レティ - その5
「本当に咲いてる……」
人間の里に着いた私は、辺り一面に広がる満開の桜に釘付けになった。
それは間違いなく、1週間前までは蕾だったもの。ただ、それが突然咲いたことに驚いているわけではない。まあ実際はそれも多少はあるかもしれないが、蕾が1週間で満開になる。有り得ないことではない。
私が一番驚いて釘付けになったのは、初めて見る本当の桜の美しさだった。
「ねっ、本当に咲いてるでしょレティ!あたいの言った通り!」
得意気な表情で私を見上げてくるチルノ。なぜか、今日は彼女のことがいつもより愛おしく感じた。
「チルノもたまには本当のことを言うんだね」
「たまにじゃないよ!あたいはいつだって本当のことしか言わないよ」
「ふっ、確かにそうだね」
まあ正確には、本当だと思い込んでいることしか言わない、だけどね。
「レティさん。慧音さん達に場所をとってもらっているので行きましょう」
大妖精が指を差した先には、巨大な桜の木があった。一際大きくて、一際美しくて、一際目を引くその桜の木の下は、多分この桜の名所の中でも一番の特等席なんだろうと思った。そして、そこに陣取るようにレジャーシートを広げて、数人の少女が座っている。豪華なお弁当箱を並べて、お酒を並べて、花見の開始を今か今かと待っているように見える。
もしかして、私達が来るのを待っていたのだろうか?
周囲では、既に人間と妖怪とが入り乱れてのドンチャン騒ぎが始まっている。よって騒がしい。こんなにも賑やかなのは多分初めてだった。
因みに、見知った顔も幾つかある。チルノや大妖精があらかじめ友達を呼んでいたのだろう。
夜雀の妖怪であるミスティア・ローレライや、蛍の妖怪であるリグル・ナイトバグは私の姿に気付くと、早く早くと言わんばかりに手招きする。二人はチルノと仲がよかったので、彼女を通じて知り合った。時々一緒に遊ぶこともある。
悪戯妖精のサニーミルク、ムーンチャイルド、スターサファイアは待ちきれないのか、豪勢な料理とにらめっこしている。彼女達、いわゆる三月精はチルノと大妖精の友達で、5人揃うと質の悪さも倍増だ。勿論、私の苦労も倍増だ。……嫌いじゃないけど。
その他は今日が初対面になる……人間?
まあ何にせよ、妖怪・妖精陣に比べればおとなしそうな印象は受けた。
ん、それにしても一番賑やかで一番大食いのルーミアがいないじゃないか……。
タダ食いが出来るのであれば、どこでもすぐに飛んでくる彼女のことだ、周りはもう飲めや騒げや食えや歌えやの大騒ぎ状態なので、どこかに食いに行っているのかもしれない。……有り得ないことではない。
それにしても、確かに大妖精が言っていたことは本当だったようだ。
人間と妖怪、それに妖精。異種族が混じり合ってこうも違和感無くひとつの風景に溶け込めるとは……これはこれですごいことなのかもしれない。
「レティ、なに突っ立ってるの。お花見だよお花見!いくよっ」
その光景をぼ~っと眺めていると、チルノが私の右手を引っ張った。
「チルノちゃんずる~い。私もっ!」
負けじと大妖精は左手を引っ張る。
自然と足が前に出た。そして、その足取りは信じられない程軽かった。さっきまでは歩くことすらつらかったというのに……。彼女達がしっかり手を握ってくれているからだろうか。左右から流れ込んで来る冷たい温度と暖かい温度が、私の体の中心でとても心地よく混じり交わり合う。
目の前に広がっているのは、春そのものだったというのに私の心は子供のように弾んでいた。
不思議……あれだけ恐れていた春が今は怖くなかった。
「三人とも遅いって。何してたの?」
まず始めに声を掛けてきたのはリグルだった。
「ごめんごめん。もう、レティの体が重くてなかなか前に進まなかったんだよ〜」
「うわっ、チルノそんなことを言ったらまた」
やはり私達の到着を待ってくれていたようだ。全く、二人も皆を待たせているならそう言えばいいのに。
まあ、体が重かったのは事実だが、恐らくチルノが言ったのはもっと質量的な重さなわけで……つまり、リグルの期待にお応えしなければいけないようだ。
ゴツンッ!
