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東方連小話  作者: 北見哲平
小野塚小町 〜 死神と少女と赤いスケジュール帳
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小野塚小町 - その10

「見えてきたよ。あれが碑妖璃の家。普段は、若干離れた遊び場まで遠征しているんだけど、今日はまだ時間が早いから大体皆揃っていると思う」

「おお~。年季が入って、ありとあらゆる所にガタがきている我が家とは大違いだな。そろそろリフォームを考えようかな」

「あたいの日曜大工で手伝ってあげようか?この鎌は、へたな鋸よりもよっぽどよく切れるんだ」

「成程。小町殿は毎日が日曜みたいなものだからな」

「きゃん」


 そんな馬鹿な会話をしながら碑妖璃の家の前に降りる。相変わらず立派な家だ。慧音がリフォームを考えるのも何となく分かる気がする。

 古いことは悪い事じゃない……ただ、新しいに越したことは無い。あたいはそう思う。


「ピーー!」

「ワンワンワ~ン」

 あたいが来たことを察知した風吟と電電がいち早く家から飛び出してきた。

 風吟と電電は特にあたいに懐いている。あたいは特別動物好きというわけではないが、悪い気はしない。

スッ

「おお、風吟は相変わらずあぶねぇな!電電も放電しながらあたいの元に掛けてくるな!そして足元でじゃれるな!」

 風吟は当たり前のように、例の如く大きな弧を描きながらあたいの肩に着地した。そして、電電はビリビリと軽く電気を纏いながらあたいにじゃれついてくる。

 正座もしていないのに足が痺れてくるのは、今となっては最早ご愛嬌だ。

「小町殿。随分人気者の様だな。私にも紹介」

「ピィィーーーー!」

 慧音があたいに話しかけてきた途端、風吟が耳に痛い叫び声を上げた。耳もとで叫ぶものだから、あたいにとっては痛さも倍増だった。

「な、なんだ。急にどうした?」

 戸惑いの表情を見せる慧音とは裏腹に、威圧的な眼光で彼女を睨み付ける風吟。ハクタクの慧音ならともかく、人間時となると……ある程度予想していたことではある。一応慧音にはこうなるかもしれないことを伝えていたが……。

「小町殿。私は何か気に障るようなことでもしたか?」

 慧音を威嚇するかの様に、容赦なく妖力を放出する風吟。首元がぞわぞわして若干気持ちが悪い。

 ……それに、

「ガルルルルーー」

 足元がさっきよりもピリピリすると思ったら、電電も慧音のことを外敵と認識し、妖力の代わりに激しく放電を行っていた。

 敵意が剥き出しの彼らを前に、流石に慧音も身の危機を察したのか身構える。

 ……。

「ちょっとあんた達。あたいを中心にあまり興奮しなさんなよ。特に風吟!あたいの肩に乗っていること忘れないでよ。……悪いね慧音さん。こいつら血の気が多くてさ。まあ、遊びたいお年頃だということであまり怒らないでやってくれ」

 と言ってみたものの、緊張した空気は変わらない。毛を逆立てながら慧音を威嚇する二匹と、それに全く動じることなく、鋭い目付きで睨み返す慧音。完全にあたいだけ取り残された気分になった。


 でもまあ、慧音に限ってもしもは考えにくいし……こうなったらなるようにしかならないか。あたいも元々は一戦交えてから仲良くなったことだし、人のことは言えないよね。


「ラウンドワン!……ファイッ!」

 私の掛け声と共に、戦いの火ぶたは切って落とされた!

「ダメーーーー!」

「……っと」

 今まさに、風吟と電電が慧音に飛びかかろうとした瞬間だった。周囲一帯に碑妖璃の大声が響き渡った。

 ふう、これで何とか収まりそうだ。

「風吟も電電も落ち着いて!……それにこまっちゃんも「ファイッ!」とか煽ってないでもう少し止めてください」

「あれ、聞こえてた。ヘヘヘ~」

 碑妖璃の一言で、風吟も電電も一瞬にして大人しくなった。あたいの言葉など聞く耳もたず、という感じだったのに。流石としか言いようがない。

「ヘヘヘ~じゃないですよ。あっ、みんな大丈夫だよ。この方は人間じゃないから」

 碑妖璃はあっけなく言ってのける。どうせなら「人間じゃないから大丈夫」ではなく「こまっちゃんが連れてきた人だから大丈夫」と言ってほしかったという気持ちはあったんだけど……。

