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東方連小話  作者: 北見哲平
ルーミア 〜 笑顔の魔法
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ルーミア - その9

「やったね!ほらほら見て見て姉さん、おみくじ大吉だったよー。やっぱり日頃の行いがいいのを神様も見てくれてるんだねっ!」

 穣子の嬉しそうな声が辺りに広がった。だから、穣子も神様・・・いや、もう別にどうでもいいか。

 神社のお参り・・・いやチルノの捜索が済んだ私達は、次におみくじというのを引くことになった。

 おみくじを引くということは、千穂曰くどうやら初詣には欠かせないものらしく、私は当然初めてだったりする。要するに、食後のデザートみたいなものかな。

 ・・・ちょっと違う?

 兎に角、こんな紙一枚で今年の運勢が決まってしまうというのだから、穣子の喜びようも分かる。でも、あまりにも無茶苦茶な話だよね。


「どうして・・・どうして、穣子は大吉なのに私は・・・」

「静葉?」

 おみくじを広げた途端にプルプルと体を揺らしだした静葉。

「ちょっとはいけ〜ん。あっ!やっぱり・・・姉さん日頃の行いが悪いから。うんうん」

 嬉しそうに静葉のおみくじを覗き込むと、うんうん納得の表情を見せる穣子。どうやら静葉はあまりよい結果がでなかったらしい。

「うわ〜ん。穣子のバカ〜。私は今年死んじゃうんだぁ〜。そういう運命だったんだぁ~」

 人目を気にせずわんわん叫び出した静葉。いい大人がみっともないよ~。

「ちょっと姉さん、大げさだよ。だって姉さん、凶はまだ凶の中ではましな方なんだから・・・大丈夫。私の大吉と合わせて二つに割ったら吉くらいにはなるよ。・・・ねっ!だって私達は姉妹なんだから」

「穣子・・・我が妹よ」

 既に涙目の静葉は穣子の手をギュッと握りしめる。

 ・・・日頃の行いが悪いとか散々言っていたのに。本当に穣子は静葉の扱いが上手だと思った。

「ねぇ穣子、あたいのやつも見て見て〜」

 チルノが自分の引いたおみくじをヒラヒラさせながら穣子に提示する。

 大丈夫。きっとチルノはどんなに悪い引きでも落ち込んだりしないだろうから、遠慮なく言ってあげて。

「いいよ〜。どれどれ・・・うわっ!」

「ん。どうした?・・・はやくはやく~」

 穣子は表情を歪めて、非常に言いにくそうにしていたけど、チルノに急かされると仕方なく口を開いた。

「チルノちゃんこれ・・・大凶だよ」

 やっぱり!


「やったね!さすがあたい。やっぱりあたいったら最強ね!」

「・・・は?」


 ・・・何が起きたのか。穣子を含め少しの間、周囲の動きが固まった。

 これぞ、パーフェクトフリーズって感じかな。


「・・・最強、大凶・・・最強。・・・あっ!そうかっ!・・・うんっ。やっぱりチルノちゃんは最強なんだ!すごいよ、神様もちゃんと見ててくれてるんだよ~。神様公認の最強妖精チルノちゃんここにあり~って感じだね」

「うん。もうあたいったら最強過ぎて自分でも怖いくらいね!」

 一瞬戸惑っていた穣子だけど、すぐに状況を理解すると、抜群の対応力でチルノを更に調子付かせてみせる。自称チルノのお姉ちゃんというのは伊達ではない。

 それにしても、大凶といったら確か一番悪い引きだったはず。

 最悪の凶で「最凶」・・・分からなくはないけど、この場面でそれを見事に引き当てるとは・・・。まあ筋書き通りとはいえ、流石チルノと感心するしかなかった。


「ねぇねぇ、ルーミアはもうおみくじ開けてみた?」

「んっ・・・うーん、実はまだなのかー。千穂は・・・も、まだみたいだね」

 穣子が大吉で、静葉が凶、そしてチルノが大凶か。とすると、後おみくじを開けていないのは私と千穂だけになるわけか。

「じゃあ一緒に開けてみようか」

「いいよ〜」

「せ〜のっ!」

パサッ

 ・・・ん?何だろうこれ?吉って書いてあるけど読めないよ・・・なに吉だろう?

