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東方連小話  作者: 北見哲平
ルーミア 〜 笑顔の魔法
30/67

ルーミア - その6

「金魚すくいのルール理解したよ~」


 いつの間にか話は進んで、私とチルノでどちらがたくさんの金魚とれるか勝負することになった。因みに、お金は千穂がお小遣いから出してくれた。

「ふんっ、あたいの最強ぶりを見せてやる」

 金魚をすくう道具・・・ポイって言うみたいだけど、それをお店のおじさんから手渡されて意気込むチルノ。

 それにしても、千穂も嘘ばっかり・・・。

「千穂、このポイって道具、針金に刺さっているのはモナカだよね。つまり食べられるよね。それに金魚も美味しそう。赤と黒どっちの方が美味しいのか?」

ジュルリ(舌舐めずりの音)

「お店によっては食べられるポイを使ってるところもあるんだよ。でも、食べちゃダメだって。ポイって高いんだからね。それに、金魚も食べちゃったらかわいそうだよ」

「ざ、残念なのか〜」


バシャッ

「えっ」

 スタートの合図を聞かずにチルノがきんぎょすくいを開始していた。

 ・・・と言うより、これは!

「フッフッフッ・・・一発でここまでボロボロにできるなんて、やっぱりあたいったら最強ね」

 チルノは一瞬にしてボロボロになったポイを、なぜか誇らしげに私に見せびらかしてくる。

 あ~あ、やっちゃったよこの子は。

「はい残念。妖精のお嬢ちゃん、ゲームオーバーだ!」

 店のおじさんは、そんなチルノに対して容赦無く終了を宣言する

「ざ、残念!何でよ?こんなにボロボロにしたんだから最強でしょうが!・・・げ、げぇむ、おぅば?・・・判った、あれでしょ?よく判らない事言って判ってるフリしてるだけでしょ?」

 ・・・。

 チルノ。以前から気になってたんだけど、どうやって自分のスペルカードの名前考えているんだろう?「パーフェクトフリーズ」とか「フロストコラムス」とか・・・。

 知り合ってしばらくになるけど、まだまだ妖精というのは不思議がいっぱいだったりする。

 チルノは特別なのかな?

「あ〜あ、そんなに荒っぽくすると、ポイはすぐにダメになっちゃうんだよ・・・チルノちゃん、私の説明聞いてた?」

「そんなもの聞かなくても、あたいが最強だって今証明されたけどね」

「つ、つまり聞いてなかったんだ・・・がくっ」

 千穂は「がくっ」と声に出して肩を落とした。真面目な千穂が「がくっ」とか言うのは珍しいことなので、これは本当に「がくっ」ときたに違いない。

「千穂、チルノの場合は説明しても、どうせ分かんないからおんなじだよ。・・・でも、これで私の負けはなくなったのか」

 チルノは、確かにある意味最強だったかもしれない。なぜなら、一度ポイを水に浸してそれをこっそり冷気で固めると・・・そう、最強のポイが完成していたはずだ。

 イカサマだけどね。

 まあ、チルノはバカだから気付くはずはないと確信していたけどね。


 でも、これでまだ私にも勝機がでてきた。要は一匹でもとればいいんだ。勝てばご褒美かあるわけでもないんだけど、負けるよりはいい。きんぎょだって食べられるかもしれない。


グッ

 私はポイを握り直し水槽に目を向ける。

「ルーミア、頑張って〜」

 千穂が私に声援を送ってくれる。

 ありがとう、頑張るよ。


 さて、問題はどのきんぎょを狙うかだけど・・・。やっぱり、宵闇の妖怪である私としては黒いやつを狙うべきだろうか?

 あっ、でも赤いやつの方が美味しそうな色つやをしている。

 あっ、あのきんぎょがとびきりでかくて美味しそう。

 うわっ、黒いやつの目がすごい!出っ張ってて美味しそう。


ポタッ

 突然水面に広がった波紋から逃げるように、きんぎょ達が一斉に水中を移動する。

「ルーミア。よだれよだれ」

 えっ、よだれ?

 ・・・うわっ、いつの間に。

じゅるりっ!

