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東方連小話  作者: 北見哲平
小野塚小町 〜 死神と少女と赤いスケジュール帳
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小野塚小町 - その7

「その日は、雨の降りそうな天気だった。空の暗さと森の中というのが相まって、昼にも関わらず辺りが薄暗かったことを覚えている。それに、雨続きだったこともあって、ジメジメと蒸し暑かった。あたしも正直、寒いよりはいくらかマシとは言え、あまり好きな天気ではなかった。……でも、そんな天候でもみんなの心は浮いていた。勿論あたしもね。その日はひよりんと一日中遊べる日だったんだ。だから、みんな例の通りあたしの住処に集まって、ひよりんが来てくれるのを今か今かと待ちわびていた。多少雨が降ろうが風が吹こうが、その程度のことは関係無かった。むしろ雨の日には、雨の日なりの楽しみ方がある。そんな感じだった。……でも、その日は少し変だった。いつもの時間になってもひよりんが来なかったんだ。今までそんなことは一度も無かったから、あたしはとても心配になって、もしかしたらここに来る途中で何かあったのかもしれないと思った。いくら妖怪と心を通わす能力を持っていたとしても、ひよりんはまだ子供。なにがあっても不思議じゃない。時間が経つにつれて不安は募り、早く安心したいという感情が膨らみ、居ても立ってもいられなくなった。気が付けば、空からは大粒の雨が降り注いでいた。雨に濡れれば人間は風を引く。もしかしたら、ひよりんはどこかで雨宿りをしているのかもしれない。だとしたら天然の傘を持って迎えに行ってあげなくちゃいけない。……今行くからね、ってそんなことを考えて不安を解消しようとした。そして、あたしは近くに生えていた傘型の葉っぱをむしってひよりんを迎えに行く準備をしていた……その時だった。あたしは周囲に妙な気配を感じた。とても威圧的で、重く冷たい気配。あたしはすぐさま気配がする方向に目を向けてみたけど、そこは真っ暗で何も確認できなかった。でも、その先に誰かが潜んでいるのは間違いなかった。あたし自体が、もしかしたら気配に敏感だったのかもしれない。周りのみんなは誰一人としてその気配に気付いていない様子だった。ひよりん?……一瞬だけそう思ったけどそれはすぐに違うと判断した。ひよりんはこんなんじゃない!それに、気配は一つや二つではなかった。五、十……無数の気配があたし達を取り囲むように並んでいた。それはまるで、獲物を外に逃がさない為に陣形を組んでいるかのようだった。……寒気がする。別に雨に濡れたからじゃない。これから何か悪いことが起こる直感だった。……次の瞬間、森の中に叫び声の様な掛け声が、騒々しい雨音を切り裂くかの様に響き渡った。みんなは突然の出来事にキョロキョロと周りを見渡す。「みんな伏せてー!」……鈍い光を放ちながら自分達に降り注がれる凶刃を辛うじて確認したあたしには、咄嗟にそう叫ぶことしかできなかった。矢の雨……そう形容するのが一番妥当だと思えるほど、そこには絶望が広がっていた。……あたしはなるべく小さく蹲って矢を避けようとした。みんなのことが心配。でも、その時はみんなのことを考えている、守ってあげられる余裕が無かった。矢が激しく地面に突き刺さる音と、大切な仲間達の悲痛な叫び声。怖い、怖い……死にたく無い」

