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東方連小話  作者: 北見哲平
ルーミア 〜 笑顔の魔法
29/67

ルーミア - その5

「あの~、ルーミア・・・ちょっと食べ過ぎじゃないかなぁ~」

「ん~、全然そんなことないよ」

 なぜか恐る恐る聞いて来る穣子。私の、胃袋なら心配いらないよ。まだ、腹一分目くらいだから。

 それにしても、ここは天国!天国なのか?

 お参りしに来た神社がもう目で見える位置まで迫っているのだけど、そんなことより先に目に入って来るのは、道を挟んで両脇に立ち並ぶ小さなお店。・・・これが、屋台と言うものらしい。

 わたがし!焼きそば!お好み焼き!・・・まだまだこれから!

 ん?今食べているのは何かって?

 これはりんご飴。ちょっと見た事のない形の飴だけど、すごく美味しい。因みに、いきなりかぶり付こうとしたら千穂に注意された。千穂が言うには、飴のところは出来るだけ舐めて、リンゴに近づいて来たところで一気にいくのが美味しい食べ方らしい。

 私にだって、飴は噛むものではなくて舐めるものだと言う認識はあるけど・・・それだったら、飴なのかリンゴなのかはっきりしてほしい。飴は舐めるけど、リンゴには噛み付くよ。

 まあ、美味しければ何でもいいんだけどね。

「あっ、あれは何なのか?」

 また、何か美味しそうな屋台を見つけた。私はチルノほどバカじゃないから簡単な字だったら読むことだって出来る。

 ・・・かたぬき?

「ルーミア、あれはかたぬきって言ってね」

「かたぬき美味しそうなのかー!」

「ダメだってば・・・確かに食べられなくはないけど、あれでルーミアのお腹を満足させようとしたら、それだけで私のお財布の中が寒くなっちゃうよ。・・・もう、十分寒いけど」

「ふっふっふっ・・・ルーミアってばバカね。あたいは知ってるよ。肩抜きっていうのは、何かあぶなーい奴が、肩を抜いたりはめたりして自分の最強さをアピールする大道芸だよ。まあ、最強さで言えばあたいの足元にも及ばないけどね。あたいったら最強ね!」

 そーなのかー!

ギュムッ

「はぅ~、可愛いよチルノちゃん。可愛いよ~」

「や、やめろ~・・・はなせ~」

 穣子が、とても幸せそうな顔でチルノを抱きしめる。

 幸せそうなのは何よりだけど、これは少し重症かもしれない。

「チルノちゃん。お姉ちゃんが何か買ってあげようか?・・・何が食べたい?」

 いつの間にか、チルノのお姉ちゃんになってしまった穣子。それにしても、何だか少し暑い。チルノの寒さを吹き飛ばしてしまうくらい人間がたくさん集まっているということかもしれない。周りを見れば人、屋台、人だった。千穂は、里の住人がほとんど来るって言ってたけど、こんなにたくさんの人が住んでいたんだな~。

「あたい、冷たいものが食べたい」

「えっ、冷たいもの・・・あったかなぁ?」

 チルノは氷の妖精なので、冷たいものが好きだというのは、まあそれとなく知っている。どうしてもお腹が空いて我慢できない時は、自分で出した氷を食べているらしい。

 前に千穂から聞いたことがある。こう言うのを自給自足って言うんだ。

「穣子さん。今は1月ですから。・・・かき氷とかアイスクリームの屋台は残念ながら出てないと思います」

「えっ、そうなの」

「じゃあいらない」

 穣子に抱き付かれたままのチルノはあっけなく言いのける。

「ご、ごめんなさいチルノちゃん。お姉ちゃんのこと嫌いにならないで!・・・代わりの物何か無い。え~と、例えばあれとかどうかなっ」

 穣子はとりあえず目についた屋台を適当に指差した。

 ・・・ん?

