-a strange story-
人間との接触編にしようと思ったのですが、友人から魔法の概念がいまいちわからないということ何で、閑話休題がてらそこら辺の説明をさせていただきました。
お楽しみいただければ幸いです。
助けてください。
もう自分でも何言ってるかわかりません。
the object
二人は、走る。
風を置いていく勢いで。
無言で、ひたすら足を動かす。
時々ビルの屋上へ空間制御を使って移動する。
人々に気づかれることなく、それでいて大胆に。
ウメが教えてくれた魔法やスキルを使い、道なき道をゆく。
何十キロも走り続け、目的地へと向かう。
目指すは旧東京。
あたり一面が荒れ果て、見る影もなくなった東京。
そして、そこにある。
人の最先端技術が集まる「SaPoA」――俺達を敵視する組織の本部へと。
第 章
〜数十日前〜
「よっ、と。」
手のひらに魔法陣を展開し、頭の中で詠唱を始める。
ゆっくりと魔力を集中させ、術式を組んでいく。
常に魔力の流れを把握し、暴走しないように抑え込みながら、詠唱を続ける。
魔法が発動する寸前まで行くが、
ボンッ。
魔力の供給量を見誤って、魔力過多で爆発させてしまった。
魔法陣のかけらが散らばって、消えていく。
また失敗だ。
「またか...。一度取得したから簡単に行くと思ってたんだが、世の中そんなに甘くないな。」
「そうじゃのう。たしかにあちらでは比較的取りやすい魔法でも、大気中に魔胞子が一切ない科学界では難しいからの。体の中だけで魔力を循環させねばならぬのだ。簡単にできたら苦労はせんよ。」
ズズッ、とお茶を飲みながら穏やかに言うウメ。
他人事みたいに言いやがって。
まぁグチグチ言っても俺が自力で習得する他ないから、他人事にしかなれないのもわかるが。
コツを教わってはいるんだが、思うように体が動いてくれない。
魔力を空中から集めるのと、体内の魔力を魔法陣に集める。
魔法の発動方法が違いすぎて、初めて習得するみたいに時間がかかってしまっている。
魔力循環がこんなにも難しいとは。
空間制御などのスキル魔法は、習得していれば詠唱をするだけで発動するが、技術魔法は自分自身でコツを掴んで、魔力を魔法に変換しなくてはならない。
体が違う上に、理屈が違う世界での技術魔法の発動は極めて困難だった。
なかなか発動することができない俺を見かねたウメが、やれやれといった顔でこちらを見る。
「もう一度見せるから、しっかりと見ておくが良い。あとは自身の問題じゃからな。」
ウメが俺の目の前に立つ。
何度もやってもらって申し訳ない。
コツを掴むまで付き合ってくれると言ってはくれたが、まさかここまで難航するとは思ってなかった。
しかし、頼れるのがウメ一人しかいないので、ありがたく見させてもらおう。
再び、クラス3魔法魔力感知を発動。
発動と同時に、ウメの周りに赤と黄色のオーラが現れる。
よし、魔力感知はしっかりと発動するな。
スキル魔法系はしっかりと発動できるようになってきた。
余談だが、スキル魔法はウメの発動を介して一通り習得済みだ。
基本的なものだけだが、あとは必要に応じて習得すればいいと思い、今は技術魔法の習得を優先している。
魔力の流れを読み取れるようなったので、ウメのほうを向きうなずく。
それを見て、ウメが手を前へ差し出す。
落ち着いた魔力が体内を回り始め、腕に集中していく。
魔法陣が展開する。
「術式展開。我が名のもとにおいて、炎の恩恵を世界に顕現させ給え――フルヘイム」
ゴウゥゥッ!!!!!!!!!!