「うわー末吉だ、何だか微妙だなぁ」

 ・・・すえきちっ!

「ねえルーミアはどうだった?」

「えへへ〜。多分千穂と同じだよ。ほらっ」

 両手で紙の端を持って、千穂に向かって開いて見せる。

「あっ、ほんとだ。末吉って数か少ないはずなのに何でこんなによく出てくるんだろう・・・確か去年も末吉だった」

 吉が良くて、凶が悪いって説明は受けたけど、この末吉っていうやつの位置付けまでは把握できていない。千穂は見た瞬間に微妙って言ってたけど・・・。

「でも、数が少ないってことは運がいいってことだよね。それに吉だし」

 私がそう聞くと、千穂はうーんと腕を組んでしまった。・・・あっ、やっぱり微妙なんだね。

「基本的には、当然凶よりはいいんだけど、吉よりも下なんだ。数が少ないから縁起がいいって話も聞いたことがあるんだけど・・・どうかなぁ」

 吉よりも下っ!・・・じゃあこの前に付いている末って何がしたいの?別に必要無いよね。

 スペルカードの前に付いている「○符」が無い方が強い、みたいな感じ。


「千穂、私の吉をあげるよ」

「えっ!ルーミア何て?」

「私の吉と千穂の末を取り替えっこしよう。・・・そうすれば千穂は「吉」が二つ合わさって大吉になれるし・・・私は末が二つになっちゃうけど、どうせ一つも二つもあまり変わらないだろうから私が面倒を見るよ」

 私が大真面目にそう言うと、千穂はしばらくの間キョトンと静止して・・・。

「あははは・・・。ルーミア何それ。末末、もしくは大末ってことだよね。クスッ」

 笑いだした。

「うぅ〜。笑うことないじゃないか〜」

「うーん。ごめんごめん。私に気を使ってくれたんだよね。ありがとうルーミア」

 ニッコリと微笑む千穂。

 おみくじがあまり良くなくて落ち込むかもしれないと思ったけど・・・よかった。あまり気にしてないみたい。

「おみくじの文字の取り替えっこは多分出来ないんじゃないかな。でも、そんな面白い発想が出てくるなんてルーミアはすごいよ」

「うっ。どういたしましてなのか」

 おみくじをフォローするつもりが、逆にフォローされてしまった。

「私はおみくじの結果がルーミアと一緒だったってことの方が嬉しいよ。それに、おみくじはいいところだけ信じればいいんだよ」

「いいところだけ?」

「うんっ。例えば私の末吉だったらこれ・・・仲の良い友人と更に友情が深められます」

 仲のいい友人って、もしかして私のことかな。

 いいことだけ信じる・・・なるほど。そういう考えって、いかにも私らしくていいかも。

 よーし。私の末吉はどうなってるかな〜。

「あっ!私の方にも千穂とおんなじようなことが書いてある」

「えっ!ほんとにっ!」

「うん。・・・私、いいところだけ信じてみるよ。これで私達、今年も仲良し決定だね」

「そうだね!」

 えーと、後はどんなことが書いてあるのかな・・・。

 ・・・うんうん。悪いことは信じない。

「・・・」

 ・・・うんうん。悪いことは信じない信じない。

「・・・」

 ・・・うんうん。悪いことは・・・って!悪いことばかりじゃないか!

 末吉って結構容赦無いな。

ちらりっ

 最凶のおみくじを見事に引き当てたチルノの方を確認する。相変わらず、穣子と一緒にバカ元気にはしゃぎ散らしていた。

 ここまで来ると、逆に最凶の内容が気になったりする。後で見せてもらおうかな。・・・あっ!自然に最凶とか言っちゃってる。

 ・・・大凶ね大凶。

 チルノってば大凶だね!