 いけないいけない、真剣にいかなきゃ。


 よしっ、決めた。あの赤いやつにしよう。

 私は右手にポイを、左手に少しだけ水を入れたお椀を構えて、狙いを定めた赤いやつの動きをじっと観察する。

ゴクリッ

 私の予想ではチャンスは一度きり。失敗したらチルノと同じ道をたどることになる。・・・つまり、ゲームオーバーだ。まあ、クリアがどこにあるか分からないので、結局のところみんなゲームオーバーにはなるのかもしれないけどね。

 ・・・!

「いまなのかー!」

ポチャリ

 赤いやつがピタッと動きを止めたのをチャンスと見た私は、ポイを斜めの角度で水に浸けた。

 そして、そのまま赤いやつの下にポイを潜り込ませ、素早く左手のお椀目掛けてポイを移動させる。

「もらったのかー!」

 勝ちを確信した次の瞬間だった。

ビシャッ

「あれれっ」

 私の手の動きについてきたのはポイの針金だけだった。肝心のモナカはというと、ポイから分離して水の上にプカプカ浮いていた。そして、赤いやつは何もなかったかのように悠然と泳いでいた。全く、随分と肝がすわった大物だったようだ。それともただ鈍感なだけか。

 何にせよ、これでゲームオーバーだった。

「ああ〜、もうちょとだったのにね」

「ルーミアってばまだまだね」

「仕方ないのか〜。あっ、でも、これ美味しいよ。ふにゃふにゃになっちゃってるけど」

 取りあえず水に浮かんでいたモナカを掴み上げて食べる。チルノの分も。

 やっぱり、食べ物を粗末にしちゃ、ダメだよね。


 きんぎょはとれなかったけど、私はそれだけで案外満足だった。


「二人とも大丈夫だよ。こういうのって、一匹もとれなかった場合、二匹くらいサービスしてくれるものなんだよ」

 二人合わせてきんぎょが一匹もとれなかった私達に、千穂は何とも耳寄りな情報を提供してくれた。

「えっ!ほんとなのかー」

 これで金魚が食べられる!

「うん。大体そんなもんだよ。おじさん、そうですよね?」

「悪いが俺の屋台ではサービスは一切無しだ!」

「えっ、そんなぁ。どうしてですか?」

 店のおじさんは、そんな千穂と私の期待と希望を一刀両断する。

「よく考えてみるんだお嬢ちゃん。もし一匹もとれなかったからといって二匹もサービスしてしまうと、頑張って一匹だけとった人よりも得してしまうんだ。こうなると、一匹しかとれなかった人にはもう一匹サービスしないと誰も納得しない。だが、これでは俺自身が納得しない。なぜなら、一匹もとれなかった負け組と、一匹だけとった、これからの行動次第で勝ちにも負けにも入れる連中と、二匹とった・・・言わば勝ち組とが同じだけの報酬を得ることになってしまうんだ」

「え、えぇ」

 押されっぱなしの千穂はただ適当に相槌を打つしかない。

 ・・・え〜と、つまり1が2になって2が・・・あーもう、結局はこのおじさん何が言いたいのか?

「俺はそんな不条理は許さねぇ!だからサービスは一切しねぇ!ここは俺の店、つまり俺がルールだ!」

「うぅ、ごめんなさい。私がわがままでした・・・」

 押しが弱すぎる千穂は、引き際あっさりと謝ってしまった。

 よく分からないんだけど、何かが違うように感じるのは私だけなのかな?


