上白沢慧音 - その1
知識と歴史の半獣 - ワーハクタク「上白沢慧音」の話です。
慧音の先生設定が全てになります。
好きなんですよね先生物。
寺子屋は、どっちかと言うと今の学校に近いイメージなので注意。
慧音先生を主役にして熱血教師物を書いてみたいですね。
「よし、今日の授業はここまで。皆、しっかり予習をしておくように」
「はーい!」
子供達の元気な声が教室中に広がり、それと同時に皆、帰り支度を始める。
私の名前は上白沢慧音。人間の里の寺子屋で、子供達に勉強を教えている。担当科目は歴史。
子供達は好きだ。子供達に勉強を教えるのも好きだ。そして、私はこの幻想郷の歴史について非常に詳しい。
私にとって、この仕事は正に天職と呼べるものだと思う。
「慧音先生、また来年〜」
「おう。またな」
「慧音先生さようなら」
「ああ。さようなら。年始めから遅刻するんじゃないぞ」
「分かってるよ〜」
・・・バタンッ
子供達が全員帰ると、室内は急に静かになる。私一人、取り残された様な感覚。正直あまり好きではない。しかし、だからと言って子供達と一緒に帰る訳にもいかない。明日は大晦日、今日で今年の仕事納めになる。
私は先生なのだ。やるべきことはたくさんある。
しかも、今日は満月。満月の夜には先生の仕事以外にも、やらなかればならない仕事がある。
月一度の満月の夜は、私にとって、最も仕事多き夜になるのだ。
ガラガラ・・・
「あっ、上白沢先生、お疲れさまです。まだ教室に残っていらしたんですね」
教室の扉を開けて入ってきたのは昴仁枝。私と同じく、この寺子屋で教鞭を執っている女教師である。因みに、担当科目は算数で、現在交際相手募集中らしい。算盤で彼女の右に出るものはこの里には居ない。
「お疲れさま。もうすぐ帰ろうとしていたところだが、何かあったのか?」
「あっ、いえ。実は、今日これから五条先生の家で、お食事を御一緒する約束をしているんですけど、上白沢先生もどうかな〜っと思って」
五条先生は同じく同僚の教師で、担当は体育である。性格も良く、爽やかで美形なので、子供達に人気があるのも納得できる。
そして、昴先生が片想い中の男性でもある。
昴先生。交際相手募集中と言いつつ、しっかり本命は存在するのだ。因みに、私と五条先生は意外によく話をして仲が良い。なので、昴先生はことあるごとに、私のことを羨ましがっている。
「昴先生。折角五条先生と二人きりになれるっていうのに私を誘ってどうする。私は、二人の仲を取り持つ、恋のキューピッドになる気なんて無いぞ」
五条先生は確か一人暮らしだったはずだ。手料理でも作って想いを伝えるのには絶好のチャンスではないか。
「そ、そそそそそんな、私そんなつもりじゃないですよ。ただ、上白沢先生と一緒にお食事がしたいと思っただけです」
顔を真っ赤にして狼狽する昴先生。今年で24歳になった彼女だか、年不相応の可愛いらしさがある。
まあ、私にとって昴先生は、いくつになっても可愛いままなのだろうけど。
なぜなら彼女は、元々私の教え子なのである。教え子というのは、何年経っても可愛いものだ。
だから、教え子である彼女が、私と同じ先生という職業を志してくれたのは、非常に嬉しかった。
「昴先生。誘ってくれるのは有り難いが、生憎今日は・・・」
私は、そう言いながら窓際に近付き、ガラス越しに空を指差す。すると、昴先生は、何かに気付いた様に「あっ」と、小さく声を上げる。
「今夜って、満月でしたっけ。・・・それでは、今日は無理ですね」
「月に一度の仕事をサボると後が大変だからな」
「・・・ざ、残念です」
私は、がっくりと項垂れる彼女の元に歩み寄る。
「誰かの力を借りて、好きな人と引っ付こうとするなんて言語道断。自分の力で何とかすることだな」
私は、昴先生の背中を二度三度叩きながら言った。
「もぅ、私本当にそんなつもりはないんですよ。・・・上白沢先生、厳しいのは昔っから全然変わっていません」
「そうか?私はそこまで厳しくしているつもりはないのだかな・・・今も昔も」
「厳しいですよ。宿題忘れたり、授業中居眠りしてただけで、すぐに頭突きじゃないですか。私は、一度も受けたこと無いですけど、凄く痛いって、評判だったんですよ」
「仁枝は、私にとってあまり手のかからない子だったからな。・・・だが最近は、以前より頭突きの回数は減っていると思うぞ。3日に1回ってところか」
「皆、頭突きが怖いからしっかりするように頑張っているんですよ。知ってますか?上白沢先生と、私の授業じゃ、子供達の態度が全然違うんですよ」
・・・それは知っている。昴先生の授業中は、教室に子供達の明るい声が絶えない。反面、私の歴史の授業は、堅苦しくて難しいと専らの評判だ。
「私の授業は酷評だということだろうか・・・阿求様にも言われた。私が授業を行った方が面白い、と」
「うーん、私は好きだったけどなぁ。上白沢先生の授業も上白沢先生も。でないと、私も先生になったりはしません」
昴先生は嬉しそうに話す。
「褒めても昴先生の恋路に手は貸さないぞ」
「だから、そう言うつもりは一切無いんですってばぁ〜」
一転、泣きそうな顔になる昴先生。やっぱり、教え子というのは何年経っても可愛いものだ。
私と違って、僅かな年の経過が、はっきりと体に現れる彼女を見ても、なおそう思う。
見た目だけなら、彼女は私よりもずっと大人だ。
「まあ、そう言うことなので、私は一足先に失礼する。帰りに阿求様の家に寄らなければならないのでな」
「授業の教材。・・・たしか、幻想郷縁起でしたっけ。あれが子供達に不評なのではないですか?・・・だってあれ、私が読んでも難しいですし」
「そんなことはないだろう。昴先生に教えていた頃と比べると、あれのお陰で格段に授業がやり易くなったぞ」
「ほ、本当ですかぁ〜」
「それに、幻想郷縁起はこれから行う歴史の編纂作業にも、大いに役立つのでな」
「あ、成程。それもそうですね」
昴先生は、うんうんと頷く。
「それでは上白沢先生。お仕事頑張ってください」
彼女は敬礼のようなポーズをとる。
「ああ、頑張らせてもらうよ・・・だか、そう言う昴先生も今日はこれから頑張らないといけないんじゃないか」
私は少し意地悪な口調て言う。
「分かりましたよぉ〜。頑張って何とかしてみますよ」
顔を真っ赤にして叫ぶ昴先生。
いつまでたっても私の可愛い教え子・・・仁枝。