一瞬で魔力が変換され、構築した魔法陣の先から炎の柱が一直線に飛び出す。
膨張した空気が一瞬で俺の周りを通り抜ける。
立って要らるのもやっとというほどだ。
そして、先程のウメの魔法でえぐれた山の地形が更に削れる。
しかしすぐに魔法の効果が終わり、炎が木々に燃え移ることもなく消えた。
今ウメが使用したフルヘイムは、いわゆる古代魔法に分類される魔法。
本来であれば一人で扱うような魔法ではない。
しかしそこはさすがと言うかなんと言うか。
六神柱のウメにとっては造作もないようなことであるらしい。
しかも、いくら古代魔法とはいえ、一人で地形をえぐるほどの威力を出せるとは。
これでも魔力消費量を抑えているというのだから驚きだ。
「ふぅ、こんなものじゃろう。長らく発動してなかったからあまりうまく扱えんのう。どうじゃ、手本になったかの?」
めっちゃドヤ顔でこちらを向いてくる。
「...」
なんかもう、ウメさえいればいいんじゃないかって思い始めた...。
「なんじゃい、あほづら晒しておらんで、ほれ。真似してみい。」
自分の出番はもう終わりとばかりにお茶を飲み始めるウメ。
正直に言うと全然わからなかったが、とりあえず観察さていただいた魔力の流れだけでも頭の中で再現してみる。
深呼吸をして、魔法陣を展開。
ゆっくりと、着実に魔力を注いでいく。
体の中心から魔力を送るのではなく、全身から送ることを意識して。
「ふむ、できておるな。先よりもうまく扱えておる。そのまま詠唱を始めても良いと思うぞ。」
ウメのアドバイスどおり、詠唱を頭の中で始める。
意識を集中して、呼吸を整えて...。
「あっしまっ...!」
まずい。
少し多めに魔力を送りすぎてしまった。
これだけの溜まった魔力を暴走させたら発動主である俺はひとたまりもないだろう。
すぐに魔法の発動を止めようと魔力供給を遮断しつつキャンセルをかける。
しかし行動を起こしたときにはすでに手遅れ。
ボンッ!
腕の先の魔法陣が大爆発を起こした。
手のひらのすぐ近くで爆発したのだから、多少の怪我は仕方のない犠牲だと思って痛みを覚悟する。
が、痛みも衝撃もやってくることはなかった。
恐る恐る目を開けると、ウメの保護魔法が俺の右腕に展開されており、黄色い光を放っていた。
おかげで俺の体は無傷。
...助かった。
しかし、爆発する一瞬で他人に保護魔法をかけることのできるウメの実力に舌を巻くしかないな。
俺があちらの世界にいた時でも、そんなことは不可能だっただろう。
攻撃魔法だけでなく、治癒魔法、防御魔法も巧みに扱える。
ウメって一体何なんだ。
しかし当の本人は特に気にした様子もなく、俺の観察を続けている。
「ふむ、どうやら体内での魔力制御の仕方がいまいち理解できておらんらしいのう。このままではいつか致命傷を負うかもしれんし、ワシの保護魔法も常に発動するわけにはいかん。あまり良い考えだとは思わんが、この際仕方ないじゃろう。種族深化をしてから魔法を使ってみてはどうじゃ?あちらのほうが魔力と体が馴染みやすいじゃろう。まずは魔法が発動しないことには意味がないからの。」
と、突然見知らぬ単語を言うウメ。
知っているのが当たり前といわんばかりの態度だが、はて、種族深化とはなんだ?
