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東方連小話  作者: 北見哲平
ルーミア 〜 笑顔の魔法
41/67

ルーミア - Phantasm

ルーミア編、まさかのPhantasm突入です!でも、これが本当に最後。


で、カッコよくファンタと銘打った今回の話ですが、秋姉妹の話という、聞くからに1ボス的な話になりそうな予感です。

でも、秋姉妹の話を書きたかったんだから仕方が無い!


覚えているか分かんないですけど、ルーミア編の初詣中に秋姉妹が一時離脱した時の話です。

「はぁ〜」

 大きな木にもたれ掛かってため息を吐く。こんな重い気持ちの私を支えても微動だにしないなんて、随分と立派な木だと思った。

 それに、背中にあたるゴツゴツ感が絶妙だった。

 樹齢どれくらいになるのだろうか?……私たち姉妹より長く生きてたりするのだろうか?


 ……それにしても、

「あんなバカ妖精に焼きもち焼くなんて、今日の私は酷いな。クスッ……っていうか、ここ最近ずっとこんな感じだったか」

 別に焼きもちを焼いたことを否定しようとは思わない。事実だし、あんなにもあからさまに喚いたら、誰がどう見たって焼きもちを焼いているようにしか見えない。

 私は、この幻想郷でどれだけ生きてきたんだっけ……あんなの、あんなの子供のすることだ。

 今更ながら、自分の振る舞いが恥ずかしくなり、若干暴走気味に言葉を吐いてしまったことを後悔した。


 でも、私にとってはこれも仕方の無いことかもしれない。


 私はずっと穣子と一緒だった。

 神様でありながら姉妹。姉妹でありながら神様。

 いくら八百万の神々とは言え、兄弟や姉妹はそこまで多くない。

 だから、私にとって穣子がいることは幸運なことだった。そして、それは同時に幸福なことでもあった。

 もし、穣子と私が姉妹になったのがこの世界の気まぐれだったとしても、私はそんな気まぐれを起こしてくれた世界に心から感謝のお礼を言いたかった。

 特別強い力などいらない。穣子が居てくれればそれでよかった。


 春はポカポカ陽気に包まれながら二人一緒に昼寝をたくさんした。家の近くに咲く大きな桜の木に二人体を寄り添って、起きたときにはもう日が沈んでたり。

「もう穣子、起こしてくれって言ったよね」とか、無茶苦茶なことを言って「もう、こんなところで眠らずにボーッとしていられるはずがないじゃないですか。すぐに私にもたれ掛かってくるから動けないですし。そりゃあ、普通寝るでしょう」と、最もな言葉を返された。

 な〜んて、実際先に眠ってるのはいつも穣子の方。私は、暫くは眠ったふりをしているだけ。

 どうして?……それは、穣子の寝顔が見たいから。すごく可愛くて、すごく愛しい。大方、夢の中でも芋を食っているからだろうけど、時々「もう食べらんないよ〜」とか、とても幸せそうな表情で呟く。これがまた可愛い。よだれとかダラダラ垂らしている時もあるけど、それが穣子であるならもう何でも可愛い。

 私はいつも、そんな穣子の寝顔をじっくりと眺めてから眠るのだった。

 穣子が知ったら何て言うだろうか?

 怒るだろうか?

 勿論、怒った顔も可愛いので姉としては大歓迎だけどね。


 夏は、一年の間で一番ダラダラしたい季節。幻想郷の夏は暑い。それはもう殺神的な暑さだ。基本は、ずっと家でぐったりしている。団扇の取り合いっこをして軽く喧嘩になったり、仲直りして扇ぎっことかもした。

 夏は暑くて大嫌いだ。

 ……あっ、でも湖で行った水浴びは気持ちよかったな。そう言えば、溺れそうになって初めて自分がカナヅチだと知ったんだっけ。あの時の、穣子の慌てようったらなかったな〜。まあ、洒落にはならないんだけど。今は、少しなら泳げる。穣子に特訓してもらった。私が溺れた時、相当焦ったらしく結構スパルタな感じだった。でも、やっばりそんな穣子も素敵で、新たな一面を発見したようで嬉しかった。

 私が泳げるのは穣子のおかげ。

 妹に泳ぎ方を教わるとは姉としてどうなんだ。普通は逆じゃないのか?

 そんな余計なことは考えない。

 それが私のいいとこだったり、悪いとこだったり。

 ……どっちなんだよ私。はっきりしろよな!

 やっぱり夏は暑いけど、その代わりに穣子の肌露出度が高くなるから好き。

 ……どっちなんだよ私。本当にはっきりしろよな!