「で、千穂。お参りとおみくじをが済んだから、次はまた屋台巡りだよね!私もうお腹ペコペコなのか〜」

 最後に口にした食べ物が金魚すくいのポイになるわけだから、それからみことのおじいちゃん探し、神社のお参り、チルノの捜索と約3時間くらいは何も食べていないことになる。お腹が空くわけだ。

「そう言えば私もお腹空いたなぁ。・・・うん。それじゃ、そうしようか」

 よ〜し、目一杯食べるぞ〜。

「とっ!ちょっと待ったお二人さん!」

「ほえっ?」

 意気込んで、これから食べに走ろうとしていたところにすかさず穣子の制止が入る。

「何なのか穣子〜」

「また私のお財布を苦しめるつもりなの。言っておくけど、もうそんなにお金残ってないからね!」

 えー。テンション下がるなー。今の今までチルノと一緒にはしゃいでいたはずなんだけど・・・暴走気味になっても案外周りの音は聞こえているってことかな。もう、穣子ってば妙に器用なんだから。

 あっ、確かこう言うときにピッタリの言葉があったはず。

「ならばそれを搾り取るまでなのか〜。足りない分は穣子の体で払ってもらうのか〜」

 ほらピッタリ!足りない分は穣子のお芋分で補う。昨日までにあらかた吸い付くしたような気がするけど、今日これだけはしゃいでたら、多分別の物も一杯溜まっているよね。

「はうっ!急にルーミアが残酷なことを言い出したよ〜。うわぁ〜ん・・・折角の大吉だったのに姉さんと分けちゃったせいだ〜!」

「穣子ごめん。そう言えば私が引いた凶のおみくじにこんなことが書いてあったよ。「自分より目上の人に絶対逆らわないように」って」

 目上って。多分私、穣子より弱いよ。・・・まあ、そういう意味じゃないんだろうけど。

「うわーん、姉さんのバカー。どうして凶なんて引いたの」

「私に聞かれても・・・文句なら神社に言ってよ」

「神社のアホッ!ボケッ!オッペケペー!」

 お、おっぺけぺーって・・・意味分かんないよ。

「うわーん。私はもう一生ルーミアの呪縛から逃げられないんだ〜」

 情けない声を出して半泣きになる穣子。これじゃあ、何か私が完全に悪者みたい。

 でも、それだったら逃げる必要なんてないと思うけど。

「穣子!だったら私とずっと友達だね。ほらっ、このおみくじ見てっ!末吉だけど「友達との関係がうまくいって、今よりもっと仲良くなれます」って書いてるでしょ。・・・千穂に教えてもらったんだ。おみくじなんて、いいところだけ信じればいいんだって。だから、後は散々だけどこれだけは信じてる。今年だけじゃないよ。これからずっと、みんなと仲良しでいられるって・・・ねっ、穣子!」

 自然と笑顔が出た。

「・・・もぅ、ずるいよルーミア。そんな顔されるとこれ以上何も言えなくなっちゃうよ。・・・うん。私だってルーミアと同じ気持ちだよ」

 そう言うと、穣子はニッコリと微笑み「でも」と続けた、

「末長く仲良しを続けたいんだったら、もっと友達を大切にすることを覚えないとね」

「ほえっ?」

「・・・いいよ、分かった。今日は大奮発。搾れるだけ搾り取ってくれても構わないよ!」

 やったー!流石は穣子!


「よーし、それじゃあ早く行くのかー」

ガシッ

 千穂の手を握り、神社の階段を降りるべく、振り返り様に走り出そうとしたその時。

「えっ、あっ!ルーミア危ない!」

ドンッ

「ふぎゃっ」

 後ろを確認していなかったものだから、そこにたまたま通りかかった男の子とぶつかってしまった。

 もう、私のあわてん坊。

「あいててて・・・」

「もうルーミア。気を付けなくちゃダメだよ」

 しりもちをついた私は千穂の手を借りて立ち上がる。ちょっとはしゃぎすぎたかな・・・反省しないとね。

「ありがとう。・・・ごめん、大丈夫なのかー」

 私と同じくしりもちをついて倒れていた男の子に右手を差し出す。


バシッ!