「お、驚いたな。普段は妖力を抑えているつもりだが、それでも私に妖怪の血が流れていることが分かってしまうのか」

 珍しく慧音が驚いているのとは裏腹に、どことなく嬉しそうな碑妖璃。

「分かりますよ。だって私は以前に一度、貴女に会ったことがあるんですから。その時は妖怪の姿をしていましたけど、雰囲気ですぐに分かりました。お久しぶりです、半獣人さん」


 ……。

 …………は?


「って、ちょっと慧音さんどういうこと?碑妖璃と知り合いだっただなんて聞いてないんだけど!」

 マジで意外!

 嘘?ホント?それとも幻?

「わ、私にも何のことだかさっぱり。よし待てよ、今私の中にある自分自身の歴史の引き出しを一つずつチェックしてだな……」

 いやいや、その引き出しは一体いくつあるんだって!

「ふふふ……。すぐに出てこないのも無理はありません。だって、私はその時まだ子供でしたから。こんなに小さな子供でした」

 碑妖璃は、手のひらを地面と平行に寝かせて、その時の背丈を表現する。……ってか、小さいな。幼女も幼女、5歳かそこらじゃないのか?

「……子供?」

 慧音は腕を組んで考える。

 軽くみても10年以上前になりそうだから、もしかしてまだ碑妖璃が人間と暮らしていた時のことか?

「まさか……いやしかし。……う~ん、でも他に考えられないからな」

「思い出してくれました?」

「あ……ああ。うん、成程。確かにそう言われてみれば面影が……妖怪の森で偶然出会った少女か?」

「覚えていてくれて嬉しいです。私は碑妖璃です。よろしくお願いします」

「う、うむ。……私は上白沢慧音だ。よろしく頼むぞ!」

ぎゅむっ!

 そして、二人は再会を記念してがっちりと握手を……って!

「ちょいちょいちょいお二人さん。ってか慧音さん。あたいを無視して勝手に盛り上がらないでくれるかい。碑妖璃もあたいに対しては、友人として説明する義務があると思うね」

 ……意外だ。これは意外過ぎる展開だ。妖怪の森で出会ったってことは、碑妖璃が人間から離れて暮らすようになった後の出来事か。

 とにかくここは、あたいだけおいてけぼり的な感じになるのだけは避けないといけないね。


「私の方から説明しよう。実はだな、今から10数年前……教え子が二人、妖怪の森に入ったまま帰ってこないという出来事があってな。いや、まあ元はと言えば私が招いてしまったことだったのだが、お恥ずかしい。まだまだ教師として未熟だったのだろうな。その日が丁度満月だったってこともあり私はハクタク姿で、二人の親友である教え子と共に物凄いスピードで森を捜索していたのだが、何分普段は足を踏み入れない場所だ。地理に疎く、捜索は難航していた。……で、その時出会ったのが彼女だったわけだ」

 いきなり碑妖璃が登場したんだけど!

「は?何か話、飛んでないかい?」

「いやいや飛んでないぞ。何しろ本当に突然の出会いだったのだ。彼女は森の案内役として鬼火のボウボウだったか、を紹介してくれた。そして彼?彼女?のおかげで大切な教え子を救うことができたのだ。いや~、あの時は本当に世話になった。後日お礼がしたくて何度か森を探したのだが結局……申し訳なかった」

「いえいえ。……あの後、ボウボウから一部始終を聞きました。慧音さんのことも。あっ……慧音さんって呼んでもいいですか」

「ああ、構わないよ。私は碑妖璃ちゃんと呼ばしてもらおうか」

「碑妖璃でいいですよ。こまっちゃんもそう呼んでます」

「それは助かるよ。碑妖璃」

「はい。えっと……それで何の話でしたっけ。あっ、ボウボウから慧音さんのことを聞きました。慧音さんが半獣人だということ。慧音さんが人間の里で先生をしていること。慧音さんが人間の味方だということ。……私はそれを知って、慧音さんが可哀想だと思いました」

