ルーミア - その15
「みんな!こんにちはなのかー!」
孤児院の玄関扉を勢いよく開けた私は、その勢いに負けないくらい元気な声で挨拶した。
「あっ、ルーミアこんにちは〜」
そんな元気の有り余った私を千穂が迎えてくれた。
おばあちゃんが亡くなってからもう2ヶ月が経っていた。
千穂はあの後、慧音の勧めで孤児院に入ることにした。
孤児院っていうのは、何かしらの理由で親を失った子供達が一緒に暮らす施設で・・・簡単に言えばみんなが家族になれる場所だと思う。
千穂は元々しっかりしているので、近所さんの助けを借りたら一人で暮らしていけないこともなかったみたい。でも、おばあちゃんが亡くなった後、千穂はすごく悲しんで・・・改めて、千穂にとっておばあちゃんという存在の大きさを知った。
寺子屋にも一切通わず、ほとんど笑うことはなかった。そんな千穂を慧音は心配して、この孤児院に入ることを勧めたのだった。
私も慧音の考えに反対はしなかった。孤児院に入れば、千穂が望んでいた兄弟がたくさんできると思ったし、一日でも早く以前の笑顔を取り戻してほしかった私としては、反対する理由は無かった。
千穂にとって必要なのは、支えになってくれる家族の様な存在。
それが私であったり、孤児院のみんなだったり・・・慧音は、やっぱり立派な先生だと思った。そんな千穂の気持ちをちゃんと理解して、千穂がどうすれば一番幸せになれるか・・・それだけを考えている。
私だけじゃ、こんなにも早く千穂の本当の笑顔を取り戻すことはできなかった。
当然、孤児院に入った当初は落ち込みも酷かった。・・・でも、やっぱり院のみんなが支えになったのかな。何より同じ境遇を味わったみんなだったからこそ、千穂の気持ちを誰よりも理解していたんだと思う。
千穂は次第に元気を取り戻して、笑顔も見せるようになってきた。
そして、孤児院のみんなだけじゃなく、私もそんな千穂の支えになってあげられてたんだって、そう自覚もしている。
「あっ!今日はチルノちゃんも一緒に来てくれたんだね。こんにちわ〜」
「こんちは〜」
私は、最近になって寺子屋に通い始めた。正直勉強は嫌いで、授業中とかもほとんど寝てたりするんだけど、新しい友達がたくさん増えるのは嬉しかった。席は千穂の隣。因みに、慧音の授業は特につまらなくて眠気を誘うので大方寝る・・・そして頭突きを食らう。
・・・評判の頭突きは、噂に違わぬ威力だった。
チルノも時々寺子屋に来てたりする。どっちかと言うと教材扱いだけど・・・。
バカに色々質問して、そのぶっ飛んだ回答を予想することにより柔軟な発想を身に付けようとか。タッチされるとバカになり、どんどんバカが増えていく新感覚鬼ごっこ「バカ鬼」とか。後は、美術のモデルとか・・・これが、なぜか子供達には好評で、バカに描きやすいとの声もちらほら。みんなの絵を教室に飾っていた時とかは、壁を見ればバカ、バカ、バカで慧音の頭突き速度と威力が9割増しになってしまったという噂。全く意味が分からない。まあ穣子とかだったら喜びそうだけど。
寺子屋が休みの日は、今日の様に孤児院に遊びに来ることが多い。チルノとチルノの友達の大ちゃんもよく一緒に付いて来る。まあ、二人は私が寺子屋で勉強している時にもちょくちょく顔を出しているみたいなんだけど。
因みに今日は、チルノと私の二人で孤児院を訪れた。
「あらルーミアちゃん、チルノちゃんもこんにちは」
「こんにちわーなのかー」
奥から出てきたのは、この孤児院の院長さんである明里さん。とっても美人さんで、おしとやかで可憐な印象。元気だけが取り柄な私としては少し憧れてたりする。現在2×歳で、やっぱり大人の女性って素敵だなって思う。
「おっじゃましま〜す」
ドドド・・・
