レティ - その9
私はチルノと大ちゃんが、ずっとずっと大好きだったんだよ。
言ってやった!
私にしてはよく頑張った。うん、よく頑張ったと思う。
チルノの魔力によって冷やされていた空気の温度が、少しだけ上昇するのを感じた。……暖かくは無い。でも、とても温かい温度だった。
チルノ、ガラにもなく照れているのかな?
その温度は、チルノ自身の気持ちがそのまま反映されたもの。彼女にとってはただ魔力を垂れ流しにしているだけかもしれないけど、私はそれをとても可愛く、愛おしく感じた。きっと大妖精にとっても、特別な意味を持つ温度なんだと思う。
私なんかの言葉でも、チルノの気持ちに影響を与えられる……それくらい知っていたけど、こんなにも近くでその影響を実感するのは初めてかもしれない。妙に嬉しい。
いや、とても嬉しい。
「二人とも、そろそろ起きてもよいのではないか?」
しばらくそんな余韻に浸っていたところで、慧音がチルノ達に言った。
「だってさ。チルノ、大ちゃん、寝たふりタイムは終了だよ」
ぎゅむっ!
私は呼び掛けながら、二人のぷにぷにの頬っぺたをつねる。
「いたたたたぁ~!う〜、何でバレてんのさ〜。あたいの演技は最強だったのに〜。……穣子が急に抱きついてきたり、変なとここちょこちょしてくるから〜」
チルノが不満たっぷりの表情で目を開く。穣子は……いつの間にかチルノを逃がして、実に愛おしそうに桜の木に抱きついて眠っていた。
「私のせいだよ~。ミスティアさんが歌うって言ったときに騒いじゃったから。あっ、それとも私の演技が下手っぴだったからなのかな……あう~、レティさん痛いです~」
大妖精は少しうろたえ気味に瞳を潤ませる。そんなに強くつねったつもりはなかったのだけど。
「いや、確かにそれもあるけど、全体的になんか色々おかしかったから」
私がそう言うと、二人は揃って「えっ」と発した後に続けた。
「でも!あたいたち慧音の作戦通りやったよー!」
「うんっ!だよねっ、チルノちゃん!」
そう言いながら、二人は慧音を見る。
「わ、私のせいか?」
「あっ!ごめんなさい。そんなつもりじゃないです」
大妖精はすぐに否定したが、チルノはやっぱり不満そうだ。
あんなコントのような芝居をしておきながらよくもまあ……でも、確かに演技力はそれなりだったかな。漫才コンビを結成する時は、私も入れてトリオにしてほしいな。
「でもあたいやっぱり慧音の作戦通り」
「ち、チルノちゃんダメだよ〜」
「ふふふ……。二人とも勘違いしているようだな。内容はどうあれ目的は果たせたではないか。成功したのだから結果オーライだ。つまり、チルノも大ちゃんもよく頑張ったということだ!」
「えっ?」
目的を果たした?
いつ、どこで?
「あっ、そう言えばそっか」
「そうだよチルノちゃん!やっぱりチルノちゃんは最強だね!」
「えへへ〜」
いや「えへへ〜」じゃないって!
一体どういうことなんだ?
「ふふふ……、心底分からないといった顔をしているな」
どことなく満足気な表情で慧音。恐らく、きっと私はそういう顔をしていたんだろう。
「……うん、分からない。でも、確かにそう言えば、チルノと大ちゃんが意味もなくこんなにも凝ったことするはずなかったね。自分のことで必死になりすぎて失念してたかも」
私がそう言いながら苦笑いすると、それにつられたかの様に慧音も苦笑した。
「つまりあたい達の勝ちってことだね!」
「チルノちゃん、別に勝負していたわけじゃないんだから……あっ、えっとつまり……私達、レティさんの気持ちが知りたかったんです」
「……気持ち!?」
気持ちと言われても……私の気持ち?
私が伝えたかった気持ちは……。
「だってさ~、レティってあまりあたい達の前で笑わないじゃない。そりゃあ、レティはそういう感じの女の子かもしれないけど……もしかしたら、あたい達のことが嫌いなんじゃないかって。……そんなことあるはずが無い、そんなわけ無いって思っても、バカみたいにダメなことばかり考えちゃって。あたいの明るさとか、元気さとか、うっ、動きとか、しゃべり方とか……あと、バカなところとかが気に入らないんじゃないかって……ずっと不安だったんだ」
不安?
チルノから突然出たあまりにも不似合いな言葉に、一瞬その意味を見失う。
「人間達に悪戯するのだって、私達にとっては楽しいけど……レティさんは仕方なく付き合ってくれてるのかなって。レティさんは楽しくないのかなって……つまらないって嫌われちゃうんじゃないかって。もう嫌われてるんじゃないかって……とても怖くて。もしそんなことになったら、泣いちゃうくらい悲しかったから」
不安?怖い?