 久しぶりの再会を喜んでいるのかと思いきや、碑妖璃は突然慧音に……何か嫌な予感がする。

「可哀想?……どうしてだ?」

「だって、慧音さんは人間達に利用されているだけだと思ったからです。慧音さんの力を体良く利用して、人間の敵である妖怪から守ってもらう為に。慧音さんが優しい人だってことは分かります。でも、だからこそ人間は慧音さんの優しさに付け込んでいるだけなんです」

「私が人間に利用されている、だと?」

 突如慧音の口調変わる。初めて聞く口調だが、明らかにやばい感じがする。

 ちょっと、気持ちは分かるけど、碑妖璃もその辺にしておいた方がいいんじゃないかな~。と、心の中で言ってみる。案の定、完全に取り残されてしまったあたいに、この流れを止めるだけの力は無い。


「そうです!それで、用がなくなったら裏切って、簡単に切り捨てる。それが人間です。私は慧音さんのことが心配なんです。人間に見捨てられて、それで傷付いてほしくないんです!」

「人間が私を裏切って見捨てる、だと?」

「だから、慧音さんも私達と一緒にここで暮らしませんか?みんな大歓迎してくれるはずです」

 碑妖璃……それは無理だよ。

「碑妖璃。逆に聞くが、碑妖璃は人間のどんなことを知っているんだ?」

「人間のことはよく知っています。傲慢で、卑劣で、卑怯で、狡猾で、自分勝手で、我がままで、他人の気持ちを平気で踏みにじって、平気で傷付けて、平気で裏切ることができる最低の」

ゴッ!

「うぁっ!」

 気が付けば、慧音が繰り出した電光石火の拳骨が碑妖璃の頭にクリーンヒットしていた。人間のことを罵倒され続け、いつもは優しい慧音も怒り心頭に発したのか、体は小刻みに震えている。更に、いつもは仏様の様に穏やかな表情も明らかに強張ってかなり怖い。

 ヤバいな~。あたいは悪くないぞ。

「なっ、何するんですか!痛いじゃないです、か……」

 碑妖璃は、そんな慧音を見て言葉を失う。きっと、それまで碑妖璃には慧音がとても優しい印象に映っていたのだろう。まあ間違ってはいないが、慧音は怒ると怖いっていうのも有名な話。

「まだ20も生きていない小娘が分かったような口を聞くな!人間が傲慢な生き物だと?それくらい知っている。自分勝手で我がままなことも知っている。私利私欲に走り、時には誰かを傷付けてしまうことだってある。碑妖璃の言う通りだ!ああその通りだとも!しかし、どうしてそれだけだと言い切れる?悪いところしか見ていなければ、良いところなど見えてくるはずがない。確かに私は半獣人だ。それを引け目に感じたこともあるし、この体のせいでつらい思いをしたこともある。だが、人間はそれ以上のものを私に与えてくれた。とても温かく、優しく、私が私でいられる場所だ!……碑妖璃の過去に何があったのかは知らない。だがな、私の生き方を否定する権利など無い!私は今、幸福なのだ。私はこれからもずっと、人間の里の慧音先生で在り続けたいのだ。だから、私は碑妖璃と一緒に暮らすことはできない!」


 慧音に拒絶されたからか、それとも拳骨が痛かったからなのか、はたまた別の想いがあったからなのか、気が付くと碑妖璃は、瞳から涙を流していた。この状況で風吟や電電が大人しくしているのは意外だったが、慧音に殴られてからそのままの表情で涙だけを流す碑妖璃が、それ以上に異様だった。

 ……そして、

「け、慧音さんに何が分かるっていうんですか!私が人間に与えてもらったものは何も無い。私の気持ちを利用して、踏みにじって、大切な家族をたくさん殺した!……慧音さんと初めて会ったとき力を貸したのは、妖怪である慧音さんと人間の少女との間にとても強い絆を感じたから。自分と同じだと思ったから。でも、後で慧音さんことを知って後悔した。……私はただ、慧音さんを救いたかっただけ。それだけなのに……うぅ、えぐっ……ううぅ……うあぁぁぁーーー」