靴を脱いで上がると、突然地響きのような音が鳴り、それが次第に大きくなってくる。しかも、気持ち床が揺れているような感じもした。
「ルーミア姉が来たぞー!」
「わあ、今日はチルノもいるぞー」
「あたいがいちゃ悪いかー」
奥から一斉に出てきた子供達に、私達はあっという間に囲まれてしまった。
私よりも背が低い男の子や、チルノより若干バカそうに見える女の子(実際はチルノ圧勝)。秋姉妹みたく仲良しそうな兄妹や、ミスティア級に歌が下手くそな女の子。
みんなそれぞれ全く違うけど、みんな私のことを本当のお姉ちゃんみたいに慕ってくれている。
みんなとっても可愛くて、何だか私も本当のお姉ちゃんになれたみたいで嬉しかった。
因みにチルノは・・・。
「バーカバーカ!バーカバーカ!バーカバーカ!」
「ちょっ、ちがっ、バカじゃないもん!」
子供達は「バーカ」の大合唱。・・・あまり気にしないでほしい。これは、子供達の愛情表現みたいなものだ。
・・・チルノは、みんなにとってからかいがいのある妹って感じかな。
「じゃあ今日もあっちでなぞなぞごっこやろうぜ!」
「望むところよ!あたいは最強なんだから手加減なんてしないんだからね!」
いやいや、最強なら手加減してあげなって・・・というか、どう考えてもチルノの完敗だろ!
チルノが自信満々でぶっとんだ回答を行う姿と、それを聞いた子供達の爆笑する姿が目に浮かぶ。みんなが楽しめるのなら、それはそれでいいことだと思う。これだからチルノは侮れない。
「よーし、それではバトルフィールドに案内しよう」
「ばとるふいる・・・あっ、あれでしょ!よく判らない言葉を、判ったふりして使ってあたいを動揺させるつもりでしょ!・・・フッフッフッ〜、甘い!全部お見通し!あたいったら最強ね」
それはもう可哀想・・・いや、むしろ羨ましくなるくらいにバカ丸出しのチルノは、子供達に囲まれながらバトルフィールド・・・奥の部屋に吸い込まれていった。
「ルーミア姉も早く行こうよ〜」
そう言いながら、私が見下ろす程小さな男の子が手を引っ張る。全力で!
「うあぁ〜、あまり強く引っ張らないでなのか〜。私も後で行くから、みんな先に行っててよ〜。ほら大希・・・お兄ちゃんなんだから一緒に連れて行ってよ~」
私がそう言うと、側で様子を見ていた大希は「はぁ〜」と、少しご機嫌斜めをアピールする。
私と同じくらいの背丈の大希は、院の中ではかなりお兄さんな方で・・・何を隠そう、今年の初め、初詣の時に「妖怪なんてみんな死んでしまえばいい」と、私に激しい憎しみをぶつけてきた男の子だったりする。
「しょうがねえなあ。でもチルノだけじゃ張り合いがないからな。・・・早く来いよな」
「了解なのか〜」
私がニッコリ微笑むと、大希もニカ〜っと笑顔を返してくれた。
「ほらおまえら。ルーミアは千穂姉に話があるんだってよ、行くぞ」
「うあぁー!大希兄ちゃん離せ〜!うあぁー!ルーミア姉愛してるぜー!」
・・・。
それからは問答無用。
大希は私にベッタリな子供を半ば強引に引っ張っていった。
大希の両親は、4歳の時に妖怪に襲われて亡くなったらしい。私はその事実を、この孤児院に通うようになってから初めて知った。
千穂がこの孤児院に入った当初は、大希がここで暮らしていることは当然知らなかったわけだから、偶然にも再会を果たしたときはすごく気まずいというか・・・またキツいこと言われるかもしれないと覚悟していた。
・・・でも、その時大希の口から出てきたのはごめんなさいの言葉だった。酷いことを言って悪かったと、素直に頭を下げて謝ってきた。
そしたら、意外だったけど・・・ほんとに意外だったけど、大希の前でも笑うことができた。
大希は妖怪のことを許したわけじゃないと思う。
・・・ただ、私を認めてくれた。
あの時。千穂が神社の階段から転げ落ちたとき。とにかく千穂を助けたい一心で飛び出した私を見て。