 秋は私達の季節。勿論一番好きな季節。穣子にとっても、当然一番の季節。

 紅葉は秋に色付き、作物は秋に豊穣を迎える。

 きっと、穣子と私が姉妹として巡り逢えたのはこの季節のおかげ。

 秋姉妹。穣子と一緒に過ごす秋が私は大好きだ。

 一年中秋が続けばいいのに。


 冬は夏の逆でとにかく寒い。何もする気が起きないのは同じで、布団から出たくなくなる季節。紅葉も完全に枯れ落ち、テンションの上がる要素が何一つ無い。早く過ぎ去ってしまえばいいのにと、ただそれだけをひたすら考え続ける。

 それは穣子だって同じだったはず。冬は、私達秋姉妹にとっては完全にオフシーズン。

 でも、穣子が寒そうにしてる時に突然抱き締めても、何となく許される季節でもある。お姉さんが温めてあげるなんて、そんな口実じみたことを言って、それはもう堂々と。そんな私に向かって穣子は「姉さんの方が体冷えてて冷たいです。……でも、ありがとう」。ゆっくりと瞳を閉じて、私に体を預けてくれる。

 本当に感謝しなければならないのは私の方。

 穣子がいないと、私は冬すらまともに越せそうにない。


 私にとっての毎日は、穣子との毎日なのだ。穣子にとっての私は唯一の姉であり、私にとっての穣子は唯一無二の妹。

 少し意地っ張りなところもあるけど、どんなことにも一生懸命になれて、頑張り屋さんで、可愛い穣子が私は大好き。


「はぁ〜……姉さんにこんなにも焼きもち焼かせるなんて、姉不孝もいいところだよ」

 穣子は私の操り人形でなければ、当然所有物でもない。私に、穣子の行動を制限させることなどできるはずもなかった。

 それでも以前は、穣子のことを独り占めしているみたいで、他の誰よりも私が穣子にとっての一番だという自覚と自信があった。


 ……でも、今はどうだろう。

 以前に比べ、穣子と話す時間が、一緒にいる時間がめっきり減ったように思う。

 今の生活が、穣子にとっていいことなのは間違いない。毎日の出来事を本当に嬉しそうに話してくれるし、表情も見違えるほど明るくなった。人間の世界の一員として暮らす穣子は本当に充実感に満ち溢れていた。

 私だって、そんな穣子を見るのが嬉しかった。

「問題なのは、いつまでたっても妹離れできない私なんだろうな……穣子の、ばか。ばかばかばか……」

「私がバカなら姉さんは大バカだよっ!」

 うっ

「穣子……」

 木の陰からひょっこりと姿を現したのは、私をこんな気持ちにさせてしまうほど愛しい妹だった。


「別に、大バカでいいもん。だって、穣子はバカが好きなんでしょ!」

「えっ!なにそれぇ。バカって、チルノちゃんのこと?まあ確かにちょっと度を越してあれだけど……チルノちゃんの場合、単純に可愛いじゃない」

「うぐっ!そ、そりゃあチルノは可愛いと言えば可愛いかもしれないけど……妖精ってだけでそんなの私に勝ち目ないし……」

 妖精は可愛いだなんて、すごい偏見のような気がする。っていうか半ばやけくそだった!

「ちょっと姉さん!張り合ってどうするの!……まあ確かに妖精さんってみんな小さくて可愛いけど」

「小さくて可愛い……ふーん、それで妹にしたいって」

「うんっ、まあね。あ~、チルノちゃんが本当に私の妹だったら毎日可愛がってあげられるのに~」

「……そう」

 穣子が嬉しそうに言いきったところで、もうここから逃げ出したくなった。

 そうか。穣子は、きっと妹が欲しかったんだ。

 私なんか、私みたいな焼きもち焼きの姉が嫌になったんだ。

 そりゃあ、呆れられるのも無理はない。今日の私はどうだった?よくよく考えてみれば、何だが穣子にとってはただ鬱陶しいだけの姉だったような気がする。


 つまりそう言うことなんだ。

 ……私はもう、穣子にとってはいらない姉なんだ。


「どうもごめんなさいね〜。私が可愛い妹になってあげられなくて」

 投げやり気味に、嫌みな口調で言ってやった。

 もう嫌われてもいい、だって私は、

「当たり前だよ。だって姉さんは姉さんだもの」

「……え?」

 どうでもよく聞き流そうと思っていたので、穣子が言ったことがどう言うことなのかすぐに分からなかった。

 姉さんは姉さん?つまり、私は私?……えっ!えっ?