……あっ。
そう言うことだったんだね。
「チルノ、大ちゃん……有り得ないよ。そんなことは有り得ないことだよ……二人とも本当にバカだよ」
私がそう言うと、チルノは「む~」と頬を膨らませ、大妖精は「あう~」と小さく唸る。
「ば、バカでいいもん。今日だけは。……それよりも、レティが好きだって言ってくれて、あたい嬉しかったよ!」
「私も、とてもとても嬉しかったです」
僅かばかりの恥ずかしさを含んだ、幼くてあどけない笑顔。そんな顔をされると、恥ずかし紛れに少しいじめてやろうかと思っていた気も一気に失せる。それどころか、負の感情を全部吹き飛ばしてしまうような……ちょっとずるいね。別に、自分が真似出来ないから妬いているってわけじゃないから。
やっぱりこの子達は、どこか最強だ。
「あたいったらレティのこと大好きだもんね!」
「私もチルノちゃんに負けないくらいレティさんのことが大好きです!」
有り得ない、か。
でも、私にとってはそんな後ろ向きなことを考える二人の姿がもっと有り得なかったかな。
「チルノはバカみたいに明るくて、バカみたいに元気があって、バカみたいに何でも体当たりでぶつかって……悩みとか不安とか、そんなものとは一切無縁だと思ってた」
そう。チルノを初めて見た時から、初めて話をした時も……そして、今の今までずっとそう思っていた。それが、以前私が憧れていた彼女の生き方だったから。
「あたい、難しいことは分かんないよ。……う~ん。それにしても、何だかバカが多いなぁ」
バカってやつは、どうもバカに敏感だ。
「いいんでしょ。今日だけは」
「ぶぅ~」
「大ちゃんは、本当はちょっと臆病で気が弱いくせに、いつもチルノと一緒で、チルノのことが大好きで、チルノことを本当に信頼して、チルノのことを誰よりも頼りにしてて……チルノと一緒に居る時は、怖いもの無しだと思っていた」
そう。自分の弱さを、自分の弱点を補ってくれる誰かがいつだって側に居てくれる。そして時には、自分の弱さを大切な者の為に強さに変えることができる。弱いくせに、本当はとても強い女の子。それが、私がずっと見てきた大妖精だった。
「えっと……あの、きょっ、今日だけはいいんだよね。え~っと、私もチルノちゃんもその……バカだから。レティさんが私達のことをどう思っているかなんて分からなくて、想像もつかなくて。だからと言って、いつもみたいにえいやあで考えちゃいけないことだと思ったから。……分からないことくらいたくさんあるし、チルノちゃんと一緒だったら全然怖くないんだけど……ただ、レティさんに嫌われちゃうのは別で、それだけはどうしようもなく怖かったんです」
うん、きっとそうなんだ。
やっぱりよくよく考えてみたら、大小あるにせよ不安や悩み無く生きている奴なんていない。人間だって、妖怪だって、妖精だって……チルノや大妖精だって同じ。
不安になることや臆病になること、弱気になること、嫌な夢をみることだってある。
……私だって、同じだったから。
確かに彼女達が不安に感じていたことは、私の抱えている悩みと比べれば……いや、そうじゃないか。問題の大きさなんて誰がどう考えるかによって変わってくること。現に彼女達は、ずっと思い悩み、待ち望んでは自分の弱さに裏切られ続けてきた春の訪れを私に見せてくれた。本当は難しいことを、いとも簡単そうに。私はそんな彼女達を、素直にすごいと思った。バカのお手本の様なチルノも、そしてそんなチルノにべったりな大妖精も……私にとっては限りなく大きな存在。小さいくせに大きくて、逆に大きい私が小さく感じるほど……今でも心のどこかで憧れている。
「……だからこそそんな二人が、そんな最強の二人が私なんかのために不安がってくれたり、怖がってくれて嬉しかった」
あ~、何か無茶苦茶自分勝手なことを言ってるな。
「う~ん、何だかよく分かんないけど、あたい達すごく損してるような気がする~。……まあ、レティが喜んでくれているみたいだから別にいっか」
「そうそう!」
やっぱり前向きだ!
「それで、今回のことも悩んだんです。お花見するのはレティさんの目標だって言ってたし、私達が何かしちゃうと迷惑かもしれないって。余計なことかもしれないって……」
「あたいも、もしかしたらそうかもしれないって思った。……だって、あたいはそれ以前にレティにひどいこと言っちゃったから。傷付けちゃったかもしれない、もう一緒に遊んでくれなくなるかもしれない。レティに怒っちゃったこと……とても後悔した。でも、だからこそレティの為に何かしたいって、何かできることはないかって考えた。それで大ちゃんと話して、目標を叶えてあげようってことになった。正直なところ、やっぱりそれしか思いつかなかったんだよね」
「チルノに叱られることなんて、まず一生無いって思ってたから、少しビックリしたよ。でも、チルノの言ったことは珍しく正しかったし、そして何より、私のことをとても想ってくれてるって感じたから……すごく嬉しかったよ。あんた達のことがもっと好きになった」
もう今は、隠すことなんて何もない。自分の思ったことを、感じたことを素直に言っただけ。
今の私、多分とてもいい表情してる。
「よかった!……で、レティが言ってたことを思い出して。あの、桜は暖かくなったら咲くってやつ。……ミスティアから聞いた話だけど、鳥は卵を体で暖めるんだよ!あたいったら天才ね!」
やっぱりチルノ発案だったのか……もうここまでくると、天才過ぎて可愛いな。
「そのあと、桜がたくさんあるからみんな集めなくちゃってことになって……ちょっと大変だったけど、何か面白そうって、興味を持った子が結構集まってくれた」
何か面白そう?……妖精の感覚ってちょっと変わってる。
「そう言えば、この子達も手伝ってくれてたの?……だったらお礼を言っとかないと」
私は、側で気持ちよさそうに眠りこけている三月精を指差しながら言った。
「え~っと、サニーちゃん達は声掛けたんだけど、私達は別にやることがあるからって……まあしょうがないよね」
「まったく、それでお花見にはきっちり参加してるんだからね~。働かない奴は食べちゃいけないって、あたい聞いたことがあるけどな~」
働かざる者食うべからずね……まあ、つまり私か。
少し耳が痛いです!