きっと大希自身、元々自分の言動から招いてしまった事態だったので、責任を感じていたんだと思う。もしあれで千穂が大事に到っていたら・・・。そう考えると。
大希は、ごめんなさいの言葉と一緒に、感謝の言葉も送ってくれた。
本当は素直でいい子なんだと思った。
今は、兄弟みたいに仲良し。私がお姉さん?大希がお兄さん?・・・ちょっとそこら辺ははっきりしないけど、私にとってはそんなことどちらでもよかった。
私の笑顔に応えてくれる大希がいる。それだけで十分だった。
子供達がチルノと一緒に奥の部屋に消えていった後。私と千穂、院長の明里さんの三人だけが玄関付近に取り残された。私にとってはよくある、お決まり組み合わせだった。
「クスッ、相変わらず可愛いねチルノちゃん」
まず千穂が口を開いた。
「う〜ん、そうか〜?寒いだけだと思うけど・・・」
「みんなもう慣れちゃったみたいだね。子供は元気が一番。元気があれば寒さなんてどうってことないんだって。因みに、もうすぐ夏だからよろしくね。みんなチルノちゃんには期待してるんだよ」
・・・期待って?
「夏に雪合戦したいとか、夏にかまくらの中で花火したいとか」
!?
「って、それはチルノの能力じゃどう考えても無理ぃー!そもそも、チルノは氷の妖精なんだから雪っぽい物を出すのは無理!」
全く、チルノに何期待してるんだか・・・。
「えへへ〜、だよね。でも、夢があっていいじゃない?ねぇ、明里さんもそう思いますよね?」
突然話をふられた明里さんは、若干考える仕草を見せた後、優しく微笑みながら言った。
「そうですね。でも、あの子達がチルノちゃんに対してそんな無理難題を抱けるのは、彼女のことが大好きだからなんですよ。この孤児院の一員のように、本当の家族のような親しみがあってこそなんだと私は思います。・・・だから、ただ夏に雪合戦ができればいいわけではなくて、その中にチルノちゃんが一緒にいなければ意味がないんですよ。そして、勿論ルーミアちゃんもね」
明里さんは私には絶対に真似できないほど暖かな表情で言ってくれた。やっぱり明里さんにはどこか憧れる。私の持ち味が明るさだとしたら、明里さんは優しさだ。
・・・そうか。そもそも、優しくなければ孤児院の院長さんなんて続けられるはずないよね。
「その時は私も、一緒に雪合戦に参加してもいいのか〜?」
私がそう聞くと、明里さんは即答する。
「勿論ですよ。ルーミアちゃんが一緒じゃないと意味がありません。それに、私はルーミアちゃんにとても感謝しているんです。いつも皆と一緒に遊んでくれて、仲良くしてくれてありがとう。私にとっては、ルーミアちゃんも自分の娘みたいなものです。だからこれからも、あの子たちの良きお姉ちゃんでいてくださいね」
「私・・・お姉ちゃん?」
「そうですよ。千穂とルーミアちゃんがいいお姉ちゃんになってくれているから、私はすごく助かっているんですよ。子供達は本当に元気が良くて、あなた達がここに来るまでは毎日大変でした。暴れたり、おてんばしたり、ケンカしたり、泣きだしたり・・・毎日が闘いでした」
「うわ~、それは大変そうだね。・・・うん。私なんかでよかったらお姉ちゃん頑張るよ」
「ありがとう」
明里さんに、こんなにもはっきりありがとうを言ってもらえるなんて、少し照れくさかった。
「お姉ちゃんなのかー」
お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん。
何だかとっても誇らしくて素敵な響きだった。
「もういっそのこと、ルーミアもここで一緒に暮らせばいいのに・・・みんなすごく喜ぶと思うけどな〜」
千穂が言った。
「うーん、それも悪くないんだけど、私ちゃんと帰る家があるからね」
家・・・小屋?