「姉さんは、私の妹にはなれないよ。だって、姉さんは私にとってずっと姉さんなんだから。……むしろ、姉さん以外の姉さんなんて私は絶対嫌だよ。そんなの姉さんだって認められない!」

 姉さん姉さんって……

「えっと、つまりどう言うこと……」

「つまり、私は今も昔も姉さんのことが大好きってこと!そして、これからもずっと!」

 そう言った穣子はあまりにも眩しくて、あまりにも可愛い表情で微笑んでいたものだから、今度こそ本当に聞き流してしまいそうになった。見とれるのは仕方が無いってくらいの笑顔だけど、見とれている場合ではない。

 穣子は、今私が一番欲しかった言葉を掛けてくれた。

「えっ!だって穣子は、私みたいな姉が嫌になって、それで妹が欲しくなったんじゃ?」

コツンッ

 うぐっ

 穣子は、私の頭に軽く拳骨を落とした。

 痛くはなかった。

「い、いきなりなんてことするのよー!痛いじゃな」

「姉さんはやっぱり大バカだよ!私と今までずっと一緒に暮らしてきてどうしてそんなこと思えるの!……本当に大バカだよ」

 半ば呆れたように、子供を叱るような口調で穣子は言った。

「私が姉さんのこと、嫌いになるわけないじゃない。姉さんが焼きもち焼きなのも、我が儘なのも、みんな知ってるよ。私のことが大好きで、誰よりも私のことを大切に想ってくれる。大したこと無いくせにいつも意地を張って、そのくせ、いざという時にはとても頼りになって……誰よりも頼りにしてる。……姉さんは姉さんじゃなきゃ、絶対に嫌だよ」

 ……穣子。

「……うん。そっか、そうだよね。私も妹は穣子以外有り得ないよ。ごめん、変なこと言って」

 私バカだ、最低だ。よりにもよって穣子のことを疑うなんて……姉失格だ。

「姉さん、今自分は最低で姉失格とか思ってるでしょ」

 !?

「なっ!そ、そんなことないよっ」

 かなり動揺した。台詞が若干棒読みになってしまった私を見て、穣子はニヤニヤとした実に嫌らしい笑みを浮かべた。

 でも、可愛かったけど……。

「図星だね。姉さんの考えていることなんてすぐ分かっちゃうもんね。あはは……あっ!顔赤くなってる〜。姉さんカ〜ワイ〜ィ」

「ぐうぅ〜……」

 穣子にやられた、今日は色んな意味で……これじゃ実際、どっちが姉か分からない。

「でも、姉さんをこんな気持ちにさせちゃうなんて、私は妹失格かな……」

 バッ!そんなことは天地が引っくり返っても、

「無い!穣子が妹失格とか無いー!私の妹最高ー!穣子サイコー!愛してるぞー!地味だけどそんな穣子が好きだー!裸足とか素敵すぎるぞー!お姉ちゃん踏まれてみたいぞー!豊穣神とか響きがカッコいいぞー!それなのにお姉ちゃんとあまり変わらないくらい弱いところも好きだー!名前も穣子とかいかにも地味で素敵だー!……エトセトラ」

 気持ちよく叫んでやった。いつも心の中で思っていることをとにかく全力で。

 ……何だかとてもスッキリした。

「ちょっ!ね、姉さん声大きすぎっ!いくら人がいっぱいで騒がしいからって周りに……それに何?えっ!えっ……」

 慌てる穣子も可愛かった。何となく、さっきの仕返しだ。

「妹だったら、やっぱり姉に焼きもちの一つや二つ焼かせないとダメだよね!」

 ……。

「姉さん……何だか言ってること滅茶苦茶だよ」

 ……。

 うん。自分でもそう思った。でもよく考えれば、それが穣子にしてあげられる一番お手軽な愛情表現なんだよね。……それに、

「いかにも私らしくていいと思うけどな〜」

「そ、それちょっと面倒くさいかも。……でも、面倒くさくても、確かに焼きもち焼いてくれるのって、ちょっとだけ嬉しいからいいかな」

「でしょっ!」

「うん。でも、あまりにも質が悪いとついスペルカードが暴発しちゃうかも!」

「はうっ!暴発とな!」

「冗談だよっ!」

 穣子はニッコリと微笑む。チクショー、可愛いな穣子。可愛い過ぎるぞ妹よ!


 焼きもちを焼くのなんて、本当は全然楽しくない。普通に考えて、楽しいはずがない。

 でも、決して無駄なことなんかじゃない。

 その度に考えるんだ。私が穣子のことがどれだけ好きか。どれだけ大切か。

 我が儘な独占欲に全く歯が立たず、完敗してしまうほど、私は穣子を独り占めしたかったんだ。

 そんな自分に改めて気付かされる。


「穣子、私にキスしてよ」

 唐突に言ってやった。穣子は当然のごとく目を丸くする。

「はぁ?いきなり何言ってるの姉さん!」

 うん、そのとおり。何言ってんの私?