 にゃん子はその時のことを思い出しているのか、よく見ると小さく震えていた。


「少しすると矢の音は聞こえなくなった。体中が痛かった。肩、腕、足。自分の体を一通り見回すと、数本の矢が容赦なく突き刺さっているのが分かった。どうりで痛いわけだ、でも急所に刺さっていなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。今となってはそう思うしかない。あたしは力任せに刺さっている矢を引き抜いた。自分が生きる為に必死で、周りを気にしている余裕は無かった。少し前よりもずっと暗く映った森の奥に目を向けると、大勢の気配がこちらに近付いてくるのが分かった。それがどうしてなのかを考えるよりも先に体が動いた。生きたい本能……隣に立っていたのは大きな一本の木だった。よくひよりんと一緒に登って遊んだ木。ひよりんはまだ小さいから、あたしが手を貸してあげないと一番低い枝にも登ることができなかった。……でも、楽しかった。そんな想い出がたくさん詰まった木。痛々しいほどに矢の雨に晒されていたけど、直撃するはずだった数本の矢からあたしを守ってくれたのも事実だった。ありがとう……あたしは持てる力を振り絞ってその木に登ろうとした。手に力が入らない、雨で手が滑ってしまう……ごめんなさい。あたしはそう何度も謝りながら必死で爪を突き立てて木を登った。少しでも上へ、少しでも安全な場所へ……。そして頂上付近まで登りきったあたし。その後はボ~っと下を眺めていた。武器を持って押し寄せて来た人間達を見た時、やっぱり自分は甘かったんだ……そう思った。傷付いた仲間達が容赦なく殺されていった。でも、不思議と怒りは感じなかった。ただ悲しみと失望が、あたしの胸を覆い尽くして、息ができないくらいに苦しくて。クラクラして。みんなの最期を上から見届けることしかできなかった。……あたしは生きなきゃ。でなきゃ、ひよりんは一人になってしまう。あたしは自分が生き残ることに必死だった。……しばらくすると人間達は去って行った。笑い合いながら、ハイタッチを交わしながら。……ああこれが人間なんだと思った。そして、自分はなんて無力なんだろうと思った」

 無力……違うよ。それは何もできない奴のことを言うんだ。

 碑妖璃の為に生きて、人間に裏切られて傷付いた彼女をずっと側で支えてきたにゃん子は、とても強い。きっと、あたいよりもずっと。


「……その後、気を失ったあたしが再び目を覚ましたのは、ひよりんの大きな泣き声聞いた時だった。ううん、それは泣き声と言うよりは叫び声と言った方がいいのかもしれない。あれ程、号泣にふさわしい泣き声を聞いたのは後にも先にもあれっきりだった。……理不尽。あまりにも理不尽だと思った。どうして誰よりも優しくて、誰よりもみんなを愛して、誰よりも平穏を望み続けたひよりんが泣かなくちゃいけないんだ。雨は相変わらず降り続いて、いつの間にか木から落下していたあたしは、雨と血に濡れた大地の上で涙を流した。やっぱり怒りの感情は出てこない。ただ悔しくて悔しくて、悔しくて泣いた。あたしには、もう号泣する程の力は残っていなかったけど、力一杯拳を握り締めて。……そして、あたしは必至に体を起こした。あたしの悔しさよりも、ひよりんの悲しさの方がきっとずっと大きいんだ。だから、これ以上ひよりんを一人で泣かせちゃいけないと思った。あたしが、力の無い声で名前を呼ぶと、ひよりんはすぐにあたしの元に駆け寄ってきてくれた。顔は涙でグチャグチャで、服だってみんなの血で紅く染まっていた。みんなが大好きだったひよりんの表情はそこには無かった。でも、その小さな胸で抱きしめられた感覚は、やっぱりひよりんだった。初めて出会った時と同じ、何でひよりんってこんなに温かいんだろうと思った。「守ってあげるって約束したのに、守ってあげられなくてごめんね」と、あたしは何度も聞いた。あたしは、自分の伝えたいことを必死で抑え込み、今はひよりんの気持ちだけを受け止めてあげたいと思った」


 一通り話し終えたにゃん子は、軽く瞳に涙を浮かべながらあたいの顔を見つめてきた。

「なんかごめんね。つらいこと思い出させちゃって」

 今更。本当に今更だ。

 でも、やはり聞かないと分からないことや、聞いておきたかったこともある。

 自分を正当化しているわけではなく、ただ単純に碑妖璃のことについてもっと知っておきたかったのだ。

「グズンッ……全くだよ、こまっちゃんデリカシーのかけらもないんだもん」

「悪い。お詫びに今度あたいの船に乗せてあげるから、それで許してや」

「却下!」

「きゃん」


 ……。

 …………。


「結局人間達の狙いは、あたし達を皆殺しにすることだった。約束なんて嘘だった。初めからひよりんのことを利用するつもりだったんだ。ひよりんを安心させることであたし達の動向を探って、ずっと襲撃の機会をうかがっていたんだと思う。そうとも知らずに、もうひよりんが悩むことは何もないとか浮かれていた自分が、恥ずかしくて情けなかった」

「それはにゃん子ちゃんが悪いことじゃないよ。多分人間が悪いわけでもない。まあ、嘘をついたのはよくないことだけど、何かを達成するために誰かを利用する。あたいは幻想郷担当の死神だからよくは知らないんだけど、外の世界では当たり前のように行われてきたことみたいだよ」