「おっ、なんか騒がしいと思ったらルーミアに千穂じゃないか。・・・それに、なぜチルノまでいる?」

 聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきたと思ったら、やっぱり見覚えのある人物だった。

「んっ、お〜、慧音なのかー。それにあっきゅんも、あけましておめでとうなのか~」

「あけましておめでとう」

「あたいがいちゃわるいかー」

「いや・・・そうは言ってないだろうが。千穂も、あけましておめでとう」

 屋台のおっさんに訳の分からないことを言われて少し怯え気味だった千穂も、慧音の顔を見て安心したのか、軽く笑顔を浮かべた。

 そう言えば、千穂のクラス担任って慧音だったっけ。

「慧音先生、阿求さん。明けましておめでとうございます。わぁ〜、慧音先生今日は振袖の着物なんですね。とっても綺麗で似合ってます!」

 なるほど~。

 今日の慧音は何かいつもと違うと感じていたんだけれど・・・それは言うまでも無く着物を着ていたからなのかな。

 ふ~ん。こう言うのって振袖って言うのか。

 袖が長いから?・・・う~ん、確かに長い。でも、千穂の言うとおり私も似合っていると思う。

 因みに、あっきゅんはいつも着物しか着てないからあまり違和感はない。

「見て見て〜、あたいだって今日はかなりいい感じに決まってるでしょ〜」

 チルノがその場でクルリと一周して二カッと歯を見せた。


 チルノ~、いつもと変わんないよ~。


「それにしても千穂は本当にいい教え子だな〜。皆この姿を見ても素直に感想言ってくれないんだ」

 慧音は少し遠い目をする。

 ・・・どんな酷いこと言われたんだろう?

「私も似合ってると思うのか〜」

「ルーミア。お前もいいやつだな本当に。やはり子供は素直が一番だからな」

 とても上機嫌になる慧音。どんな因縁があったかは知らないけど、何か得意気な表情であっきゅんの方を見る。

「・・・まあ、無駄に歳ばかり食って、いまだに振袖を着ているようでは話になりませんけどね」

 ・・・ん?

「ぐわっ!・・・阿求様、最近口が軽くなりましたね」

 あっきゅんの言葉に少しのけぞる慧音。

「次に二人きりになったときが怖いです」

「阿求様、ちょっと私と一緒にあの木の裏まで・・・」

「それは嫌です〜」

 本気で嫌そうに首を振るあっきゅん。私にはよく意味が分からなかったけど、きっとこう言う冗談っぽいことが言い合えるのは仲がいい証拠なのだと思った。

 因みにあの木の裏はダメだ。先客がいる可能性があるからね。

「まあそれはさておき、少し騒がしかったようだが何かあったか?」

 慧音が千穂に向かって聞く。

「あっ、いいえ。特に何でもないです。ちょっと金魚すくいをしてて・・・」

 千穂は静かだったよ~。騒がしかったのは、主に店のおっさんだけ。

「金魚すくい?・・・おお、金魚すくいか!」

「げっ!」

 店のおっさんが小さく声を漏らしたと思ったら、みるみるうちに顔が青ざめていくのが分かった。


 ・・・どうした?


「け、慧音先生。どうしたんですかその金魚は!」

「うわっ!大漁なのかー」

 今まで振袖ばかりが目に入って気付かなかったけど、よくよく見てみると、慧音は金魚がたくさん泳いでいる水の入った袋をいくつか手に提げていた。

 金魚の数十、二十、三十・・・とにかくいっぱいだ。

「ああこれか。これは先程ここに寄ったときの戦利品だ。冬場の金魚すくいなんて珍しいからな、私のソウルが燃え上がってしまって」

「は、はぁ?・・・戦利品って、一体いくつのポイを使ったんですか?」

「いくつって、一つだが・・・いや正確には一つも使ってないのだがな」

「意味が分からないのか~」

 私は首を傾げる。

「それがね、慧音さん金魚すくいが滅茶苦茶上手くて、ワンコインで水槽の金魚を全部すくってやるって息巻いていたんですけど・・・」

 あっきゅんがそう言いながらきんぎょすくいの屋台の方に目を向けると、みんなの視線は自然とその先に移る。

「そうそう、私は当然そのつもりだったのだが、五十匹を超えた辺りで、急に店主が土下座して「ポイの代金はお返し致しますのでもうやめて〜」って。私だってそれはおかしいだろって言ったのだが」

「あたい分かった。それって俺ルールってやつでしょ」

「俺ルール?何だそれは?そんなものは無かったと思うが・・・。まあ最終的には「これで何か食べてください」ってお駄賃まで出してきたから、それは流石に受け取れないと思ってな。・・・そこまで来ると少し悪い気がしてきたから納得はいかないが終了した」

 慧音と目が合った店のおっさんが、サッと視線をそらした。私にはそう見えた。

 ・・・きんぎょすくいのクリアを達成する人がこんな近くに居た!