「あぐぅ!……い、痛いよレティ。うぁっ、痛い。なにこれ本当に痛いんだけど」
私は、一切手加減無用でチルノの頭に拳骨を落とした。もし彼女が、今以上バカになったら私のせいにしてくれても構わない!ってな感じだ。その光景に戦慄を覚えたのか、リグルは少しずつ私から後ずさっていく。ふっ、いくらなんでもビビり過ぎだ。
「ち、チルノちゃん大丈夫」
「……あのね大ちゃん、これは大丈夫じゃないかも。すごく痛いよ。でも……やっぱりレティはこうでなくちゃって感じの痛さかな。リグルも後でやってもらうといいよ」
「いや、遠慮しておくよ」
チルノは薄らと瞳に涙を浮かべながら微笑む。
……これじゃ、私がただ手の早い暴力女みたいじゃないか。
ったく、これだから妖精ってやつは……。
「チルノちゃーん!」
「うわっ!」
その時、突然何者かがチルノに向かって跳躍してしがみつく。
そして……、
「やっ、やめろ~。ほっぺたすりすりするなぁ~。熱いよ~」
恐ろしい勢いでチルノに頬ずりする人物は、よく見ると見た目地味そうだけど実際はそうでもない、どこにでも居そうで実際はどこにも居なさそうな女の子だった。ただ、どこか人間とは違った雰囲気を醸し出している。色んな意味で。
んっ!
ああそう言えばチルノが言ってたっけ。最近変なのに気に入られたって。
確か名前は……、
「チルノちゃん痛かったの。お姉ちゃんが痛いの痛いのとんでけしてあげるね。痛いの痛いの」
「があー!あたいは子供じゃないてのー!……あれっ?痛くなくなってる。穣子すごいっ」
そうそう穣子。ってか、チルノはどこからどう見ても子供だろう。子供でなければむしろバカ?
いや、お似合いだと思うけど。何となく。
「あっ、ごめんなさい。チルノちゃんを見るとつい飛び込みたくなっちゃうもので」
穣子は私に向かって一礼する。
それは重病だ。しかも、物凄く質の悪い。
「私は秋穣子。一応、人間よりずっとちっぽけな神様やってます。よろしくねレティさん」
「ど、どうも」
神だったのか。全然見えない!
握手を交わすと穣子は後ろを指差した。
「因みに、あれが私の姉の静葉姉さん。私のことが大好きで、すごく焼きもち焼きで可愛いの。今もチルノちゃんに対して焼いちゃってるよ。ほら、こっち見てるでしょ。それにとんでもないキス魔で……(以下略)」
「はぁ、さいですか」
穣子が静葉のことを好きなのは何となく分かったが、結局分かったのはその程度だった。
「キス魔とは聞き捨てならんな穣子よ。キス魔と言うのは誰彼構わずキスをぶちかます奴。私が奪うのは穣子の唇だけだ!」
う、うわぁ。
「だから私にとっては変わらないっての!自信たっぷりに言うなっ!穣子ちゃんキーック!」
ガゴッ
「ああああぁぁぁぁ……」
穣子ちゃんキックなる技を食らった静葉は、一瞬にして空の彼方に消えていった。きっとお星様になったのだろう。
「すまないな騒がしくて。まあこのメンバーが揃えば大体いつもこんなものだ。勘弁してくれ」
「はぁ」
若干呆れ気味に、青髪の女性がフォロー?を入れてくる。
「私は上白沢慧音だ。よろしく頼むぞ。まあ全てが真実かどうか分からないが、チルノ達から事情は聞いている。今日は花見を存分に楽しんでくれ」
そう言うと、慧音は空いている場所を指差した。
……それじゃ遠慮なく。
「あたいレティのとなり〜」
「私も〜」
地面に敷いたシートの上に座ると、すぐさま右手側にチルノ、左手側に大妖精が、私に付き添うように座る。
「じゃあ私はチルノちゃんの隣〜」
と、更にその隣に穣子。
「穣子居るところに姉あらわる!穣子の隣は私だ!」
静葉っ!
確かにお星様になったはずなのに……もう復帰している?
「なっ!みのりんの隣は私以外に有り得ません!」
と、着物がよく似合うこの子は誰だ?
