宵も疑問の声を上げる。
「いつ、どこで車を降りたかすら記憶にないぞ……」
プロデューサーも二人の前で珍しく悩む様子を見せる。
多くの疑問を浮かべる三人が周りを見渡したり、声をあげて確認するが、自身のいる場所や何が起きたかを理解するよりも早くもう一人の人影が光と共に現れる。
「みなさん初めまして、私は女神、アルトリエスと申します」
光で目を閉じた三人が目を開けると白い衣に身を包む一人の気品溢れる女性が立っている。アルトリエスはペコリとお辞儀する。
「まって、なんで急に現れて女神とか言われても、理解が追いつかないよ」
「この空間といい、服装といいまるで本当に神様か何かみたいだ」
宵と夕はそれぞれの感想を述べるが、その場ではたった一人の男性であるプロデューサーは露出度の高さから目のやり場に困りながらもアルトリエスを見る。
「立ち話もなんですし、どうぞ椅子へお座りください」
アルトリエスは円卓を囲む椅子に座るよう、三人に促す。
三人は困惑し、お互いを見合ってからなし崩し的に椅子に腰掛け、それに伴いアルトリエスも腰を落とす。
「まず、皆様が困惑されているであろうこの状況についてですが説明いたしますので参考としてこの資料をお読みください」
そういってアルトリエスは三人に紙を配る。
その紙には『異世界転生について』とタイトルらしきものが書かれていることが読み取れる。
それを見た三人の表情が変わり、先ほどまでの困惑した表情からうってかわって不安げな顔つきへと変わっていく。
「ま、まってください。 まさか異世界転生って私たち死んだってことですか!?」
焦る様子の宵が身を乗り出して聞く。
「はい、そうです。 ご理解が早くてこちらとしても助かります」
平然と答えるアルトリエスを前に衝撃の事実を軽く伝えられた三人の間には沈黙と重い空気が蔓延する。
「なんで……? まだ私、16歳だよ……? まだやりたい事もあったし恋愛もしたかったんだよ。 これからアイドルとして頑張って、夢を叶えることを目指して努力してきた。 それなのにここで終わりなの? お別れもありがとうも伝えられてないのに……?」
俯いた宵は涙を机に落としながら、震える声と体で重い沈黙を破る。
「私も……、何も、何も出来てない! これからって時に死んだなんて、そんな事あり得ない! 私と宵で、二人で叶えようとした夢も始まったばかりなのに!」
「桜乃さん、七夜さん落ち着いてください。 大丈夫です。 すみません、流石にこれはドッキリだとしても二人への心情的な影響が大きすぎます。 大変申し訳ありませんが一度カメラを止めて頂けますか」
アルトリエスの言葉をドッキリか何かだと感じたプロデューサーは周りに声を掛ける、しかし何一つ返事は返ってこないことがこれをドッキリではないという証明を嫌でもしてしまう。
「どうしましょう、ここまでの心理的なショックを想定していなかったわ。 最近の日本人は異世界転生を喜ぶんじゃなかったのかしら。 大丈夫よ、急に伝えてびっくりしたわよね、まだ終わりじゃないからその為に貴女たちを呼んだのよ」
予想していなかった事態に説明の為、口調を作っていたのが崩れるほど焦る様子のアルトリエスだが、立ち上がって泣く二人の背中をさすり上げ、優しく語りかけることで落ち着かせようとする。
「俺がここで悲しみに浸っている暇はない、大の大人がここで折れてどうするんだ」
この状況を目の当たりにするプロデューサーは下を俯き、自身を鼓舞するかのようにいつもと違う一人称で独り言を呟く。
それから5分ほどの沈黙が流れたのち、二人の泣く声は収まる。
「二人とも、落ち着いたかしら?」
二人は無言でコクリと首を動かし、頷く。
「まずはその…… びっくりしたわよね…… いきなり死んだなんて伝えられても、こっちの配慮不足よ、申し訳ないわ」
アルトリエスは改めて、深々とお辞儀をする。
「まってください。 私たち三人が亡くなったとするとなぜこんな所にいるのですか」
プロデューサーは落ち着きを取り戻したのかネクタイを直し、アルトリエスを質問を投げる。宵と夕も同じ視線を辿る。
「ごもっともな質問です。 一から説明すると、貴方たち三人は仕事先へ向かっている最中でしたが、途中の山道で災害に巻き込ました。 即死でした。 この事故に関しては私たちが何かしたという訳ではなく、完全に偶然です」
三人は資料の木に潰された車の姿を眺めて息を詰まらせる。
「よ、蘇れるからここへ呼んだんですよね……?」
