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東方連小話  作者: 北見哲平
レティ・ホワイトロック 〜 季節の檻
51/67

レティ - EXTRA 前編

EXTRAと、いつものごとく意気込んで書いてみたものの、気が付けば長々ダラダラ前後編物に……。

まあ場面が二つに分かれているのでちょうどよかったのですが。


前編は花見前日の話。後編は花見後の話。

レティ編でありながらレティは一切登場しないという。まあ、例の通り慧音先生のお話です。

もうこの方ほとんど皆勤状態です。

……働き過ぎですな。


因みに、私も小中高と皆勤だったりして。

何と!バカは風邪を引かんっていうのは迷信ではなかったのかー!

 寺子屋の仕事終わりに桜の様子を見に来ると、そこでは変わらず大勢の妖精達が桜木にしがみついて頑張っていた。


「あっ、慧音さん。こんばんはです」

「こんばんは、大ちゃん」

 私の姿に気付いた大妖精が声を掛けてくる。必死で木にしがみついている彼女は、何だかそれだけで妙に可愛いらしかった。

「見てください慧音さん!桜のお花さん!もうあとちょっとで満開になりそうです!」

「ああ、私も驚いたよ。これなら明日には満開間違いなしだ。花見が開催できると思うよ」

「ほっ、本当ですかっ!……よかった、よかったです。やったよ~チルノちゃん。……あっ、そう言えばチルノちゃんはまだ……」

 チルノはリリーホワイトに会って(多分)、帰って来てからずっと私の家で眠り続けている。

「昼休みに様子を見に行ったが、その時もまだ眠っていたな。かれこれ3日間、よく眠れるものだ」

「う~ん。お花見の時も寝ちゃってたらどうしよう。それに、レティさんも呼んでこなくちゃいけないし……あっ、レティさんを呼びに行くのはチルノちゃんと一緒がいいな」

 大妖精は、とりあえずこれからの課題を列挙する。そして「あぅ~、あぅ~」と口籠ってしまう。やっぱり可愛らしい。

「それなら解決方法は簡単だ!チルノを起こせばいい!」

「えっ、でもチルノちゃん……」

「恐らくだが、3日も眠れば流石に十分だろう。それに、眠りすぎるのは逆によくないのだ!私も時々やってしまうのだが、昼頃に起きて妙に頭が痛いのは眠りすぎだっ!あれはしばらく続くからしんどいぞ~。大ちゃんもチルノにはそんな思いをさせたくないだろう?」

「はやくっ!早くチルノちゃんを起こしてあげなきゃっ!」

 うん。扱いやすい。

「あっ!……でも、まだ桜は満開じゃないし、私が抜けちゃったせいで満開にならなかったらどうしよう」

 喜んだり、焦ったり、悩んだり……大妖精は本当に感情の浮き沈みが激しい。一緒に居て飽きないのはきっとそういうこともあるのだろうな。

「それなら大丈夫だ大ちゃん。こんなこともあろうかと、現場監督代行として阿求様を連れてきた!」


 ……。

 …………。


「えっ!私?」

 突然指を差されてピタッと固まる阿求様。

 そう!あなたです!

「ちょっと待ってください慧音さん!話が違います。私は明日のお花見の下見って聞いたから!って言うより、今この場所に私居たの?突然出てきた私!いつから私ってこんなご都合キャラになったの?……因みにダメですよ。だってまだ夜は寒いですし、私体あまり強くないですし、こんなところで一晩中居たら風邪をこじらせてしまいます!」

「け、慧音さん。やっぱり阿求さんにお願いするのは悪いですよ~。風邪ひいちゃったら明日のお花見も一緒にできなくなっちゃいますし……」

「大ちゃん!あれは阿求様なりのボケだ!」

「ぼ、ボケって!どういうことですか?」

「最近の阿求様はどうやら路線を変えているようでな。よく考えてみろ大ちゃん。大体真面目なキャラが「いつから私ってこんなご都合キャラになったの?」とか言うわけがない!可憐で清楚で知的な阿求様も今となっては何かよく分らない女の子になってしまったのです!」

「ほ、本当ですか?でも、確かに言われてみれば……あ、あの、それじゃあお願いしてもいいでしょうか阿求さん?」

「まかせろっ!」

キュピーン(効果音)