「それで、みんなが集まったところで、チルノちゃんが氷の妖精さんだってこと思い出して……あの、チルノちゃんって常に氷のばりあーで私を守ってくれているから、ちょっと涼しいじゃないですか」
氷のバリアじゃなくて、ただ魔力を垂れ流しているだけだって。
「思い出すようなことでもないと思うけど」
まあ、気付いただけマシな方か。
「そんでもって、あたいは他にいい手を探すから桜の木を暖めるのは大ちゃんに任せることにしたんだけど……なかなか思い付かなくて。結構頑張って考えたんだけど……ダメだった。レティには、またあたいらしくないとか言われそうだけど……そんな自分が情けなくて、悔しかった」
「……言わないよ。チルノはきっと、そういう女の子だと私は思ってるよ。ありがとう」
むしろ、考えるって行動の方が似合わないと思うけどね。
「な、何でお礼……う、うん。どう、いたしまして?」
どうして私にお礼を言われたのか。それが分からなかったチルノは、照れ隠しのように少しだけ視線を逸らした。
「まっ!そこに私が登場したってことだな!」
おおう!
「慧音、また居たんだ。しばらく台詞がないから、もうどこかに行ってしまったのかと思っていたよ」
「失敬な、私は空気を読んで出番を待っていただけだ!」
はあ、さいですか。
「しかし、二人ともよく頑張ったぞ。自分の生徒ではないが、私も鼻高々だ!……レティからの愛の言葉はそのご褒美ってな感じだな!」
「妙な言い方しないでよ!何か急に恥ずかしくなってきたし」
愛情って言うより友情?……そう、友情だ!
「ふふふ……。それはすまなかった。しかし、桜の木を温める際の仲間との協力、連携もなかなかのものだったし、リリーホワイトに会うのだって相当……阿求様も二人のこと見直したって言ってたぞ。……おっ、そう言えばチルノ、後で阿求様から聞きたいことがあるそうだ。まあ、リリーホワイトのことについてだとは思うが」
「ん?りりぃって誰よ?」
……。
…………。
「まあ、そうだな。……阿求様には、そう伝えておくよ」
慧音にとっても予想以上の答えだったのか、参ったなと言わんばかりに表情を崩しながら言った。
私は慧音よりは耐性があったので、その反応をじっくりと楽しむことができた。珍しいものが見えたようで、少し得をした気分だ。チルノも時には役に立つ。
「そ、それはさておき、私の考えたシナリオもなかなかだったろ?……まあ、こんなにも上手くいくとは正直思っていなかったけどな」
私が本心を打ち明けられるような状況を作ったのも、打ち明けたくなるような状態に話を持っていったのも、私の本心を全て理解してないとできないことだ。
「っていうか、どのタイミングでチルノと大ちゃんにそんなもの仕込んだの?それに、そうなった経緯もまだいまいち分かってないし……」
それ以前に、これって本当にシナリオ通り、予定通りだったのか?
大妖精はまだギリギリ何とかなるかもしれないけど、チルノに何かを覚えさせるのは不可能じゃないかな。あえて一からは聞かないけど、どう考えても当初の予定からは外れているような気がする。
でも、それを誤差の範囲として考えていたのだとすると……慧音は相当なやり手だ。
「まあ何というか、チルノから相談された」
「相談?」
「正確には少し違うか。あの、チルノがリリー探しから帰ってきてから2日間眠り続けたと話したではないか。目を覚ましたチルノに、明日には桜が満開になると伝えた時だ。私はてっきり大喜びするのかと思いきや、どこか浮かない表情でな。気になって聞いてみると、さっき話していたようなことを打ち明けてくれたよ」
チルノは決して口が堅いとは言えないけど、それでも私の気持ちを、私に直接聞くことは出来なかった。勿論、それができれば一番楽だったかもしれないけど、本当のところ、私の方から彼女に自分の気持ちを伝えられてよかったと思う。だから今日初めて知った、いつも強気なチルノの少し臆病な一面に、ほんの少しだけ感謝した。
そして、そんなチルノが本当はとても頼りにしたいと、きっと心のどこかで密かに感じている慧音と、私に自分の気持ちを伝える機会を与えてくれた慧音に二度感謝した。
「まあ、放っておいても問題はないと思ったのだが、私も最近は随分とお節介になったようで」
「慧音には、私に見えない色々なものが見えているんだろうね」
慧音には、何も聞かずとも私の気持ちが分かっていた。
まだ会ったこともない、こんなちっぽけで、自分でも惨めになるくらいカッコ悪い生き方をしてきた私の心の内を理解した。
チルノや大妖精から、私のことをどう聞いていたかは分からない。
でも、私はそんなことを平然とやってのける慧音が、カッコいいと思った。
あるいは、ある程度人付き合いがある者ならそれくらい当たり前のことで、自分のカッコ悪さが相対的にそう思わせているだけかもしれない。
「そんなことはない。私もまだまだ未熟だ」
謙遜しているわけではなく、慧音は恐らく本心からそう答えた。
「だったら私は、もっともっと未熟ってことだね」
未熟っていうか、未熟の域にも達していないかもね。
「リリー思いだしたよー!」
……は?