「えっ!」

 突然の出来事に、一瞬何が起こったのか分からなかった。

 ・・・右手が痛い。じんじんする痛み。左手でゆっくりと撫でてみてようやく気付いた。これは、さっき男の子に向けて差し出した手だった。

 差し出した手が叩かれた?・・・というより叩き落とされた。

 表情を確認すると、男の子は威圧的な目で私を睨み付けていた。

 倒れているからはっきりとは分からないけど、背丈は私と同じくらい。年齢も、見た目年齢が私と同じくらいだから千穂よりも下だと思う。つまりまだまだ子供。

 でも、私を睨み付けてきた眼光は鋭く、年相応の可愛らしさというものが微塵も感じられなかった。

 ・・・知っている。私はこの表情をよく知っている。以前から何度も見てきた。


 これは憎しみの表情だ。

 妖怪を・・・私を憎んでいるんだ。


 男の子の表情に釘付けになる。怖いわけじゃないのになぜか襲ってくる体の震えを、必死で押さえるように拳をギュッと握りしめる。


 ・・・。


 そのままの状態でしばらく沈黙が続いた。

 目を逸らしたかった。男の子の憎しみを受け流したかった。でも、私自身がそれを決して許さなかった。逃げてはダメだ。この子の想いをしっかりと受け止めないといけない。


 ・・・そして、男の子は口を開いた。


「何で妖怪が人間の里にいるんだよ。今すぐ出ていけ!早く消えろっ!・・・死ねっ!妖怪なんてみんな死んでしまえばいいんだっ!」


 男の子の言葉が私の胸を貫いた。子供だからって優しい言葉が出てくるとは思っていなかった。でも、こんなにも面と向かって「死ね」と言われると・・・やっぱり苦しかった。

 知っている。分かっている。自分がどこまでも厚かましい妖怪だということ。本来なら今この場所で、みんなと一緒に笑っていることなど有り得ない存在だということを。

 実際に、まだ私のことを認めてくれていない人間は大勢いる。今まで私がしてきたことを考えると、当然だと思う。


 恐らく、この男の子は妖怪に何か大切なものを奪われたんだ。それが家族なのか、友達なのか、大好きな女の子なのかは分からない。

 自分の大切なものを奪ったやつの仲間が、もしくは奪った本人が何もなかったかのように人間と仲良くしている。

 ・・・許せないのは当然のこと。相手が子供なら尚更だ。


 だって子供は人一倍、誰かを必要としているから。

 だって子供は人一倍、弱い存在だから。

 ・・・だから、人一倍誰かを失うことを恐れているんだ。


 子供はみんな同じ。千穂も、みことも・・・そうなると、私もきっと子供なんだなと自覚してしまう。


「ちょっと、ルーミアに何てことを言うの!」

 千穂が男の子に対して怒りを露にする。私は千穂の友達なんだから、それはきっと当たり前のこと。私だって千穂がこんな風に言われたら怒るはずだ。

 ・・・でも、

「千穂、私は大丈夫だから」

「あっ!こらちょっと待てー!」

 逃げ出すように、振り向き様に走り出した男の子をすかさず追いかける千穂。制止の声を掛けようとしたけど間に合わなかった。

タッタッタッ・・・

 男の子は意外と速く、神社の階段を飛び跳ねるように駆け降りていく。実に俊敏な動きだ。

 千穂もそれに離されまいと階段を二段飛ばしで駆け降りようとした。

 ・・・しかし。

「あっ!」

 私は知っている。千穂は活発に体を動かすタイプでなければ、運動だってあまり得意な方ではない。私が手を貸してあげないと木登りもできないくらいだ。

 階段の二段飛ばしという僅かな跳躍を試みて足を踏み外した千穂の体は、もう復帰できないくらい前に倒れ込もうとしていた。このままでは石の階段に体を打ち付けて転げ落ちていくのは目に見えていた。そして、傷付いた千穂の名前を泣きながら何度も何度も呼び続ける私・・・そんなの絶対に嫌だっ!

「千穂っ!」

 考えている時間はなかった。ここに来るまでに上って来た階段は、軽く見積もっても五十段以上。転げ落ちると命の保証などない。

 千穂の名前を叫んだ私は、体勢を低くして、左足を前に出すのと同時に右足を力一杯前に蹴り出した。斜め上ではない。自分がこれから飛び込もうとしている場所に向かって、地面とほぼ平行に。