「……本当ですね」


 そんなこんなで私と大妖精は、阿求様を現場監督代行として残し、自分の家へ直行するのであった。



「ふぁ~~ぁ。……あたい何してたんだっけ?……ん、大ちゃんと……け、慧音?」

 家に帰ると、丁度チルノが目を覚ましたところだった。これでチルノを起こす手間が省けた。寝ぼけまなこをごしごしとこする仕草など、穣子にとっては恐らく鼻血ものだろう。

「チルノちゃんチルノちゃーん。大丈夫?頭痛くない?」

「大ちゃん?……別に痛くはないけど。どうしたの?って言うか、何でそんなに慌ててるの?……それにしてもあたい本当に何してたっけ?……ここどこ?……あたいだれ?」

 チルノはとりあえず思い当たる疑問を全て列挙する。この列挙度合は、先ほどの大妖精を彷彿させる。

 それにしても、寝起きのチルノはただでさえ回っていない頭の回転がほぼ停止しているらしい。

「ここは私の家!お前はサニーミルクだ!」

「慧音の家?……そしてあたいは……そう、あたいはサニーって!あたいはチルノだバカにするなー!」

 いつものようにバカみたいに叫ぶと、急に肌に感じる温度が低下する。どうやら、寝ている時だけは冷気の垂れ流しも止めているらしい。

「目は覚めたようだな」

「目はっ……さ、覚めたかもしれない、けど……あ、そうか。あたい、そう言えばレティにお花見させてあげたくて……」

 寝ると忘れるほどのバカでも、やはり大切なことは覚えているらしい。

「チルノちゃん聞いて!みんなで一生懸命頑張って、明日にはお花見ができるくらいまで桜のお花さんが咲いたんだよ!」

 大妖精は嬉しそうに言った。きっと一分一秒でも早く、それをチルノに伝えたかったのだと思う。チルノの頑張りに応えられたのが嬉しくて仕方がなかったのだろう。

「ほ、本当に?さすが大ちゃんだよ!……そっか、お花見できるんだ……」


 ……?


 しかし、チルノの反応は意外だった。私はてっきり大妖精と抱き合って喜ぶのかと思っていたのだが、どこか浮かない表情で、声音も下り調子だった。

 嬉しい事象に対しては、子供らしく本気で喜べる彼女のことだ。寝起きでまだ調子不十分などでない限り、何か引っかかる理由があるに違いない。

「どうしたチルノ?友達の目標を叶える為に頑張ったのだろう?」

「……チルノちゃん」

 大妖精には何か心当たりがあるのかもしれない。そういう表情をしている。

「気になることがあるなら私に話してみないか。こう見えても、これまでたくさんの相談に乗ってきた私だ。何か力になれるかもしれない。……どうだ?」

 恐らくだが、私はお節介なのだと思う。つくづくお節介。ただ、それが悪いことだと思ったことは一度もない。

 知りたがりというわけでも、そんな自分に酔っているわけでもない。ましてや、それが自分という存在の価値そのものなどと考えるはずもない。

 だったら、どうしてそんなにお節介なのだと聞かれてしまうと、ちょっとすぐに答えは出てきそうにない。少し考えて「やはり私はお節介だから」と苦笑いする。

 そんなお節介が里に一人や二人、三人や四人居ても別にいいじゃないか。ルーミア的に言うのであれば、笑顔を妨げる要素があるのなら、それを取り除いて笑顔にしてあげたい。……そうだ、きっとそんなところだ。

「慧音のお悩み相談室は、大切な者の為なら時間と労力を一切惜しまないぞ」

 そう、いつの間にかチルノも大妖精も、私にとって大切な存在になっていた。


「ありがとう慧音。……何か、慧音って思ってたよりずっと優しいね。リリーのことも教えてくれたし」

「私は一体どう思われていたのだ?こんなにも心優しいお姉さんはちょっと居ないぞ!」

「だって、いつもあたい達が遊んでると襲ってくるし……オシオキ!とか言って痛いことするし……」

 って、コラコラ!人を変態みたいに言うのはやめてくれ!