「例のお父さんっぽい人と一緒に暮らしていたっていう・・・ねぇ、気になってたんだけど「っぽい」てどういうこと?・・・ルーミアにとってお父さんみたいな存在ってことだけは分かるけど・・・それだったらお父さんみたいとか言うよね」
「へへへ〜。「っぽい」は「っぽい」なのか〜」
イモリと一緒に暮らしたあの小屋は、今や私の住処となっている。
別れるときに、辛くなったらいつでも俺のところに来い、みたいなカッコいいことを言ってたイモリだったけど・・・私、イモリの住んでいるところ知らないよ。聞いてないもん・・・もう、肝心なことが抜けてるんだから。
会いたいけど・・・会おうにも、会う手段が無い。
でも、もう会えないなんて私は信じたくない。私はイモリと再開したいんだ。
だから、あの小屋で暮らしていれば、いつかまたイモリに会えるかもしれない。そんなことを考えてたりする。
私とイモリの接点はそれだけじゃないけど、人間の世界で暮らしていれば、いつかきっとまた会えるって信じているけど・・・でも、やっぱりあの場所は私にとって特別な場所だから。
・・・だから、私はあの場所でイモリを待ちたいんだ。
一緒に暮らすことを望んでいるわけじゃない。イモリにとっては故郷で家族と一緒に暮らすのがいいに決まっている。イモリには、いつだって幸せでいてほしい。私の感情を押し付けて、イモリをとどめる気なんてこれっぽっちもない。
ただ、今の私を見てほしいだけ。それで、いっぱい褒めてほしい。髪がぐしゃぐしゃになるくらいわしゃわしゃしてほしい。
そんなこと思っているだけ。
逢いたいよ。
「でも、私はそのルーミアのお父さんっぽいイモリさんに、すごく感謝しているけどね」
「えっ!千穂会ったことないよね。どうして?」
そう聞くと、千穂は私に負けず劣らずの笑顔で答えた。
「だって、ルーミアと私がお友達になれたのはイモリさんのおかげなんだよね。・・・私、もしルーミアと出逢えていなかったらと思うと・・・そんなの寂し過ぎるよ」
「そっか!そう言えばそうだね。イモリのおかげだね!私が千穂と友達になれたのもイモリのおかげなんだよね!ありがとうなのかイモリっ、わは~」
嬉しくなっていつものポーズ。聖者は十字架に磔・・・じゃなかった。
え~っと、
「みんなで手をつないで大きな輪を作ろう。みんな家族だよっ!って感じだよね」
そうそうそうだった・・・って、
「ほえっ!」
千穂は私を真似るように腕を大きく広げる。
「ルーミアのこのポーズ。いつも思うけど、元気で明るいルーミアにぴったりだよ!」
千穂すごいっ!
「そーなのかー」
「うんっ、そうなのだー・・・そうだっ!」
千穂が何かを閃いたようにポンと手を叩いた。
「どうしたの千穂?」
「実際にやってみようよ!みんなで手をつないで大きな輪を作ってみようよ!」
!?
「えっ、え~っ!」
「いいですよね明里さん」
「はい、それはとても楽しそうですね」
明里さんは素敵な笑顔で即答した。
って、いいの~?