「何をまたぼーっとしておるのじゃ。」
俺はまた変な顔をしていたらしい。
頭をぽん、とされた。
「あ、いや、ちょっとわからない言葉があって。種族深化?ってのはなんなんだ?」
「む?なんじゃ、お主その娘を仲間に従えておるのに、種族深化を知らんのか。」
「全く知らないんだが。なんだそりゃ。」
「本当に何も知らんのうお主。...よっと、この力を使うのも久しぶりじゃのう。見ておれ、やり方を教えるぞ。」
そう言って再び立ち上がるウメ。
腰に手を当て、少しだけストレッチしたあとに、袴の紐を解く。
そのまま、おもむろに服を脱ぎ始める。
そして、全裸になる。
特に隠すこともなく、恥じることもなく、裸のままこちらの方を向くウメ。
うむ、とてもいい体だ...。
って、そうじゃなくて。
「ちょ、ちょっと何してるんだ!」
顔を赤らめながら言う。
一応手で顔を隠しているが、指の隙間から少しだけ覗いている。
女性の体を見たことがないわけではないが、急に見せられるとこっちが恥ずかしい。
とゆうか急に脱ぎ始めるなんて、この人もしかして痴女なのか?と、思ったが、どうやらそうではないらしい。
ウメは気にする様子もなく裸のまま話しかけてくる。
「この権限はちょいと面倒でのう。体が大きく変化してしまうのじゃ。そうなると大事な服が破れかねん。じゃから脱いだまでじゃ。そんなに目を逸らさんでも良いじゃろう。それにこんな老いぼれの裸なんぞ、見せても失うものがない。そこは気にせんよ。ま、こんな機会は少ないじゃろうから、とくと目に焼き付けておくが良いぞ。」
それにお主も見たかったじゃろう?と最後に付け加えるウメ。
ウメがいいとしてもこちらは良くないんだが。
そんな俺を気にもせず、何かを始める。
ウメは前を向き、目をつむり、今度は魔法陣を展開するのではなく直接魔力を体外で循環させはじめた。
赤と黄色のオーラがウメの全身を包み始める。
集中している様子だ。
数秒沈黙したあと、全身に傷のような模様が現れ、発光し始める。
そしてウメが目を見開くと同時に、全身の毛が逆立つ。
「シロヌエノユカリウメの名のもとに命ずる。世界の加護を我が体に与え給え。六神柱権限――種族深化!」
ウメが叫んだ。
いわゆる権能宣誓魔法の類なのだろう。
叫ぶと同時に、ウメの体が劇的に変化し始めた。
爪が伸び、全身から獣の体毛が伸びる。
体が一回り以上大きくなり、しっぽが4つに増える。
口からは牙が何本か覗いており、まるで獲物を狙うような雰囲気だ。
徐々に人から獣の姿になっていき、ちょうど中間くらいになったところでウメのオーラが収まっていく。
完全に終了したようだ。
目の前にいるウメがこちらをゆっくりと向き、ニッコリと笑う。
牙が口からちらりと覗く。
少し怖い。
と、
「うむ。どうじゃ?これが種族深化。六神柱族が使える権限の一つじゃ。見ての通りステータスがすべてかんすと?するレベルにまでブーストがかかる。要は一時的な進化みたいなものじゃな。あ、あとワシら獣神族だったらこんなのも使えるようになるのう。」
というウメの声が後ろから聞こえてくる。
びっくりして後ろを振り返ると、そこにも獣と化したもう一人のウメが。
「んなっ...!?」
思わず後退る。
一瞬敵かなにかかと思ったが、俺の前にいたウメは特に何も言わず、ニコニコしているだけだ。
それどころか反応を楽しんでるような気がする。
「驚いたじゃろう?これは同化並行という魔法での。種族深化した獣神族のみが使える最高権限のスキル魔法なんじゃよ。」
と、また後ろから声が聞こえてくる。
オリジナルのウメと新しく現れたウメはまだ目の前にいる。
ということは...。
「ま、マジかよ...。」
縁側にはちょこんと座っている三人目のウメがいた。
「ふう、もういいじゃろう。」
深化を解除すると同時に二人のウメが消え、一人だけになった。
「うっ...」
そのままウメが少し苦しそうにその場でしゃがむ。
「大丈夫か?」
「う、うむ。少々張り切りすぎたかの。すぐに回復するゆえ、少し家の中まで手を貸しておくれ。」
うなずいて肩を貸す。
そのままゆっくりと家のそばまで歩き、ウメをおろす。
「すまんのう。深化でさえも体への負担は大きいのに、張り切って三体も分身を出したことで少々体に応えてしまったわい。」
お茶を飲み、一息つくウメ。
そのままウメが落ち着くまで少しの間沈黙が訪れる。