「ってチルノ。あんたずっとそれを考えてたのかっ!」
「あの春になると滅茶苦茶うるさいやつじゃん。……ってか、春になるのを待ってもらうためにこの前会って来た子でしょ。だったらそう言ってよね。リリーなんて言うから花か何かだと思ったよ」
私の突っ込みはスルーですか。と言うより、
「……チルノって花に詳しかったっけ?」
「ん?花に詳しいのは大ちゃんだよ。春になると色々教えてくれるから、あたいもちょっとだけなら知ってるよ」
「そっか。冬にはあまり花は咲かないからね……。うん、確かに大ちゃんには花がよく似合うかも。……でも、そんなことも知らなかったなんて、私……本当の友達とは程遠かったのかもしれないね」
彼女達は、私に色々なことを教えてくれた。でも、私が彼女達のことを知りたくて、彼女達に何かを問いかけたことなんて一度も無かった。そして自らの気持ちを、自分のことを話したのは今回が初めてだった。
私、もっとこの子達のことが知りたい。
「レティさん違います!そんなことないです!お花のことを話してなかったのは、ただそういう機会がなかっただけで……私は、チルノちゃんはレティさんのことずっと大切な友達だって……」
大妖精が必死で弁解?をする姿を見て、少しだけ悪いことを言ってしまったと反省する。
「分かってるよ大ちゃん。二人が私のことをどんな風に思ってくれているか。ありがとう。……今のはただ単に、私の問題。私の気持ちの問題」
「きもち?」
大妖精は首を傾げる。
「……分かる?」
「ちょっと、難しいです。ごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げる大妖精の隣には、なぜか誇らしげにうんうんと頷くチルノ。恐らく自分解釈に浸っているのだろうが、ここはあまり深く突っ込まないでおこう。
「うん。分からなくても大丈夫だよ。だって、私は今あんた達のことが大好きなんだから。それだけで十分でしょ。それだけで十分友達ってことだよ!」
「はいっ!」
明るく、元気よく返事を返してきた大妖精。
少し矛盾してるかな。でも、彼女達の明るさに、優しさに、前向きさに、素直さに触れたら、私のネガティブな感情なんてふわふわとどこかに飛んでいってしまいそうだから。すぐに忘れてしまいそうだから。
もしかしたら、別にそれでも構わないのかもしれない。今を気楽に、楽しく生きて生ければそれに越したことはない。
ただ、私はまだこれからなんだから未来を考えないと。
未来のためには、過去の自分が必要。
ただ一人で生きていた過去も、チルノのことが嫌いでならなかった過去も、彼女達の純真さに甘えていた過去も、そして今この瞬間も。
「チルノ。今日何食べたか覚えてる?」
「えっ!またあたいをバカにする気?そりゃいくらなんでもお……お、覚えてないよっ!」
「うん。そうだろうね。じゃあ私と初めて会ったときのことは覚えてる?」
「うん。あたいの方から一緒に遊ばない?って誘ったんだよね!そしたらしばらくして、レティがいいよって言ってくれた。勿論大ちゃんも一緒だったよ」
チルノは即答した。
「その時の私、どんな表情をしてた?」
チルノは少しだけ考え、いつもより控え目な声量で言った。
「驚いてたかな〜。……でも、いいよって言ってくれた時はとても優しい顔してたよ」
そして、いつもより控えめな笑顔を浮かべた。
嫌いな相手からの突然の誘い。嫌いだったはずの相手からの突然の接触。
どうして突き放さなかったのか?
どうして断らなかったのか?
どうして怒れなかったのか?
ずっと分からなかった。ずっと分からないふりをしていたのかもしれない。
チルノは言ってくれた「優しい顔をしていた」と。私の優しい表情なんて、自分自身で再現させること、想像することすら困難だけど、あの時の私にそんな表情ができたのだとすれば、それはきっと……
「嬉しかったんだ……本当に。嬉しかったんだよ」
そう。何てことはない。とても一般的で、とてもシンプルな気持ち。
「私はずっと一人で生きてきた。ずっと一人でも問題無いと思っていた。寂しくなんかないって、私は冬の妖怪だから仕方ないんだって、自分にそう言い聞かせていた。……腐ってたのかもしれない。本当はそんなわけないのに、自分に必死で嘘をついて意地を張っていた。……友達なんていらない。そんな風に思っていた」
「レティ……」
「でも、私だって始めからそうだったわけじゃない。知らない子を見かけたら声を掛けたし、一緒に遊んだりもした。楽しかったし、楽しいときは声を大にして笑った。友達の輪に入れたんだと思った。……でも、所詮私は冬しか存在できない妖怪。誰も私のことを本当に友達だなんて思って無かったんだって、新しい冬の訪れと共に思い知らされた。皆、冬の終わりに口を揃えて言うんだ。「また一緒に遊ぼう」とか「ここで待ってるから」とか「次の冬が来たら絶対に会いに行くから」とか……。でも、実際私を待っててくれた奴なんて居なかった。会いになんて来てくれなかった。冬しか自由がない私にとって冬がどれだけ短くて、春、夏、秋がどれだけ長いかなんて誰にも分からない。私がどんな気持ちで次の冬を待ち望んでいたか……。「また一緒に遊ぼう」だなんて、そんな嘘っぱちな約束を胸にしまって、その約束だけを頼りに、その約束が果たされることだけを待ち望んで、長い長い3つの季節。何をするわけでもなく、ただじっと乗り越えてきた。そして冬の訪れ、子供だった私は子供の様に胸を躍らせて、ワクワクしながら皆と遊んでいた場所を回った。1個所、2個所、3個所……全部回り終わる頃には私、泣きそうになってたかな。でも、それでもきっと遊ぶ場所が変わったんだって、必死で自分に言い聞かせて、いつも待っていた場所で皆が会いに来てくれるのをじっと待ってた。1日、1週間、1ヶ月……もう会いに来てくれないことが分かっていても、友達だって信じてたから。折角私にもできた友達のこと……疑いたくなかったから」