「あ、名乗るのが遅くなって申し訳ありません。私、稗田家当主、稗田阿求と申します。みのりんの大親友です!」
阿求はそう言うと、親指をぐっと立ててウインクをする。
ぱっと見たときは、おしとやかで、物静かで、真面目そうな印象を受けたが、どうやらそうでもないらしい。
「大親友?私は姉だ!姉を差し置いて穣子の隣に座ろうなどとおこがましい!」
「なにおう!みのりんから聞いた、姉の恥ずかしい武勇伝百連発を里中に言い触らしても構わないんですか」
彼女達にとって穣子の隣というのはよっぽど魅力的な場所らしい。阿求も負けじと応戦する。
「なぬっ!酒の楽しさを教えてあげたのは誰だと思ってるの」
「酒の楽しさ?何言ってるんですか。静葉さんのせいで今私が里で何て呼ばれてるか……泣き上戸のあっきゅんですよ!皆さんが私を見る目が一気に変わりました」
「酒止めればいいじゃん」
「止めません!私を誰だと思っているんですか!私はあの有名な泣き上戸のあっきゅんなんですよ!酒が入っていないのに泣き上戸だなんて、どこまで演技派なんですか!」
「面白い!ならば今日は飲み比べだ。私の隣に座りな!」
「望むところですっ!」
……意味分からん。何だかんだ言っても、静葉と阿求は仲が良いと言うことだろうか。人付き合いがあまりない私にはどうも分からない。
それにしても、類は友を呼ぶってことなんだろうか。チルノと大妖精だけでも十分賑やかだと思っていたけど、似たような連中がこれだけ集まると賑やかを通り越して……なんて言うかほらっ、
「……何だか楽しい」
つい本音が口に出てしまった。
私の言葉が意外だったのか、チルノと大妖精は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「レティさん、楽しいのはこれからですよ。だって、お花見はまだ始まってもないんですから」
「そうそう。今日はあたいの最強っぷりを見せて、レティに最強だと認めてもらうんだから!楽しみにしておきなさいよ」
「それは楽しみ。あ〜、楽しみだなぁ」
「なんかあたいのことバカにしてない?」
「そんなまさか。してないわけがないじゃない」
「えっ!してないわけがない?……って、どっちだ?」
チルノはなぜか指を折りながら考える。あっ、違う違う。九の次は十だ!なぜ一に戻る?
「チルノちゃん私の指も貸そうか?そしたら数が倍まで数えられるし……」
いやいや、二十まで数えてどうする大ちゃん?
「お姉ちゃんも指貸してあげる〜」
穣子がそう言いながら、隣からガバッと抱き付く。冷たくないのだろうか?チルノの抱き心地は最悪のはずだが……。
「がぁ〜!だからいきなり抱き付いて来るなって!あたいの計算がくるう〜」
いやいや、普通の四則計算もできないくせに何を言うか!
そして、お前は何を計算している!
「よ〜し。それじゃあお姉ちゃんと一緒に数を数えようか。い〜ち、きゅ〜う、九、9……」
「ちょっ、ちょっと、何で9ばっかりなのよ!」
「それは〜、それはね〜、チルノちゃんのことが大好きだから〜(歌うように)」
ぎゅむっ!
「うああぁぁー!だから抱き付くなって〜」
……これが神様?正直全く見えない。
やっぱり幻想郷は楽しいところだね。つくづくそう思うよ。
そして、今更だけどなぜにチルノの姉?
むしろ、そのポジションにより近いのは私だろう。譲ってほしいと言われたら2秒で譲るけど。
「レティ~。たすけてよ~」
……訂正。2分、いや5分ほど考える時間が欲しいかな。
「こらこら!各自騒がない!皆が揃ったところでそろそろ始めるぞ!……ってお前達、なに早くもつまみ食いをしている!」
ガゴスッ!
「きゃうっ!」
「あうっ!」
「うぐっ!」
慧音は物凄い速さの拳骨三連打を繰り出し、開始が待ちきれず料理をつまみ食いしていたサニー、ルナ、スターを一瞬で昇天させた。
す、凄い!なんて威力とスピードなんだ!