 顔を崩して、子供の様に声を上げて泣いた。

 あたいには、碑妖璃を慰めてやることはできない。当然、友人として声を掛けてやることはできるかもしれないが、あたいの言葉は驚くほど軽い。自分で言うのもなんだが、気休めだ。なぜならあたいは、碑妖璃の様に人間に裏切られたことは無いし、人間を憎んだことも無い。妖怪でありながら、人間からは常に「死神」として見られてきたあたいは、山の河童や天狗の新聞記者の様に、妖怪でありながら人間と独自の付き合いをしてきた希少種と言えるのかもしれない。……だからこそ、あたいの言葉は軽い。人間と妖怪との垣根を平然の踏み越えてきたあたいには、ここで慰めの声を掛けてやれるほど経験値は無い。苦労を知らないあたいがしゃしゃり出る幕じゃない。

「……くっ」

 ……そう割り切ってしまう自分が、少しだけ寂しい。

 だからせめて、

「慧音さんっ!碑妖璃のこと」

ザッ

「……あ」

 あたいの口よりも先に動いた慧音は、先程までの怒りが嘘のように優しく、碑妖璃を抱きしめていた。


 だからせめて、碑妖璃のことを慰めてほしい。そう言いたかった。あたいには碑妖璃を泣かせることはできないと思う。あたいは、碑妖璃を泣かせられるほどの言葉を持っていない。

 ……でも、慧音は違う。彼女と碑妖璃は、生き方こそ違えど非常に似通った存在だ。今は大きく変わってきているようだが、以前の慧音は妖怪を敵と見なし、碑妖璃は人間を憎んできた。それは全く逆の生き方かもしれない。ただ、今の碑妖璃が妖怪と人間の敵対関係が元で在るのなら、今の慧音が在るのだって同じ理由だと思う。碑妖璃が絶望と悲しみの道を辿ってきたのであれば、慧音は困難と苦心惨憺の道を辿ってきた。別に、どちらかの何かが圧倒的に優れていたわけではない。目の前に現れた岐路を右に進むか、或いは左に進むか、その程度の違い。人間の世界で普通の女の子として幸せに暮らす碑妖璃も、妖怪の森深くの一軒家でひっそりと隠居する慧音だって想像に難くない。そう考えると、二人にとってのゴールは、分岐した道が再び交わる場所は同じなのかもしれない。いや、同じであるべきだと言う方が正しい。

 だからこそ、慧音に碑妖璃を慰めてほしいと思った。慧音が泣かせたのだから責任も取ってほしい、と言うわけではない。慧音は碑妖璃を泣かせることができたのだから、慰めることだってきっとできるはずだと。あたいとは違い、碑妖璃と似た生き方をしてきた慧音だからこそ、碑妖璃に対しては常に真正面から向き合えるはず。怒ってもいい。殴ってもいい。ただ、彼女の心に響くような言葉を掛けてあげてほしい。それは、あたいには絶対できないことだから。

「慧音、さん……」

 碑妖璃の華奢な体は、まるでそこが定位置であるかの様に慧音の腕の中に収まっていた。背丈もさほど変わらない二人。だが、慧音の存在がとても大きいものに見えた。


「確かに、私には碑妖璃のことが何も分からない。どうしてここに住んでいるのか。どうして人間を悪く言うのか。……ただ、どうして泣いたかは分かる。私の為に泣いてくれたのだろう?……ありがとう。碑妖璃はとても優しい子だ。だから、そんな優しい碑妖璃がどうしてあんなことを言ったのか知りたい。まずはお互いのことを知らない限り、前には進めないだろう。その結果、私にできることがあったら力になろう。碑妖璃には大きな借りもあることだし、尽力することを誓うぞ。私は、人間のことを心から愛している。しかし、近頃になって妖怪に対する考えも変わってきた。お互いに傷付ける意思がなければ、妖怪だっていい連中ばかりなのだと。私はそんな連中を、とても愛おしく思う。……碑妖璃。私のことが怖いか?可哀想だと思うか?」

 碑妖璃は、慧音に抱きしめられたまま窮屈そうに首を横に振った。

「……ごめんなさい」

 そして、素直に謝った。

「構わない。私も大人げなかったな」


 出会った当初から、あたいは慧音が優しい人物なのだという印象を持ち続けてきた。その証拠として、半獣人でありながら人間に信頼され、そんな人間の信頼に漏れ無く応える。口には出さなかったが、心の中ではずっと「慧音は何気にスゲー」と思っていた。このあたいがスゲーと思えるほどなのだから、本当に凄かったのだろう。