 自分の商売相手の人間だから庇ったわけではない。これは本当にどうしようもないことなのだ。敵を討つ為においしい餌が転がっていたら、誰だって飛び付きたい衝動に駆られる。それを利用するかどうかは、裏切られた者の気持ちを考えられるかどうかだ。まあ、どちらがいいとも一概には言えないのが非常に微妙なところではあるが。

 人間は、常に裏切られることを恐れている。それ故の非情さなのかもしれない。

「分かってる。分かってるよ。あたしは全てを人間の責任にするつもりはない」

 にゃん子は人間を憎んでいるわけではない、と思う。話を聞いていて何となくそう感じただけだが、碑妖璃もまた人間。人間を憎むということは、碑妖璃さえも憎んでしまうことになってしまう。もし憎む相手がいるとすれば、それは碑妖璃を裏切った里の連中だ。

 それに……、


「でも、ひよりんは人間を憎んでいる。だからこそ、そんな憎むべき相手が居ない森の中で暮らすことにした。……あの日、ひよりんは人間である自分を捨てたんだと思う。もしかしたら、自分が人間だという事実が嫌になったのかもしれない。ううん、嫌で嫌で堪らなかったんだと思う。ひよりんはよくあたしに言ってた。自分もにゃん子ちゃんみたいに妖怪になれたらいいのにって。……あたしは伝えたかった。あたしは、人間のひよりんが大好きなんだって。でもそんな、寂しそうに話すひよりんを見たら言えない。そんなこと言えないっ!言えるはずがないっ!」

 にゃん子はやや感情的になる。気が付けば、一度は止まっていたはずの涙が再び瞳から零れていた。

 やっぱりにゃん子は、

「碑妖璃が人間達と一緒に暮らせることを望んでいるんだね」

「当り前でしょ!ひよりんは人間。人間だよ!あたしはそんな、人間のひよりんが大好きなんだ。誰よりも大切で、誰よりも幸せになってほしい!……でも、人間でありながら人間を憎んで生きて行くのが本当の幸せのはずがないじゃない!確かにあたしにとっては、大好きな人とずっと一緒に暮らせていいことなのかもしれない。……でも、初めて出会った頃のひよりんはそうじゃなかった。人間の両親が好きで、人間の友達が好きで、あたし達妖怪を好いてくれた。それがひよりんだった。だから、ひよりんの幸せはその先にしか無いんだよ!……あたしは、ひよりんに人間の世界を捨ててもらいたくなかった!」

「じゃあはっきり碑妖璃にそう伝えればいい」

「そんなこと言えるわけない。言えるわけないよ!……だって、ひよりんがどんな気持ちで人間を憎んでいるかを考えると、そんな無責任なことは言えない!だって、あたしには何も出来なかったから。悔しいくらい、情けないくらい何も出来なかったから。だからあたしには、それをずっと望んでいても伝えることは出来ない。伝える資格も勇気も無い……一番ひよりんのことが好きだって言い張っているあたしが、聞いて呆れるよね」

「いいや、呆れたりなんかしないさ。にゃん子ちゃんは間違いなく碑妖璃にとって一番の家族だと思うね」

「……ありがとう」

 にゃん子は、ほんの僅かだが表情を崩して礼を言った。

 様々な想いが交錯して現状がある。その過程の中で、ここでこうするべきだったとか、なぜそこでそうしなかったのかなんて、そんな偉そうなことを言うつもりはない。あたいはそんな偉そうなことを言えるほど立派な死神ではない。

 ただ、これが最良だったとは絶対に思えない。

「人間でありながら人間を憎みながら生きて行くのが本当の幸せのはずがないじゃない!」

 さっきにゃん子が言った言葉だが、これには同意する他ない。同種族に限らず、誰かを憎みながら生きていかなければならないというのは、それだけで不幸なことだ。

「あたいも、にゃん子ちゃんの気持ちを碑妖璃に伝えたところで碑妖璃が人間と一緒に暮らせるようになるとは到底思えない。それどころか、にゃん子ちゃんの気持ちを知ったことで逆に、碑妖璃を苦しめることになるかもしれない。……でも、にゃん子ちゃんが碑妖璃の幸せを望むのなら、今出来ることが何かあると思うね」

