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東方連小話  作者: 北見哲平
秋穣子 〜 収穫の季節と豊穣神
10/67

秋穣子 - EXTRA

穣子編のおまけです。

穣子が博麗神社から去った後の話。静葉の視点で書いています。

「私は、陰から妹を優しく見守る。そんなお姉ちゃんを演じたいのよ!」

 私は胸を張って言ってやった。

「はぁ〜。何でそんな面倒ことを考えるかなぁ。早くあの子に道を示してあげなさいよ」

 目の前の少女「博麗神社」の巫女、博麗霊夢は小さく溜息をつきながら「そのおかげで、私は随分と悪者扱いされたんだから」と愚痴をこぼした。

「それはヤダ! そりゃ、穣子にはいつでも幸せでいて欲しいけどさ。でもそれで人間に穣子全部取られちゃったら嫌だもん」

「うわっ、ここにシスコンが居たっ!」

「いいもんね別に~」

 今から数時間前、二日酔いから復活した私は、すぐに穣子が収穫祭に呼ばれていた人間の里に向かった。勿論、また野外コンパでタダメシするためだ。

 しかし、行ってみると何やら不穏な空気。こりゃ、ひと嵐来るなとすぐに分かった。それで、穣子より先に博麗神社に来てお願いした。

 穣子が来ると思うから、力を貸して欲しいと……。

 本当に来る確信は無かったけど、きっと私が同じ状況に置かれたらこれしか無いと思った。だから迷いは無かった。だってほら、私達って似た者姉妹だからね。

 当然最初は断られたけど、私だって簡単に引き下がるわけにはいかなかった。大切な妹の為なら、どんなに惨めだろうが、どんなに無様だろうが構わなかった。「逆立ちしたまま境内一周しろ」とか「その場で3回回って「ワン」と言え」とか。そんな、特に何の意味も成さない命令を素直に実行することすらいとわない。

 まあ、流石に霊夢がそんなことを所望するわけ無かったけどね。


「でも、私はシスコンになれるあんたが少し羨ましいよ。私ってほら、一人っ子だから」

「って言うか、霊夢に妹がいたら、その子に激しく同情してしまいそうなんだけど。絶対に何でもかんでも押し付けられて苦労するよね」

「パシリ、ゴミだし、家事、バイト!」

「後は、神社の営業活動とかどうかしら?」

 ん?

「そうそうそれもあったねって、おい紫! 隠れながら話しに横槍入れるのはよしなさいよ!」

「これは失礼」

 うわっ!

 どこからともなく声が聞こえたと思ったら、急に目の前の空間が裂けて、そこから髪の長い女性が出てきた。……妖怪?

 確か今、霊夢は紫って言っていたけど……。ん? えっ! じゃあ、彼女があの八雲紫(やくもゆかり)

 数多の妖怪達がひしめくこの幻想郷で、最も強い力を持つ最強の妖怪。隙間妖怪のゆかりんとは彼女のことか。

 確かに、たたならぬ妖気を感じる。

「珍妙ね。貴方がこんなお節介焼くなんて、明日の天気は「弾幕」ってところかしら?」

「って言うか、最初から全部覗いてたくせに……。相変わらず悪趣味ね」

 会話を聞いている限りでは、二人の仲は悪くないらしい。むしろ仲良し?

 最強の妖怪とこれだけ話ができるとは、流石は博麗の巫女と言ったところだろうか?

 それとも、あの博麗の巫女とこれだけ気軽に話が出来るなんて、流石は幻想郷最強の妖怪と言うべきだろうか?

「そこにいる神様が、余りにも情熱的に頼んでくるものだから、私も流石に折れちゃったのよ」

「袖の下と思しき賽銭が奉納された刹那、貴女の目の色がそれはもう黒く淀んだ気がしたけど。私の気のせいってことにしておこうかしら」

「って、別に言わんでもいいことわざわざ言うなっ!」

 霊夢が突っ込み役? 何だろうこの二人?

 ……漫才コンビ?