「決まり~、さあ!みんなを呼んで来て外に出てみよう!」
「お、おー、なのか~」
何だかよく分からないうちに決まってしまったけど、私の心はとても弾んでいた。
それからは手際がよかった。奥の部屋・・・えっと、バトルフィールドだっけ?から子供達を呼んで来て外に集合を掛けた。子供達が全員外に出て行った後、なぜか心身共にボロボロになったように見えるチルノが、床を這うように部屋から出て来た。本人曰く「頭を使い過ぎて、あたいってばもっと天才になっちゃうね」だそうだ・・・。
なぜか分らないけど、今だけはチルノのことがやけに立派に見えた。少し感動すら覚えたほどだ・・・色んな意味で。
よく頑張った。そう労いの言葉を掛けてあげた後に肩をポンと叩くと「当然、あたいったらやっぱり最強ね」とか言って、早々に復活した。・・・グッショブ!
チルノと一緒に外に出ると、孤児院のそれなりに広い庭に、人で描いた大きな円が完成していた。よく見ると、孤児院のメンバー以外にもちらほらと・・・。どうやら千穂が、孤児院の周りを歩いていた人とかに片っ端から声を掛けているようだ。千穂の行動力と実行力はすごいと思った。子供から大人、おじいちゃんおばあちゃんまで、どんどん輪は大きくなっていく。
でもその中に、私の知らない顔は一つも無かった・・・それが何気に嬉しい。
「ルーミア。楽しそうだから私達も参加するよ~」
「くぅ~、私以外の誰かが穣子の手を握るなんて許せねぇ~」
現在もなお、里での人気上昇中の仲良し神様姉妹。
初詣の後くらいに、二人は姉妹を超えた危ない関係だという噂が流れてたけど・・・あれって一体何だったんだろう?今はあまり聞かないけど、危ない関係って言われても私にはよく分らない。
今日も変わらず仲良し。二人を見ていると、兄弟っていいなって再認識させられる。私も、お姉ちゃん頑張らないとね。
「何だこの騒ぎは?私は明里に会いに来たのだが・・・まあ、輪に入らないわけにはいかないがな」
人間を守り続けてきた半獣人の先生。
慧音は明里さんとは仲がいいみたいで、よく孤児院を訪れている。難しい話はよく分らないけど、孤児院を続けていくためにはお金がたくさん必要みたいで、慧音はその支援をしているらしい。つまり、孤児院のみんながいつも一緒に居られるのは慧音のおかげもあるってことかな。
頭突きはとても怖いけど、みんな慧音のことが大好きなんだよ。それに尊敬してる。私も、慧音みたいにカッコいい優しさが身に付けばいいな。
「どうしてここに私が居るかは突っ込まないでください。とにかく楽しそうなので私も入りますよ。みのりんの隣をキープで!」
とっても頭が良くて、慧音に対しては少し厳しい女の子。
阿求とは、よくお話をする機会がある。大体の時は穣子の話題が第一声で「穣子に噛み付くのを止めろ」とか怒られたりもするんだけど、一緒に居るのはとても楽しい。穣子が言うには、出会った頃に比べて、とても気さくで柔らかくなったらしい。昔は名家の娘だったこともあり真面目で固い性格だったみたい。
以前の阿求を私は知らないけど、今の阿求が大好きだから。今のままがいいな。
「ちょっとルーミア、私はただ屋台の宣伝チラシをまきに来ただけなんだけど・・・えっ!みんなで手を繋いで大きな輪を作る!?・・・ま、まあ別に構わないけど、爪長いから手を繋ぐ時気を付けてよね」
非常しょく・・・じゃなかった。自称「森の歌姫」。私の大親友。
ミスティアは最近になって、頻繁に人間の里に出入りするようになってきた。屋台も繁盛しているみたいで時々ご飯をおごってくれる。本当にミスティアにはお世話になってばっかり。私が甘えれば、その甘えをとことん許してくれる。
・・・ありがとう。いつか私も働いて、お金稼いで、何かプレゼントするから、とりあえず今は私の笑顔で許して・・・な~んてね。
「ちょっ、ちょっとなんであたいがこんなこと・・・うあっ、急に手を握らないでよ穣子。それにお姉ちゃんとか言うな~・・・うぁっ、お姉ちゃんの手温かいよ~」