「だって穣子、私のこと好きでしょ?」

「それとこれとは話が違うよ!私も姉さんも女だし、しかも姉妹!私にそんな趣味はないよ」

 それは残念。でも、もうちょっと粘ってみる。顔を真っ赤にする穣子はそれだけで可愛かったからね。

「何やらしいこと想像してるの〜。これは家族の愛情表現ってやつよ」

 やらしいのはむしろ私。と言うよりやましい?

 まあ、どっちでもいいんだけどね。

「べ、別に変な想像とかしてないもん!」

 ……してないもん。

 ……ないもん。

 ……もん。


 可愛い……。

 もう、私最近そればっかり。


「だってさ〜、なんか私ばっかり穣子に愛情表現して不公平な気がするしさ〜。穣子からも、たまには姉さん好きだな〜って、行動で示してほしいよ。キスなんて人間の家族だったら毎日してるよね」

 って言う話を、どこかで聞いたような、何かで読んだような……つまり何となくだ。それに、私からの愛情表現ったって、勝手に焼きもち焼いているだけだ。

 ダメだよね〜、こんなんじゃ。

「わ、分かったよ。でも、今回だけなんだからね」


 ……マジで!


 まさか、穣子がキスしてくれる日が来るとは。これは夢じゃなかろうか。まあ、唇は寝てる間に何度も奪ってやったけど……。

 引くな引くな。

 ……いや、ごめん。

 だってほら……ごめんなさい。もうしません。


 でも兎に角、今回は穣子の意思でキスしてくれるんだから文句は言わせないからね!

 さあ、いつでもカモンッ!


「んじゃ、早速どうぞ!」


 ……。

 …………。

 ………………んっ?


「穣子どうしたのよ?……まさか、私の唇を見て怖じ気付いたか?……って、私は何か唇がすごい妖怪かっ!」

「何一人で突っ込んでるの。……は、恥ずかしいからせめて目を閉じててよ」

 本当に恥ずかしかったんだろうな。穣子の顔は真っ赤になっていた。

「もう、穣子の恥ずかしがりやさんっ!」

「うぅ〜、姉さんのバカ」

 バカですよ〜。

 穣子ってば最愛ね!


 目をゆっくりと閉じた。胸が若干高鳴るのが分かった。心地好い高鳴りだ。今目を開けると、穣子の顔が眼前まで迫っているかもしれない。

でも、私は目を開けたりはしない。薄目も禁止だ。この、いつ来るか分からないのがどうも興奮する。焦らされると、むしろ拷問だ。でもそれがいい。実の妹にこんなことをさせて喜んでいる私は、かなり危ない奴に違いない。

 でも、私はそれでも一向に構わない!

 さあ!神様の前で愛を誓い合った二人の、アツい口付けを!皆さん盛大な拍手をお願いします!(暴走気味)


チュッ


 ……

 …………って!


「ほっぺかよ!」

 何じゃそれと目を開けると、真っ先に穣子の顔が飛び込んできた。

「うっ」

 チクショー可愛いぞ!文句を言えねえ!

「あっ、当たり前だよ!こんな、誰が見ているかも分からない場所で。……ほっぺだって相当恥ずかしかったんだから!」

「じゃあ家に帰ってからもう一度!」

「それは嫌!って言うか姉さんキスくらい私が寝ている間にしまくってるんでしょ」

 ガッ!!

「なっ!なぜそれをっ!」

 まっ!まさか私の奥義「寝たふり」を穣子も!……えっ?

「ねっ、ねねね……」

 すると穣子はすごい勢いでプルプルと体を揺らしだした。

 これは、雰囲気的には怒られそう。

「姉さん最悪です!ちょっとかまをかけただけだったのに、まさか本当にしているなんて!」

 おおぅ!

「くっ、やるな穣子。流石は我が妹」

「流石じゃないよ!もう姉さんと言うよりキス魔だぁ〜」

「穣子の唇は甘くて柔らかかったぜ!」

 これは冗談抜きで!

「うわあぁぁ〜、この人最悪だぁ〜。外道だよ〜」

「外道も外道。私は神なり!私は雷!ピカッ、チュドーン!シビレるねぇ〜(意味不明)」

「人の唇を奪っておきながら!もう許さないんだから〜」

「おっ!やるか、我が妹よ」

「今こそ解禁せよっ!何か色んな人を震撼させた伝説の大技!」

 なっ!あの構えはまさか……知らね。

 それより、足元のバナナの皮に気を付けてね。

「穣子ちゃんキーッ」

つるりんっ

「あっ、えっと!何でこんなところに皮っ!」

 それは、どこかにいる気の効いた奴の仕業だろうね。


ズサッ、ドスンッ!