「さて、今見せたのが種族深化じゃ。先程も言ったとおり、種族深化とは六神柱族に属する者のみが使える最高権限の一つじゃ。先に見せた分身は同化並行で、ワシら獣神族が深化したとき使える切り札のようなもの。これは種族ごとに違うから、その娘、竜神族が何を使えるかは知らんがのう。」
「初めて見たな。あちらの世界の文献でも見たことはない気がするな。まあすべての本を読んだわけじゃないからなんとも言えないが。」
「この権限は他のやつもあまり使わんからのう。命の危機に陥ったときくらいしか普段は使わん。本来で当てばそれを使わなくても良いように世界がなって追ったからな。」
そう言って手でジェスチャーをするウメ。
「?」
「なんじゃ、せっかくワシがやってみせたのじゃから、お主も真似してみい。魔力が扱いやすくなるであろう。」
消費量は激しいがの、と小声で付け加えるウメ。
「いや見せられただけじゃわからないんだが。」
「ワシが先に詠唱したとおりに言えばお主もできるじゃろうて。」
「アバウトだな。」
「ワシも他の種族のやつのことなんて知らんもん。お手本を見せただけ偉いじゃろう?誉めてほしいのう。のう?」
「可愛く言ってるつもりだろうが、全然可愛くないぞ。」
「ひどいのじゃ!?」
「とりあえず見せ終えたんだから早く着替えてくれ。目のやりどころに困る。」
そう言ってウメに着替えを促す。
自分がずっと裸のままだということに気がついて慌てて着替え始めた。
ウメのことはおいといて、ひとまずは言われたとおりに、種族深化を試してみることにする。
と、その前に俺も服を脱いだ方がいいかもな。
ノアの体を晒すようで気が引けるけど。
ノアのワンピースを脱ぎ、靴も脱いで横におく。
着ていたのはその2つだけだった。
とゆうかノア、下着着てなかったんだな。
初めて知った。
買ってあげてたはずだけど、やっぱりしっぽに引っかかるのが嫌だったのかな。
と、そんなことを考えている場合ではない。
まずはウメのやっていた通り、魔力を体外で循環させる。
魔力を体に沿って回せばいいのかな?
見様見真似で魔力をゆっくり外へ持っていき、そのまま循環させる。
ゆっくりと、そして少しづつ早く。
紫色のオーラが体にまとわりつき、だんだんと肌に幾何学模様が現れる。
先ほどのウメと同じ感じだが、少し違う。
だが、順調にできているようだ。
そのまま詠唱を始めようと――。
そんなとき、ウメが何かを呟いた。
「じゃがこやつ、魂はただの人間なのじゃろうから、六神柱権限を使えるのじゃろうか。そもそも体の持ち主と魂が違うのにスキルを体で使えるのは何故じゃ?『魔法の理』がなにか干渉したのじゃろうか。それじゃと、あの時とは矛盾するが...。」
魔力循環によるオーラの音で聞こえないが、俺に言ったわけではなさそうだ。
気にせずに先ほどの言葉を口にする。
「タマヨリ ケイの名のもとに命ずる。世界の加護を我が体に与え給え。六神柱権限――種族深化!」
詠唱した瞬間、全身が熱くなり、体内の魔力の流れが早くなった。
違和感を感じ指先を見ると、爪が伸び、固くなっていく。
背中の羽が大きくなっていき、鱗が全身に現れる。
しっぽの棘が立ち上がり、伸びていく。
結果としてノアの小さな体はより竜の見た目に近づいた。
魔物の竜人と似ているが、こちらのほうが人間寄りの見た目っぽいな。
そしてウメの言う通り、ステータス値を見るとほぼすべてカンスト。
更にスキル魔法欄に『臨時魔法』という項目が追加されていた。
そこにあるのは「概念操作」。
「ふむ、どうやら無事にできるようになったらしいの。どうじゃ、魔法は発動できそうかの?」
こちらが深化できたのを確認したウメが話しかけてくる。
「できた...っぽい。俺にも最高権限とやらが使えるようになっているな。『概念操作』らしい。これはどんな魔法なのか知ってるか?」
「さあ?他の種族の魔法なんて知らんといったじゃろう。効果も知らん。発動してみればよいのではないか?」
またお茶を飲みながら言うウメ。
飲みすぎだろ。
さっきから十杯くらい飲んでいる気がするんだが。
まあいいか。
「ん、わかった。それじゃいっちょ発動してみるか。」
俺は件の『概念操作』を、スキル魔法を使う感覚で発動しようとする。
が。
『最高権限:概念操作の詠唱を感知。『タマヨリ ケイ』は発動条件を満たしていないため、権限の発動を停止しました。発動項目は94%まで満たされております。』
突然、『魔法の理』の声が頭の中に響く。
発動条件が満たされていない?