 まさか、そのままのニュアンスで周りに言いふらしたりはしていないだろうな……穣子に物凄い形相で言い寄られそうで怖いわ。

「チルノちゃん。それは私達が悪戯するからだと思うよ~」

「その通りだ。偉いな大ちゃんは」

「だったら、今度からはばれないようにやるもんね」

「成程。それを私の目の前で宣言するとはいい度胸だ!」

「ばれなきゃおんなじだもんね~」

 ふっ、言ってくれる。だが間違ってはいない。確かに証拠がないのにお仕置きはできない。ただ、なんだかんだ言ってもきっちりと証拠を残すのが彼女達なので、多分無理だろう。


「……慧音、ありがとう。あたい慧音に相談してみる」

「ああ、相談してもいいぞ」

 強がりで意地っ張りなチルノ。そんな彼女の口から「相談」なんて言葉が二度も聞けるとは、正直思っていなかった。確かに、決して頭のいい彼女ではないが、それでも大抵のことは勢いで何とかしてしまう。もし、どうしようもないことでも自分は最強なんだと小さな胸を張って、小さな体を精一杯伸ばして背伸びする。いつだって「超」が付くほど強気で、誰かに弱さをさらけ出すのが大嫌いなチルノ。


 私はチルノに信頼され、頼りにされている。恐らく、彼女自身にそれを問いかけてもすぐに認めてはくれないだろう。……だがむしろ、そんなチルノだからこそ私はそう思うのだ。

 そしてそれを、私はこの上なく嬉しく感じる。


「慧音はさ、誰かが自分のこと好きなんだろうなって感じるのはどんな時?」

 ……ん?

「それは、突然難しい質問だな。……う~ん。因みにチルノはどう思う?」

「あたいは……よく分らない。でも、大ちゃんや穣子やルーミアみたいに大好きだって言ってくれるなら、それは大丈夫。他にも、何となくだけど分かる時もある。慧音はあたいや大ちゃんのこと、好きかどうかは分からないけど、嫌いじゃないでしょ?」

 確かに、大妖精や穣子、ルーミアは分かりやすい。しかし、誰しも彼女達の様にはいかない。誰かに面と向かって「好き」と言うのは、やはり少し照れくさいと感じるのが一般的かも知れない。友情でも愛情でもそれは同じだ。

 チルノが何となくと思ったのは、恐らく共に過ごした時間の中で、会話や仕草からそれを感じ取ったのだろう。実際、私に対する認識も間違ってはいない。

 ただ、

「嫌いじゃないなんて曖昧な表現は好きじゃないな。……私は、チルノも大ちゃんも大好きだからな」

 ……う~ん。

 私も分かりやすい組に入りたかったのだが、やはり少し照れくさいな。

「あっ、う……うん。ありがと……。まあ……あたいの、予想通りね」

 チルノは僅かではあるが頬を赤く染める。彼女はどうなのか分からないが、反応を見るだけでも十分分かりやすい部類に入るような気がする。


「でも、でもね……レティの気持ちだけは、あたい達には全然分からないんだ」

「……どうして?」

「レティが、時々すごく寂しそうな顔をするから……」

「寂しそう?」

「冬になるとあたい達はレティに会いたくて、いつも遊びや悪戯に誘いに行って……まあ、悪戯の方はあたい達が好きなようにやってレティは見てるだけだけど……でも、レティはあたい達の誘いを断ったことは一度もないんだよ。悪戯が子供っぽいとか、もっとこうした方が面白いとか、バカバカって言われることもあったけど、あたい達はレティが一緒に居てくれるだけで嬉しかった。あたいもそんなとき、レティもあたい達のことが好きに決まってるって、そう思った。それに、嫌いな奴とは一緒に居たくないはずだよね。……あたいはそういう相手は居ないけど、暑い場所からはすぐに離れたいと思うもん」


 嫌いな者とは一緒に居たくない。確かにそれは一般的な考えである。ただ、嫌いだからこそ一緒に居て、好きになろうと努力する者も中にはいるはずだ。誰かを嫌いになることが苦手な者だっているかもしれない。