「ふぎゃっ!」


 お決まりな感じで私に倒れかかってきた穣子に、なんの抵抗もせずに押し倒された。

 私が下で穣子が上という……つまり、お決まりな感じだがすごいエッチな感じの構図だ。

「穣子。積極的な妹は嫌いじゃないぜ!」

 まだふざけてみる私。新年早々こんなおいしい展開が待っていようとは、焼きもちも焼いてみるものである。


「あ……あうっ、ぐ……ぐぐっ、あぐっ」

 恥ずかしさで言葉がでなくなっている穣子。顔と顔の間隔は、恐らくミリ単位で数えるのがちょうどよく、口を開くと、お互いの息がお互いの肌に触れた。

 くそぅ、可愛よすぎるぞ!いっそのこと、このまま改めて接吻かましたろうか。


 と、そんなことを思っていた次の瞬間、

「あっ」


 たまたま人が通りかかった。

「きっ!」

 きっ?

「来たぁーーー!」


 ……。

 …………。


 謎の一言を残して目撃者は嵐のように去って行った。


「ね、ねねね……」

 穣子は速攻で起き上がり、ワナワナと拳を握りしめる。

 あれっ、これはまた怒られたりするのかな?

「姉さんのせいだよ!今見られたの、里では有名な言い触らしっぺだよ〜。あ〜ん、明日になったら変な噂が里中に広がってるんだー」

「へぇー。それで来たーとか叫んでいたんだね。まあいいんじゃない、事実だし」

「事実じゃないっ!一片の淀みなく、完膚なきまでに、疑うことがバカらしくなるくらい、まごうことない虚構だっての!」

「ぶ〜、そこまで否定することないじゃんか〜」

「否定するよ~」


 穣子はプイッとそっぽを向いた。


 ……。

 そのまましばらく沈黙が続いた。


「穣子、もしかして本気で怒ってたりする」

 ちょっと調子に乗りすぎたかな。

 反省!(あんま反省してない)

「確率的には冗談半分、怒り半分くらいかな……姉さんの想像にお任せするよ」

 自分の気持ちを割合じゃなくて確率で表すなんて可愛い妹だよ!

 でも、それなら簡単。

 私は考えることなく即答した。

「じゃあ穣子は怒ってないんだと思うね」

 私がそう答えると一転、穣子は嬉しそうに微笑んだ。

「姉さんがそう思うんだったら、きっと私は怒ってないんだね!」

「おっ?」

 その意味を考える間もなく、穣子は「みんなが待ってるよ」って、明るい笑顔で私の手を引いた。


「ごめんね穣子。いつも世話かけちゃって」

「いいよ!お姉さんだったら、妹に世話の一つや二つくらいかけるものなんだよ」

「はぁ?穣子それって」

「私達が仲良し姉妹ってことだよ!」

「……成程ね」


 そして、またいつもの秋姉妹。

 穣子が笑うと私は嬉しいんだ。きっと、私が笑っても穣子は喜んでくれる。

 確かルーミアが笑顔の魔法とか言ってたっけ。


「穣子、私の笑顔の魔法も捨てたもんじゃないでしょ」

 照れくさい笑顔。ぎこちない笑顔。

 でも、穣子の前で笑えるなら、きっとそれが一番自然で、一番極上の笑顔だから。

「姉さんの笑顔を見ると、私はいつだって元気になるんだよ」


 そして、穣子はそれに応えて最上級の笑顔を返してくれる。


 笑顔の魔法。


 ……今更ながら、少し恥ずかしかった。



―数日後


 ルーミアに会った。


「ねぇ静葉、最近誰かから静葉と穣子は姉妹関係を越えた危ない関係って聞いたけど、それってどういう関係なのかー?」

「えっ!」

 その噂が耳に入ってから約6時間くらい、穣子が一切口を聞いてくれなかったのは言うまでもない。


 私?

 私は……勿論嬉しかったけどね。

とりあえず、読んでいただきましてありがとうございました。


予想通り、なんじゃそりゃってな感じの話でしたね。でも、こういうの結構好きです。


さて、次回からはいよいよ次キャラのお話が始まるのですが、ルーミア編みたく長くなり過ぎないように、短めでまとめられたらなと思っております。

さてさて誰が来るのやら……お楽しみに。そして、これからもよろしくお願いします。

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