「レティ、泣いてるの?」
「あ」
チルノに言われてはっとした。確かに私の瞳から零れ落ち、頬を伝う熱い物を感じた。それに、いつの間にか視界もにじんでままならなくなっていた。
「ごめん。何突然泣いてるんだろうね私。……ごめん」
涙を流したのなんて、随分久しぶりだと思う。
裏切られ続けた私は、次第に臆病になってきた。傷付いて、傷付いて、もう傷付くのが嫌になった。
そして、私は涙を流さなくなった。
諦めてしまえば、もう傷付かずに済むって気付いてしまったから。涙を流すことも無くなるって理解してしまったから。
……友達なんていらない。
大嘘付き。本当は友達が欲しくて欲しくて仕方がないくせに。意気地なし!臆病者!そんなだからいつまでたっても本当の友達ができないんだよ。
心の中で、幾度となく自分自身を罵倒し続けた。でも、思っていた以上に私の傷付いた心は強固で、そんな私の本心を全く受け付けようとはしなかった。
「むぐぐぐぐぅ~」
突然、チルノが低い唸り声の様なものを上げだした。
「ど、どうしたのチルノ?」
「どっ!どうしたもこうしたもあるかー!レティにそんな寂しい想いをさせるなんて許せない!今すぐあたいが行ってそいつらをカチンコチンの氷漬けにしてやる!」
チルノは拳をぎゅっと握りしめて腕を振り上げた。チルノはよく怒る。ただ、そのほとんどは下らない理由で、いつもよくそんなことで怒れるねと呆れてしまう。でも、今回だけは彼女の意志と想いがしっかりと伝わってきて、何より私の為に怒ってくれているのが嬉しかった。
「わ、私だって許せないです!にっ、苦手だけどグーで殴っちゃうんだから!手加減なんて絶対にしないんだから!」
いつもは怒ったチルノを止める立場の大妖精。慣れない表情で、慣れない言葉で怒りをあらわにした大妖精は、それでもやっぱり可愛くて、愛らしくて愛おしかった。
「ありがとう。チルノ、大ちゃん」
本当にありがとう。
「今私が泣けるのも、全部二人のおかげだよっ!」
臆病になった心を再び開いてくれる誰かが現れるのを待つしかなかった私。そしてそれは彼女達なのだと……心のどこかでそう確信していた。彼女達の明るさが、純粋さが、無邪気さが、ひた向きさが、そして友達への思いやりと優しさが、私の心に降り積もった雪。何度も溶かそうとしては固まり、その度に強度を増した氷の雪を溶かしてくれるのだと。無意識の内にそう感じていた。
だからこそ私は彼女達の姿を遠くから眺め続け、彼女達を強く意識した。それは諦めきった私の心に対する、本心が見せた僅かばかりの抵抗だったんだと思う。
だから、そんな私の本心をすくい上げてくれた彼女達の誘いが、嬉しくて仕方がなかった。
本当は、泣いてしまいたい程嬉しかったんだ。
「レティ、言ってることが変。泣けるのがあたい達のおかげだなんて……何かあたい達が泣かせちゃったみたいだよ」
「そうだね。何かおかしかったかもね!」
一度大きく首を傾げたチルノだったけど、私の表情を確認すると口元を緩め小さく微笑んだ。
そう。私が今笑っていられるのも、二人のおかげなんだよ。
「ふふふ……。大ちゃんまでもがグーで殴るって言うのなら私も黙っていられないな。私は頭突きだ。約束を破るのは人間だろうと妖怪だろうと、例え妖精であったとしても道徳に反する行いだ!教育的指導っ!」
それはちょっと……。
「慧音との約束だけは100年越しでも絶対に忘れないような気がしてきたよ……んっ」
そう言った瞬間、私の体からふっと力が抜けた。突然だった。でも、もうそろそろだと予想はしていた。耳を澄ますと遠くからリリーの声が聞こえてくる。
「春ですよ~!春ですよ~!」
とても浮かれてて、ずっと待ちわびていたかの様な楽しそうな声。今なら彼女の気持ちが少しだけ分かる。
春はとても素敵な季節だったよ。
私も、それを心と体で感じることができて、とても楽しかった。
「レティ。もう何も案ずることはない。今日ここに集まった皆は、絶対にレティを忘れたりはしない。勿論私もだ。大切な友人のことを忘れるものか。……だから、また冬が巡ってきた時、いつでも里に遊びに来てくれ。今度はレティの友人として力になろう。レティに幻想郷の1年を楽しんでもらえるよう、じっくりと秘策を練っておくよ。……約束する」
「慧音……ありがとう」
チルノと大ちゃんと出逢った次の冬のことを思い出す。目を覚ました私の視界には彼女達が写っていた。偶然か奇跡か。私の姿を見つけた二人は、とても嬉しそうに走って来て私の胸に飛び込んだ。私は、そんな二人を力いっぱい抱きしめた。自分らしい言葉が見つからなくて、何も言ってあげることは出来なかったけど。
ずっと不安だった。期待をする余裕すら無かった。
友達とか言って、待っててくれるとか言って、また一緒に遊んでくれるとか言って、結局はそんな約束忘れて、私の存在すら忘れてしまうつもりなんだろう?