 ただ、レティはそうではないと思う。なぜなら、チルノ達には裏表が無いからである。

 外面はとても好きになれないような者でも、内面を知ることで好きになれる者もいる。逆に、外面だけがよくて、内面を知れば知るほど嫌気が差す相手だっている。本人に大きな気持ちの変化がない限り、好きと嫌いが入れ替わるそのほとんどはこれだと思っている。むしろ、それを望まない限り、嫌いな者を好きになれるかもしれないなどと考えないはずだ。

 だとすれば、チルノ達のことを嫌いだと思う者が、好きになりたくて一緒に居るのはお門違いというものだ。彼女達には裏も表も無い。裏が「負」、表が「正」だとすれば、彼女達は常に「0」なのだ。いや、常に「正」だと言うべきだろうか。どんなことにでも一生懸命取り組んで、友達の為に我武者羅に頑張って、いつだって天衣無縫に振る舞うことができる。彼女達に抱いていたイメージは、実際に付き合いだしても一切変わらなかった。そして彼女達の表情や仕草は、それが嘘ではないと私に信じさせてくれた。

 だからこそレティは、チルノと大妖精のことを好いているのだと思う。私よりもずっと長い間、彼女達と付き合ってきたのだ。私など比べ物にならないほど、レティはチルノと大妖精のことをよく知っているはずだ。

 もし嫌いなら、とうの昔に縁を切っているだろう。


「ただ……レティは時々、とても寂しそうな顔をするんだ。それで、あたい達がどうしたの?って声を掛けるんだけど、何でもないって……やっぱりどこか寂しそうな顔で答えるんだ。そうしたら、何でかよく分かんないけどそれ以上聞けなくなって。いつもはどうでもいいことばかり言って拳骨されてるのに、本当によく分かんなくて。そんな寂しそうな顔を見てたらもしかして……ううん、あたいはレティが思い切り笑ったところ見たことが無いかも知れないって。すると、突然怖くなって……レティは、あたい達のこと本当は嫌いなんじゃないかって。そりゃあ、レティはそんなに大きな声を出して笑う感じじゃないかもしれないし「フフフ」ってちょっとだけ笑ってくれることはあるけど……あたいの中にはレティの楽しそうな顔よりも、寂しそうな顔の方がたくさん残ってて……もしあたいがバカで忘れているだけなら、早く思い出してよバカって何度も何度も……でも、思い出せなくて」

 冬の妖怪であるレティ。冬になればどこからともなく現れて、春になると去っていく。それは、妖怪の中でも特異な存在だと思う。他の者には決して経験できないことを彼女は何度も経験し、その度に様々な想いを巡らせてきたのだろう。だから彼女に会った事すら無い私が、その全てを推し量ることなどできるはずもない。

 ただ、それでも一つだけ確実に言えること、

「レティは、別にチルノや大ちゃんのことを嫌っているわけじゃないと私は思うぞ。いや、むしろその逆だと思う。二人はレティに好かれているはずだぞ。それも、かなり強烈になっ!」

 チルノの不安も分かる。

 その純粋さ故、その友達に対する想いの強さ故。大切な者には、自分が楽しい時は笑っていてほしいし、つらい時は相談してほしい。一緒に悪戯してくれなくたって、成功した時には笑ってほしいし、例え失敗したとしても笑ってほしい。悲しい時は一緒に泣いてほしいし、悪いことした時には怒ってほしい。

 感情の共有、交換、公開……。

 きっとチルノ達妖精に限ったことではない。それが、ごく自然にできると感じた時、相手のことが少し分かったような、そんな気持ちになるのかもしれない。そして自分の気持ちに真っ直ぐな子供であればあるほど、それを敏感に感知する。

 だからこそチルノ達にとって、他人よりも特異な生き方を強いられてきたレティは一筋縄にはいかない友達だったのだろう。気持ちの交わし合いがなかなか上手にいかなければ、それは自分達が嫌われているからかもしれないと感じるのも、仕方がないことかもしれない。


「け、慧音にどうしてそんなことが分かるのよ。……慧音はレティに会ったこともないんでしょ」

 成程、それはごもっともな疑問だ。

「それくらい分かるさ。私を誰だと思っている。里一番の美人教師の慧音先生だぞ。……いつも子供の相手をしているのだ、友達云々の話は私の守備範囲。経験と勘があれば会ったことが無くても想像は付くものだ!どうだ、こんな慧音先生を遠慮なく尊敬してもいいぞ!」

「……よく分かんないんだけど」

「ああもう、もっと分かりやすく言ってほしいのか!」

「……うん」

ビッ!

