秋穣子 - その1
豊かさと稔りの象徴 - 豊穣神「秋穣子」の話です。
「姉さん大丈夫?」
「う〜ん、これはあまり大丈夫じゃないかもしれない。う〜ん……」
頻りにう〜んと呻いているのは、私にとって唯一無二の姉、秋静葉である。
「残念だけど明日呼ばれている収穫祭には行けそうにないかも」
「って言うか、もともと呼ばれているのは私だけです。大体、飲みすぎて二日酔いだなんて……姉さんだって神様なんだからもう少し節度のある行動を」
「だって仕方ないじゃない。ビールもワインも凄く美味しかったんだし……それに、私と飲み競べをしたあの人間。只者じゃなかった。うっ、頭痛が……ダメ、もう起きているのもつらいから寝る。お休み」
そう言うと姉さんは頭を押さえ、ふらふらしながら寝床の方へ消えていった。
「お休みなさい、姉さん」
姉さんのいかにも頼りない後ろ姿を見送った私は小さく囁いた。
……本当に困った姉さん。
でもそんな姉さんを見て、私は少し安心感を覚えるのだった。
私の名前は秋穣子。姉さんと同じく八百万の神々の一柱で、豊穣を司る神。豊穣神と言ったら聞こえはいいかもしれないが、実際のところそれほど大したことはない。自分で言うのもなんだけど、私に出来ることなんて、せいぜい作物に実りを与えることぐらい。確かに人間からしてみればそれは非常に重要で、稲作や畑作は生きて行くためには絶対に欠かせないもの。豊穣を私に祈願し、私はそれに応えて大地に豊穣をもたらす。各地にある人間の里からは毎年収穫祭に呼ばれ、感謝を受ける。秋以外の季節はいつものんびりぐったり過ごしている私が、唯一自分が神様だと実感できる瞬間。
でも、強い力を持つ神々からしてみればそれはあまりにちっぽけでどうでもいい事象。そんなことしか能がない私の存在意義は、ちょっとしたことで瞬く間に無くなってしまいかねない。
そう、私は力の弱い神なのだ。恐らく、この幻想郷に存在するどんな神よりも……。
……姉さんも同じ。
だから私は姉さんが好き。
姉さんが司る美しい紅葉を自慢されるのも、私が稔りをもたらした豊かな作物を自慢するのも、そんな小さなことを互いに自慢し合えるのも、きっと私達が似た者姉妹だから。もし姉さんが力の強い神だったら……果たしてこんな私と一緒に居てくれただろうか? 私の些細な自慢話を聞いてくれただろうか?
力の無い私を置いてけぼりにしてどこか遠いところに行ってしまう。そんな気がしてならないのだ。
姉さんの存在無しでは、自分が神だという僅かな自信も、些細な自尊心さえ保つことが出来なくなる。
そして、それはこの上なく惨めなこと。姉さんと一緒に居るとそんな惨めな思いをせずに済む。
私は、最低の妹だ。
かけがえの無い姉さんの存在を、かけがえのない自分自身を保っていくための道具として見ているのだから。
でも姉さん。私、いつも姉さんの自慢話なんてほとんど聞いていないけど、紅葉って大好きだよ。
……だから、私のこと嫌いにならないで。
ずっと私を妹でいさせてください。
ずっと仲の良い「秋姉妹」でいさせてください。
飾り気のない、ありのままの姉さんの姿をいつまでも私に見せてください。
……我が儘な妹でごめんね。
「少し早いけど、そろそろ行こうかな」
これから向かうのは、私達の住居から割りと近くにある人間の里。飛んで約10分ってところだろうか。昨日収穫祭に呼んでもらった里に比べたら人口も少なく、小規模な里である。
稔りの秋、収穫の時期、私は豊穣神として各地にある人間の里から収穫祭に呼ばれる。今年の秋も、既に五件のイベントをこなし、現在は一番忙しい時期である。
そもそも私の力は作物を豊作にすることなので、収穫前に呼んでもらわなければあまり意味はない。でもいつからだろうか、収穫の時期は予約でスケジュール帳がぎっしり埋まるくらい多忙なのだ。
後、先程も言ったように呼ばれているのは私だけで、姉さんは呼ばれていない。同じ秋の神と言っても、姉さんは紅葉を司る神なのだから当然と言えば当然ではあるのだけれど……。今では私のテンションまで奪ったかのように大暴れする。5年程前からだろうか、タダで好きなだけ飲み食いができることを知った姉さんは、今回のようなことが無い限り必ず収穫祭についてくるようになった。
神様なのに卑し過ぎです。
まあ、私も焼き芋をたくさん振る舞って頂いた時は「美味しいイベントだなぁ〜」ってついつい思っちゃうけど。
……な、なによぉ〜。別にいいじゃない。
だって、私達は似た者姉妹なんだから。