「なるほどねぇ~」

 八雲紫が私をまじまじと眺めながら近づいてくる。

 何でしょうか? ……私は食べてもまるっきり美味しくないですよ。

「これで八百万の神々の一柱。私は様々な世界で、奇妙奇天烈且つ驚天動地の力を平然と振るう様な神に会ったこともあるけど、逆にここまで脆弱な神は初めてね」

 八雲紫は、私を見て、感じたままの感想を述べる。まあ、自覚はあるので、何を言われても大して気にはならない。でも、これだけ面と向かってはっきりと言われたのは初めてだった。

「霊夢も、よくこんな下らない神の為に働いたものね。……もう一柱の神も同じ。確か、豊穣神だったかしら。人間の事ばかり考えて、必死になって。とんだ御笑い種だったわ」

「八雲紫さん……だよね。私の悪口は言ってもいいけど、穣子の悪口は言わないでくれる!」

「あら失礼。貴女にとっては愛して止まない妹だったわね」

 彼女は、不敵な笑みを浮かべる。

 あまりにも淡々と話をするものだから、穣子の悪口を言われても思い切り怒ることが出来ない。

 何だか調子が狂うな……。

「こらこら紫。だから、別に言う必要のないことをベラベラ喋らない。……ごめんなさい静葉。紫も本心でこんなことを言っているわけじゃないと思うから許してあげてね」

 意外にも霊夢がフォローに入る。ふーん、やっぱり思っていたよりも二人は仲が良いようだ。

「あ、うん。別に私は穣子のことを悪く言われなかったらいいけど……それに、半分以上は当たってるし」

「確かに、1割程度は本心を偽っていた気がしないでもないわ。……ところで霊夢、貴方も十分あの豊穣神のことを罵倒していた風に見えたけど、つまりあれは本心じゃなかったってことかしら?」

「当然じゃない。……あれは嫉妬。あそこまで人間から頼りにされて、信仰されている神様なんて幻想郷中探してもほとんどいないわ。うちの神社に彼女の十分の一の信仰があれば、私も毎日雑草を食べて暮らさずにすむのにね」

 ……霊夢。

「確かに、戦いに関しては、そこら辺に居る雑魚妖怪と大差はないけど、それぞれが司る事柄に関しては、彼女達の右に出るものは居ない。静葉が司る紅葉は、人の心に感動と安らぎを与えてくれるし、穣子の力は人間の生活を左右すると言ってもいいほど大きなもの。別に、戦いにおいて優れていることだけが力じゃないと私は思う。……彼女が必死にならなければ、これまでに人間の里が一つ二つ消えていたっておかしくなかったはずだしね。私は、誰の味方でもないけど一応人間。だから、少しは彼女に感謝しているのよ。あれだけ必死になって、私に助けて欲しいと懇願されても力を貸さない程、私は恩知らずな人間じゃないからね」


 ……ビックリした。


 霊夢が、私たち姉妹のことをこんな風に思っていたなんて、こんな風に評価してくれていたなんて正直思ってもみなかった。これが霊夢の本心かどうかなんて私には分からないけど、彼女が嘘をついているようにも見えなかった。

「霊夢。それだったらお賽銭だけど、穣子のお小遣い分だけでも返してよ」

「それは絶対無理!」

 あ、やっぱりそれはダメなんだ。

「フフフ……。貴女の口から『嫉妬』ね。こんな物珍しい言葉が聞けただけでも、遠路はるばるここまで来た甲斐があったというもの」

「紫うるさい。っていうか、あんたの隙間を使えば、何処に居たって5秒で博麗神社まで来られるじゃない」

 何処に居ても5秒って、隙間の力は便利なんだな。……えっ! 5秒?

「あの、八雲紫さん」

「何かしら?」

「その力で、穣子を人間の里まで送ってあげることって出来ないかな?」

「それは十分すぎる程、十分可能ね」

 私の質問に対して、彼女は相変わらず、驚くことも疑うこともなく淡々と答える。

「私達の飛行能力じゃ、人間の里まで2時間掛かる。だから、今から帰ったのでは嵐が来るまでに間に合わないかも知れない。……だから、力を貸してください」

 えーい、ダメ元で頼んでやれ。

「あらどうして? もう既に目的地に到着しているはずの妹を、私の隙間で更に弄んで欲しいってことかしら」

 既に目的地に?