 それは私もまだ食べた事がない屋台だった。

 なになに・・・きん・さかな・すくい?

「って、穣子さん。あれ、金魚すくいの屋台ですっ!」

「えっ!金魚すくい?・・・あ、あれぇ?」

 きんぎょすくいっ!

ジュルリ(舌舐めずりの音)

「きんぎょすくい美味しいそうなのかーー!」

「ダメー!」(穣子・千穂)

 えっ、えっ、何で何で?

「ふ~ん」

「わっ、姉さんそこに居たんだっ!」

 暫くの間、お好み焼きの上で踊る削り節の様にふにゃふにゃしながら後を付いて来ていた静葉が、ようやく何かしゃべりだした。

 暗いよ暗いよ・・・そして、ちょっと怖い。

「ああ私はずっと居たよ。居ましたとも。穣子の後ろを、背後霊の様にずっと引っ付いて歩いてたのに、妹は全然気に掛けてくれないし・・・そうだよね、私ってほらうるさいお姉さんだし。黙ってた方が穣子はスッキリするよね」

「姉さん、今日はまだお酒飲んでないよね」

「あんなバカっぽい妖精相手にお姉ちゃんになったつもりになって・・・あんなに幸せそうなハグは私ともしたこと無いのに、随分見せつけちゃって。可愛いよ可愛いよって・・・私にとっては穣子の方がずっと可愛いよっ!」

「ちょっと!ね、姉さん」

「こらー。あたいのことバカって言うな」

「うっさいバカ!・・・あーもう、私先に帰る。穣子はせいぜいそのバカ妖精と仲良くよろしくやってればいいさ。じゃあね、皆さんごきげんうるわしゅう」

 ウルワシュウ・・・何か美味しそうだな~。

「言っとくけど穣子。私を追いかけて来ようったってそうは行かないんだからね。私は走り出すと速いんだから。それはもうすっげぇ速くて、どこぞの烏天狗なんて目じゃないんだから。穣子が追いかけて来てくれるのをあの木の裏で待ってたりしない限り、絶対に追いつけっこ無いんだから」

 静葉はそう言うと、あの木とやらに向かって人混みをかき分け走って行った。

 今のは私にも何と無く分かった・・・静葉は焼きもちっていうのを焼いたんだ。

 焼きもち、焼きもち。

 ・・・お餅。

ジュルリ(舌舐めずりの音)

「んっ、どうしたの穣子?」

 チルノに抱き付いたまま、いきなりプルプルと震え出す穣子。

「・・・姉さんの馬鹿」

「こらー、あたいのことバカって言うな・・・えっ、姉さん?って言うか、離せ~。・・・あうっ、何だか揺れる感じが気持ちいいかも」

 チルノは僅かに頬っぺたを赤らめて表情を緩める。・・・バカ丸出しだった。まあ穣子に噛み付く私も、周りから見たら同じようなものだと思うけど。

「あの、穣子さん・・・静葉さんも別に悪気があってあんな態度を取ったわけではないと」

「ああぁーー。姉さんの馬鹿!ほんっとに馬鹿!って言うか質が悪すぎるよ。千穂ちゃん、ああ言うのは悪気の塊って言うんだよ。絶対にあんな大人になっちゃダメだよ。いや、あれは大人じゃないね、子供だよ。そりゃあ・・・私たち姉妹は感情も心持ちも大人って言えるほど立派なものじゃないけど・・・」

 穣子はそこで言葉を詰まらせると、チルノを抱きしめていた腕を離す。

 チルノはどこか不満そうだった。

「・・・穣子さん」

「ごめん皆。私ちょっと姉さんに説教してくるね。・・・幸か不幸か、少し走っただけで追いついちゃいそうだし。・・・もしなかなか帰って来ないようだったら、気にせず先に神社のお参りに行ってくれて構わないから。私達も後から追っていくよ」