「どうやら発動条件が満たされていないらしいんだが...ウメがさっき使っていたのにもあるのか?」
「発動条件じゃと?なんじゃそれは。ワシらの権限にはそういったものはなかったのう。」
「昔、他の人が生きていた頃に教えてもらったりとかはしなかったのか?」
「最高権限のスキル魔法は、本当に種族にとっての切り札じゃ。昔は協力するということも少なかったゆえ、お互いに教えておらんかったのじゃよ。」
と答えるウメ。
うーん。
こうなると、自分自身でこのスキルを解明しなきゃいけなさそうだ。
概念操作というものがどういうものなのかわからないが、種族深化自体が俺達にとっては切り札みたいなものだから、当分は把握していなくても大丈夫かもしれない。
そのうち自然に発動条件が満たされるとは思わないが、後回しでも構わないだろう。
「とりあえず発動しないことだけはわかったからのじゃから、魔法を習得することを最優先すればよいじゃろう。さ、ワシの役目は終わったからの。少し奥で休んでおるから、何かあれば呼ぶが良い。健闘を祈るのじゃ。」
そのまま奥の部屋へと向かうウメ。
なんかカッコつけていっていたが、しっぽで股のところを抑えていたから、単に尿意が我慢できなくなっただけなんだろうな。
伝説の六神柱とは思えない。
まあ事実だから疑いようがないんだけどね。
そして俺は気持ちを切り替え、魔法を発動させることに集中する。
ウメの言っていたとおり種族深化をしたことで魔力の流れを制御しやすくなっており、以前持っていた魔法を片っ端から発動させることができるようになった。
そのまま俺は、あっという間に一通りの技術魔法を習得していく。
しかも深化状態で魔法を扱うとステータスの上昇が顕著になり、レベル1まで下がっていた俺のステータスは、この三日間で64まで上がった。
驚異的なスピードだ。
...まぁその後、連日深化したフィードバックが来て一週間ほど動けなくなってしまったが、それも致し方がない犠牲だろう。
そしてこの家に住み始めて2週間が経った。
俺は最低限ウメの足手まといにならない程度まで成長することができた。
まだまだ十分ではないのだが、これ以上は時間が無駄になってしまうのと、とある気がかりな事があるという理由から、早めに行動したほうがいいという結論に至った。
準備をして、明後日には出る予定だ。
そして今日。
俺たちは目的地について話し合っていた。
「ウメ、ちょっといいか。」
夕飯が終わったタイミングでウメに話しかける。
「うむ?なんひゃ、あるひひょ。」
頬張ったまましゃべるんじゃない。
飯粒が飛んでるぞ。
...まぁ口の中にある途中で喋りかけた俺が悪いのかもしれないけど。
「明後日出発することを昨日言っただろ?だから出発する前に俺たちの目的地とかについて話し合いたいと思ってな。」
ごくん、と口の中のものを飲み込むウメ。
「ふう。わかったのじゃ。それで、どこから話し合うかの?」
「まずは俺たちを襲ってきたやつの所属する組織だな。」
「あ奴等か。ニンゲンはどうやら対魔物組織を作っておるようじゃから、奴もその一人じゃろう。たしか...さぽあ?じゃったかの。組織名は。もともとは自衛隊という組織じゃったらしいが、魔物相手のために組織自体を改変したらしいぞ。」
何かすごいことになってるな、日本。
魔物に対抗するために、自衛隊をそのまま組織にしたのか。
魔物の進行は思っていた以上にひどい状況なのかもしれない。
とゆうか、そうなってくると武力を持たないと憲法で決められているのに反することになると思うんだが。
まあ今は俺がいた時の日本ではないし、あんまり深く考えても答えはでなさそうだな。
この件は保留にしておこう。