いつもそうだった。
……分かってる。だってそれが私だから。
でも、忘れないで欲しかった。覚えていて欲しかった。
私の胸に抱かれて、約1年分たまった色々な言葉を掛けてくれた二人。私は、心の中で何度も何度も彼女達に謝った。
不安に思ってごめん。疑ってごめん。
もう絶対、こんなつまらないことで不安になったりしないから。
私、この子達のことが大好きだ。
自分の気持ちにはっきりと確信が持てたのはその時からだった。
「ねえレティ。もう行っちゃうの?」
「もっと、もう少し一緒にお話がしたいです」
私の異変に気付いたのか、そう言いながら二人は泣きそうな表情で見つめて来る。いつもながら、よく表情がころころと変えられるものだ。感心するよ。
「ごめんね。でも、これ以上リリーを待たせるのはかわいそうだからね。……だって、彼女はずっと春が来るのを待っていたんだからね」
そう。私が、冬の訪れを、彼女達との再会を待ち焦がれていたのと変わらない。
でも、
「私が、冬が来るのを待っている気持ちの方が、今はずっと強いって自信があるけどねっ!」
私は、声高らかに宣言した。
「だからチルノ。大ちゃん。私のことを待っててくれる?またその時は、一緒に遊んでくれる?」
それこそ愚問。でも、一度言ってみたかった。
「あたりまえだよっ!あたいだって、リリーが春を待っているのよりもずっと、レティに会うのを楽しみにしてるんだからっ!」
「私もです!今度はレティさんも一緒に楽しめるような悪戯を、チルノちゃんと考えておきます!」
二人は、我こそ一番と言わんばかりに声を張り上げた。
「悪戯か……私にできるかな~」
「大丈夫!あたい達が教えてあげる。あっ、でも慧音の見てるところでやっちゃったらダメなんだよ」
「うん。慧音さんに見つかるとお仕置きされちゃいます。とても怖くて痛いんですよ」
「それを私の前で言うか?」
……確かに。でも何となくだけど、慧音にくだらない悪戯を仕掛けて、お仕置きを受けている二人の姿が思い浮かんでしまうのがおかしかった。
「悪戯なら私達も手伝いますよ!」
ほえっ?
突然起き上ったのは、慧音の厳選酒を飲んで早くにリタイアしたはずのスターサファイアだった。サニーとルナは……相変わらず地面にへばり付くように眠っている。
「なっ、何でスターそんなに元気なのよっ!」
「そうだよ。慧音さんのお酒を飲んだはずなのに~」
「んっ、っていうか私お酒に強いからあの程度じゃ酔わないし」
スターはさらっと言ってのける。何やら、いつもと口調も違っている。
「でも、お酒飲んだ時に嫌そうにしてたじゃない」
チルノがそう聞くと、スターは実に嫌らしい笑みを浮かべながら返した。
「だって、あのお酒がまずかったのは本当だし、そもそも私お酒ってあまり好きじゃないのよね。あの時は、サニーのバカがもう一回勝負とか言いだして、どうやったらこれ以上飲まなくてすむか考えてたのよ。すると、ちょうどいいタイミングでルナがつぶれちゃったから、ああこりゃいいわってな感じで私もそれに乗っかっただけ」
酔いつぶれた振り?
これは流石の私でも全く気付かなかった。スター恐るべし!
「じゃっ、じゃあもっと早くに起きればよかったのに何で!」
チルノが再び聞き返す。
ダメだチルノ。彼女はあんたより一枚も二枚も上手だ。
「それは、チルノと大ちゃんの言動が明らかにおかしかったからでしょ。こりゃあ何かあるなと思ってさ、折角だからこのまま全部聞いてやろうと思ったわけ。それでもし面白い情報をつかんだら、チルノと大ちゃんを揺すってやろうかと思ってたんだけど」
「う、うぅ~」
スター悪っ!いつものおっとりとした感じからは想像もつかなかったけど、彼女がこんなにも黒いだなんて全く知らなかった。
ってか、良い子は絶対に真似しちゃダメだからね。
「でもまあ、こういうことだったら脅しのネタにも種にもならないね」
そう言うと、さっきまでの悪い表情から一転、スターはいつもの表情で微笑んで見せた。
「でもレティさんもレティさんです!」
「えっ?」
突然、話のターゲットが私に向いた。さっきのこともあってか、ちょっと緊張してるかも。
「聞いていれば、友達はチルノと大ちゃんだけみたいな口ぶりで……ちょっと心外です」
「う、うん?」
「私達だって、もうずっと前からレティさんのこと友達だと思ってましたから!サニー、ルナ、そして私だってレティさんのこと大好きなんだって忘れないでください!それに何か、これは仕方ないことかも知れないけど……チルノや大ちゃんに負けたみたいでちょっとだけ悔しかったんですから!」
……。
「ごめんねスター。私、自分で思っていたよりもずっと、皆から想われていたんだね。……ありがとう。スターも私のこと待っててくれる?」
「当然です!私達が悪戯の極意を伝授します。かくれんぼと悪戯に関しては、私達の右に出る妖精はいないんですから」