 すごいよ慧音。


「ふーん・・・俺がルールか〜」

 私は、そう言いながら嫌味な表情でおっさんを見る。おっさんは冷や汗だらだらで、さっきまでの勢いはまるで感じられなかった。

「どっ、どうぞ、金魚の一匹や二匹持っていってください〜」

 おっさん弱っ!

 さっきまでとは態度が一変。突然土下座までして、サービスをさせてほしいと頼み込んでくるおっさん。

 ルールが容易に変更できることも俺ルールの特徴だったみたい。何だかなぁ~。

 さっきは正直イラッとしたところもあったけど、ここまで来ると流石に少し可哀想になってきた。

「いいよおじさん。私達は一匹もとれなかったわけだし、その分は慧音がとってくれたってことで・・・でも、次の機会までに慧音にコツを教えてもらって再挑戦してみせるから、その時は覚悟するのかー!わはー」

「め、女神様、ルーミア様」

 そんな大袈裟な!

 って言うか、本当の女神様に会いたければあの木の裏を見に行くことを推奨するよ。

「それにしても慧音先生。そんなにたくさんの金魚、どうするんですか?・・・もしかして子供たちに配るとか?」

「んっ?・・・そりゃ千穂、金魚はすくったら飼うに決まっているだろう。よもや食べるわけはなかろう」

 ははは・・・まさか・・・えっ!食べないの?あんなにたくさんいるから唐揚げにでもするのかと思っていたのに。

「独り身の寂しい女性には心の癒しが必要なんですよ」

「阿求様、やはり二人であの木の裏まで御一緒しませんか」

「遠慮します。私はまだ死にたくありませんから」

 だからあの木の裏は先客が居るからダメなんだってば。


 それにしても、あの木の裏の人気は何気にすごいな〜。


「まあ、またまた冗談はさておき、穣子と静葉はどうしたんだ。今日は一緒だと認識していたのだが・・・」

「あっ、そうですね。私もみのりんに会えると思っていたのに」

 あっきゅんは、周りをきょろきょろと見まわす。

「それならあの木の裏なのかー」

「あの木の裏?」

 慧音が首を傾げたところを見て千穂がすかさずフォローに入る。

「あっ、いえいえ。ここまで来るのに色々あったんです・・・実は」

 そう言うと、千穂は一連の出来事を慧音とあっきゅんにスラスラと説明し始めた。

 あんなバカらしい出来事を説明しようとしたら、私やチルノじゃ一体何十分掛かることやら・・・。


 ・・・千穂は説明上手だと思った。


「ふ〜ん。あの穣子がチルノにな・・・」

「ふっふっふっ・・・あたいったら最強ね」

 ・・・。

「・・・ま、まあ分からんでもないが、こう言うのが趣味だったとは」

「全くです。みのりんってば私というものがありながら、チルノなんかに現を抜かすなんて!・・・浮気だわ!不倫だわ!」

 ・・・ウサギ?

 ・・・プリン?

ジュルリ(舌舐めずりの音)

「こらこら阿求様。子供の前でそう言う言葉を使わないでください。・・・と言うより、何その夫婦設定を定着させようとしているのですか。違いますから!」

 慧音がそう言うと、あっきゅんは「チェッ」と口をとがらせた。

「別に言ってみるくらいならいいじゃないですか。・・・まあそれより、静葉さんの心配をしてあげた方がいいかもしれませんね。私だって、みのりんにそんなこと言われたら、一か月は引き籠ります」

 私だって、穣子でお芋分を補給できなくなったら・・・とりあえず静葉で我慢するけどね。

「う~ん。心配はないと思うがな。この里に来るまではずっと穣子と二人きりで暮らしていたんだ。人間の文化に積極的に馴染んでいる穣子を見て、姉として色々と思うことがあったのだろうな」

 私もそう思う。

 静葉ってほら・・・何か打たれ強そうだし。


 バカは強い!

 だから私も、チルノも、静葉も、ついでに穣子も、みんな強い!