もし接触に成功したら直接本人たちに聞けばいいだろうし。
思考を切り替える。
「で、そのサポアっていう組織の本部はどこにあるんだ?」
「旧東京じゃ。魔物の研究にはもってこいの地じゃからのう。あそこは。」
「旧?」
「あ、すまぬ。お主は知らんか。ここは昔から四季が豊かな土地でのう。人もたくさんおったんじゃ。そしてここ日本という場所には昔、東京というそれはそれは大きな街があってのう。しかし十数年前、魔物の大進行の際に見る影もなく破壊され、今は京都という都市が主要都市となっておる。大進行を撃退したあと、魔物の死体が大量に放置されていたことから人間はそこに研究所を作り、その研究所がそのまま大きくなって、対魔物組織の本部となったようじゃな。」
東京なくなってたのか...。
とゆうか今の会話で、ウメに俺の大事なこと言い忘れていたことに気がついた。
目をそらしつつ、さりげなーく言う。
「あー、済まないがウメ、俺はもともとこの世界にいた、転生者なんだ...言うの忘れてた。ごめんなさい。だから東京とかもわかる。うん。ごめんなさい怖いから牙むき出しにしないで。」
「は?」
グルルって音したんだが今。
怖すぎるだろ。
たしかに俺はあちらの世界から来たとしか言ってなかった。
全く話題に出てこないから完全に忘れていた。
「お主この世界出身なのか!?なんじゃ、そうじゃったのか。二回も転生させられるとは、お主も運がないのう。そういう大事なことは先に言うのじゃ。」
「ごめんって。まあこの世界は数十年ぶりだから、俺がこちらから転生したあとどうなったのかは全く把握できていないし、そこらへんは随時教えてほしい。」
「もちろん良いぞ。いつでも頼るが良い。まあワシもずっとニンゲンのことを見ていたわけではないからの。教えられることは少ないじゃろう。」
「まあ俺よりはましだろうな。...それで、サポアは旧東京にあるということは、俺たちの目的地はそこでいいのかな?」
「うむ、魔物の情報や研究はそこが一番発達しておるじゃろう。もしかしたら扉についても多少知っておるかもしれんし、ニンゲンに協力しに行くのであれば、一番手っ取り早い場所じゃろう。しかしニンゲンがそう簡単にワシらを受け入れてくれるとは思わんが。そこら辺どうなのじゃ?」
「正直に言うと、そこに関しては行ってみないとわからない。だが、ある程度は想定しているさ。その想定の範囲内で、俺たちが最善だと思う行動をするつもりだ。」
と、素直に言う。
素直にことが運べばいいが、相手はものではなく人間だ。
すべてが想定どおりにうまく行くことなんてないしな。
それに...。
少しだけウメの左肩を見る。
人間に撃たれてなくなった、左腕。
俺は気まずくなって目をそらす。
喋りだそうとするが、うまく言える気がせず、言葉に詰まる。
そんな俺の様子を見て、ウメは察したようだ。
いつもやるように俺の口に指を当てて、静かに言う。
「本当にお主は優しい子じゃ。何、お主が言いたいことはよーくわかる。しかしお主が案ずることではないといったじゃろう?これはワシの落ち度であり、ワシの怠慢の証拠じゃ。それにワシは従属する身。お主についていくだけじゃ。お主の行動に異論を唱えることはないわい。ワシの心配は杞憂というものじゃよ♪」
そう優しく言い、頭をなでてくれる。
いつもなら恥ずかしくて逃げるが、今だけはおとなしく撫でられ続ける。
ウメもなんだか楽しそうだ。
そのまま少し撫でられたあと、手を離したタイミングで話を戻す。
「ウメの気持ちはわかった。そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう。」
「うむうむ。」