チルノは若干不満そうだったが、今日は完全にスターに負けているので言い返すこともしなかった。
「成程、やはりそう言うことだったか」
と、突然何かを思い出したように慧音。
「どうしたの慧音?」
「お前達もレティの為に、桜の開花を手伝ってくれていたのだな」
「えっ!どういうことですかレティさん?」
「大ちゃんも言っていたではないか。桜の木を温めていたら急に周りが暖かくなったと。私も目の錯覚かと思っていたのだが、この辺り一帯がいつもより明るく、そして少し離れた場所が暗く見えていた。……ようやく分かったよ。あれは」
「流石慧音さん。鋭いね。……うん。あれはサニーの能力だよ。大ちゃんからレティさんの目標を叶える為に桜の木を温めるのを手伝ってと誘われた時、またバカなことを始めたなって正直思った。でも、手伝うことに異論は無かったよ。だたサニーがね、すごいテンション上げて、私達にしかできないこと思い付いたって、それはもう嬉しそうに。聞いたら、光を屈折させて桜に当ててあげようってことでさ。そうしたら桜も早く開花するんじゃないかって……私も、それなら上手くいくって思ったよ」
……確かに。
「サニーは基本的にバカだけど、友達の為に必死で考えて、友達の為に何かしてあげたいって一生懸命努力する。今回のことだって、こんな広範囲の光を屈折させたことは無かったし、本当にできるかどうかも分からなかった。でも、サニーは自分の力を振り絞って、フラフラのへとへとになりながらそれをやりきった。いつも暴走気味で、後先考えずに突っ走るサニーだけど……私の自慢の友達だよ。サニーはあんな風に見えても、少し恥ずかしがりなところもあって、今回のことは内緒にしてって言ってたけど、まあばれちゃったらしょうがないよね。光の妖精のくせに影のヒーローになりたいだなんて、ちょっとカッコよすぎるからね!」
今度は年相応、外見相応の明るい笑顔を見せたスター。きっと、本当にサニーのことが大好きで、サニーが頑張ったことを皆に自慢したくて仕方がなかったんだと思う。口では散々バカとか言ってるのに、自分にとって彼女の存在がどれだけ大きいのか、心の中では常に認めてる。
チルノとサニーの性格が似ているのは間違いないけど、よくよく考えてみると、私とスターもよく似ているのかもしれない。
私も、チルノのこと誰かに自慢したいな。
となると、ルナのポジションは大妖精ってことになるけど……成程、何となく似ているかもしれないね。お互い流されやすいくせに、妙にノリだけはいいところとかね。
「少し話しがずれちゃったかな。……え~、つまり、そんな一生懸命になれるほどサニーは、ルナと私はレティさんのことが大好きだってことです!」
「うん。ありがとうスター。それにサニーとルナにも、起きた時にはよろしく言っといてね」
私がそう言うと、スターは一瞬ムスッとしてから、なぜか髪に結んでいる大きなリボンを慣れた手つきでほどいて見せた。長くておしゃれな青いリボン。
「えっ!ちょっとスター?」
……。
そして、何だかよく分らないうちに、スターは私の首にそのリボンを結んだ。
……なぜに首?
「よろしくなんて言いません。……だから、今回のお礼はレティさんの口から直接言ってあげてください。その方が二人も喜ぶと思いますし、それまでは、もうばれちゃってることも内緒にしておきます。……リボンは、その時までレティさんに預けておきますから、ちゃんとお礼を言えた時に返してくださいね。私のチャームポイントなんですから!……因みにレティさんは首が太いから、結びがいがありました」
なっ!
「うん。約束するよ。でも、約束はするけどその代わりに一発拳骨落としてもいい」
「ごめんなさい冗談です~。レティさん背が高いから、首元までしか手が届かなかっただけですよ~。あっ、でも似合ってますよ。流石私のチャームポイント!……って、チルノ大ちゃん!何私の真似してんのよ!特にチルノは私とリボンの色がかぶってるから止めなさいよ!」
二人の行動の早さは相変わらずだった。あっと言う間にチルノは私の右腕に、大妖精は私の左腕にそれぞれリボンを結んだ。何だっけあれ……おみくじを結ぶ木になった気分。でも、結構悪くはない。
「えへへ~、もう遅いもんね。……レティ、あたいのリボンは来年のお花見の時に返してね。次の冬まではちょっと長いけど、それをあたいだと思って大事にして」
チルノは私の右手を両手でギュッと握りしめた。
「じゃあ私のリボンは、来年の夏祭りの時に返してくださいね。阿求さんに浴衣借りて、わたあめ食べながら、みんなで一緒に花火を見ましょう。私、今からずっと楽しみにしていますからっ!」
大妖精は私の左手を両手でグッと握りしめた。
「うん、ありがとう。絶対大事にするから」
「この流れだと、最後は私か?……そうだな、私のリボンは手放すわけにはいかないので、代わりはこれだな」
……。
慧音は私の髪に、花の髪飾りを付けてくれた。……ってこれ、阿求の!いつの間に?