「出来ること……?」

「人間の世界から暫く遠ざかっているにゃん子ちゃん達は知らないと思うけど、人間と妖怪の関係は10数年前に比べて随分と良好なものになっている。人間の里に当たり前のように妖怪が出入りしているし、人間の里でそのまま暮らしている妖怪まで存在する。勿論それは一部の妖怪にしか過ぎないんだけど、人間に危害を加えなければ、全面的に受け入れてくれる里が今の幻想郷にはあるんだよ……人間に危害を加えない。それは以前に一度碑妖璃と約束して経験したことだから、にゃん子ちゃんには守ることができるんじゃないか。にゃん子ちゃんがその気になって働きかければ、もしかしたら碑妖璃が人間の里で暮らせる日が来るかもしれないよ」

 あたいの耳寄りな提案を聞いたにゃん子は、それでも更に表情を曇らせて言った。

「そうなんだ。全然知らなかった。ひよりんはそんな幻想郷をずっと夢見てきたんだよ。……でも、あたしには出来ない。だって、あたしは以前に人間を殺したから」

「でもそれは碑妖璃が望んだからじゃ」

「違うっ!違うんだよこまっちゃん。……あたしは、ひよりんの前では人間を殺せなかったんだよ。確かにひよりんは人間を憎んでいて、顔を見れば殺したい程の衝動に駆られるけど……それをあたし達に強要はしていない。他のみんなが人間を殺すのは、全て自分達の意思。妖怪は人間を襲う。この世界のルールに従っているだけ。その結果、それがたまたまひよりんの憎んでいる相手だった。……だからひよりんは、今でもあたしがあの時の約束を守ってるって信じてる。あの約束は今でもずっと有効なものだと信じ切ってる。……でも、それがつらい。だってあたしは、一度だけ人間を手に掛けた。ひよりんの知らないところで一度だけ……でも、それでも約束を破ってしまうには十分すぎる程の一度だった。それがひよりんの為だと思ったんだ。だから、これはあたしの意思。ひよりんを悪く言わないで!ひよりんは悪くない。悪くないんだよ」

 話が見えてこない。でも、にゃん子は碑妖璃を必死で庇っているように見えた。あくまでそう見えただけだ。もしかしたらそれは見当違いなのかもしれない。……でも、あたいにはにゃん子が碑妖璃を庇う理由がいくつか思い浮かんだ。

「人間に危害を加えない。……そんな約束、人間が裏切った時点で終わっているものだと思っていたよ。ただ……そうか。にゃん子ちゃんにとってはそんな軽い約束じゃなかったね。でも、それを破ってまで人間に手を掛けたのはどうしてだい?あたいには、碑妖璃の命以外でにゃん子ちゃんが人間を殺す理由が見当たらないんだけど」

「ありがとう、って言った方がいいのかな。……きっとひよりんもそう思ってる。あたし自身だって、あんなことがあるまではそうなんだって思い込んでいた……」

「碑妖璃の為だって言ってたけど」

「……どうかな。あたしはひよりんと人間を会わせたくなかっただけ。みんなでかくれんぼしてて、隠れる場所を探している時に偶然森に迷い込んできた人間と遭遇して、このままじゃあたしを探しに来たひよりんと人間を会わせてしまうと思った。だから、そうなる前に殺した。ただそれだけ。最低でしょ、あたし」

「最低かどうかは判断しかねるね。ただそれだけってわけじゃないはずだけど。その時にゃん子ちゃんが何を思って、どうして人間を殺したかなんて、あたいは知らないわけだからね。まあ、それを敢えて聞き出そうとは思わないけど、もし人間と出会うことが碑妖璃にとってつらく苦しいことであるならば、にゃん子ちゃんの行動は間違いなく碑妖璃の為になったんだと思うね」

 それを聞いて碑妖璃が喜ぶかどうかは別としてだけど……。

「でも、あたしはひよりんとの約束を破ってしまった。みんなが、人間に殺されたみんなが最期まで守り抜いた約束をあたしは破ってしまったんだよ。確かに人間はひよりんとの約束を早々に破った。でも、それでもあたしはずっと守り続けようと思っていた。あたしにとっては、それだけがまたひよりんが人間達と一緒に暮らせるようになる希望だったから。そんな大事な約束だったのにあたしはっ!あたしはっ!……」