「そう言えば慧音先生。もうお参りには行ってきたんですか」

「ああ、いの一番に行ってきたぞ。当然だろう、まさかこんな金魚袋を提げて神様にお祈りするわけにもいくまいしな」

 ・・・慧音は何お祈りしたのかな〜。

「おみくじも引きましたよ。私は大吉、慧音さんは凶でした。・・・因みに内容は」

「言わんでもいい!」

 慧音が声で威圧すると、あっきゅんはやや満足そうに微笑む。

 それにしてもおみくじって何だろう?

 ・・・きっと美味しいんだろうな〜。

「お前達はまだお参りに行ってないのだったな。・・・全く、こんなところで油売ってないで、まずは神様にお祈りに行ってこいよな」

「あ、まあそうは思ってたんですけど・・・」

 そう言うと、千穂はそ〜っと私の反応を伺ってくる。

「ほぇ?・・・あ、うん。それ私のせいかも」

 って言うか「かも」じゃなくてモロに私のせいだったりする。

 初詣の参拝行列よりも、食べ物の屋台に釣られたのは、どうしようもなく私の悪い癖としか言いようがない。

「成程な。まあそんなことだろうと思ったが・・」

「後、かなり熱くなっていた穣子さんの熱を冷ます意味も込めてたんです」

 千穂が付け加えるように言う。

「ははは・・・。まあ、神様が神様の前で粗相をしたら洒落にもならないからな」

 ・・・確かに言えてる。

 ふ〜ん。みんな色々と考えているんだな。

 まあ、生きていれば当たり前のことか。


 何も考えていないのなんて精々・・・。

 私が視線を右に移すと、そこにはつまんなさそうに表情を固めているチルノが居た。

「どうしたのかチルノ?・・・さっきからやけに口数が少ないけど」

「あたいお腹空いたんだけど!・・・きんぎょくすいまだぁ〜!」

 ・・・。

「・・・わはー?」

 ・・・バカに面白い。それとも、バカは面白い?

 どちらにしても、チルノは私にとって自慢の友達です。


「んっ?・・・きんぎょくすいって何だ?」

 慧音とあっきゅんは腕を組んで考える。


 千穂は、開いた口がなかなかふさがらなかった。



「うわああぁ〜ん」

 その時、突然私達のすぐ後ろで女の子が泣き出した。

「どうした?」

 考えるより先に体が動いたのは慧音だった。すぐに女の子の元に駆け寄り声を掛けた。

 女の子は私達よりも、ずっと子供で5歳くらいの少女だった。

「ぐすんっ・・・」

「え〜、君は確か石丸じいさんのところの、みことちゃんではないか。何があったのか話してみな?」

 どうやら少女はみことという名前らしい。私はまだみんなの顔と名前を一致させることは出来ないのだけど、流石は慧音。その程度のことは朝飯前だったみたいだ。

 みことは一旦泣き止み、慧音の顔をじっと眺める。

 ・・・そして、

「うわああぁ〜ん」

 また泣き出した。

「おっ、ど、どうした!どうしたっ?」

 さっきよりも、一層大きくなった泣き声にかなり焦り気味の慧音。

「もう、慧音さんの顔は怖いから・・・こういうことには向いていないんですよ」

「うっ!」

 あっきゅんは、何気に酷いことをあっさりと言う。慧音は、そんなあっきゅんに何か言いたそうな表情向ける。しかし、事実みことはまた泣いてしまったので、慧音としては何も言い返せないんだと思う。

 一歩二歩と後ずさりしたのが、その証拠。

 それにしても、あっきゅん新年早々とばしてるな〜。


 そんなあっきゅんの行く末を気遣いながら、私はゆっくりとみことの側に寄る。

 そして、更に泣く勢いが増してきているみことに声を掛けてみる。

「みことちゃん。泣いていても分からないよ。何があったか私に話してみるのか〜」

 私は、出来るだけ優しい口調と表情で言った。

 すると、みことは再び泣くのを止め、私の顔をじっと見つめてきた。

「私はルーミアだよ。みことちゃん、よろしくなのか」

 軽く笑顔をつくって続けざまに言うと、みことはやや赤く腫れた大きな目を全開に見開いて、不思議なものを見るような表情で口を開いた。

「ルーミアおねえちゃん?」

 みことが私に対して初めて発した言葉がおねえちゃんだった。あまりにも突然だったので少し驚いたけど、これはこれで悪い気はしない。むしろ、お姉ちゃんなんて呼ばれるのは初めてなので、かなり嬉しかったりする。