 私は右手人差し指でチルノをビシッと指差した。良い子は意味も無く誰かを指差さないように気を付けよう。

「つまりだ、チルノや大妖精みたいに純粋無垢で元気で明るくて頑張り屋で一途で直向きで友達想いで、その上可愛らしいときたら、普通は嫌いになる奴なんていないものだぞ!」

 そう、それが確信の一番大きな根拠。説得力があるようで実はなかったりするのだが、彼女達と付き合いだしてつくづく思うようになった。

 彼女達に嫌われ役は似合わない。

「えっ、えっ?何?……あたいもしかしてバカにされた?」

「バカ、どうしてそうなる。チルノや大妖精みたいないい子、長く一緒に居れば居るほど嫌いになれるはずがないと、そう言ったんだよ。……さっきも言ったように私はお前達のことが好きなのだ。阿求様も、秋姉妹(特に妹の方)も……それどころか、里の住人でお前達のことを嫌っている者など一人もいない。私が保証するぞ」

 私がそう言うと、チルノはようやく意味が分かったのか、少し気恥ずかしそうに視線を逸らせた。

「でも、あたい達人間に悪戯ばかりしてるよ。……慧音だって怒ってたじゃん。それに、なんか分かんないけど、冬になったらみんなあたいに近付かなくなるし……」

「誰かを傷つけるようなことでなければ、子供は悪戯するくらいの方がちょうどいいのだ。誰も、本気で怒っているわけじゃない。私は、この里から妖精達の悪戯が無くなるのは寂しく思うし、お前達はあまり意識していないだろうが、妖精がこの世界の自然そのものだと言うのであれば、それすら自然なのだと感じることにしているよ。まあ、自然は時に人間を苦しめるが、悪戯はそこまで程度の高いものではないからな。受けて立つぞ!……後、確かに冬は皆積極的に近付いては来ないだろうがあまり気にすることではないぞ。夏に貢献してもらえれば、それだけで十分釣りがくるからな!」

「うん?」

 全く、妖精ってやつは自分自身のことを理解してなさ過ぎだ。私がチルノレベルの悪戯をしたらなんて言われることか。……慧音さん、いい歳して止めてください。って、非常に冷めた目をして言われるのだぞ!

 更に「あたいったら最強ね」とか言ってもてはやされるのはせいぜいチルノくらいなもので、私が真似をした日には……一夜にして慧音先生乱心説が里中に広がってしまうだろう!

 有りのままの自分をそのまま素直に振りまくだけで、それで愛でられ可愛がられる彼女達は、まさしく天性の愛すべき存在だと言っていいだろう。


「チルノちゃん。慧音さんがそう言うなら、何かそんな感じがしてくるね?」

 暫くぶりに大妖精が口を開く。恐らく、大妖精もチルノと同じくらい不安に思っていたはずだ。これまで、その気持ちをずっと二人で共有しながらレティに接していたのだろう。

 ただそんな大妖精も、私の言葉を素直に受け入れてくれているところを見ると、私のことを信頼してくれているようだ。寺子屋の子供達には授業がつまらんとか、頭突きマジ怖ぇ~とか、ある意味定評になっている私だが、妖精の代表とも言える二人に気に入られているとは。いやはや、もしかするとこれはなかなか光栄なことなのかもしれない。

「チルノが不安に思うのも分かるぞ。だが、レティはチルノにとって大の友達なのだろう。友達だったら信じろ!レティだって、きっとチルノのことを信じていると思うぞ」

 それを聞いたチルノは困ったような顔をして、少し話しづらそう口を結んでいたが、やがてゆっくりと口を開いて話し出した。

「慧音の言うことはいつだって正しくて……慧音はあたい達をだましたりもしないと思う。……でも、だとするとあたいはレティのこと信じてないってことなのかな……あたいはレティのこと疑ってたってことなのかな。レティはあたいのこと信じてくれてる?それなのにあたいは……レティにひどいことしてるのかな。……こんなんじゃあたい、自信を持ってレティの友達だなんて」