 にゃん子はそう言いながら、瞳に涙を浮かべ何度も何度も自分を責める。


 にゃん子は、碑妖璃が人間の世界に復帰できるように望んでいる。しかし人間を手に掛けて、事実上人間の世界を捨ててしまった自分にはどうすることも出来ない。碑妖璃の気持ちを考えるとそれを伝えることも出来ない。今の自分にはその資格すら無い。そして、伝えたところでどうなるものでもない……。

 現状維持は最も無難な選択というわけか……。



「取り敢えずあたいが聞きたかったことはこれで十分だよ。次はにゃん子ちゃんの」

「ただいま~」

 これからにゃん子の質問タイムに移ろうとしていた時、玄関の方から声が聞こえた。この声は……どうやら碑妖璃が帰ってきたようだ。

「悪いにゃん子ちゃん。質問はまた今度ってことで」

「えっ、あっ……うん」

 碑妖璃に余計な涙は見せたくなかったのだろう、にゃん子は目元をゴシゴシと擦って涙を拭う。そして、目一杯大きく口を開けて、

「おっかえりなさ~い!」


 成程……確かにこれはにゃん子にしかできないことだ。


「ただいまにゃん子ちゃん。あっ、やっぱりこまっちゃんも来ていたんですね。おはこんにちばんわです」

「おはこんにちばんわ~?って、何だそれ!……まあとにかくお邪魔してるよ」

「何も無いところでごめんなさい」

「いいや、何も無くたってあたいが寝泊まりしているボロ部屋に比べたら101倍マシだね。キノコの干し物は美味かったし……茶はクソまずかったけどね!」

「そーなのかー!」

 にゃん子がどこぞの宵闇妖怪の十八番でショックを受ける。いけね、つい口が滑っちまった。

「あれは、私が調合したお茶なんですよ。他のみんなには評判がいいんですけど、こまっちゃんのお口には合わなかったようですね」

 調合?……お茶だよね?

「成程、どうりでまずかったわけだ!」

「えへへ~」

 ……いや、えへへ~じゃなくて。


「それよりひよりん。いつもより帰ってくるの早かったじゃん。それに他のみんなはどうしたの?」

「みんなはまだいつもの場所で遊んでるよ。何だかもうこまっちゃんが来てるような気がしたから、私だけ先に帰ってきたの」

「ちょっ、超能力か!」

「そ、そんなんじゃありません。私超能力なんて使えません。ただ何となくそう感じただけで……」

「いや冗談だから」

 碑妖璃は、黙っていればお嬢様風の美少女なんだけど、距離が狭まると若干天然が入った面白い娘だということが分かる。別に悪い意味ではなく、いい意味でいい子だと思う。

 人間を憎んでいるとか……そんな心の闇を抱えているようにはどうしても見えなかった。ずっと人間と付き合ってきたというのに、あたいの目が節穴なのか、それとも人間がそれだけ難しい生き物だからなのか……どっちだろうね。


「今日はこまっちゃんのことについて色々聞かせてください。と、その前にお茶菓子持ってきますね。少し待っていてください」

「あっ!そんなお構いなく」

 嫌な予感がしたので引き止めたのだが、あたいの言葉には目もくれず、碑妖璃は部屋を出て行った。


「ふふっ、何か碑妖璃って結構面白いね。いつもあんな感じなのかい?」

 ……んっ?

 にゃん子に聞くが返事が返ってこない。眉をひそめて、若干不安げに、どこか納得いかないといった表情で何かを考えているようだった。

「どうしたんだいにゃん子ちゃん?」

「えっ!はうぁっ!え……え~っと。……うん。ひよりん、いつもはもっと元気があって明るいんだよ。……こまっちゃんの前だから少し遠慮しているのかな」

「まああたいの威厳ときたら、そりゃ半端じゃないからね!……いや、冗談だよ冗談。ふ~ん、あたいにはそんな風に見えなかったけどね」

 まあ見えなくて当然か。昨日知り合ったばかりのあたいと、長年一緒に付き添ってきたにゃん子とでは、碑妖璃を見る目が違う。恐らく、にゃん子だったら碑妖璃のどんな些細な変化にも気付くんだろうね。それはそれで、少し面倒なことだとは思うけど……。


 その後、まさかの干しキノコ二皿目を完食したあたいは、クソまずい茶を飲みながら雑談に花を咲かせるのだった。

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