 私にはお姉ちゃんがいないから分からない。でも、その時穣子が見せた表情は、色々と世話が掛かるお姉ちゃんだけど、それでも大好き。そんな、いまいち自分でも制御出来ないような微妙さだけど、それでも嬉しさや幸せをたくさん含んだ笑顔だった。

「チルノちゃんごめんね。また後で遊ぼうねっ!」

「う・・・うん」

 チルノは少し照れくさそうに頷いた。

 穣子はそんなチルノに対してニッコリと微笑むと、振り返り静葉の後を追って行った。


「何だかああいうのって憧れちゃうよね。私も妹がいたら、あんな風になったのかな?」

 暫くして、千穂が呟く。

「千穂が静葉みたいに変になっちゃうのなんて想像できないよ」

 千穂は苦笑する。

「確かに今日の静葉さんはちょっと色々おかしかったかも知れないね。ついでに穣子さんも。でも、あんなに世話が掛かるお姉さんでも、お姉さんでいてくれるのなら、私は妹になってもいいな。ううん、私はあんな風にちょっと変わったお姉さんの方が好きかも知れない。別に、お兄さんや弟でもいいんだ。すごく厳しくて強情っ張りだけど、妹のことをすごく大切に想ってくれて、いざと言う時には守ってくれるお兄さんでも、いつもお姉ちゃんお姉ちゃんって頼ってくれる弟でも誰でもいい」

 誰でもいい・・・そう言った千穂だったけど、それは嘘だと思った。


 静葉みたいなお姉ちゃん。

 いざと言う時には守ってくれるお兄ちゃん。

 いつもお姉ちゃんお姉ちゃんって頼ってくれる弟。


 誰でも何かじゃない・・・千穂は例え兄弟がいても、自分が想われてなければ嫌だったんだ。


「千穂は、兄弟が欲しかったのか?」

「うん・・・欲しかったよ」


 私にも、何となく分かった。・・・何となくだから、それが本当に正しいことなのかは分らないけど、でも私は千穂の友達だから、ちゃんと分かってあげなくちゃと思った。

 千穂はきっと・・・。

「ルーミア、千穂っ!あたいやっぱりお腹空いた~」

 私の考えを遮るように声を出したのはチルノだった。

ぐぅ~

 そう言えば、私もまだまだ食べ足りないっ!

「穣子の言ってた、あの・・・何だっけ。そうそう、そのきんぎょくすいっていうやつなら、あたい食べてあげてもいいよ」

 何かが違う。

「きんぎょくすいじゃなくて、きんぎょすくいなのか~。・・・で、千穂。そのきんぎょすくいって結局何なのか?」

「うん。・・・え~とね。とりあえずごめんなさい。食べ物じゃないんだよ。ってあれ?何で私謝ってるんだろう?・・・あ、まあそれでね、金魚すくいって言うのは、水槽の中に泳いでいる金魚を・・・金魚って言うのは小さな魚なんだけど、それをこんな感じの・・・ポイっていう道具を使ってすくって、お椀に入れたらもらえるっていう・・・」

「何だかよく分らないけど・・・食べ物じゃないみたいなのか」

「ふふん、あたいは知ってたけどね」

 ・・・嘘付けっ!

「ごめんなさい。・・・って、何で私また謝ってるんだろう。あっ、でも見ているだけでも結構楽しいよ・・・とりあえず、金魚すくいの屋台まで行ってみない?穣子さん達もすぐに帰って来そうにないし」

 まあよく考えてみると、穣子が居ないと食べ物を買うお金も無いことだし・・・きんぎょすくいって言うのも少しは気になるし・・・別にいいか。

「うんうん行く行く~」

「ま、しょーが無いからあたいも行ってあげるよ」


「うん、それじゃあ早速行ってみよ~う」

 そう言った千穂の表情は、さっきよりもずっと晴れやかで、以前の笑顔にとても近いものだと感じた。


 ・・・少し安心したよ。

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