「友達だぞ!どう考えても!」

「えっ」

 全く、いつもは何も考えずに突っ走るくせに、友達のことになると随分らしくない……いや、悪い事ではないと思うがな。

「リリーに会って帰ってきた時のチルノは、ボロボロでふらふらだった。いつもバカみたいに元気なチルノのそんな姿は、それだけで違和感があって、心配したのも正直なところだ。だが、私はその姿を見て感動した。そして、レティが少し羨ましかった。チルノがそこまで一生懸命になるほど大切に想われている。本当に親しい友人の為であっても、普通はなかなかここまでできないものだ。うわべや建前など、微塵も感じる余地がなかったよ。……そもそも苦手だろ、そういうことは」

「えっ!……よく分かんないけど、慧音がそう言うんだったら多分」

「それに、チルノはレティを疑っていたわけではないだろう。誰だって、大切な相手になればなるほど些細なことでも不安になったり、臆病になったりすることがある。逆に言えば。それだけレティのことをよく見てあげているということにもなるだろ。……それにしたって、レティもどうかと思うぞ!チルノや大ちゃんにこんな思いをさせるとは!」

 あるいは、自分のことで精一杯だったのかもしれないが。

「レティのこと、悪く言わないでよ」

「……申し訳ない。そうだな、レティは何も悪くない。チルノも大ちゃんも悪くない。誰も悪くないよ。……それでもまだ不安?」

 私がそう言うと、チルノは少し迷った様な素振りを見せてから小さく頷いた。

「……そうか。それならもう本人の口から聞くしかないな」

「ほ、本人って?」

「それはレティに決まっているだろう」

「だっ、ダメだよっ!……そんなこと聞けないし、レティはそういうこと言わないし……」

 チルノは珍しく慌てた表情で首を大きく振った。

 それは、チルノ達がすんなり聞ければ一番手っ取り早いだろうし、レティがもう少し感情を表に出すタイプなら何も問題なかったわけで。

「大丈夫だ!慧音先生に任せておけ!絶対に悪いようにはしない」

「えっ……う~ん」

「まあ、二人にはちょっと演技をしてもらうがな」

「え、えんぎ~?」

「分かっている。覚えられないというのだろう。だがそれなら大丈夫だ!簡単なシナリオを用意してやる。私はこう見えても、寺子屋の演劇発表会ではシナリオを担当したこともある。どうだ、すごいだろう!」

 内容が難しすぎると不評で、翌年からは小道具……更にそれも不評なのでその次の年は音響……やはりそれも不評だったので遂に監督にまで上り詰めてしまったというのはここだけの話。監督もダメなら次は役者で悪役をやるしかないと言われてしまったので、もう監督で頑張るしかないと思っている。

「大ちゃんはどうだ?」

「えっ、私?……私は、チルノちゃんがいいって言うなら頑張ってみます」

 大妖精はそう言うと、チルノの方をじっと見つめた。はっきりとは言えないが「やってみよう」と、そんな意思が籠った表情に見えた。

「……分かったよ。慧音に任せてみる。あっ、でもお花見を台無しにしちゃダメだよ……レティの目標なんだから」

「おっ……う~ん、まあ若干サバイバルになるかもしれないが大丈夫だろう。……それでは、やってもらうことを説明するぞ。時間がないから分からない時はすぐに質問すること」

「うんっ!」

「はいっ!」

 よしよし、元気のいい返事だ。


 この1週間、チルノも大妖精も本当によく頑張った。だから、これは私のお節介と言うより、頑張った二人に対しての御褒美と取ってもらった方がいいと思う。

 レティは絶対に喜ぶ。絶対に嬉しいはずだ。それはもう、言葉で表現するのが難しいほど、どうしようもなく嬉しいはずだ。私だって……もしレティの立場だったら、自分だけの為にチルノと大妖精がこんなにも一生懸命頑張ってくれたなら、感動して泣きそうになる。そして、二人のことが愛おしくて堪らなくなるだろう。


「ねぇ慧音。それでまず何をすればいいの?時間がないんでしょ~」

「おう悪い悪い。そうだな、まずは……」

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