 ……えっ! つまりそれって……。

「私の可愛い式が、ここ暫く嘆息を漏らし続けているのよ。「可愛い可愛い式と一緒に始めた家庭菜園の状態が芳しくない」と。……あの子達の嘆きを解消してあげる程の芸当、隙間をどれだけ巧みに使用したところで、私には不可能よ」

 ……あっ。そうか!

 違う。彼女がここに居たのは、ただの偶然なんかじゃない。

 きっと、霊夢が彼女を呼んでくれたんだ。私達の飛行速度では、嵐が来るまでには間に合わない。……そう睨んで。

「静葉、折角だからあんたも紫に送ってもらったら? どうせ、これから向かおうとしてたところなんでしょ」


 ……これが博麗霊夢!


 私は、右手に掴んだ3枚のスペルカードを目の前で扇状に広げる。穣子が霊夢に教わっているところを見て、自分なりにアレンジした結界スペル。

 私にしては上出来だと思う。能力的に考えると、これ以上の完成度は見込めない。

「当然、私も向かうよ! 穣子にだけ大変な思いをさせる訳にもいかないからね」

 私にしてはしっかりとした口調で、私にしてはきっちりとした表情で、私にしてははっきりとした想いを持って言えた。

「やっぱり、私はシスコンになれるあんたが羨ましいわ」

 そう言うと、霊夢は口元を緩めて微笑した。

 私は笑顔で答える。

「霊夢にだって、紫さんみたいな妖怪の友達が居るじゃない。とても素敵な友達がたくさん」

「あら素敵だなんて、ここ数100年言われなかった言葉ね。お褒めの言葉として、ありがたく頂いておくわ」

 相変わらず淡々と話す八雲紫の側で、あからさまに何かを考え始める霊夢。八雲紫の素敵なところを、ひたすら考えているに違いない。そんな彼女の姿がどことなく微笑ましくて、私の顔は自然と綻んでしまった。


 ありがとう霊夢。


 ちゃちな神様でよければ、またいつでも遊びに来るよ。


「それでは早速、素敵な妖怪さんが貴女を人間の里まで送って差し上げましょう」

 ……って、えっ? いきなりですか?

「片道切符だけどね」

「あ、ちょっと! いきなりでもいいけど、穣子とは少し離れた場所にっ! うあぁぁー〜!」

 私の言うことなど聞く耳持たずと言わんばかりに、私の足下に突如隙間を出現させる。

 想像以上の不意打ちで、私はなす術もなく隙間に吸い込まれてしまった。


 隙間の中は真っ暗だけど、周りには星が散りばめられたような、まるで銀河の中心に居るような幻想的な風景が広がっていた。これはある意味貴重な経験なのかもしれない。

「うわ~、これが隙間の中か。……って、そんなことで感動している場合じゃないんだろうな~。うわっ!」

 不思議なトンネルを抜けると、そこはもう人間の里だった。自由落下で、地上まで約3秒という場所だった。

 しかも、真下には我が最愛の妹の姿。

 ものすごいスピードで近づいてくる穣子。

 違う、近づいているのは私の方か!

「うわぁぁ〜―!」

「あっ!」

 私に気付いた穣子と目が合った。

ドスンッ!

「ふぎゃぁ」

 穣子に直撃した私。……ちくしょう、あの隙間妖怪め。どう考えても確信犯じゃないか。前言撤回、全然素敵でもないし、絶対友達にもなりたくない。


 あっ。でも穣子の胸元の感触が気持ちいいよ~。それにいい香りがする。今日は香水をつけていないはずだから、これは穣子の地の匂いかな? お姉さんはこっちの方が好きだぞ〜。

 ……ま、結果オーライ?


 いいチャンスかも知れないね。

 今回ばかりは、穣子に分かる場所で頼りになるお姉さんになってみよう。


 私にとっては、神様なんて肩書より、穣子の姉というポジションの方がずっと大切だもんね。

これで本当に穣子編は終わりです。

霊夢も、えらくいい子になったものだ……。

さてさて、次話からは別のキャラクターについての話になります。

とりあえず、めぼしいキャラを全て制覇するのが目標なのでこれからもよろしくお願いします。

さて、いつまで続くかな……。

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