「それじゃあ明後日、昼ぐらいに出発しよう。夜には旧東京についていたい。ここがどこかわかってないし、東京までの道は、案内お願いできるか?」
「無論じゃ。それじゃあワシは服を準備しておく。その服だけじゃ寂しいじゃろう。ワシの持ち物の中に少し服があるから、それをお主用に調整するとしようかの。」
「ああ、ありがとう。...ん、調整?」
「うむ。可愛い娘の服を作るのは久しぶりじゃからの。腕がなるのう。...さーて、お主には覚悟してもらうぞ。」
「い、いや、俺は服いらないからいいよちょやめ体を触るな指でスリスリするなー!!」
そしてその晩、俺は完全に獲物を狙うような目のウメによって、体中を測られ、着せ替え人形のように扱われるのだった。
翌日。
完全に寝不足の俺は、目の下に大きいくまを作っていた。
それとは対称に、ウメは生き生きとしている。
「いやー、久しぶりに楽しい思いをさせてもらったわい。その体の娘は可愛いからのう、ワシが持っている服どれも似合うから、なかなか決まらんかったわい。」
結局十数着も着せ変えられ、最終的に俺が着やすいと思った服を調節してもらった。
確かに、前のワンピースよりは着心地はいいと思うが、それでも一晩中弄くり回されて疲れた。
肝心の服は、ところどころ俺の要望どおりに変えてもらい、動きやすい感じになった。
本当はズボンが良かったのだが、ノアのしっぽが邪魔でうまく着られなかった。
そんなわけで、俺はしかたなくスカートにした。
ウメがキャーキャー言っていたが、こっちはもと男だから嬉しくないどころか恥ずかしい。
上は背中が空いているタイプなので、深化したとしても服が傷つかないようにしてある。
これでいちいち裸になる必要がないな。
ちなみに、今まで着ていたノアのワンピースは、ノアが生き返ったときに渡せるように異空間で大切に保管しておくことにした。
俺は新しい服を着て、動きやすさやサイズの最終確認を行う。
新しい服は、ウメがしっかりと調整してくれたおかげで動きやすい。
その上、ウメの加護を付与しているので、普通の服とは比べ物にならないくらいの出来となっていた。
「けどなんで子供用の服なんて持ってるんだ?ウメの体には到底合わないだろ?」
「なんじゃワシが太ってるとでも言いたいのかお主。」
魔法陣を展開したままこちらを向くウメ。
「ち、ちがうって。普通にウメは大人の、そのなんというか...まあとにかく色々入らないだろ!着れない服をなんで持ってるんだって聞いてるんだよ!」
本人を前にして胸が大きいとか言うのは俺には少し荷が重すぎたので、言葉を濁す。
「む、たしかにそうじゃな。」
と、魔法をキャンセルして座るウメ。
ほんとに発動する手前だったのが怖いわ。
「実はこの服はのう、ワシの娘のものなんじゃ。まだニンゲンが繁栄していなかった頃、娘と二人で良く作っておっての。昨日着せたやつは全てそうじゃ。」
と、悲しそうに言うウメ。
なるほど、ウメには娘さんがいたのか。
だから服の手直しだったり家事全般だったりが達者だったんだな。
「でもなんで娘さんの服をわざわざ持っているんだ?あ、戻れないから返しに行けないのか?」
「うむ。まあ言い方的にはあっているの。この服はもう、娘には返せんのじゃ。」
「それって...」
そこまで言って、俺は言い淀んでしまった。
ウメは続ける。
「ワシの娘は3000年前に命を落としておる。その服はワシと娘がとても大切にしていた服での。いつまでも死人に未練を持って、捨てられずにいたんじゃよ。たとえ時間が過ぎようと、もうサクラは戻ってこんのはわかっておる。じゃが、どうしても割り切れなくてのう。」
「そうだったのか...。だけど、そんな大切な服を...俺が着てもいいのか?」