夕が不安げに質問をする。
「はい、その通りです。 本来であればそこから魂のみで審判が行われ、貴方達の世界でいう所の地獄などの行き先を決定するです。 ですが、貴方たちはアイドルという音楽に合わせて踊る大変文化的な職業ということだったので現在進行中の計画に参加する代わりに異世界で蘇ることが出来るというわけです」
三人はひとまずここで終わりではないことを理解し、ほっと胸を撫で下ろす。資料にはわかりやすく図とイラストが使われており、初めての人でも理解できるだろう。
「何より日本人は異世界転生ということに対して理解が深く、神を名乗っても怒る事がほぼない無宗教者ばかりなので候補者に上がりやすいのです」
二人は気付けば、落ち着きを取り戻しているのが分かる。プロデューサーは何かを考えているのか顎の下に手を置き、じっと話を聞いている。
資料には選考理由や異世界に行くにあたって、メリットや治安などのデメリットが記載されており、その中の一つである『能力』について宵が目を輝かせる。
「この能力ってひょっとして最近よく聞くチートとかそういうのですか?」
「あ、そういうの貰えるの?」
二人は意外にも乗り気な様子で質問をする。
「あ、その、チートとというほどではありませんが三人にそれぞれ手助けとなる能力を与えるつもりです。 また、転生先での目標ですが貴方たちのアイドル活動を通して現地の文化向上を手助けしてほしいのです。 よろしいですか?」
「三人って…… 私にも何かあるということですね」
プロデューサーは少し考える素振りを見せてから二人のほうを向く。
「お二人はどうしたいですか? お二人があちらでアイドルとしてまた活動をしたいのなら私はプロデューサーとして助ける為、ついて行きます」
二人の目を見ながら問いかける。
「私は、私は続けたい。 このまま私の人生が終わりだなんていやだから」
宵は決意に満ちた様子で答えを出す。
「私も続ける。 三人揃ってのこのグループだし、夢を簡単に手放したくないから」
夕も力強く答えを返す。
「では、異世界転生はするということで決まりでいいですか?」
アルトリエスが改めて確認をする。
「「「はい」」」
三人から二つ返事で返される様子に肩の荷が降りたのか、アルトリエスはほっとした様子を見せる。
「では、先程気にされていた能力についてです。 まず、三人共通の能力ですが、全員現地語について母国語と変わらぬように扱えるようにします。 これによって歌うことも聞くことも話すことも問題なく行えることでしょう。 また、私とは基本的に脳内で連絡を取り合えます。」
「それについて私は心配していましたが、どうやら問題なさそうで良かったです」
考える体勢をしていたプロデューサーは姿勢を変え安堵の表情を見せる。
「次に個々の能力についてです。 まあ、個々というと少し違いますね、アイドルの貴方達二人とプロデューサーにはそれぞれの能力を与えます。 二人には神力の一部である信仰心を自身の力とする能力を与えます。 貴方達の世界風に言うとファンの声援が力になるという事です。 私たち神との違いは信仰と判断される基準が軽めな代わりに、能力も神ように神通力が使えたりは出来ず、純粋に体力が付いたりとかその程度です」
「なんか、思ってたのと違う感じ」
期待ほどの凄さではない事に不服なのか宵は少し不満を漏らす。
「まあまあ…… 私たちはアイドルとして活動するんだからファンがそのまま力になるっていうのはとても嬉しいことなんじゃないかな」
夕は宵を諫めると共に、笑みを浮かべる。
「次に、プロデューサーの能力ですが、貴方にアイドルを守るために純粋な能力強化です。 無双出来るほどではありませんが、一対一ならまず負けないほどの十分な強さです」
「わかりました。保護者として、プロデューサーとして、彼女たちをきちんと守ります。」
「最後に忠告となりますが、決してそれらの力は悪用してはなりません。 あくまでも人を従わせるための力ではないのでその事をお願いします」
それらの説明を終えるとアルトリエスは三人に机から立つように言い、転生を始める旨を伝える。
「それではみなさん、ご活躍を期待しております」
笑顔を見送るアルトリエスに対し、三人は親指を立て返事をする。
すると三人の周りを光が包み込み始め、その場から三人の影は消えた。
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