バカ、バカ、とにかくバカな氷精の女の子。
チルノは、相変わらず穣子に愛されまくっている。口ではなんだかんだ言っているチルノだけど、態度を見る感じではそんなに嫌じゃないみたい。多分、チルノも穣子のこと好きなんじゃないかな。因みに、この間「バカルテット」のリーダーになってくれないか頼んだら「バカにするな」って怒られてしまった。こりゃ失礼しました。
色んな意味で寒くて、それこそ体の芯から凍えてしまいそうなくらい寒いけど、心だけは暖めてくれる。チルノのバカさと素直さは、私のお手本だよ。
「ルーミア。手を繋ごうよ」
「うんっ!」
そして、千穂が隣に居る。
ギュッ
手を繋ぐと、みんなで作った輪がぐるりと一周完成する。徐々に手を広げていくと、輪は更に大きく大きく広がった。広い孤児院の庭を優にはみ出してしまうくらいの巨大な輪っか。それが、遂に完成した。
「すごい、すごいのかー!わは~」
ここに集まったみんなに例外なく共通していたもの・・・それは笑顔だった。私が大好きな笑顔。ここには笑顔が溢れていた。
その一部になれた私は、とても幸せだった。
「おーい!射命丸~、記念写真撮ってくれないかー!」
ん?
慧音が空に向かって叫ぶ。その先には偶然通り掛かった烏天狗、新聞記者の射命丸文がこちらを見下ろしていた。文は「文々。新聞」という個人新聞を発行していて、ネタ探しの為に毎日幻想郷中を飛び回っている。なので、幻想郷に彼女を知らない人はほとんどいない。
因みに、完成した新聞は幻想郷中にばら撒いて回っているので、運が良ければ私の手にも入ってくるし、みんなで回し読みをすれば毎回読むことも可能だ。内容もなかなか面白く、バラエティーに富んでいるので、今ではちょっと楽しみにしてたりもする。
スタッ
「あややや~。慧音さん、これはもしかしてスクープですか。あまり見ない光景ですけど」
ものすごい速度で急降下し地面に降り立った文。私の目ではほとんど確認できなかった。幻想郷最速は伊達じゃない。
「スクープではない。記念写真だ!」
「はぁ、でもメンツを見る限りではこれはスクープ以外の何物でもないような気がしますが・・・私の直感にもビンビン響いて来てますし」
文は周りをぐるりと見回してそう呟いた。
多分文の直感は正しいものだと思う。どういうことがスクープって言うのか、いまいち私には分かっていないんだけど、これは多分とてもすごいことだから。
人間、妖怪、妖精、神様。それぞれ種族の違うみんなが一緒に、一つになって何かを行い、こんなにも素敵な笑顔で笑い合える。
「これは、前代未聞の大スクープだよ!」
私は大きな声で言った。
あっ!そうだっ!
「文ちゃん文ちゃんちょっとこっちに来てなのかー」
手は離せないので、声で文を招く。
「ルーミアさん、約1か月ぶりですね。スクープ!やっぱりこれはスクープですよね~」
文は嬉しそうに話す。きっと文にとってのスクープって、栄養剤みたいなものなんだ。いつも「文々。新聞」には楽しませてもらっているから、たまにはネタを提供してあげなきゃね。
「うん。間違いなくスクープなのか。これはもう、次の新聞のトップ一面で決まりだね!」
「あややや。もしかして、このスクープの責任者はルーミアさんだったんですか?・・・了解が頂けるのであれば、私はじゃんじゃん記事にさせていただきますよ~」
「う~ん。発案者は私の隣に居る千穂なんだけど・・・まあ私が責任者みたいなものなのかー。うん、どんどん記事にしてもらってもいいのか~。写真も貼りまくっていいのか~。・・・あっ、でもちゃんと記念写真も撮ってなのか」
写真は、私の家に貼っておくんだ。
「分かってますって!・・・で、結局ここに集まった皆さんは、一体何をしているのでしょうか?まず、そこから聞かせていただけると助かります」
メモ帳とペンを両手に持った文が顔をぐっと近付けて来る。もしかして、これが「取材を受ける」ということなのか?