 千穂の眼前に迫る冷たい石の階段。私が少しでも躊躇ったり、飛び込む角度を間違っていたら衝突は避けられなかったと思う。

 ・・・私にしては素早い判断ができたはず。

ガシッ

 空中で千穂の体をしっかりと抱き抱える。石の階段との接触を一時的に免れた千穂の体は、私と一緒に大きく前へ飛び出した。

 でも、前に出る勢いが衰えると共に、石の階段はあっという間に迫ってきた。

 私はすかさず自分がクッションになれるように、体を千穂の下に持ってくる。

「ルーミア駄目っ!」

 ううん、これでいいんだよ。

 私は妖怪だから。それに、落下には慣れているから。

 だから、多分大丈夫だよ。

ガッ

「ぐあっ」


 慣れているとか余裕をかましていた私だけど、石の階段との最初の接触で意識が飛びそうになる。

 頭・・・打った?

ガッゴッガガ・・・

 一瞬だけ強烈な痛みを感じたけど、それはすぐにどこかへ消えていき、頭が朦朧としてきた。すごい誤算・・・頭から落ちるとこんなにも変な感じになるなんて、初めて知った。転げ落ちている感覚はあるのに、痛みは全く感じない。目の前がぼーっとして、視界がぼやけて見える。

 そう言えば、いつも落下する時には自然に頭を守るようにしていたような気がする。頭は大事にしないとダメだって・・・本能はちゃんと知っててくれてるんだね。

 背中に断続的に感じるのは、冷たい石の感触。胸の中に感じるのは、暖かな千穂の温度。そして、腕に抱えているのは大切な友達の命。

 ・・・離さない。離すものか!

 意識が飛びそうになる中、私はそれだけを考えて強く千穂の体を抱きしめる。不思議だった・・・痛みが完全に消失してしまった今でも確かに千穂の温度を感じることが出来た。ぼんやりと、ぐるぐる回る世界の中でも、千穂のかすかな息遣いを聞き取ることが出来た。そして、今にも消えてしまいそうな意識の中に一つの強い想い。

「千穂は・・・私が守るからっ!」

 心の中で思ったのか、声に出して伝えたのかも分からないくらいに、いつ気を失っておかしくないような状態だった。でも、千穂の息遣いがかすかに乱れるのを感じて、その想いがはっきりと伝わったことを自覚した。

 ・・・私のバカ、こんな大切な言葉。何でこんな場面で言うんだよ。こんな、今まさに千穂を守れるかどうかの瀬戸際って場面で・・・次に目を覚ました時には自分で何を言ったか忘れているような際どい場面で・・・。ただの無責任発言になったらどうするんだよ。頭を打ったら、記憶が飛んじゃうって聞いたことがある・・・バカの私だと尚更だよ。

ゴツンッ

「ぐっ」

 最後にもう一度頭を強打して、体に感じていた動きが止まる。多分、階段の一番下まで転げ落ちたからだろうけど・・・これは本当に記憶が飛んじゃうかも。

 こんなに頭ばかり打ってると、私もチルノ級のバカになっちゃうかもしれない。

「ルーミア、ルーミアっ!しっかりして!・・・ルーミアっ!」

 誰かが私の手をギュッと握りしめて、必死で名前を呼んでくれている。

 暖かい手・・・。

 この暖かさは知っている。ずっと私が守りたかった千穂の温もりだった。

「よかった・・・ち・・・ほ」

 ・・・チルノ級のバカになっちゃっても別にいいかな。千穂のことを守ることが出来たんだし。


 あっ!・・・そう言えば私、空飛べるんだった。

 千穂を抱きかかえた瞬間に飛翔していれば、チルノにならなくても済んだかもしれない。

 はぁ~。 

 ・・・私ってば、今のままでも十分バカだね。

 でも、チルノが見ている世界っていうのにも少し興味がある。きっと、この幻想郷が私とは全く違って見えているんだろうな。大きく見えるのかな?小さく見えるのかな?

 ・・・私のことはどんな風に映っているかな?・・・きっと最強のチルノからしたら、私なんて小さくて小さくて小さい存在に見えているんだろうな。

「ルーミア、ルーミア~!死んじゃ嫌だよ!」


 私は大丈夫。少し眠ったらすぐに元気になるから心配しないで。

 そう伝えようとしたけど、どうにも伝えることが出来なかった。


 遠くなっていく千穂の声。

 安心したからかな?

 ・・・私の意識はあっという間に消えていった。

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