「むしろ後生大事に持っておくだけよりも、誰かに使われる方がその服も、娘も喜ぶじゃろうて。娘は服が大好きでな。娘のためにも、大切に使っておくれ。主よ。」
そこまで言って、少し苦しそうに笑う。
ウメは娘さんを失っていたのか。
だから俺に昔のことを話していたあのとき、悲しい顔をしていたんだな。
ウメの娘さんの思いを無駄にしないためにも、ここで断るのは論外というものだろう。
ありがたく、大切に使わせてもらおう。
「ありがとう、ウメ。この服は大切に使うよ。」
「うむそうしてくれるとうれしいのう。主よ。」
最後に静かにお礼を言うウメ。
そこで話しは終わりにし、俺達は明日に備えて最終準備に入ることにした。
明日は、いよいよ行動に出る。
目指すは旧東京。
俺たちの目的を果たすための、大きな一歩になることを願う。
少女
少女は、ヒトリだった。
少女は、生まれたときからずっと、一人ぼっちであった。
少女は、生まれたときから、人々から忌み嫌われる存在であった。
少女は、人々から蔑まれた。
少女は、その肉体からは想像もできぬ強靭さ故、男どもの鬱憤ばらしとして暴力を振るわれる日々を送っていた。
少女は、抵抗しなかった。
少女は、生きる気力と目的を失っていた。
少女は、死にたかった。
少女は、殺してほしかった。
少女は、しかし、死ねなかった。
少女は、世界に生かされていた。
少女は、その身に罪を負っていた。
少女は、世界を憎んだ。
少女は、世界を信用しなかった。
少女は、前へ進めなかった。
そして少女は、嘘つきになった。
少女は、嘘で自分を作り変えていった。
少女は、嘘で自分を守っていた。
少女は、嘘だけが自分の味方だと感じていた。
少女は、嘘が好きになった。
少女は、嘘が真実になった。
少女は、嘘をつき続けた。
いつか、誰かが自分の嘘を受け入れてくれると信じて。
少女は、長い間を一人で過ごした。
少女は、優しくされても、嘘を付き続けた。
少女は、人の顔の裏を見ることができた。
少女は、嘘で生き続けた。
少女は、ある日、信頼できる人を見つけたと思った。
少女は、何百年かぶりに嘘ではなく、真実の言葉を口にした。
そして少女は、裏切られた。
少女は、完全に心を閉じた。
少女は、生きる気力を再び失った。
少女は、ついに動くことをやめた。
少女は、自身を呪った。
少女は、人々を呪った。
そして少女は、変わる。
少女はある日、救われた。
少女は、救った男を見た。
少女は、裏切られることが怖かった。
少女は、またどこかへと連れて行かれるのかと思った。
しかし少女は、男からたくさんの愛を受け取った。
男は裏切らなかった。
少女は、愛というものを知った。
少女は、初めて、ほんの少し笑った。
少女は、自ら歩き出したいと思った。
少女は、男に言った。
『私も一緒に生きたい。』
男は戸惑ったが、少女を受け入れた。
そして少女は、真実を話そうとした。
それでも――
少女は、やっぱり、嘘をついた。
少女は、まだ怖かった。
事実を言って、裏切られるのが。
それでも少女は、男に少しづつ心を開き始める。
少女の心は3000年ぶりに、暖かくなっていった。
でも少女を、世界は許さなかった。
ある日、少女は絶望した。
男は、少女をかばって死んだ。
嘘しか言わない少女を、男は必死に守ってくれた。
男は、最後まで少女のことを気に掛けてくれていた。
少女の中に目覚めた感情。
それは、愛だった。
少女は、初めて涙した。
少女は、男にそっと、口づけをした。
少女は、また、自分を守るために心を閉じた。
少女は、再び世界を憎む。
少女の、大切なものを奪った世界を。
――そして世界は、クルイだす。
ありがとうございました。
ネンジュモ