「わぁ~。レティさんとっても似合ってます!可愛いです!」
かっ、可愛いとな……少し恥ずかしい。
「でも、これ阿求のだよね」
「心配無用。阿求様には合意済みだ。自分はどうせ酔いつぶれて寝てしまうから、その時はレティに預けてほしいって。この髪飾りは阿求様がいつも身につけている一番のお気に入りだ。友情の証として、再会の約束として、来年の秋を一緒に過ごす誓いとして、収穫祭の時に返してやってくれ」
「うん」
冬の訪れと共に、スターの青いリボンを。
春のお花見の時に、チルノの青いリボンを。
夏のお祭りの時に、大妖精の黄色いリボンを。
秋の収穫祭の時に、阿求の髪飾りを。
「……よかった」
「レティ?」
気が付くと、私の全身から光の粒子が放出されていた。強く輝きながら次第にフェードアウトするように消えていく粒子。どこへ行くわけでもなくフワフワとチルノの鼻を、大妖精の頬を撫でた。
私の姿が形を失う数十秒前。その合図。
……毎年思う。
どうして私からこんなにも綺麗な光が出るんだろう?
どうして私なんかが、こんなにもキラキラと輝いているんだろう?
「これで私、寂しくないよ」
少しずつ体が宙に浮きあがっていくかの様な感覚。粒子の放出と共に、自分から重さが消えていく。
「だって、これでずっと皆と一緒にいられるんだもん」
きっと、この粒子一つ一つが私なんだ。偏りのない、全て同じ重さを持った私。これから、また冬に一つになることを約束して旅立っていく。たった一人で……。
「私、本当は寂しがりやで……」
ただ、彼女達が私に施してくれた装飾は、約束は、想いは……私の一部として連れて行くことができる。
「チルノと大ちゃんは絶対に私のことを忘れないでいてくれる。だから、不安はなかったし、恐くもなかった」
ずっと側で感じることができる。
「だけど、会いたくても会えない時間が続くのは寂しかった。寂しくてつらくて、泣いてしまいそうだった。その冬が楽しければ楽しいほど寂しさも大きくなった。……だから、今年はとても楽しかったから、私……一人になりたくなかった」
「レティ(さん)!」
チルノと大妖精が同時に私の名前を叫ぶ。二人とも、瞳に限界まで涙をためていた。
「あたい……レティにずっと寂しい想いをさせていたの」
「私……レティさんの寂しい気持ちに気付けなかった。……ごめんなさい。ごめんなさい……」
そして、それを一気に放出すると共に、私の胸の中に飛び込んできた。
まったく、この子達はどうしてこうも……、
「こらこら謝らない。寂しい気持ちになれるのは、楽しい時を知っているからだって言ったでしょ。……そしてそれを教えてくれたのは、他の誰でもないあんた達なんだからね」
ほとんど感覚が無くなった両腕で二人を抱きしめた。やっぱり、彼女達の温度を感じることは出来なかったけど、今はもうそんなことはどうでもよかった。
「あうっ!」
「きゃうっ!」
バタンッ
体を預けるように私に抱きついていた二人は、まるでずっこけることに人生を掛けていると言わんばかりに、全力で前に倒れ込んだ。ついに、私の実体がなくなってしまったせいだ。
「うぅ~」
「いたい~」
突如前のめりになって倒れそうになった体を何とか持ち直そうと両手をブンブン振り回したけどやっぱりダメで、折角の涙とか感動とかお構いなし。バカみたいなノリに、変な声出しちゃって……でも可愛くて、楽しくて。
やっぱり、私達はこうでなくちゃいけないって。
「くっ、くくく……ふふっ」
「わ、笑われちゃってるし~」
「痛い上に、ちょっと恥ずかしいです~」
光の粒子となってゆっくりと徐々に浮かび上がる意識。私本来の姿はもうどこにも存在しない。ただぼんやりとしてきた視界で、そんな彼女達の姿を、私の姿を探してキョロキョロと辺りを見回している彼女達を微笑ましく眺める。
何だか、もう一度だけ言っておきたくなった。
「(私はあんた達のこと滅茶苦茶に、バカみたいに大好きだから!)」
声は出なかった。でもチルノと大妖精、スターと慧音も、何かに気が付いたようにこちらを見上げた。声は届かなくても、気持ちは届いたんだと確信した。
そして、おバカな妖精達は腕でごしごしと涙を拭って、手を大きく広げて背伸びした。
「私達も、レティのこと-------」
途中で途切れた声。でも、最後まで聞かなくても分かってるよ。
でも、もし覚えていられるのなら、次に会った時もう一度聞かせて。
その時の私は、きっと自信を持って言えるはずだから。
私は、幻想郷で一番幸せな冬の妖怪なんだって!
-レティ・ホワイトロック編 完
まず初めに、ここまで読んでくださった皆様に感謝です!
更新に3カ月も掛かってしまいましたが、ようやくレティ編完結です!
無駄に長かったし、この完成度……はい、すみません。色々あったんです!
というわけでレティ編、
まずはレティの設定ですが色々考えた末こんな感じになってしまいました、
冬以外は、消えてしまう設定の方が盛り上がるのでこっちにしました。
また、案外チルノとの仲は不仲というのも一般的みたいなのでこんな感じでまとめてみました。
それにしても、登場するキャラ登場するキャラ全ていい子ばかりですな~。
特に妖精達は本当にいい子達ばかりで……憎めないですね。
因みに三月精は、
サニーミルクは暴走気味のリーダー。
ルナチャイルドは割とクールな感じ。
スターサファイアは実は腹黒。
という感じで勝手に設定を固定しています。
次は、例の通りExtraをはさんだ後に次キャラに移ります。
レティ編をあまりにもゆっくり書いていたせいもあって、次キャラは10話分程書き溜めしてたりします。(だから北見はダメなんだとか言わないで)
よって、更新は意外と早いかもです……。