有名人になったみたい。何だかちょっぴり気分がいいかも。
「その前にさ、一つだけお願いがあるんだけどいいかな」
「はいはい~。取材を受けていただけるのであれば何でも聞きますよ~」
上機嫌な文。今度プライベートで会うことがあれば聞いてみたい。
文は新聞のネタを集めるのが好きなのか?
それとも新聞を作るのが好きなのか?
はたまた新聞を読んでもらうのが好きなのか?
文が新聞記者を続ける理由に、個人的には少し興味があったりする。
・・・でも、今はとりあえず、
「簡単なことだよ。文ちゃんの新聞に私のコメントをちょこっと載せてもらうだけ」
「コメントですか。まあ個人的な呼び掛け欄も一応用意してますから、それは全然構いませんが。子犬の飼い主募集中!とか、最近私は嬉しいことがあったんだ!とか」
確かに「文々。新聞」にはそういう読者参加の欄がある。これがまた結構面白い。以前に「大ガマをカチンコチンにやっつける方法を教えて」とか匿名で掲載されていた時はちょっと吹いた。
そう言えば、チルノ特集とかで一面を飾ったこともあったっけ。文とチルノは、文から一方的とは聞いたけど、何気に交流があるみたいだ。何かと不思議が多いチルノは、文にとってなかなかに興味がそそられる存在なんだろうな。
「できれば今回の記事と一緒に載せてほしいんだ。いいでしょ」
「まあ、今回のことと関係があるのなら別に構いませんが・・・」
「関係あるって!大関係!・・・ちょっと耳貸して。耳打ちで言うから」
やっぱり、まだこの輪っかを切るわけにはいかないので、今度は文の耳を呼んだ。
「えっ!耳打ちですか?どうせ新聞に載ったら皆に知られちゃうことだと思うんですけど」
文はもっともなことを言いながら、少しばかり疑惑に満ちた表情で耳を近付けてきた。
「いーのいーの」
ただこの場で、みんなが見ている前で話すのが、少し恥ずかしかっただけなんだよ。
「耳に息を吹き掛けないで下さいよ。ゾクゾクウヒャーってなっちゃいますから」
・・・意味分からん。
「しないしないのかー。それよりも、ちゃんとメモを取ってよ。・・・ごにょごにょ」
・・・。
・・・・・・。
「えっ!何ですかそれ?だってルーミアさんは・・・えっ!えー!それこそスクープなのでは!?それとも、これには何か他の意味があるのでしょうか・・・名付けてルーミアコード!」
ごめん。いきなり聞かされると、ちょっと不思議な内容だったかな。まあ「ルーミアコード」ほどじゃ無いけど。・・・でも、
「ちゃんと載せてね。約束したからね。わは~」
「う~ん。よく分りませんが了解です。先程聞いた内容を一言一句違わず掲載させていただきます!・・・で、それでは早速取材の方に」
「先に記念写真とってほしいのかー!ずっと手を繋いでいたら、いくら楽しくても疲れてきちゃうよ」
「成程。・・・了解です」
文はそう言うと、メモ帳とペンを懐にしまって、地面を強く蹴り飛翔した。そして、優雅に空を二度三度旋回してからピタッとその場に留まり、首から下げていたカメラを構えて大きく手を振った。準備完了の合図らしい。何とも仕事が速い。
「こっちも、いつでもいいのかー!」
手は塞がっているので、こっちは声で合図を送った。
「それでは、ちょっと古風ですけど1足す1は2~で行きますよ~」
あっ!それ知ってる!
「チルノ、1足す1は2だよ!9とかじゃないよ。分かってる?」
「がぁー!それくらい知ってるよ。あたいをバカにするな~!」
そんな私達を見て、周りからドッと笑いが起こる。いけるよ、私達「バカルテット」は幻想郷を獲れるよ!
