第一話 夢に向かってLet's die 【改訂版】
ここからが本編の始まりです。(7/1追記:3話以降の書き方の方が見やすそうなので編集しました)
「……い! 宵! 早く起きなさい!」
朝から母の怒号で今日も目が覚める。本当ならあと5分いや、10分眠りたいところだが今日はきっちりと起きるしかない。今は何時だろう、スマホの時計を眺める。
「えっ、やば」
思わず声が出る。スマホは無慈悲にも8時を表示していた。まずい、完全に寝坊をしている。今日の集合は8時45分なのだ。幸い、出かける用意はすでに終えているので化粧とかを終わらせさえすればきっと間に合うはず。
「宵! 今日から仕事でしょ! ご飯食べて顔洗って早く出なさい!」
バタンと自室のドアが母によって閉められ、重い体を急いで起こす。
パジャマからいつもなら制服を着て学校へ向かうが今日は他所行きのお気にいりの洋服に着替え、髪をとかしながら一階のリビングへ駆け降り、机に用意された目玉焼きとトーストを一纏めにし、立ちながらかじる。
ラピュタのパズーが食べていたときもこんな味なのだろうかなどと考えた。行儀が悪いと母には言われているが、時間的にそんなことを気にして食べている場合ではない。
洗面所で顔を洗い、髪を結い、化粧はできる限り丁寧かつ高速にした。
鏡に映る顔を眺めるが特におかしな所は見当たらない……はず。玄関に向かって歩き、靴を履く。家を出ようとしたところで母に呼び止められた。
「宵、財布忘れてるわよ」
「あっ、ほんと? ありがとう。 それじゃ行ってくるね」
危ないところだった、母が教えてくれなければ何も買えないし乗れなくなってしまうとこだった。
「もう、気をつけてね。 いってらっしゃい。 頑張ってきてね」
「うん、それじゃ」
扉を開けて朝日が差し込むなか駅へ走り出した。
スマホの目覚ましの音で目が覚める。肌寒さを感じながらも、ベッドから起き上がる。
今日は今までで一番大きな仕事がある大事な日だ。おかげであまり眠ることが出来なかった、しかし車での移動はきっと長いだろうからその間に眠っていればいいだろう。そう思いながら洗面所でお湯が出ていることを確認してから顔を洗い、服を着替える。
まだ、みんなは眠っている、わざわざ作るのは面倒なので朝食はカップ麺をすすった。食べ終えると流しの方へ持っていき、冷たい水でザッとすすいでから化粧を始める。
いつもならもう少し雑にやってしまいがちな場所も一段と気合を入れて化粧をする。厚化粧になってしまっていないかと鏡で所々確認するがいい感じだ。
家族に今日から出かけることは前々から伝えているのでわざわざ起こしてまで声をかける必要はない。
準備が終わり、忘れ物がないように荷物を確認する。きちんと揃っていることを確認し、玄関に向かいスリッパから靴へと履き替えて家の扉を開く。
眩しさを感じて目を少し細めて歩き出した。
吐く息が白く染まるような気温の中、三人の人が立っている。
「今日は温泉宿での営業になりますから車での移動時間が長いのですが準備は済ませましたか?」
こじんまりとした事務所の駐車場に停めてある黒い車の前でスーツケースを持ってニコニコしている宵と夕に黒のスーツを着た青年が確認をする。
確認を終えると車のトランクへ二人の荷物を積み、乗る様に促す。特に問題もなく積み終わり、二人は暖房の効いた車内の後部座席に座った。
「はぁ〜、生き還るぅ…… 外が寒すぎて死ぬかと思った」
宵はまるで体が溶けていくかのようにダラリと座席に座っている。
「なんかその『生き還るぅ……』の言い方おじさんみたい」
クスッと笑った夕が反応する。
「ところでプロデューサー、移動って何時間ぐらいかかるの?」
アイマスクをつけて完全に寝る体制に入った夕が背もたれを倒し、聞く。
「渋滞に巻き込まれなければ大体4、5時間ぐらいですかね。 それじゃあ、出発しますよ。 眠かったら寝てて良いですからね、ってわざわざ言うまでもありませんでしたか」
運転席に座って、バックミラーを調整しながら、微笑んで答える。そして、車が動き出し周りの景色も動き出す。
窓が曇るような寒さの中で三人を乗せた車は目的地へと向かって進んでいく。
街を少し行き、高速道路に入る。
快調に高速道路を走っていたが、ある地点で渋滞に巻き込まれてしまう。それ以上の渋滞を避ける為、下道を使おうと車は出口へと道を変える。
下道も出口直後は少し渋滞気味だったが、マンションを通り過ぎ、商店街を通り過ぎ、畑を越え、山道へ入る頃には最初の快調さを取り戻していた。
山の木々の葉は既に落ち切っており、活力溢れる緑も美しい紅葉も見られない。が、それはそれで物静かな山が美しく感じられることだろう。
時々見える落石注意とシカ飛び出し注意の看板しかない山道を車は進み続ける。
特に問題はないかと思われたが、木が倒れる音が聞こえだす。運転をしていれば気にならない程度の音だが外に出ればはっきりと聞こえるだろう、聞こえていれば避けられただろう。しかし、気づくことはなく落ちてる木に車は潰される。少しの断末魔すら聞こえず、木が落ちた音だけが聞こえた。
黒い車体は誰が見ても中の人は死んでいることを察するほどだろう。隙間から流れる血がそれを強く感じさせる。
それはニュースではただの一事故、一遅延だが、人が死ぬのには十分な事故だった。
異世界転生も始まらず、女神も現れないのに人は死ぬことに混乱している方もいるかもしれませんがご安心ください。次からは転生も始まり、女神も現れることでしょう。
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