後で弟子入りを志願してみようか。
そうすればチルノと大妖精を一緒に……。いや、大妖精には刺激が強すぎるかもしれない。
「あいててて……だってお腹空いたんだもん。いきなりはひどいよー」
一番に復活したサニーが、涙目で申し分を述べる。
まあ、腹が減って目の前に御馳走があれば、大抵の妖精は手をつけるだろうな。
後、ルーミアとかは無条件で食うだろうな。むしろ、彼女に我慢は似合わない。……そう言えば、やはりルーミアは来ていないようだ。
「そうだそうだー」
「こんなにも美味しそうなヤツメウナギを持ってきたミスティアさんが悪いんです」
「はぁ?何でそうなるのよ!」
遅れて復活したルナとスターが加わり、なぜかミスティアのせいだと言い張り出した。
どう考えてもただの言い掛かりだが、確かにミスティアの焼いたヤツメウナギは美味い。それは間違いない。カロリーは多少気になるけど……。
「そーだそーだ!クリームソーダ!」(三月精)
「そーだそーだ!ソーダアイス!」(チルノ)
「そーだそーだ!……えっと、普通のソーダ!」(穣子)
って、何でお前らも加わる!
「あ〜!あんた達あんまりうるさいと……歌うわよ」
「ごめんなさい」(一同)
早っ!
「ミスティアさん素敵です、イカします」(サニー)
「よっ!幻想郷の歌姫!」(ルナ)
「二人は褒めてるけど歌えってことじゃないですから、そこだけは勘違いしないように……あっ!ミスティアさんイカします〜」(スター)
「う〜ん。なぜ歌おうとするとみんな態度が一変するのよ。何か腹が立つわね」
「そんなのミスティアの歌がドヘタだからに決まってるじゃん。あたいの方がよっぽど痛っ!……ちょっと誰よ、今あたいの足つねったの!」
チルノは険しい表情で周りをキョロキョロ見渡す。
……。
「気のせいじゃないかな。ねっ、チルノちゃん」
「うーん、確かに今考えれば本当に痛かったかどうか覚えていない。そうか、つまり大ちゃんの言う通りだね!あたいってば天才ね」
えへへと可愛く微笑んでいる大妖精だが、私はしっかり見ていた。
チルノの足をつねったのは大妖精。その時の笑えてなさと言えばそれはもう……目が本気だった。
ミスティアの歌がトラウマにでもなっているのだろうか?
「はいはい。騒ぐのもいいが、取りあえず花見を始めるぞ。ミスティアも歌いたいのであれば花見が開始してから歌え!」
っ!
「慧音さんっ!何てこと言うんですか!そんな、ひどい。ああ……私、生まれ変わっても、またチルノちゃんとお友達になれるかな……」
「当たり前だよ大ちゃん!どんなことがあってもあたい達は友達だよ!」
「チルノちゃん!」
「大ちゃん!」
「チルノちゃん!……じゃねえよ!二人とも後でちょっと話があるから来い!」
「ううぅ〜、グズッ。ミスティアさんこわいよ〜」
「泣いてもダメ」
「な、何であたいも一緒になのよ〜」
「あんたは論外」
「だったら、当然レティも一緒じゃなきゃおかしいよね」
「は?」
何で、そこで私が出てくる?今回のやり取りには一枚も絡んでいないのだが。
「って言うか、それは明らかにおかしいと思うけど」
「いいえ、チルノちゃんの言う通りです。レティさんも一緒に来てください!それで、そのおっきな体をミスティアさんの歌から守る盾に……」
ゴガゴッ!
「きゃう!」
「あうっ!」
取り敢えず拳骨を二つ。大妖精も言うようになったな。
何かに怯えると口が更に軽くなると見える。流石の私も一切躊躇う余地がなかったよ。
「レティさん。もっと優しくしてくだ、さい。……こてんっ」
「れ、れてぃ。今何かいけないこと言ったかな?……がくっ」
二人を同時に昇天させた私。それにしても今の拳骨は、従来のそれではなかった。二人を一瞬にして、その間約0.2秒!これは、先程慧音が三月精を昇天させた拳骨の速さに匹敵する。
……まさか!
「見取り稽古ですね」
と、突然身を乗り出して阿求。
「見取り稽古!」
「そうです!主に見ることを稽古とする、正にこのことです……多分。一度拳を振るうより、百度その拳を見取る方が鍛練になることだってあるのです!……多分」
自信たっぷりな口調で、自信なさそうに弁を振るう阿求。見た目によらず、結構熱い少女の様だ。
「あの〜、百度と言うか、さっき見たのが一度目なんですけど……」
ビシッ!