「ルーミア。やっぱりチルノちゃんって可愛いね。・・・でも、あんなに高いところから撮って笑顔まで写るかな~」
千穂が聞いてくる。
成程、確かにそうかもしれない。
「でも、笑顔が伝わらなくても楽しい気持ちは伝わるはずだよ。それだけでも十分だよ。これを見てくれた人が何か少しでも嬉しくなってくれたら、私はそれで十分だと思うよ」
私が答えると、千穂は満面の笑顔で言った。
「そうだねっ!」
千穂の笑顔は、私をとても幸せな気持ちにさせてくれた。
これ以上幸せになっちゃっていいのかな~。
「それでは皆さん。私の方を注目してくださ~い。いきますよ~!」
大きく息を吸い込んで。
「一足す一はっ!」
ニィィィィィーーーー!
全く、大声の競い合いじゃないっての。・・・でも、これくらい大きな声を出したら天国に居るおばあちゃんにも聞こえるよね。
おばあちゃん。今の千穂と私はこんな感じだよ。幸せ届いたかな?
・・・届いてるといいな。ううん、絶対届いてるよね!
「わは~」
今日も私は絶好調!
人間の里名物、ルーミアちゃんの笑顔はいかが?
笑顔、笑顔・・・やっぱり笑顔が一番だね!
-ルーミア編 完
月日が経つのは早いもので・・・ルーミア編の完結までに半年を費やしてしまった。本当に長かった。
読んで頂いた方々には感謝感謝です。ありがとうございます。
そして、突然更新が滞ったり、後半になるにつれ話のグダグダ感が増してきたことは全て作者の未熟さ故です。本当に申し訳ないです。
ルーミア編は全編を通して特に重要な話になるので、もっと上手に書きたかった・・・チクソー!
苦情、ダメ出しうけたまります。
笑顔で始まって、途中色々酷い目とかにもあってしまいましたが、笑顔で終わることができた。意外とそれだけで満足です。やっぱりルーミアには笑顔が似合います。
殴られたり蹴られたりさせちゃってごめんねルーミア。ルーミアファンの皆さん。でも、二次創作とか他の作品では当たり前のように人間と妖怪が仲良くしている事があったりしますが、多分簡単なことじゃないと思うのです。人間って、必要以上に争うのが好きな生き物ですからね。
だから、ルーミアには慧音にもなれなかった人間と妖怪との、親交の架け橋の様な存在になってもらいたかったのです。
それはルーミアでいいの?って言うくらい重要な役割です!・・・でも、作者的にはルーミアが一番適任で、ルーミアで一番書きたかったのです!(キッパリ)
色々詰め込んで、結局どれが一番書きたかったのか自分でも分からなくなりそうなのですが一生懸命頑張ったルーミアを作者は褒めてあげたいです!(てめえで書いたんだろうが!)
この後は、ルーミア編の番外編を2つ連続で書いて次キャラに移ります。長い話だったので、その分書きたいことが色々あるのです。とはいっても、2話ともほとんど書き終わっているのでそのうち更新します。因みに次キャラの第1話とかも、もう書き終わっています。慧音編も、最後の方はほとんどの話を同時進行で書いていました。(楽そうなところから)
あっ、そうか!だから話がグダグダになるんだね!
なにも、自分のダメ作者っぷりを暴露しないでも・・・。
つまり、更新が滞っていたのはそういうわけか!(怒)
・・・はい、その通りでございます。すみませんでした。
最後に、作者は基本的にザコキャラが大好きです!1ボス2ボスの味方です。ですので、一度登場してしまえば再登場率はかなり高いです。同志の方、今後の展開にご期待ください。(なんだそりゃ)
みすチルとか秋姉妹とか~。
いや、慧音とかあっきゅんも何気に皆勤賞だったりしますけどね・・・。
これからもよろしくお願いします。