 はぁ〜、確かさっき穣子がチルノに対して「おねえちゃんって呼んでいいよ」みたいなこと言っていたけど、何となくその気持ちが分かったような気がする。

「うん。ルーミアおねえちゃんだよ。だから、どうして泣いていたかおねえちゃんに話してみて」

 私がそう言うと、みことは服の袖で涙をゴシゴシと拭った。

「う、うん。・・・グズンッ。実はね・・・私、おじいちゃんと一緒に初詣に来てたんだけど・・・」

 ふむふむ・・・。

 そこまで聞くと、流石の私でも何となく事情が分かった。つまり、

「はぐれちゃったんだね」

「・・・うん」

 みことは小さく頷いた。

 確かに普段では考えられないくらいの人間が集まっているので、こういうことも時には起こるはずっ!

 よ〜し、

「じゃあ、おねえちゃんが一緒におじいちゃんを探してあげるよ」

「ほ、本当に?」

「勿論っ!大丈夫、すぐに見つかるよ」

 私はニッコリと微笑んだ。

「うんっ!ありがとうおねえちゃん」


 私にありがとうと言ったみことは、とても明るい笑顔だった。



「え~っと・・・ということになったので、千穂とチルノは、慧音とあっきゅんと一緒に時間をつぶしててくれるかな~」

「な~に言ってるのルーミア。私も一緒に行くよ。みことちゃん大丈夫だよ。ルーミアは私の自慢のお友達なんだから」

 千穂はそう言うと、みことの頭を優しく撫でる。

「ありがとう千穂。それより千穂はみことちゃんと知り合いなのか?」

「うん。おばあちゃんとみことちゃんのおじいちゃんの付き合いが深くてね・・・少し前まではよく一緒に遊んでいたんだよ」

 そーなのかー。

「じゃあ、ついでにチルノも一緒に行くのか?」

「ふぉぇ・・・ひふってどほに?」

ボリボリボリ・・・

 って、いつの間にか氷食ってるし。

「ほれは、あげないお~」

 いや、別にいらないから・・・。

 まあ、これならほっといても勝手に付いてくるかな。


「私達も石丸じいさん探しを手伝おうか?」

「慧音もありがとうなのか。・・・でも、私達だけでも十分だよ。それより、そのうち穣子と静葉が戻ってくると思うから、二人にこのことを伝えておいてほしいのか~」

「そうか・・・そう言うことなら任せておけ」

「慧音さんが一緒だとまたみことちゃんが泣いてしまうかもしれないですしね」

「阿求様。最近本当に口が軽くなりましたね。・・・冗談抜きで軽くなり過ぎです。地味に心に刺さる言葉で、私は軽く泣いてしまいそうです」

 慧音は大きくため息をつく。


「とにかくルーミア。・・・みことのことはよろしく頼むぞ」

「うんなのか~」



「さっ、みことちゃん行くのか~」

「どこに行くのおねえちゃん?」

「あうっ?」

 ・・・あれっ、どこに行けばいいんだろう?

「どこに行けばいいと思う?・・・慧音」

「わ、私に聞くなって。・・・あっ、それより千穂、後で米さんとこにも挨拶に行くからよろしくな」

「あっ、はい」

 米さんというのは、千穂のおばちゃんのこと。

 そうだった。確かおばあちゃんのお世話で寺子屋を休むようになってからは、月に何回かは慧音が様子を見に来てくれるって言ってたっけ。


 ・・・慧音って、やっぱり立派な先生してるな~。


 それに比べて私は。


「はあ~」


 笑顔の魔法か・・・。

 そうだよね。私にはこんなことしかできないんだよね。


 でも、みことが笑ってくれたことは本当に嬉しかったんだよ。

 その気持ちは、一年前も今も全く変わらない。

 そして、これからもずっと、私はみんなの笑顔が大好きでいられるんだろうな~。

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