「おっ」
突然、人差し指で私を指差してきた阿求。
「レティさん!貴方は天才です!」
「なにぃ!レティは天才だったのかー!なるほど、確かにあたいの友達だからそうかもしれない。でもあたいは天才な上に最強だからもっとすごいよ!あたいったら最強で天才ね!」
ゴツンッ!
「はうっ」
「あんたは一々反応しなくてもいい。復活が早いのは認めるけど、何度も殴るのは面倒だから、しばらくダウンしてな!」
「りょ、りょーかい……がくっ」
チルノが再び昇天したところで阿求は話を再開する。
場合によっては彼女にもメガトンパン……じゃなくて拳骨だな。
いや、初対面で拳骨はいくらなんでも馴れ馴れし過ぎるか。
「……つまり、それは物凄いことなのです。だだ、慧音さんの一番得意技は頭突きであり、現在分かっている限りでは、拳骨からこの頭突きに繋ぐ連続攻撃が最強のコンボだと言われています。全く、信じられません!あんな恐ろしい技を繰り出しておいて「素敵な彼氏がほし〜い」とか目をうるうるさせながら言うんですよ!そりゃあ無理でしょう。あれじゃあ大抵の男は逃げて行くっての!あっ、因みにレティさんの天才ぶりならこの連続攻撃も簡単にマスター出来ますよ。威力も本家と比べて遜色の無いものになるはずです。確かに熟練度では慧音さんに遠く及ばないですけど、レティさんには質量という最大の武器が」
ガゴンッ!
「きゃうっ!」
私と慧音の拳骨がほぼ同タイミングで阿求に炸裂した。
「み、見事な威力です。……これで私は安心して逝けます。メガトンツインスクリューブロー!括弧今てけとうに考えた、があれば、人間の里にどんな危機が訪れても、どんな強大な敵が現れても恐れることはありません。二人の絆があれば、どんな困難も乗り越えていけるはずです。……そしてあわよくば、その絆が暗く閉ざされた幻想郷に降り注ぐ一縷の光となることを願って……まる年まる月まる日。幻想郷人間の里稗田家当主、稗田阿求。……ぐふっ!」
長いよ!そして、メガトンとか言うな!
「あっきゅん!まさか、その為にあんなことを言ったの!幻想郷の未来の為に。大きすぎる。大きすぎるよあっきゅん。……でも、私はあっきゅんに生きていてほしい。だって、だってあっきゅんは私の大切な友達だから。……あっきゅん!」
あぁ(怒)
「み、みのりん。ごめんなさい。……私も、もっとみのりんと一緒にお芋さんを食べたかった。でも、これは私に課せられた使命だから。こんな私を、許してください。……はぁ、はぁ。最期に、みのりんの声が……聞けて、よかった。……愛……ラブ……みのりん。……ガクッ」
「あっきゅん!あっきゅん!いやっ!いやぁーーー!」
ああ鬱陶しい!
ゴツンッ!
「きゃふんっ!」
私の拳は穣子の頭にクリティカルヒットした。
「……あっ、あれぇ?お芋さん畑が見えるよ~。チルノちゃんもいっぱい飛んでる~。かわいいな~」
「もっ、戻って来て穣子~」
もう初対面だろうが神様だろうがバカだろうが……いや、どいつもこいつもバカには違いないけどお構い無し。むしろ、ここに居る連中にお構いする方が逆に失礼だ。そんな気がしてきた。
「れ、レティさん……滅茶苦茶手が早すぎます。……がくっ」
穣子よ、安らかに眠れ!
「よしっ、それでは今度こそ花見を始めるぞ!って、同じこと言うのがこれで何度目だ。……全く、これだったら寺子屋の子供達の方がよっぽど扱いやすい」
呆れ気味にそう呟く慧音。
「全くね。これじゃ、いくら温厚な私でも拳を痛めずにはいられないわ」
「……よく言うよっ!」
小声でリグルが突っ込んできた気がしたけど、手が痛いので取りあえず拳骨は止めて、後で殺虫剤をまいておこう。
慣れない苦笑いを試してみると、慧音と偶然にも目が合った。
彼女はそんな私を見ると、どこか満足そうに優しい頬笑みを浮かべるのだった。