 妖怪を徹底的に敵視していたのも人間を大切に想うが故であり、そりゃあ妖怪達には評判が悪かっただろうが、どっちかと言えば正当防衛みたいなものだろう。恐らく、彼女が本心から妖怪を殺したいと思ったことは一度だって無いはずだ。もしかしたら、人間を守る為に妖怪を殺すことをやましく感じていたのかもしれない。

 そんな慧音だからこそ突然博愛精神に目覚めた今、その包容力は半端じゃないと思う。どんな凶悪な妖怪だろうが、どんな危険思想を持った人間だろうが、どんなサボりに人生を掛けているような死神でも、話を聞いては許し、良い方向に導いてくれるような気がする。或いは、それが教師の性分だったりするのだろうか。

 兎にも角にも、今の慧音は以前にも増して「スゲー」と感じる今日この頃。四季様も、博愛精神とまではいかないとしても、部下を思いやる気持ちがもう少しあれば、あたいも後ろめたさを一切感じずに仕事をサボることができるってのに……いや、マジで。

 いくらあたいでも、流石にこれだけ毎日サボってたら後ろめたく感じてるって!多分。


「まあまあお二人さん。話をするなら中でどうぞ。美味しいお茶と干ししいたけを食べながらさ!」

 私が口を挟むと、碑妖璃は瞳を涙で潤ませながらも少し呆れた表情で言った。

「何かもう、この家こまっちゃんの家みたいですね」

「って言うか、今はあたいの仕事場って感じだけどね」

 二カッと、芸能人張りの白い歯を見せた私に対して、今度は慧音が心底呆れた表情で言った。

「全く、小町殿は相変わらずだな。私も、一度でいいから週休7日制を体験してみたいものだ」

「失礼な、平均すると週休約6日制だよ」

 あたいは自慢げに、とにかく赤いスケジュール帳を広げた。

「でも、つくづく思うよ。確かにあたいはサボりすぎだけど、死神の仕事が無くなってしまうくらいの世の中の方が、多分丁度いいんじゃないかって。……まあ、主に仕事をサボったことがバレた時の、論点逸らしの上等文句だけどね」

 そして、四季様には一度も通用したことが無い……当たり前か。


「さて、それじゃあたいは、心地良い朝日を浴びながら小鳥とお喋りでもしているよ。お二人ともどうぞごゆるりと」

「えっ、こまっちゃんは来ないんですか?」

「悪い。あたいは朝日を吸収してエネルギー変換するタイプの死神なんだ(意味不明)。だからパス。まあ心配はいらないさ。慧音さんはあたいの1兆倍優しくて立派なお方だから。……だから、正直に本音を全て打ち明けてもいいと思うよ」


「分かりました……こまっちゃんのエネルギッシュさは、朝日のおかげだったんですね」

「ま、まあね!」

 信じられてしまった。碑妖璃はあたいのことを植物性の妖怪とでも思っているのだろうか。

 ……取り敢えず、あまり気にしないことにしよう。



 碑妖璃と慧音が家の中に消えて行ったのを確認してから、あたいはゆっくりと瞳を閉じて自分の行いを振り返ってみた。

「いつもに増して、無責任じゃないか」

 慧音に碑妖璃を会わせた張本人の癖に、碑妖璃の友人の癖に……結局碑妖璃のことを慧音に任せてしまった。

「小鳥とお喋りだって?なんだそりゃって感じだよな!……でも」

 碑妖璃は、あたいが碑妖璃の過去を知っていることを知らないはずだ。にゃん子も、あたいに話したことをわざわざ碑妖璃に報告しないと思うし、あたいは碑妖璃と付き合う際に、過去をそっちのけにして接してきた。

 だから本当のところは、知らない振りをして碑妖璃の話を聞く自信がないだけ。それはあまりにもあたいらしくないと思うわけだ。

「……ふぅ~」


 正直、若干展開についていけなかった自分じゃ足手まといになるのが落ちだと思ったから。なんて、そんな言い訳がましいことを考えるあたい。

 情けないな……。


「さて、まずいお茶でも飲もうかな」

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